関節式機関車

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関節式蒸気機関車の3例、上からマレー式、ガーラット式、メイヤー式

関節式機関車(かんせつしききかんしゃ、英語: Articulated locomotive)は、通常主台枠に対して相対的に動くことのできる1つかそれ以上の走行装置の付いた蒸気機関車のことを意味する。これは全長の長い機関車が急カーブを走行できるようにするためのものである。関節式機関車は一般的に、森林鉄道、産業用鉄道、山岳鉄道などの急曲線のある路線で用いられ、あるいは標準的な曲線のある鉄道において非常に大きな機関車を走らせるために用いられる。

使用例[編集]

関節式機関車は多くの国で使用されているが、ヨーロッパ狭軌鉄道でとても一般的である。最大のものはアメリカ合衆国で開発されたユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車(通称ビッグ・ボーイ)や車輪配置 2-6-6-6(アレゲニー)のH-8型で、これは蒸気機関車として史上最大のものでもある。

関節の方式には多くの異なったものがある。このうち、マレー式機関車とその単式の派生形がもっとも多く、これに次いでイギリスでほとんど製造されてヨーロッパやアフリカで広く用いられたガーラット式機関車があり、そしていくらかのギアードロコの方式があってこれは森林鉄道、鉱山鉄道や産業用鉄道で広く用いられた。他の多くの形式はわずかの成功しか収められなかった。

関節式蒸気機関車の種類[編集]

以下に主要な関節式蒸気機関車の種類を示す。他にも多くの種類がある。

マレー式[編集]

アメリカのUSRA標準型マレー
ボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式。後部動力台車はボイラーに固定されていて、高圧蒸気の供給を受けてシリンダーを駆動し、その排気を左右に首を振れる前部動力台車に送って径の大きな低圧シリンダーを再度駆動する複式機関車である。大型機が急曲線を通れるようにし、効率も上昇させることができる方式である。なお、出発時はインターセプト・バルブと呼ばれる弁を操作することで前部台車にも高圧蒸気を供給する。複式機関車の実用化に成功したアナトール・マレーが考案し1884年に特許を取得した。最初の機関車は1887年にベルギーで製造され、1889年のパリ万国博覧会に出品された0-4+4-0形機である。
構造が複雑で取り扱いが煩雑であり、高速性能では通常型機関車に見劣りするが、機構上空転発生が抑止されるという大きなメリットがある。日本では9750形・9800形・9850形(いずれも0-6+6-0)が存在したが、短命であった。狭義の「マレー」はマレー式機関車の中でも0-6+6-0の動輪配置のもののみを指す。日本では0-4+4-0配置としてタンク式の4500形や4510形、あるいはテンダー式の9020形が存在したが、この内9020形はマレーに満たないと言う意味で「ベビーマレー」と呼んだ。実際には製造されなかったが、ソ連では2-4-4-2+2-8-8-2+2-4-4-2という超大型のマレーが5フィートゲージ用に計画され、6000馬力を発揮する予定であった。このマレーはフランコ・クロスティ式という特殊なボイラーを採用していた。

単式膨張型関節式(単式マレー式)[編集]

ユニオン・パシフィック鉄道4000形蒸気機関車(4014号機)
日本にはない形式で、simple expansion articulated engine の訳語である。本来のマレー式は複式であるがこれは前部・後部のシリンダーが同径で、同じ圧力の高圧蒸気が供給される単式となっている。1910年代後半になって、関節式機関車の設計・製造・保守において問題となる自在継手式蒸気管の蒸気漏れの問題がある程度解消され、マレー式では低圧蒸気が供給されていた前部シリンダーへ後部シリンダーと同じ高圧蒸気が常時供給可能となったことで実現を見た。アメリカのペンシルバニア鉄道で1919年に開発され、以後、アメリカで製造されたビッグボーイなどの超大型関節機関車はすべてこの方式を採用している。厳密にはこれらをマレー式と呼ぶのは誤りであるが、便宜上「単式マレー式」(Simple Mallet) と称されることがある。これらはほとんどが2組の走り装置を持つものであるが、中には炭水車を含め3組の走り装置を持つものもエリー鉄道向けなど、わずかながら存在した。また、実際には製造されなかったが、4組、5組の走り装置を持つものも計画された。
なお、アメリカで最後までディーゼル化の波に抗し続けたノーフォーク&ウェスタン鉄道は、1950年代に入ってからも蒸気機関車の改良を続け、マレー式についてはトルクの必要な低速度域では単式、時速25km/h以上では複式、とそれぞれの特性を最大限生かして高性能を実現する機構を自社で独自開発し、実に1958年まで新造と在来車の改造により、この機構をマレー式の各形式に導入していた。

ガーラット式[編集]

(Garratt)
ソ連のYa-01形
2組の走り装置を別々の車体に設け、その両車の間に跨ってボイラーを搭載した主台枠が首振り構造で載る方式。イギリスのハーバート・ウィリアム・ガーラット (Herbert William Garratt) により、列車砲をヒントとして1907年に考案され、ベイヤー・ピーコック社の協力で実用化された。大型機に多く見られたが、その最初の適用例となったタスマニア島政府鉄道K1形は610mm軌間の4+4配置であり、小型機にもこのタイプのものが少なからず存在した。走り装置上に水タンクが搭載され、その空積に関わらず常に死重となる炭水車が基本的に不要(しかも特に軸重制限の厳しい線区への入線時には、走り装置上の水タンクを空にして別途炭水車を連結することで軸重を標準より軽くすることも可能であった)、燃料・水の積載量が多く長距離を走行できる、ボイラー下が空間となるため、缶胴部や火室設計の自由度が高い、急曲線や勾配に強く高速化もマレー式以上に容易、車輪数が多くすることで1軸あたりの軸重を相対的に軽くでき、それでいて容易に牽引力の強化が可能となる、など様々な利点があり、インド、南アフリカなど英連邦所属の各国で多く採用された。もっとも、その勃興期が第一次世界大戦後であったため、日本では採用されなかった。計画だけに終わったが、ガーラット式の足回りをマレー式相当とする、ガーラット・マレー式機関車も提案されていた。なお、ガーラットは「ガラット」や「ギャラット」などと表記されることもある。

