中心的単純環
数学の特に環論において、体 K 上の中心的単純(多元)環(ちゅうしんてきたんじゅんかん、英: central simple algebra; CSA)とは、与えられた体 K 上の階数(ベクトル空間としての次元)が有限な結合多元環 A であって、環として単純で、その中心がちょうど K となっているようなものをいう。明らかに、任意の単純多元環は、その中心上の中心的単純環である。
例えば、複素数体 C は(C の中心は C であって R ではないから)それ自身の上の中心的単純環だが、実数体 R 上の中心的単純環ではない。四元数体 H は R 上 4-次元の中心的単純環をなし、後述するように R のブラウアー群 Br(R) の非自明な元によって表される。
体 K 上の中心的単純環の概念は、体 K 上の拡大体の概念の、非可換な拡大となる場合に対応するものになっている。体も中心的単純環も非自明な両側イデアルを持たないことは共通しているが、中心的単純環は体と違って中心を持ち、かつ零元以外の各元が必ずしも逆元を持つとは限らない(多元体となる必要はない)。中心的単純環は、特に代数体(有理数体 Q の有限次拡大)を一般化するものとして、非可換数論において興味の対象となる。
アルティン=ウェダーバーンの定理によれば、単純環 A は適当な斜体 S 上の何らかのサイズ n の全行列環 M(n, S) に同型である。同じ体 F 上の二つの中心的単純環 A ≅ M(n,S) と B ≅ M(m,T) とが互いに相似あるいはブラウアー同値であるとは、それらに属する斜体 S と T とが同型となることをいう。与えられた体 F 上の中心的単純環の、この同値関係に関する相似類(多元環類)の全体が成す集合には、多元環のテンソル積によって与えられる群演算を考えることができる。このようにして得られた群は、体 F のブラウアー群 Br(F) と呼ばれる。
性質
- 中心的単純環の自己同型は必ず内部自己同型となる(スコーレム=ネーターの定理からの帰結)。
- 中心的単純環の(中心上のベクトル空間としての)次元は常に平方数である。
- S が体 F 上の中心的単純環 A の単純部分多元環ならば、dimFS は dimFA を整除する。
- 体 F 上の 4-次元中心的単純環は一般四元数環に必ず同型である。実は、そのような環は二次の全行列環 M(2, F) か、さもなくば多元体であるかのいずれかである。
関連項目
- 東屋多元環: 中心的単純環を体の代わりに可換局所環に取り替えて一般化したもの。
- ブラウアー群
- セベリ=ブラウアー多様体
参考文献
- 斎藤秀司『整数論』共立出版〈共立講座 21世紀の数学〉、1997年。ISBN 4-320-01572-X。
外部リンク
- central simple algebra - PlanetMath.(英語)