アナーキー・国家・ユートピア

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アナーキー・国家・ユートピア』(Anarchy, State, and Utopia)とは1974年哲学者ロバート・ノージックにより発表された著作である。

ノージックは本書で最小国家は個人の権利を侵害しないで成立しうるものであることを論じようとしている。そもそも国家が樹立される以前の自然状態においてはホッブズが論じたような万人の万人に対する闘争という状況と、ロックが論じたような人間が道徳に原則として服従する状況が想定される。ここでは道徳的な自然状態において国家を正当化することが、国家の道徳的根拠をより積極的に説明することができると判断してロックの自然状態を前提とする。

国家の樹立に対しては社会契約に基づいた構成物ではなく、スミスが論じた市場での神の見えざる手と同様に、意図しない自然な結果として発生したものとノージックは論じる。ノージックは諸々の個人が相互に権利を保護するための協会を設立し、これは警備会社と保険会社を兼ね備えるような組織となると考える。そしてこの権利保護協会は最初は複数の協会が並存しているが、市場競争を経て独占状態が発生することになる。この支配的な保護協会は他者に依存せずに自らの権利を実現する個人に対しては、個人の自由な行為を制約する代わりに補償を行うことで無料で保護のサービスを提供する。こうして支配的保護協会は領域内において全ての住民の権利を保護する最小国家が成立することになる。

最小国家の道徳的な正当化を行ったノージックは、財産の再配分を行う福祉国家に対して批判している。ノージックによればこのような再配分は特定の人々の権原を侵害しており、彼らを他の人々のために利用する行為である。なぜならば人間の身体と労働は本人の所有物であるためである。このノージックの権原理論は取得の正義に関する原理、移転の正義に関する原理、そして過去の不正義の矯正における正義の三つの原理から成立している。個人の権原を侵害しない最小国家のみが正当化しうる国家である。

ノージックは原理主義的なアナキズムに反対し、ミナキズムを実現可能なユートピアとして論じる。ノージックは社会の複雑性と人間の人生目標の多様性を前提とするならば、ユートピアには人生の理想を試行する多種多様な共同体が存在しなければならない。人々はそれらに参加と脱退を繰り返すことで淘汰されることになる。人々は独自の目標を達成するために各々の共同体を結成する自由を持っており、ノージックによればこのような枠組みこそがユートピアのあり方である。

参考文献

原著

日本語訳

  • 嶋津格訳『アナーキー・国家・ユートピア――国家の正当性とその限界(上・下)』(木鐸社, 1985年二巻本・1995年一巻本) ISBN 4833221705