罹患率
疫学における罹患率(りかんりつ、Incidence rateまたは単に紛れの無い場合はIncidenceという場合もあるが、推奨されない)は、観察対象の集団のある観察期間に疾病の発症の頻度をあらわす指標の一つ[1][2]。予防医学の一次予防(健康異常が出現する前段階の活動)の有効性を評価する際の指標となる[3]。
ここにaは期間中に新たに発生した症例数、bは当該期間中の疾患の危険性にさらされる集団ののべ人数である。括弧内のとは1000人当たり、または10万人当たりでの場合の乗数である。
なお、疫学で類似の指標として、有病率(Prevalence Rate)がある。なお発生学ではIncidenceは発症数または発症率と訳されるときがある。
有病率と罹患率
簡便のために 以下に罹患率と有病率の定義と注意事項を示す。[4]。
罹患率 | 有病率 | |
分子 | 特定期間中の疾患の新規発生症例数 | 特定時点における疾患を有する人口 |
分母 | 罹患の危険性にさらされる人口 | 観察対象の人口 |
焦点 | 罹患の開始時点 それが新規であるか? |
疾患の有無 期間でなくある時点 |
注意 | 既に疾患に罹患している者は、すでに危険もなく、新たな罹患でもないので、分母子から外される。 | 既に疾患に罹患している者は、疾患を有しているので分母子に含まれる |
計算法
図は人口7人であるが、既に罹患している1名を除いた6名が定義式の分母である。 分子は新たに罹患した2名である。従って罹患率は となる。
期間内の集団においては、死亡、転出などが発生するので、簡便法として人年法( (person-year method).で計算する。この例で、開始と終了期間の間隔が1年であるとすれば、 10万人年当たりで,10万倍をした33,333となる。
疾病の状態が定常的な発生状況と有病期間が長く致死率が極めて低く、かつ十分大きな集団であれば[5]
有病割合≒罹患率×平均有病期間
の近似式が成立するとされている。しかしながら、疾患によっては罹患の発見という認識が困難な疾患(腫瘍のようにある程度の大きさに ならないとスクリーニングにかからない)には適用できないとの指摘もある。
注意事項
- 定義からわかるように罹患率は1を超えることもある。同様に、調査期間内に既に罹患している者は除外される。(有病率では対象となる)[6]
- ある特定の疾患の罹患率は極めて小さいために、一般の行政統計等では1000人または10万人当たりの数値で表すことが多い。
- 定義の「危険にさらされる集団」で示されるように危険の定義をどのようにするかによって、計算は異なる。たとえば、コレラなどの疾患においては、同時に2つの罹患はありえない。しかし、褥瘡などは部位が変われば、2つの罹患があり得る。具体的に期間内に入院してきた患者に、すでに褥瘡があり、期間内に別の部位に褥瘡が発生したとする。この場合の患者を対象とするか否かについては、2通りの場合があることになる。[7] ガンのような疾患では、再発した場合は新たな罹患とみなすことはぜずに、罹患の継続とみなしている。このように定義によって値が変わるのでかならず定義を明確に記載するべきである。
- 罹患率は、その定義から罹患期間に依存しない。他方、有病率は罹患期間が長いと大きくなる。
- 罹患致死率の高い疾患に関しては、有病率は小さくなる。しかし、罹患率は、その定義から罹患致死率に依存しない。
参考文献
- ^ 日本疫学会 疫学辞典 日本公衆衛生協会; 第3版 (2000/01)
- ^ "incidence rate" - ドーランド医学辞典
- ^ 岡崎勲、豊嶋英明、小林廉毅 編『標準公衆衛生・社会医学(第2版)』医学書院、2009年、76頁。
- ^ a b R. Bonita, R. Beaglehole and T. Kjellstrom; Basic epidemiology WHO Library Cataloguing-in-Publication Data. 2006
- ^ Rothman, K.J. (2012). Epidemiology: An Introduction, (2nd ed.). New York, NY: Oxford University Press.
- ^ Mitchell H.Katz Study Design and Statistical Analysis: A Practical Guide for Clinicians, Cambridge University Press、ISBN 978-0521534079、2006。(邦訳 本多正幸 /中村洋一/橋本明生浩/中野正孝 訳 臨床研究のための統計実践ガイド EDIXi出版部 2011
- ^ MacGregor (真田弘美監訳)褥瘡の予防 有病率および発生率について pp.4