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'''LOH症候群''' |
'''LOH症候群'''(late-onset hypogonadism)とは、[[アンドロゲン|男性ホルモン]]([[テストステロン]])の部分的欠乏によって起こる症候群。'''加齢男性性腺機能低下症候群'''('''PADAM'''(partial androgen deficiency of the aging male))とも呼ばれる。女性の[[更年期症候群]]に対する男性の加齢疾患なので'''男性更年期障害'''と呼ぶこともある。日本においては加齢に伴う変化として、長らく診療の対象外とされていたが、21世紀になり治療対象として見なされるようになった。欧米では 1980年代より老年病学や生殖内分泌学の観点から注目されていた。 |
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== 解説 == |
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実態は低テストステロン症候群で、[[インシスリン]]感受性が悪くなり[[メタボリック症候群]]になりやすい。[[2型糖尿病]]患者に高頻度で見られ[[骨粗鬆症]]、心血管疾患、内臓脂肪の増加、耐糖能異常、[[高脂血症]]のリスクが増加することが知られていが、特に20代から40代でテストステロンが低い場合は、2型糖尿病、メタボリック症候群のリスクが増大する<ref name=naika.102.914 />。 |
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; 定義:LOH症候群の症状および徴候 |
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# リビドー(性欲)と勃起能の質と頻度,とりわけ夜間睡眠時勃起の減退 |
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# 知的活動,認知力,見当識の低下および疲労感,抑うつ,短気などに伴う気分変調 |
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# 睡眠障害 |
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# 筋容量と筋力低下による除脂肪体重の減少 |
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# 内臓脂肪の増加 |
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# 体毛と皮膚の変化 |
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# 骨減少症と骨粗鬆症に伴う骨塩量の低下と骨折のリスク増加 |
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== 症状 == |
== 症状 == |
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テストステロン減少により様々な症状が起こ |
テストステロン減少により様々な症状が起こる<ref>柏瀬 宏隆/岩本 晃明 「男の更年期」 [[日東書院]] ISBN 9784528016712</ref><ref name="jyunntenndouloh201611">[http://juntendo-urology.jp/disease/loh/ 順天堂医大 泌尿器科 LOH症候群(加齢性腺機能低下症)LOH症候群とは] 2016年11月19日閲覧</ref>。 |
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* 精神症状<ref name=naika.102.914>堀江重郎、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/4/102_914/_article/-char/ja/ 男性更年期障害(LOH症候群)]」 日本内科学会雑誌 Vol.102 (2013) No.4 p.914-921, {{DOI|10.2169/naika.102.914}}</ref> |
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** 集中力の低下、無気力、不安感、頭のもやもや感、イライラ感、うつ、疲労感、不眠、記憶力の低下 |
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* 身体症状<ref name=naika.102.914 /> |
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** 不眠、精力低下、多汗、勃起障害・性機能低下、筋力低下、筋肉痛、ほてり、発汗、頭痛、めまい、耳鳴り、頻尿、Morning erectionの消失 |
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== 診断 == |
== 診断 == |
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Heinemannらによる Aging malesʼ |
Heinemannらによる Aging malesʼ symptom(AMS)スコア<ref>Heinemann LAJ, et al: A new aging male's symptoms' (AMS) rating scale. Aging Male 2: 105-114, 1999., {{DOI|10.3109/13685539909003173}}</ref>が広く用いられている<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。AMSスコアは17項目からなる質問形式のスコアで、5段階の自己評価を記入する形式となっている。合計点数によってLOH症候群の可能性が評価されるが、スコアの点数は年齢に比例して高くなる傾向があるものの、血中テストステロン濃度には相関性がない事も指摘されているので、AMSスコアによってホルモン濃度測定が代替されるものではない。合計26点以下は正常、27-36は軽度の症状、37-49 は中等度の症状、50以上は重症と判断される<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。 |
