エホバの証人の組織構造
エホバの証人の組織構造(エホバのしょうにんのそしきこうぞう)では、他の宗教団体とは異なるエホバの証人の独特の組織構造を紹介する[1]。
神権宣教学校の生徒
聖書研究を行なっている研究生で、神権宣教学校に入校したい者は研究司会者にその旨を伝え、会衆の長老とその資格について話し合う。資格にかなっている者は神権宣教学校の生徒となり、『神権宣教学校の教育から益を得る』と題する教科書が与えられる。神権宣教学校の生徒には年に数回(入校者の人数により増減する)、聴衆の前で話をする機会が与えられる(信者はこれを通称「割り当て」と呼ぶ)。男性には聖書朗読や講話、女性には二人一組での実演が割り当てられる。話が終わった後には、長老などから話の良かった点が言及される。この学校に入校しても伝道者にならない限り、会衆の成員の一人とは数えられない。
神権宣教学校には卒業という概念はなく、ベテランの信者でも割り当てを行い、学校の生徒であり続ける。
伝道者
神権宣教学校の生徒で、伝道者(会衆の公の宣教奉仕に携わる)になりたい者は、研究司会者にその旨を伝え、エホバの証人が守るべき聖書の教えが書かれた『エホバのご意思を行なうための組織』という本に基づき、2人の長老とその資格にかなっているか話し合う。公の宣教に携わり、エホバの証人(信者)の一人として数えられるため、聖書の基準に沿った(と教団側が解釈する)生活をしている必要がある。資格にかなっている者はバプテスマを受けていない伝道者となり、『エホバのご意思を行なうための組織』という本が与えられる。この伝道者数が公表されているエホバの証人の信者数となっているが、バプテスマを受けていない伝道者は正式な意味では信徒ではない [2]
バプテスマ
伝道者が正式なエホバの証人となるにはバプテスマ(水の浸礼)を受けなくてはならない。 神へ祈りの中で献身し、献身の公の宣言であるバプテスマを受けるに先立ち、その願いを会衆の「長老団の調整者」(旧称 主宰監督)に知らせ、その後幾人かの長老と『エホバのご意志を行なうための組織』という本の付録の「バプテスマを受けるための質問」を討議して、聖書に対する基本的な知識(あくまでも教団側の解釈に基づいたものである)を持っていることを示さなければならない。バプテスマは普通、年に3回開かれる大会で受ける。バプテスマを受けた正式なエホバの証人は、男性は「兄弟」、女性は「姉妹」と呼ばれる。バプテスマを受けた信者は「神の王国(近い将来地上に確立させる世界政府)」の臣民となり、その政府の代弁者また宣明者として王国を擁護する義務を負う。
全時間の奉仕者
バプテスマを受けて少なくとも半年を経過したエホバの証人の中には、年に840時間(70時間/月)を証言活動に費やすと神に誓約する者もいる。彼らは正規開拓者と呼ばれる。その多くは専業主婦であったりパートタイムの仕事などで平日の時間を捻出している。他にも特定の月に50時間(2011年4月のみ30時間か50時間かを選択することができた[3])費やす者もいて、彼らは補助開拓者として知られる。いくつかの国では証人たちは宣教者や特別開拓者として指名を受ける。彼らは普通月130時間を費やすと誓約する。宣教者奉仕に入るには世界本部事務所にある「ものみの塔ギレアデ宣教学校」に入校し、卒業しなければならない。 また、下記にもあるが、ベテル奉仕者以外にも宣教者と特別開拓者、巡回監督、地域監督は協会からの収入で生活している。
また、19歳から35歳までのエホバの証人で、支部事務所や世界本部で働きたい者は、会衆の書記の長老からベテル奉仕の申込書を受け取ることができる。(「ベテル」とはヘブライ語で「神の家」を指し、支部事務所や世界本部事務所を指す。)ただし、彼らは他の信者の寄付金からの払戻金で生活することになるので、他の信者より制限・禁止事項が多い。(統治体の成員や支部委員も当然この制約を受け、従わない場合、事務所から追放される。) 日本のベテルでは、大々的なリストラが行われており、かわりに一時的に無償で働く奉仕者が求められるようになった。
会衆
エホバの証人の会衆の規模はさまざまだが、通常50人から150人の伝道者で構成されている。彼らは週に2度王国会館で集まる。会衆の集会は一般に成員の参加が求められる。会衆の聖書研究、ものみの塔研究という集会が、読まれる出版物から1節ずつ、印刷された質問が出され答えたり、引用聖句が読まれるという質問と答え形式で扱われる。神権宣教学校では、順番で会衆の神権宣教学校の生徒が講話、聖書朗読、及び宣教奉仕等の一場面を実演形式で行う。この割り当ては、第1の話~第3の話という区分で行われ、一般的に第1の話から神権宣教学校の生徒の話が行われる。(女性も生徒として練習を行う。第2、第3の話で扱われる)週に1度、30分間の公開講演が開かれる。会衆と集会場所は、世界的な組織を持つエホバの証人 で検索できる。
長老(監督)と奉仕の僕
