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[[File:AnIngrownNail Front.JPG|thumb|240px|化膿した肉芽腫(正面)]]
'''陥入爪'''(かんにゅうそう)とは、爪甲側縁が周囲の軟部組織に食い込んでしまい、疼痛、炎症、肉芽形成、二次感染を引き起こした状態<ref name="nurse44">月刊「ナース専科」2017年1月号、ナース専科編集部、44頁</ref>。[[巻き爪]]と混同されがちだが、巻き爪は爪甲の先端が内側に巻いたように変形し爪床を挟んだ状態をいい陥入爪とは異なる<ref name="nurse44" />。ただ陥入爪と巻き爪の主な原因には共通する点がある。
'''陥入爪'''(かんにゅうそう)とは、爪甲側縁が周囲の軟部組織に食い込んでしまい、疼痛、炎症、肉芽形成、二次感染を引き起こした状態<ref name="nurse44"/>。

[[巻き爪]]と混同されがちだが、巻き爪は爪甲の先端が内側に巻いたように変形し爪床を挟んだ状態をいい陥入爪とは異なる<ref name="nurse44" />。ただ陥入爪と巻き爪の主な原因には共通する点がある。


== 原因 ==
== 原因 ==
[[File:AnIngrownNail Front.JPG|thumb|240px|化膿した肉芽腫(正面)]]
[[File:AnIngrownNail Side.JPG|thumb|240px|化膿した肉芽腫(側面)]]
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陥入爪や巻き爪の原因には、物理的な外力(幅の狭い靴やハイヒールによる足趾への圧力、加齢や下肢麻痺に伴う歩行荷重の減少に伴う爪の支持組織の萎縮)、爪の切り方([[深爪]])、足の形([[外反母趾]])などである<ref name="nurse44">月刊「ナース専科」2017年1月号、ナース専科編集部、44-46頁</ref>。
[[File:AnIngrownNail Syuzyutugo.jpg|thumb|100px|240px|抜爪手術後]]
陥入爪や巻き爪の原因には、物理的な外力(幅の狭い靴やハイヒールによる足趾への圧力、加齢や下肢麻痺に伴う歩行荷重の減少に伴う爪の支持組織の萎縮)、爪の切り方([[深爪]])、足の形([[外反母趾]])などである<ref name="nurse45">月刊「ナース専科」2017年1月号、ナース専科編集部、45頁</ref>。


爪の端を短くしすぎることが原因であり、痛みを緩和するためにさらに短く切ることで悪循環となる<ref name="日本皮膚科学会7"/>。
また、多趾に陥入爪が見られるときは、遺伝や抗がん剤(分子標的治療薬等)の副作用が原因になっている場合がある<ref name="nurse45" />。

また、多趾に陥入爪が見られるときは、遺伝や抗がん剤(分子標的治療薬等)の副作用が原因になっている場合がある<ref name="nurse44" />。


== 治療 ==
== 治療 ==
[[File:AnIngrownNail Syuzyutugo.jpg|thumb|100px|240px|抜爪手術後]]
反応性の肉芽形成が見られる場合には、[[液体窒素]]による凍結凝固、炭酸ガスレーザーによる蒸散、[[硝酸銀]]などによる焼灼による治療が行われる<ref name="nurse45" />。
従来外科的治療(手術)が一般的であったが、1999年に町田らがワイヤーを使った保存的治療法を紹介し、保存的治療で難しい場合に手術が選択される傾向にある<ref name="医事新報4885">{{Cite journal |和書|author1=本多孝之 |author2=柏克彦 |author3=小林誠一郎 |date=2016-1-9 |title=陥入爪・巻き爪の治療 【陥入爪では保存的治療の選択肢が増加,巻き爪変形では物理的爪矯正法が一般化】 |journal=週刊日本医事新報 |volume= |issue=4785 |pages= |naid= |doi= |url=https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=4885}}</ref>。


