水素脆化

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水素ぜい化(水素脆化 すいそぜいか、英語:hydrogen embrittlement)とは、鋼材中に吸収された水素により鋼材の強度(延性又はじん性)が低下する現象の事。水素ぜい化(脆化)は、腐食、溶接、酸洗浄、電気メッキなどによる水素吸収が原因とされる。この水素吸収による破壊は遅れ破壊とも呼ばれる。水素ぜい性破壊は、結晶粒界、引張り応力のかかる箇所、応力の集中する部分で起こりやすい。古くから認識されてきた問題である(ハーバー・ボッシュ法の開発にはこの問題が付きまとったことで知られる)。

概要

ステンレスは水素による材料の強度、延性が低下する現象が顕著であるため、低強度材、つまり水素感受性の小さな材料での使用に制限したり、脱水素(ベーキング)処理を施すことで、一応の解決を得ている。しかし、そのメカニズムと機構については、十分に解明されていない。金属の結晶格子内に浸透した水素原子金属水素化物になる。

環境問題の観点も含め、時代とともに、軽量化、高強度化が強く求められ、構造部品の高応力設計が必要になってきている。しかしここでもやはり水素ぜい化が問題になるので、近年水素ぜい化に対する重要性が再認識され、そのメカニズム解明と抜本的解決がますます求められるようになっている。

水素ぜい化に関する研究は古くから、そして現在も数多く行われている。しかし、ぜい化を引き起こす影響因子が多く複雑にからんでおり、その本質が現在も不明である。つまり、水素ぜい化は拡散性水素の局在化に関連した現象であるため、水素量のほかに、拡散のパラメータである、時間・温度のほか、応力状態(応力三軸度)・ひずみ・そもそもの材料強度にも依存する。加えて、材料中の拡散性水素の挙動を把握することも困難であり、本質的解明を阻害している。

水素を燃料とするロケットエンジンの開発や自動車エンジンの開発で問題になった。また、一部の水素吸蔵合金の吸収、放出サイクルによって微粉化する現象が見られる。また、希土類磁石の製造工程においてこの現象を利用する事によって原料を粉砕する手法も用いられている。

一時期パラジウム内に吸蔵された重水素原子による常温核融合に関与する可能性も一部で議論された。

関連項目

外部リンク