及川貞
及川 貞（おいかわ てい、1899年（明治32年）5月30日 - 1993年（昭和61年）11月13日）は日本の女流俳人。旧姓は野並（のなみ）。
略歴
1916年（大正5年）に東京府立第三高等女学校（現在の都立駒場高等学校）を卒業後、海軍将校、及川鉄五郎の元へ嫁ぐ。そして夫に随って、佐世保、呉、舞鶴などの軍港都市に転居を繰り返した。1932年(昭和7年）に息子の中学入学のために四谷に仮寓する。その翌年、神田で開かれた俳句会にて水原秋桜子の指導を受け、俳人として進むきっかけとなった。
後に『馬酔木』婦人句会を起こしたことで知られ、多くの優れた女流俳人を輩出した。1967年（昭和42年）に出版した俳句集『夕焼』で第七回俳人協会賞を受賞。また1971年には『馬酔木』の功労者として表彰を受ける。一方で、家庭では三人の子を失い、晩年は夫と二人だけになるなどあまり恵まれた境遇とは言えなかったが、最期になるまで俳句活動を辞めなかった。
1993年11月13日、没。享年94。また、永きに亘る人生で一度も俳誌の主宰を行わなかった俳人でもある。
作風
日常身辺のできごとをありのまま素直に綴った、飾り気のない平易な表現で知られる。
作品
もとめずも心足らひぬ雛の市 角川春樹 現代俳句歳時記 (春) P.84
夢のいろのうす紅や花りんご 〃 (春) P.205
都をどり舞台目細の顔ばかり 〃 (春) P.125
ネクタイの端が顔打つ春疾風 〃 (春) P.52
春炬燵あまたの恩を来し方に 〃 (春) P.102、角川 合本俳句歳時記 P.93
八ヶ岳仰ぐやわらび手にあまり 〃 (春) P.242
童話読むことも看とりや遠花火 〃 (夏) P.157
秋耕のかへり行く家野に見えず 〃 (秋) P.101
柿赤し大東亜戦に柿を断つ（記憶曖昧） 昭和18年版 馬醉木俳句集（記憶曖昧）
およぎつゝうしろに迫る櫓音あり （｢一句の思い出｣として､水原産婆学校講堂､俳句教室での３回目兼題の時の作、と） 俳句アルファ 平成女流俳人年鑑 P.51
梅雨ふかし戦没の子や恋もせで 〃 〃 P.108
犬放つうしろ姿や野かぎろひ 角川春樹 現代俳句歳時記 (春) P.61
夢のいろのうす紅や花りんご 〃 (春) P.205
汐満てりはえとなりゆく朝の岬 〃 (夏) P.44
菖蒲湯の香に染みし手の廚ごと 〃 (夏) P.77
駄馬に会ふことも旧道郁子垂れて （むべ、うべ？） 〃 (秋) P.266
煮こごりや夫の象牙の箸づかひ 〃 (冬) P.135
仲見世の角のかんざし屋に渡御を待つ 風生編 歳時記（新版） P.333
たてまつる八十路の母に蓬もち 〃 P.73
生きるものはもういや緋目高飼ふことも 結城昌治 俳句つれづれ草
みよしのの百花の中やひそと著莪 角川 合本俳句歳時記（新版）P.488
朝餉なる小かぶがにほふやゝ寒く 〃 P.517
さそり座に欅が触れぬ夜の秋 〃 P.267
空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華（まんじゅしゃげ） 季語刻々：毎日新聞 2015年 9月22日 東京朝刊
日かげりぬ束（つか）の間を草引くべかり 季語刻々：毎日新聞 2015年 7月7日 東京朝刊
句集
- 『野道』
- 『榧の実』
- 『夕焼』
- 『終始』