食い込んでいる爪の根治的治療にはガター法、ワイヤー法、フェノール法などがある<ref name="nurse45" />。
食い込んでいる爪の根治的治療にはガター法、ワイヤー法、フェノール法などがある<ref name="nurse44" />。
*ガター法(爪郭に沿って一方を切り開いたチューブを挿入し爪を浮かせる)
*ガター法(爪郭に沿って一方を切り開いたチューブを挿入し爪を浮かせる)
*フェノール法 - 縁の爪が生えないように[[フェノール]]を使って腐食させ宇が、時間を経て爪が変形するので推奨しないという意見もある<ref name="日本皮膚科学会7"/>。
*[[フェノール法]]
*手術(抜爪など) - 爪を剥がしても8割は再発する<ref name="pmid486921">{{cite journal|author=Palmer BV, Jones A|title=Ingrowing toenails: the results of treatment|journal=Br J Surg|issue=8|pages=575–6|date=August 1979|pmid=486921}}</ref>。小坂式の術法では術後6か月後の111指の8割に変形や痛みがなく、再発は4%であった<ref name="naid130004552979">{{Cite journal |和書|author=宮島哲 |date=2012 |title=巻き爪の手術療法 |journal=創傷 |volume=3 |issue=4 |pages=160-166 |naid=130004552979 |doi=10.11310/jsswc.3.160 |url=https://doi.org/10.11310/jsswc.3.160}}</ref>。手術やフェノール法は推奨できないとする意見がある<ref name="naid130005404683">{{Cite journal |和書|author=東禹彦 |date=2006 |title=陥入爪の治療 |journal=皮膚の科学 |volume=5 |issue=6 |pages=456-460 |naid=130005404683 |doi=10.11340/skinresearch.5.6_456 |url=http://doi.org/10.11340/skinresearch.5.6_456}}</ref>。
*手術(抜爪など)
*ワイヤーによる矯正 - 爪に穴をあけワイヤーを通して広げる方法コットンやテーピングを併用すれば多くの場合対応できる<ref name="naid130004552981">{{Cite journal |和書|author=青木文彦 |date=2012 |title=巻き爪 ・ 陥入爪に対して保存的治療を選択する理由 |journal=創傷 |volume=3 |issue=4 |pages=174-180 |naid=130004552981 |doi=10.11310/jsswc.3.174 |url=https://doi.org/10.11310/jsswc.3.174}}</ref>。VHO法では、爪の両端にワイヤーのフックをひっかけ広げる<ref name="日本皮膚科学会7"/>。VHO法では肉芽があると対応が難しい場合があり、ガター法などを併用することがある<ref name="naid130005404685">{{Cite journal |和書|author=河合修三 |date=2006 |title=VHOの使用経験 |journal=皮膚の科学 |volume=5 |issue=6 |pages=466-468 |naid=130005404685 |doi=10.11340/skinresearch.5.6_466 |url=http://doi.org/10.11340/skinresearch.5.6_466}}</ref>。
*ワイヤーによる矯正<ref>http://tama-medical.com/</ref><ref>http://www.vho.jp/vho/about/index.html</ref>
*金属プレートによる矯正
*金属プレートによる矯正
*アクリル人口爪 - 爪の甲を長くする<ref name="日本皮膚科学会7"/>。実施できる施設の数が十分ではないが<ref name="日本皮膚科学会7"/>、重症でも実施しやすい<ref name="naid130005404683">{{Cite journal |和書|author=東禹彦 |date=2006 |title=陥入爪の治療 |journal=皮膚の科学 |volume=5 |issue=6 |pages=456-460 |naid=130005404683 |doi=10.11340/skinresearch.5.6_456 |url=http://doi.org/10.11340/skinresearch.5.6_456}}</ref>。

反応性の肉芽形成が見られる場合には、[[液体窒素]]による凍結凝固、炭酸ガスレーザーによる蒸散、[[硝酸銀]]などによる焼灼による治療が行われる<ref name="nurse44" />。


また、一部の治療法(保存的療法等)を行う前に局所麻酔を希望することも可能。麻酔をかけることにより、上記の治療に伴う激痛を軽減することができる。
また、一部の治療法(保存的療法等)を行う前に局所麻酔を希望することも可能。麻酔をかけることにより、上記の治療に伴う激痛を軽減することができる。


[[ファイル:Ingrown toenail-two sides treatment.jpg|サムネイル|テーピング。]]
痛みを緩和する方法として、遊離縁の溝へのコットンなどの挿入や[[テーピング]](らせん巻き等)がある<ref name="nurse46">月刊「ナース専科」2017年1月号、ナース専科編集部、46頁</ref>。ただし、遊離縁の溝へのコットンなどの挿入は適切な厚みにしないと圧迫による痛みや爪甲剥離を引き起こす<ref name="nurse46" />。
痛みを緩和する方法として、遊離縁の溝へのコットンを詰めたり[[テーピング]](らせん巻き等)がある<ref name="nurse44"/>。ただし、遊離縁の溝へのコットンなどの挿入は適切な厚みにしないと圧迫による痛みや爪甲剥離を引き起こす<ref name="nurse44" />。軽症ではコットンだけで軽快することがある<ref name="日本皮膚科学会7">{{cite web |title=陥入爪(爪刺し)の原因と治療法 |url=https://www.dermatol.or.jp/qa/qa38/q07.html |date= |publisher=日本皮膚科学会 |accessdate=2018-12-30}} 術後の爪変形の写真がある。</ref>。