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; AMSスコア:(堀江重郎、「男性更年期障害(LOH症候群)」<ref name=naika.102.914 />より引用) |
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# 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方) |
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# 関節や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み) |
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# ひどい発汗(おもいがけず突然汗が出る、緊張や運動とは関係なくほてる) |
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# 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れないなど) |
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# よく眠くなる,しばしば疲れを感じる |
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# いらいらする(あたり散らす、ささいなことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる) |
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# 神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かないなど) |
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# 不安感(パニック状態になる) |
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# からだの疲労や行動力の減退(全般的な行動力の低下、余暇活動に興味がないなど) |
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# 筋力の低下 |
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# 憂うつな気分(落ち込み、悲しい、涙もろい、意欲がわかないなど) |
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# 人生の山は通り過ぎた」と感じる |
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# 力尽きた」、「どん底にいる」と感じる |
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# ひげの伸びが遅くなった |
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# 性的能力の衰え |
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# 早朝勃起の回数の減少 |
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# 性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求が起きない) |
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* 各項目を、「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点で集計する。 |
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== 治療 == |
== 治療 == |
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血中遊離型アンドロゲン低下例に対してはアンドロゲン補充療法 |
血中遊離型アンドロゲン低下例に対してはアンドロゲン補充療法(ART)が行われる<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。アンドロゲン補充療法はテストステロン補充療法(TAT)と呼ばれる事もある<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。日本では血中遊離型テストステロン値が8.5pg/ml未満の症例に対しては、ARTが第一選択とされる。ただし40歳以下の対象患者や[[前立腺癌]]患者、血中[[PSA]]上昇症例、中等度以上の[[前立腺肥大]]患者、重度の肝疾患・心疾患・腎機能不全患者、[[睡眠時無呼吸症候群]]患者などは除外される。血中遊離型テストステロン値が 11.8pg/ml 以上の場合は、症状に応じた対症療法を行う。つまり[[勃起不全]]については [[PDE5阻害薬]]([[ホスホジエステラーゼ-5阻害薬]]を使い、精神症状については[[抗うつ薬]]・[[抗不安薬]]などで対応する<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。国際的には血中遊離型テストステロン値が300-320 ng/mlをART開始の基準とされている<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。ART開始後、血中PSA濃度が半年間で0.5ng/ml または1年で1.0ng/ml以上上昇した場合、専門医での前立腺癌検索が推奨されている。 |
