クレイワーク

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クレイワークは、現代美術の表現方法の一種で、土を素材とする立体造形のうち、機能的に実用性を有する従来の陶芸とは一線を画した部分をもつ表現様式とされる。クレイワークという呼称は、1960年代に生まれ、1980年代には展覧会の名称にも採用されるようになり、現代美術の分野における一ジャンルとしての地位を確立した[1]

広義では、現代の陶芸全般を「クレイワーク」と称する場合もある[1]

定義[編集]

現代陶芸の傾向のひとつであり、美術史家の乾由明によれば「実用的な用途をもつ器物から区別された、彫刻的あるいは造形的な土の作品」と定義されている[2][注 1]。広義ではを意味するが、土を素材として表現、制作された作品がすべてクレイワークとは見做されず、従来の陶芸の枠には収まらない作品を示す[1]前衛のような芸術運動ではない[1]

歴史[編集]

従来の陶芸と異なり、実用的な機能を持たない独創的で多様な造形的な陶作品に対して「クレイワーク」という言葉が使われ始めたのは、1962年の終わり、米国サンフラシスコ・アート・インスティチュートで開催された「Work in Clay by Six Artists(六人の作家によるワーク・イン・クレイ)」展の頃からではないかと推測される[2][3]。1980年代には日本でも展覧会の名称にも使われるようになり、モダンとポストモダンをめぐる陶芸による表現の探求が、現代美術におけるひとつの表現方法として重要な役割を担うようになった段階で、誕生した名称と考えられている[1][4]

その後、1990年代前半にかけては、現代陶芸全般をクレイワークと称する風潮があった[4]。その後も今日に至るまで、クレイワークは現代陶芸の表現様式として、大きな影響を残している[4]

おもな展覧会[編集]

  • 1980年「CLAYWORKやきものから造型へ」西武百貨店(滋賀県大津市)
出品作家:荒木高子速水史朗林秀行星野暁石山駿伊藤公象加守田章二金重道明加藤清之鯉江良二、近藤豊、熊倉順吉栗木達介久世健二松井康成三島喜美代三輪龍作宮永理吉宮下善爾森野泰明中村錦平西村陽平笹山忠保佐藤敏里中英人鈴木治坪井明日香辻清明辻晋堂八木一夫、山田光、柳原睦夫金子潤、中村豊、重森陽子梶なな子[4]
  • 1982年「現代の陶芸Iいま土 と火で何が可能か」山口県立美術館
  • 1984年「現代の陶芸Ⅱいま、大きなやきものになにが 見えるか」山口県立美術館
  • 1986年「土・イメージと形体1981-1985」西武ホール
出品作家:秋山陽伊藤公象、井上雅之、植松永次小倉亨金子潤、栗木達介、鯉江良二、笹山忠保、佐藤敏、杉浦康益鈴木治高野基夫堤展子土門邦勝、中村錦平、中村康平、西村陽平、林秀行、林康夫、深見陶治、星野暁、松井紫朗松田百合子、三島喜美代、宮下善爾、宮永理吉、三輪龍作、森野泰明、柳原睦夫、山田修作、山田光、吉竹弘和太守卑良[4]
出品作家:井上雅之、鯉江良二、重松あゆみ杉山泰平、西村陽平、日野田崇、星野暁、前田晶子、三島喜美代[5]

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注釈[編集]

  1. ^ 「土・イメージと形体1881-1985」展(1985年開催)のカタログで初出。乾由明『現代陶芸の系譜』用美社、1991年、169頁掲載。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e 出川哲朗『the art of earth[特別展]大地の芸術―クレイワーク新世紀』国立国際美術館、2003年、10-11頁。 
  2. ^ a b 『the art of earth[特別展]大地の芸術―クレイワーク新世紀』国立国際美術館、2003年、13頁。 
  3. ^ 特別展 大地の芸術 クレイワーク新世紀”. インターネットミュージアム. 2019年3月2日閲覧。
  4. ^ a b c d e f ポストモダン以降の陶芸表現へ -1980年代の二つのクレイワーク展と工芸的造形論を中心にして一” (PDF). 大長智広. 2019年3月2日閲覧。
  5. ^ 2003年度 > 大地の芸術 クレイワーク新世紀”. 国立国際美術館. 2019年3月2日閲覧。

関連書籍[編集]

  • 『美術手帖』第480号「土と炎陶芸〔クレイワーク〕」1981年4月号
  • 『美術手帖』第575号「クレイワークを 語ろう」1987年2月号
  • 『月刊アトリエ』1998年4月号「表現と主題から見る現代美術の現場~クレイワーク~」塩澤宏信
  • 『現代アート10講』武蔵野美術大学出版局、176-193頁、2017年4月、「現代工芸とデザインの地平:クレイワークとうつわ」木田拓也