Not a typewriter

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Linuxにおける"not a typewriter"エラー

not a typewriter(ノット・ア・タイプライター(タイプライターではない))またはENOTTY[1]は、多くのUNIXシステムに見られるエラーコード英語版で、errno.h英語版で定義されている。このエラーコードは現在、ioctl入出力制御)システムコールで無効なioctl番号が指定されたことを示すために使用されている。

詳細[編集]

このエラーコードは、初期のUNIXに由来する。バージョン6以前のUNIXにおける入出力制御は、gttyおよびsttyシステムコールを通じて、テレタイプ(TTYと略される)に代表されるシリアル接続された端末デバイスに限定されていた[2]。端末でないデバイスでこれらのシステムコールを使おうしたときに、ENOTTYエラーが発生した。stty/ttyシステムコールが、より一般的なioctl(入出力制御)システムコールに置き換えられても、ENOTTYエラーコードは維持された。

初期のコンピュータでは、電気機械式のタイプライターが端末として使われていた[3][4]。現代のUNIXシステムで広く使われている"TTY"という略語は、"teletypewriter"(テレタイプライター)の略である。例えば、SIGHUP英語版シグナルの本来の意味は、それを使用するテレタイプライターの電話線を切る(hung up)ことである。「テレタイプ」はAT&Tの子会社であるテレタイプ社登録商標であるため、それを回避するために「タイプライター」という一般名詞に置き換えたものと見られる。

POSIXでは、ENOTTYを"not a terminal"(端末ではない)という意味とすることで、この問題を回避している[5]

ioctlは現在、端末以外の機器にも対応しているため、システムによっては"inappropriate ioctl for device"(デバイスに対する不適切なioctl)のような別のメッセージを表示することもある[6][7]

発生[編集]

プログラムがioctlを発行しなくても、このメッセージが発生する場合がある。それは、isatty()ライブラリルーチンによるものである。エラーコードerrnoは、システムコールが失敗したときにのみ設定される。C標準I/Oライブラリが最初に行うシステムコールの一つがisatty()コールであり、プログラムが人間によって対話的に実行されているのか(この場合isatty()は成功し、ライブラリは出力を一度に一行ずつ書くので、ユーザーはテキストの流れを見ることができる)、あるいはパイプラインの一部として実行されているのか(この場合、効率化のためにテキストをまとめて書く)を判断するために使用される。システムコールとは関係のない理由でライブラリルーチンが失敗した場合(例えば、passwdファイルにユーザ名が見つからなかった場合など)、(経験の浅いプログラマが)失敗のたびにいちいち通常のエラー報告ルーチンperror()を呼び出していると、残ったENOTTYによって全く不適切な"not a typewriter"エラーが表示されることになる。

かつて、UNIXのメールサーバプログラムsendmailには長期に渡りこのバグがあった[8]。他のシステムからメールが配信されるとき、メールプログラムは非対話的に実行されていた。宛先アドレスがローカルで、ローカルのパスワードファイルにないユーザー名を参照していた場合、メールの送信者に対し、「送信先はタイプライターではない」という通知が送信されていた。

脚注[編集]

  1. ^ What does ENOTTY stand for?” (英語). www.abbreviations.com. 2020年7月16日閲覧。
  2. ^ Version 6 UNIX manual, section 2, system calls”. 2021年11月13日閲覧。
  3. ^ Unix Programmer's Manual. (November 3, 1971). https://www.bell-labs.com/usr/dmr/www/1stEdman.html 
  4. ^ RFC 1, Host Software, Steve Crocker (7 April 1969). Page 3, section "Simple use".
  5. ^ The Open Group Base Specifications Issue 7, 2018 edition/IEEE Std 1003.1-2017: isatty”. 2021年11月13日閲覧。
  6. ^ OpenBSD manual: intro, errno — introduction to system calls and error numbers”. 2021年11月13日閲覧。
  7. ^ FreeBSD manual: intro -- introduction to system calls and error numbers”. 2021年11月13日閲覧。
  8. ^ A/UX: mail and "not a typewriter" (2/95)”. support.apple.com (1995年2月27日). 2021年11月13日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

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