男性信者でテモテ第一3章1-7節、テトス1章5-9節の資格にかなう人は、長老たちの推薦を受け、支部事務所から長老(別称:監督)として任命を受ける。各会衆には複数の長老から成る長老団がおり、支部事務所から受け取った指示に基づき、地元会衆の活動や福祉を決定する。彼らは演壇から教え、会衆の成員に対し気遣いの訪問(牧羊として知られる)を行い、宣教の業で主導をとることが求められる。長老団の指導下で、3人の長老が、長老団の調整者(旧・主宰監督。2009年1月に名称変更)・書記・奉仕監督からなる奉仕委員会を構成し、特定の務めを担う。
男性信者でテモテ第一3章8-13節の資格に適う人は長老たちの推薦を受け、支部事務所から奉仕の僕として任命を受ける。彼らは、王国会館や音響、マイク・システムの管理、本、雑誌、冊子、会衆の会計といった、会衆を教えることとは関係しない決められた仕事を行い、長老を補佐する。必要な状況が生じた場合、資格ある奉仕の僕が会衆を教える業に参加することもある。
女性信者は会衆に教えることには参加しない(コリント第一14:34)が、上で奉仕の僕の仕事として取り上げた活動の大半を担うことがある。(これは会衆が小さいとき、ないしは何らかの理由で能力や資格のある男性がいない場合である)ただしこの場合、司会の役を行う女性はスカーフ等かぶり物をつけ、演台には立たず全員着席で行う(コリント第一11:5-6)
会衆内で決められた特定の長老には、インターネットを通して世界的な組織を持つエホバの証人のログイン、協会からの手紙、公開講演の筋書き、用紙類、外国語の王国宣教など様々な物をダウンロードする、厳重に管理されたアカウントがある。
巡回区
諸会衆は通常20の会衆でなる巡回区を形成する。彼らは年に2回、大会(巡回大会と特別一日大会)に集まり、年に2~3回、支部事務所を代表する長老、巡回監督の訪問を受ける。こうした訪問は通常1週間ほど続き、その間、巡回監督は会衆や一般聴衆に対し講演を行い、長老団・奉仕の僕・開拓者と会合し、家から家の「王国の良いたより」を宣べ伝える業に参加する。
巡回区には常任の大会要員(大会監督・大会監督補佐)が任命され、巡回監督の監督下で大会開催の実務を担う。
地域区
地域区(2011年現在、日本国内に9)は多数の巡回区からなり、地域監督によって奉仕される。その責務には会衆を訪問する巡回監督に1週間同行し、巡回区の定例2日の大会(巡回大会・前日に開拓者と会合を持つので、正確には2.5日)に出席し、プログラム全体を監督することが含まれる。
毎年、通常夏に、3日間の地域大会が開かれる。いくつかの地域区が共に集まったりすることがある。地域大会はスポーツ施設や大規模展示場などで開かれることが多い。開催地は、世界的な組織を持つエホバの証人 で検索できる。
支部事務所
2010年現在、世界の主要な地域に116の支部事務所があり、236の国や地域の宣教活動を監督している。各支部では、3人から7人の長老が、統治体により支部委員に任命されて支部委員会を構成し、管轄内の国や地域に存在する諸会衆を監督する。支部委員のうち1名は支部委員会の調整者に任命され、委員会の相互調整を担当する。一つの支部が複数の国々の業を管轄する場合、それぞれの国に国内委員会が設けられる。
支部委員会の監督下に実務部門が組織される。中枢となる奉仕部門は、各会衆に指示の手紙を送ったり、巡回監督・地域監督の業を監督したり、大会を計画したりする。支部の規模に応じて、翻訳部門、執筆部門、会計部門、法律部門、ホスピタル・インフォメーション・サービスなどを設ける。当該支部が書籍・雑誌・DVDなどの生産を担当する場合、大規模な印刷施設や工場も備える。
支部事務所直轄の各種委員会も各地に置かれ、地元の資格ある長老たちが委員に任命される。
- 地区建設委員会(RBC=Regional Building Committee) - 地区における王国会館建設や大会ホール建設を指揮・監督
- 医療機関連絡委員会(HLC=Hospital Liaison Committee)- 無輸血治療を実施してくれる医療機関の開拓および信者への情報提供
- 地域大会委員会 - 大会監督・プログラム監督・宿舎監督からなり、各地の地域大会を監督
- 大会ホール委員会 - 各地の大会ホール(2011年現在、日本国内に10ヶ所)の運営・管理
大都市圏には都市の監督が任命され、支部事務所の監督下で、その都市で開催される大規模集会や学校の実務を担う。
地帯区
地帯区はいくつかの支部事務所からなり、統治体から任命を受けた地帯監督によって奉仕される。その主な仕事は、「王国の良いたより」を宣べ伝える業を行う上で生じるさまざまな問題や疑問に関し、支部委員会を助けることである。また、支部事務所の運営を記録した記録類や、諸会衆の業がうまく機能しているかを調べる。
統治体
概要
統治体(Govering Body)はエホバの証人の最高意思決定機関であり、その成員は米国ニューヨーク市ブルックリンにある世界本部に常駐している。統治体は、6つの委員会を通して世界中のエホバの証人の活動すべてを監督する。これには執筆、印刷物の翻訳・出版、会衆の集会のプログラムの企画、巡回大会や地域大会の準備、宣教者の派遣、長老・奉仕の僕・巡回監督・地域監督の承認、災害救援の手配などが含まれる。なお、英語圏では、Governing Bodyは団体の意思決定機関(理事会や役員会)を意味することがあり、日本語の「統治体」という直訳は原語の意味を必ずしも正確に伝えてはいない。