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=== アンドロゲン補充療法 === |
=== アンドロゲン補充療法 === |
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日本泌尿器科学会では、アンドロゲン補充手段として下記の3種類を推奨しているが |
日本泌尿器科学会では、アンドロゲン補充手段として下記の3種類を推奨しているが、2016年現在保険適応となっているのは、エナント酸テストステロンの注射のみである<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。 |
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==== エナント酸テストステロン ==== |
==== エナント酸テストステロン ==== |
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エナント酸テストステロンの筋肉注射を行う |
エナント酸テストステロンの筋肉注射を行う。注射の頻度は、125mg/回なら2-3週間隔で、250mg/回なら3-4週間隔となる。血中濃度の変動が大きいので、投与後4-7日目経過した頃に、血中遊離型テストステロン値のモニタリング実施が推奨されている。日本では「テスチノンテポ-筋注用125/250mg」として製剤化されている。 |
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==== 胎盤性性腺刺激ホルモン ==== |
==== 胎盤性性腺刺激ホルモン ==== |
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[[胎盤性性腺刺激ホルモン]] |
[[胎盤性性腺刺激ホルモン]](hCG)1回 3,000-5,000単位を週1-2回あるいは2 週間毎に筋注する。hCG testの反応良好例に限られるが、エナント酸テストステロンを直接投与するよるも血中濃度が安定するメリットがある。 |
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==== テストステロン軟膏 ==== |
==== テストステロン軟膏 ==== |
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テストステロン軟膏を1回3gを1日1-2回[[陰囊]]表面に塗布する(1回 3mg テストステロン相当) |
テストステロン軟膏を1回3gを1日1-2回[[陰囊]]表面に塗布する(1回 3mg テストステロン相当)。投与が容易で血中テストステロン濃度の変動が少ないというメリットがある。欧米では主流になりつつある投与法<ref name="jyunntenndouloh201611"/>。 |
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== うつ病との類似性 == |
== うつ病との類似性 == |
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LOH症候群の精神症状は、うつ病と類似するものが多い |
LOH症候群の精神症状は、うつ病と類似するものが多い。2004年に本邦の9施設で、泌尿器科外来を受診した男性患者に対して質問紙調査を行ったところ47.8%が大うつ病と診断されている。40-50歳代に限ると60%の高率となった。 |
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* {{PDFlink|[https://www.urol.or.jp/info/data/gl_LOH.pdf 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群)診療の手引き] 日本泌尿器科学会 2016年11月19日閲覧}} |
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* 堀江重郎、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/4/102_914/_article/-char/ja/ 男性更年期障害(LOH症候群)]」 日本内科学会雑誌 Vol.102 (2013) No.4 p.914-921, {{DOI|10.2169/naika.102.914}} |
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== 脚注 == |
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== 関連項目 == |
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* [[勃起障害]] |
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2016年12月2日 (金) 08:09時点における版
LOH症候群(late-onset hypogonadism)とは、男性ホルモン(テストステロン)の部分的欠乏によって起こる症候群。加齢男性性腺機能低下症候群(PADAM(partial androgen deficiency of the aging male))とも呼ばれる。女性の更年期症候群に対する男性の加齢疾患なので男性更年期障害と呼ぶこともある。日本においては加齢に伴う変化として、長らく診療の対象外とされていたが、21世紀になり治療対象として見なされるようになった。欧米では 1980年代より老年病学や生殖内分泌学の観点から注目されていた。
解説
実態は低テストステロン症候群で、インシスリン感受性が悪くなりメタボリック症候群になりやすい。2型糖尿病患者に高頻度で見られ骨粗鬆症、心血管疾患、内臓脂肪の増加、耐糖能異常、高脂血症のリスクが増加することが知られていが、特に20代から40代でテストステロンが低い場合は、2型糖尿病、メタボリック症候群のリスクが増大する[1]。
- 定義
- LOH症候群の症状および徴候
- リビドー(性欲)と勃起能の質と頻度,とりわけ夜間睡眠時勃起の減退