陥入爪を含む痛みをもたらす足病変のケアにより、足の運動機能が向上した<ref name="naid130007430944">{{Cite journal |和書|author=今井亜希子 |date=2018 |title=足の皮膚・爪所見からみる下肢機能 |journal=日本転倒予防学会誌 |volume=5 |issue=1 |pages=17-21 |naid=130007430944 |doi=10.11335/tentouyobou.5.1_17 |url=https://doi.org/10.11335/tentouyobou.5.1_17}}</ref>。


== 予防 ==
== 予防 ==
{{出典の明記|date=2018年12月|section=1}}
適度に爪が伸びてきたら切っておくこと。特に指の左右の端の爪の部分は感染しやすいので、深爪に気をつけながら切る。中にはある程度、長くなってから切るという人もいるが、長くなればなるほど発症するリスクが高くなる。また、左右の端の爪を取るのが痛いからといって、処理を怠ってしまうと、そのまま成長して感染するリスクが高くなるので、多少の痛みを我慢してでも、その部分の爪を切ることが大切である。
適度に爪が伸びてきたら切っておくこと。特に指の左右の端の爪の部分は感染しやすいので、深爪に気をつけながら切る。中にはある程度、長くなってから切るという人もいるが、長くなればなるほど発症するリスクが高くなる。また、左右の端の爪を取るのが痛いからといって、処理を怠ってしまうと、そのまま成長して感染するリスクが高くなるので、多少の痛みを我慢してでも、その部分の爪を切ることが大切である。


ただし陥入爪そのものは爪の内部組織が爪によって傷付けられればそれだけで発生するため、爪を切ったことが徒となって逆に爪内部を傷付ける爪の形状となってしまう事もあり、特に症例を発症しやすい[[巻き爪]]気味の場合は、適度の爪の長さを日頃から試しておくと良い。
ただし陥入爪そのものは爪の内部組織が爪によって傷付けられればそれだけで発生するため、爪を切ったことが徒となって逆に爪内部を傷付ける爪の形状となってしまう事もあり、特に症例を発症しやすい[[巻き爪]]気味の場合は、適度の爪の長さを日頃から試しておくと良い。


== 脚注 ==
==出典==
<references/>
<references/>


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[]]
* [[肉芽腫]]
* [[巻き爪]] 
* [[皮膚科学]]
* [[血管拡張性肉芽腫]]
* [[蜂窩織炎]]
* [[蜂窩織炎]]



2018年12月30日 (日) 14:37時点における版

化膿した肉芽腫(正面)

陥入爪(かんにゅうそう)とは、爪甲側縁が周囲の軟部組織に食い込んでしまい、疼痛、炎症、肉芽形成、二次感染を引き起こした状態[1]

巻き爪と混同されがちだが、巻き爪は爪甲の先端が内側に巻いたように変形し爪床を挟んだ状態をいい陥入爪とは異なる[1]。ただ陥入爪と巻き爪の主な原因には共通する点がある。

原因

化膿した肉芽腫(側面)

陥入爪や巻き爪の原因には、物理的な外力(幅の狭い靴やハイヒールによる足趾への圧力、加齢や下肢麻痺に伴う歩行荷重の減少に伴う爪の支持組織の萎縮)、爪の切り方(深爪)、足の形(外反母趾)などである[1]

爪の端を短くしすぎることが原因であり、痛みを緩和するためにさらに短く切ることで悪循環となる[2]

また、多趾に陥入爪が見られるときは、遺伝や抗がん剤(分子標的治療薬等)の副作用が原因になっている場合がある[1]

治療

抜爪手術後

従来外科的治療(手術)が一般的であったが、1999年に町田らがワイヤーを使った保存的治療法を紹介し、保存的治療で難しい場合に手術が選択される傾向にある[3]

食い込んでいる爪の根治的治療にはガター法、ワイヤー法、フェノール法などがある[1]