フェアリー式[編集]

(Fairlie locomotive)
ザクセン州立鉄道IIK形
2つのボイラーを背中合わせに繋ぎ、その下に2組の走り装置を設けた方式。イギリスのロバート・F・フェアリー (Robert F.Fairlie) により1863年に考案され、イギリスやその影響下にあった国の軽便鉄道で使用された。2台の通常型タンク機関車を背中合わせに連結した形をしており、後述する双合式と似ている。急カーブに強い上、方向転換の必要がないという利点があったが、ボイラーが運転台の中央を通っているため運転上不便であるという大きな欠点があったため、他の間接式に比べると普及しなかった。日本では鉄道連隊によりアメリカ製の1両のみ使用された。

メイヤー式[編集]

(Meyer locomotive)
ザクセン州立鉄道IVK形
マレー式と同じくボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式。後部動力台車がボイラーに固定されておらず、前後の動力台車がそれぞれ完全に独立しており、シリンダーが中央に寄っているのがマレー式と異なる点である。フランスのジーン・ジャック・メイヤーにより。1861年に考案され、主にヨーロッパの地方鉄道で使用されていた。1894年にイギリスのキトソン社により改良されキトソン・メイヤー式となる。こちらは南米アフリカで使用されたが、地味な存在のまま終わった。また、w・G・バグナル社により改良された形式も存在した。

マッファイ式[編集]

バヴァリア号
ドイツのJ.A.マッファイ社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したバヴァリア号に採用された。軸配置は4-4-6で全ての車輪が同径、前方の台車はシリンダーにより駆動され、そこから後部の台車へチェーンで動力を伝達する。チェーンは緩みがあるのでカーブに対応できるという理由で「コンテストで最も優れている」と賞を獲得したが、後に信頼性やチェーンの耐久性が低いことが明らかになり、実用化には至らなかった。

ヴィーナー・ノイシュタット式[編集]

ノイシュタット号
ドイツのヴィーナー・ノイシュタット社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したノイシュタット号に採用された。ボイラーの下に2組の走り装置を設けた方式で、後のメイヤー式の原型となる。車輪の間に火室が出っ張っており台車の動きが制限されるのが欠点で、さらにヴィーナー・ノイシュタット社は関節式機関車用の特殊な部品を製作するのが初めてであったため、粗悪な部品が出来上がってしまい、これが問題視されて実用化に至らなかった。

コッケリル式[編集]

ゼライング号
ベルギーのコッケリル社により、1851年のゼメリング・コンテストのために考案された方式。同社が製作したゼライング号に採用された。2つのボイラーを背中合わせに繋いだ構造で、後のフェアリー式の原型となる。その後似た方式がヨーロッパで何度か考案されたが、タンクを乗せるスペースがないのが欠点であり実用化に至らなかった。

デュ・ブスケ式[編集]

(du Bousquet locomotive)
北部鉄道 6005
フランスの鉄道技術者ガストン・デュ・ブスケ(フランス語版)により開発された方式。
メイヤー式と同様にボイラーと固定されない複数の走り装置を持つが、複式である点などがメイヤー式と異なる。
主に、フランスの北部鉄道 (NORD)、東部鉄道(フランス語版)、パリ環状鉄道連合で使用された。

ゴルウェ式[編集]

(Golwé locomotive)
ゴルウェ式機関車
ベルギーで製作されフランスの西アフリカ植民地で使われた方式。
ボイラーと固定されない2組の動力台車を有し、前部台車はボイラーと煙室の下にある。後部台車は運転室後部の炭水庫の下にあり、シリンダーは台車の前部にある。火室は両台車の間にある。

ギアードロコ[編集]

双合式[編集]

関節式と類似の機能を持つものとして2両の通常型タンク式蒸気機関車を背中合わせに連結した双合式(ツヴィリングスロクス、Zwillingsloks)がある。

電気機関車・ディーゼル機関車[編集]

ドイツ国鉄E94型ドイツ語版スイス連邦鉄道Ce 6/8 II形、アメリカのミルウォーキー鉄道EP-2型などは、ガーラット式と同じように2つの走行装置の各々に載せられた車体と、両方の走行装置をまたいで載せられた車体を備えている。

フェッロヴィーエ・デッロ・スタート(イタリア国鉄)のクラスE626ニュージーランドEWクラス英語版は、2車体が連接式台車を共有する。

大部分の電気機関車・ディーゼル機関車はフェアリー式蒸気機関車やマイヤー式蒸気機関車と同様に複数の動力ボギー台車の上に車体を載せる構造であるが、これらは関節式と呼ばれない。

参考文献[編集]

  • Wiener, Lionel, Articulated Locomotives, 1930, reprinted 1970 by Kalmbach Publishing Company as ISBN 0890240191

外部リンク[編集]