- 知的活動,認知力,見当識の低下および疲労感,抑うつ,短気などに伴う気分変調
- 睡眠障害
- 筋容量と筋力低下による除脂肪体重の減少
- 内臓脂肪の増加
- 体毛と皮膚の変化
- 骨減少症と骨粗鬆症に伴う骨塩量の低下と骨折のリスク増加
症状
- 精神症状[1]
- 集中力の低下、無気力、不安感、頭のもやもや感、イライラ感、うつ、疲労感、不眠、記憶力の低下
- 身体症状[1]
- 不眠、精力低下、多汗、勃起障害・性機能低下、筋力低下、筋肉痛、ほてり、発汗、頭痛、めまい、耳鳴り、頻尿、Morning erectionの消失
診断
Heinemannらによる Aging malesʼ symptom(AMS)スコア[4]が広く用いられている[3]。AMSスコアは17項目からなる質問形式のスコアで、5段階の自己評価を記入する形式となっている。合計点数によってLOH症候群の可能性が評価されるが、スコアの点数は年齢に比例して高くなる傾向があるものの、血中テストステロン濃度には相関性がない事も指摘されているので、AMSスコアによってホルモン濃度測定が代替されるものではない。合計26点以下は正常、27-36は軽度の症状、37-49 は中等度の症状、50以上は重症と判断される[3]。
- AMSスコア
- (堀江重郎、「男性更年期障害(LOH症候群)」[1]より引用)
- 総合的に調子が思わしくない(健康状態、本人自身の感じ方)
- 関節や筋肉の痛み(腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)
- ひどい発汗(おもいがけず突然汗が出る、緊張や運動とは関係なくほてる)
- 睡眠の悩み(寝つきが悪い、ぐっすり眠れないなど)
- よく眠くなる,しばしば疲れを感じる
- いらいらする(あたり散らす、ささいなことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる)
- 神経質になった(緊張しやすい、精神的に落ち着かないなど)
- 不安感(パニック状態になる)
- からだの疲労や行動力の減退(全般的な行動力の低下、余暇活動に興味がないなど)
- 筋力の低下
- 憂うつな気分(落ち込み、悲しい、涙もろい、意欲がわかないなど)
- 人生の山は通り過ぎた」と感じる
- 力尽きた」、「どん底にいる」と感じる
- ひげの伸びが遅くなった
- 性的能力の衰え
- 早朝勃起の回数の減少
- 性欲の低下(セックスが楽しくない、性交の欲求が起きない)
- 各項目を、「ない」1点、「軽い」2点、「中程度」3点、「重い」4点、「きわめて重い」5点で集計する。
治療
血中遊離型アンドロゲン低下例に対してはアンドロゲン補充療法(ART)が行われる[3]。アンドロゲン補充療法はテストステロン補充療法(TAT)と呼ばれる事もある[3]。日本では血中遊離型テストステロン値が8.5pg/ml未満の症例に対しては、ARTが第一選択とされる。ただし40歳以下の対象患者や前立腺癌患者、血中PSA上昇症例、中等度以上の前立腺肥大患者、重度の肝疾患・心疾患・腎機能不全患者、睡眠時無呼吸症候群患者などは除外される。血中遊離型テストステロン値が 11.8pg/ml 以上の場合は、症状に応じた対症療法を行う。つまり勃起不全については PDE5阻害薬(ホスホジエステラーゼ-5阻害薬を使い、精神症状については抗うつ薬・抗不安薬などで対応する[3]。国際的には血中遊離型テストステロン値が300-320 ng/mlをART開始の基準とされている[3]。ART開始後、血中PSA濃度が半年間で0.5ng/ml または1年で1.0ng/ml以上上昇した場合、専門医での前立腺癌検索が推奨されている。
アンドロゲン補充療法
日本泌尿器科学会では、アンドロゲン補充手段として下記の3種類を推奨しているが、2016年現在保険適応となっているのは、エナント酸テストステロンの注射のみである[3]。
エナント酸テストステロン
エナント酸テストステロンの筋肉注射を行う。注射の頻度は、125mg/回なら2-3週間隔で、250mg/回なら3-4週間隔となる。血中濃度の変動が大きいので、投与後4-7日目経過した頃に、血中遊離型テストステロン値のモニタリング実施が推奨されている。日本では「テスチノンテポ-筋注用125/250mg」として製剤化されている。
胎盤性性腺刺激ホルモン
胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)1回 3,000-5,000単位を週1-2回あるいは2 週間毎に筋注する。hCG testの反応良好例に限られるが、エナント酸テストステロンを直接投与するよるも血中濃度が安定するメリットがある。
テストステロン軟膏
テストステロン軟膏を1回3gを1日1-2回陰囊表面に塗布する(1回 3mg テストステロン相当)。投与が容易で血中テストステロン濃度の変動が少ないというメリットがある。欧米では主流になりつつある投与法[3]。
うつ病との類似性
LOH症候群の精神症状は、うつ病と類似するものが多い。2004年に本邦の9施設で、泌尿器科外来を受診した男性患者に対して質問紙調査を行ったところ47.8%が大うつ病と診断されている。40-50歳代に限ると60%の高率となった。
出典
- 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群)診療の手引き 日本泌尿器科学会 2016年11月19日閲覧 (PDF)
- 堀江重郎、「男性更年期障害(LOH症候群)」 日本内科学会雑誌 Vol.102 (2013) No.4 p.914-921, doi:10.2169/naika.102.914
脚注
- ^ a b c d 堀江重郎、「男性更年期障害(LOH症候群)」 日本内科学会雑誌 Vol.102 (2013) No.4 p.914-921, doi:10.2169/naika.102.914
- ^ 柏瀬 宏隆/岩本 晃明 「男の更年期」 日東書院 ISBN 9784528016712
- ^ a b c d e f g h i 順天堂医大 泌尿器科 LOH症候群(加齢性腺機能低下症)LOH症候群とは 2016年11月19日閲覧
- ^ Heinemann LAJ, et al: A new aging male's symptoms' (AMS) rating scale. Aging Male 2: 105-114, 1999., doi:10.3109/13685539909003173