横動機構

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

横動機構は、一部の鉄道機関車で使用される、車軸をフレームに対して横方向に動かすことができるようにするメカニズムである。この機構はコーナリングを容易にする。

目的[編集]

横動機構が導入される前は、蒸気機関車の結合された駆動輪は、機関車のフレームによって直線状に保持されていた。機関車のフランジは、緩やかなカーブをたどるときにレールの間に収まるように、レールゲージよりも少し狭い間隔で配置されている。ただし、曲率半径が小さい場合、中央の駆動輪のフランジがカーブでレールと当たり始める。前の駆動輪と後ろの駆動輪が近ければ近いほど、機関車が通過できる曲率半径は小さくなる。1つの解決策は、中央の駆動輪を「ブラインド」にすること、つまりタイヤにフランジを付けないことであった [1]。他の解決策として、少なくとも1つの車軸(多くの場合、一番前の駆動輪)をフレームに対して横方向に移動できるようにすることがあった。このような設計には、この動きを可能にするさまざまなデバイスが組み込まれていた。

バリエーション[編集]

通常、横動機構のベアリングボックスは、車軸がいずれかの方向にスライドできるように設計されており、ホイールクランクとカップリングロッドは、この余分な可動範囲に対応するように変更されている。横動機構を持つ車軸の車輪が左右に蛇行しないようにするために、スプリングによるセンタリングが提供される場合がある。

一例として、車輪配置 2-6-0のイタリア国鉄640形の場合、先輪は、通常のポニートラックを使っておらず、代わりに、一番前の駆動輪とともに台車を構成している。この駆動車軸の横方向の遊びは約20mmで、この車軸へのクランクとカップリングロッドに球形のベアリングが使われていた。(この機関車はフレームの内側にシリンダーを配置し、第二動輪を駆動していた。)先輪軸と第一動輪軸の最初の2つの車軸は、従来の先台車と同様に、機関車を誘導するために連携して機能した [2]車輪配置 2-8-4のノルウェー国鉄Dovregubben形も、同じザラ台車を使用していた [3]

車輪配置 4-10-2のサザン・パシフィック鉄道5000形は、従来の先台車を採用していたが、第一動輪の車軸に横動装置を使用して、剛性のあるホイールベースを減らしていた [4]。車輪配置 4-8-4の同社GS-4形も、横動を使いこれを制御するためにスプリングを使用して、カーブを通過する際に先台車が機関車を誘導することを支援した [5]。車輪配置 4-8-0のハンガリー国鉄の424形では、「急カーブでの走行を容易にするために」後車軸に50mmの横動が与えられた [6]

AA20形は、史上唯一の7つの連結された駆動車軸を備える蒸気機関車であり車輪配置は4-14-4である。この機関車では第一動輪と第七動輪に横動を与え、第三、第四、第五動輪をブラインドとした。しかし、これらの対策は、カーブを通過する際に、トラックの損傷、脱線、またはその両方のトラブルを発生することを防止するのに十分ではなかった。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ For example, the Pennsylvania class I-1s 2-10-0 had no flange on the middle drivers.
  2. ^ Hollingsworth, B. and Cook, A. Steam Locomotives. 2000, Salamander Books. ISBN 0-86288-346-6. 72-73
  3. ^ Hollingsworth & Cook. 133. "Zara" is Giuseppe Zara, the Chief Mechanical Engineer of the Italian State Railways when the class 640 was designed.
  4. ^ Swengel, F.M. The American Steam Locomotive. 1967, Midwest Rail Publications, Inc. 222
  5. ^ Hollingsworth & Cook. 140
  6. ^ Hollingsworth & Cook. 104