  • ガター法(爪郭に沿って一方を切り開いたチューブを挿入し爪を浮かせる)
  • フェノール法 - 縁の爪が生えないようにフェノールを使って腐食させ宇が、時間を経て爪が変形するので推奨しないという意見もある[2]
  • 手術(抜爪など) - 爪を剥がしても8割は再発する[4]。小坂式の術法では術後6か月後の111指の8割に変形や痛みがなく、再発は4%であった[5]。手術やフェノール法は推奨できないとする意見がある[6]
  • ワイヤーによる矯正 - 爪に穴をあけワイヤーを通して広げる方法コットンやテーピングを併用すれば多くの場合対応できる[7]。VHO法では、爪の両端にワイヤーのフックをひっかけ広げる[2]。VHO法では肉芽があると対応が難しい場合があり、ガター法などを併用することがある[8]
  • 金属プレートによる矯正
  • アクリル人口爪 - 爪の甲を長くする[2]。実施できる施設の数が十分ではないが[2]、重症でも実施しやすい[6]

反応性の肉芽形成が見られる場合には、液体窒素による凍結凝固、炭酸ガスレーザーによる蒸散、硝酸銀などによる焼灼による治療が行われる[1]

また、一部の治療法(保存的療法等)を行う前に局所麻酔を希望することも可能。麻酔をかけることにより、上記の治療に伴う激痛を軽減することができる。

テーピング。

痛みを緩和する方法として、遊離縁の溝へのコットンを詰めたりテーピング(らせん巻き等)がある[1]。ただし、遊離縁の溝へのコットンなどの挿入は適切な厚みにしないと圧迫による痛みや爪甲剥離を引き起こす[1]。軽症ではコットンだけで軽快することがある[2]

陥入爪を含む痛みをもたらす足病変のケアにより、足の運動機能が向上した[9]

予防

適度に爪が伸びてきたら切っておくこと。特に指の左右の端の爪の部分は感染しやすいので、深爪に気をつけながら切る。中にはある程度、長くなってから切るという人もいるが、長くなればなるほど発症するリスクが高くなる。また、左右の端の爪を取るのが痛いからといって、処理を怠ってしまうと、そのまま成長して感染するリスクが高くなるので、多少の痛みを我慢してでも、その部分の爪を切ることが大切である。

ただし陥入爪そのものは爪の内部組織が爪によって傷付けられればそれだけで発生するため、爪を切ったことが徒となって逆に爪内部を傷付ける爪の形状となってしまう事もあり、特に症例を発症しやすい巻き爪気味の場合は、適度の爪の長さを日頃から試しておくと良い。

出典

  1. ^ a b c d e f g h 月刊「ナース専科」2017年1月号、ナース専科編集部、44-46頁
  2. ^ a b c d e f 陥入爪(爪刺し)の原因と治療法”. 日本皮膚科学会. 2018年12月30日閲覧。 術後の爪変形の写真がある。
  3. ^ 本多孝之、柏克彦、小林誠一郎「陥入爪・巻き爪の治療 【陥入爪では保存的治療の選択肢が増加,巻き爪変形では物理的爪矯正法が一般化】」『週刊日本医事新報』第4785号、2016年1月9日。 
  4. ^ Palmer BV, Jones A (August 1979). “Ingrowing toenails: the results of treatment”. Br J Surg (8): 575–6. PMID 486921. 
  5. ^ 宮島哲「巻き爪の手術療法」『創傷』第3巻第4号、2012年、160-166頁、doi:10.11310/jsswc.3.160NAID 130004552979 
  6. ^ a b 東禹彦「陥入爪の治療」『皮膚の科学』第5巻第6号、2006年、456-460頁、doi:10.11340/skinresearch.5.6_456NAID 130005404683 
  7. ^ 青木文彦「巻き爪 ・ 陥入爪に対して保存的治療を選択する理由」『創傷』第3巻第4号、2012年、174-180頁、doi:10.11310/jsswc.3.174NAID 130004552981 
  8. ^ 河合修三「VHOの使用経験」『皮膚の科学』第5巻第6号、2006年、466-468頁、doi:10.11340/skinresearch.5.6_466NAID 130005404685 
  9. ^ 今井亜希子「足の皮膚・爪所見からみる下肢機能」『日本転倒予防学会誌』第5巻第1号、2018年、17-21頁、doi:10.11335/tentouyobou.5.1_17NAID 130007430944 

関連項目