歴史
エホバの証人の教義では、どの時代にも地上に、キリストが時に応じた食物を与えるために任命した「忠実で思慮深い奴隷」が存在し、それを代表する年長者たちが統治体を構成する、としている。1世紀においては、キリスト教史のエポックであるエルサレム使徒会議が統治体の原型であると主張する。20世紀にエホバの証人の活動が活発化して以降、1970年代までは、Watch Tower Bible and Tract Society of Pennsylvania(ペンシルベニア州のものみの塔聖書冊子協会)の理事会と同一視されていた。聖書の記録に照らした検討の結果、統治体はその存立根拠が神権によるもので、世俗の法人の人事とは無関係であることから、2000年、各国の法律に基づく法人の役職は他の経験ある人々に委譲され、宗教的権威と世俗の役職とが明確に分離された。
成員
2011年現在、7名である。
- アンソニー・モリス3世
- ガイ・H・ピアース
- ゲリト・レッシュ
- サミュエル・F・ハード
- ジェフリー・W・ジャクソン
- スティーブン・レット
- デービット・H・スプレーン
2010年のジョン・E・バーの死去により、「終わりの時」の始まりとされる1914年を知る人は統治体にいなくなった。
組織
統治体は毎週、全体会議を開催する。次の6つの委員会が役割を分担している[4]。
- 調整者委員会 - 各委員会の調整者と1名の書記(いずれも統治体の成員)で構成され、全体の相互調整を図る。メディア対応および非常事態への対応
- 人事委員会 - 世界本部および各支部で働く自発奉仕者(ボランティア)の監督
- 出版委員会 - 聖書文書の印刷・出版・発送を監督。世界各地の王国会館や大会ホールの建設を監督。資金管理
- 奉仕委員会 - 世界的な宣教活動および長老、旅行する監督、開拓者の活動を監督
- 教育委員会 - 大会や集会での教育およびDVD等の制作を監督。ギレアデ聖書学校、開拓奉仕学校のカリキュラムを準備
- 執筆委員会 - 聖書文書の執筆および翻訳を監督。劇の台本や講演の筋書きを準備
統治体の成員ではない他の資格ある長老たちも、援助者としてこれら委員会のいくつかで奉仕する。
法的機関
Watchtower Bible and Tract Society of New York(ニューヨーク法人 ものみの塔聖書冊子協会)は、エホバの証人が用いる数ある法人の1つで、関連法人を代表している。他の法人として Watch Tower Bible and Tract Society of Pennsylvania(ペンシルベニア州のものみの塔聖書冊子協会)、Christian Congregation of Jehovah's Witnesses(エホバの証人のクリスチャン会衆)、そして英国ロンドンにあるInternational Bible Students Association(国際聖書研究者協会)がある。世界の他の主だった国々では、地元法人が組織の業を促進するために設立されている。
排斥(除名)
バプテスマを受けた後、教義に関する重大な違反や、組織に対する反抗的な言動があったとみなされた場合、その態度を悔い改めない場合、もしくは悔い改めていても最大の罰として、組織から排斥(除名)という処分を受ける場合がある。審理委員会から排斥の処分を受けた者は、エホバの証人とはみなされなくなる。家族以外の一般信者は、人道的な必要を除き、その者との付き合いや挨拶、電話などをすることができなくなる。排斥まで至らなくとも、叱責(長老や監督の資格を剥奪されたり、集会での講話や注解が制限されたりといった処分。野外宣教と集会の出席の2つの基本的な権利は取り去られない。)が下されることもある。なお、自らの意思でエホバの証人から断絶(脱会)する旨を表明した者に対しては、信者は排斥された者と同じように扱わなければならない。しかし排斥された人には、通常毎年決まった時期(9月頃)に復帰するよう促すが、断絶した人には行わない。
排斥された者が、再び会衆に復帰する場合もあるが、その場合は、再びバプテスマを受けるのではなく、排斥を決定した3人の同じ審理委員会が一定期間の態度を観察して了承した場合に会衆のメンバーとして復帰することとなる。これは、エホバの証人の教義上、2度バプテスマを受けるということはできないからである。(バプテスマを受けていた時点でふさわしくない事柄をしていた場合を除く)。復帰しても、すぐにすべてのことができるわけではなく、通常援助がなされ、その後注解などから徐々に制限が解除されていく。
たとえ排斥された者であっても、王国会館での集会はすべての人に開かれたものであるため、集会を妨害するなどの行為がない限り、王国会館で開かれる集会に出席すること自体は自由である。 そして、復帰したい者は、集会に出席し続ける事が必須である。
他の宗教に改宗した場合は、その時点で脱会したものとみなされる。