標的制御注入

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標的制御注入(ひょうてきせいぎょちゅうにゅう、英:Target controlled infusion 英略:TCI ) とは、体内区画または目的の組織において、ユーザーが定義した薬物濃度を達成することを目的とした薬物注入法のことである。

概要

ユーザーがTCIシステムを用いて薬(主として麻酔薬)を投与する場合、所定の濃度(通常「目標濃度」と呼ばれる)を設定し、設定した目標濃度に対する観察された反応に基づいて、目標濃度を変更することができる。TCIシステムは、マルチコンパートメント薬物動態モデルとそれに付随する多次方程式を用いて、目標濃度を達成するために必要な注入速度を自動調節するようにプログラムされている[1]。例えば、日本で唯一臨床使用可能で、なおかつ頻用されているプロポフォールのTCIでは、プロポフォールの脳内濃度をシリンジポンプに設定すれば、数分以内にシリンジポンプがその濃度になるように自動注入を行う。理論上は他の薬剤でもTCIは可能だが、2022年10月30日時点では保険承認されていない。

TCI は、手動で制御される注入と同じくらい安全で効果的とされる[2] [3]

日本で臨床導入されて20年以上経つが、逐語訳である標的制御注入よりも英略語である"TCI"の呼称が一般的である。

TCI は、ターゲットによって分類される。 TCIeのように接尾辞「e」は、ターゲットが効果部位、ほとんどの場合、中枢神経系または脳であることを示す。あるいは、接尾辞「p」は血漿を表し、TCI モデルを実装するデバイスが血漿を標的とすることを示す。効果部位の平衡化にかかる時間に関しては、重要な違いがある。効果部位標的モデルの臨床的安全性は研究により、実証されている[4]

プロポフォールと合成オピオイドのレミフェンタニルには、一般的な TCI モデルが存在する。モデルは薬物動態研究に基づいており、注入装置に組み込まれたソフトウェアを使用している。プロポフォールにはMarshとSchniderのシミュレーションモデルがあり、レミフェンタニルにはMintoのモデルが一般的に使用されている。

歴史

1988年 Steven L. ShaferがIBM-PCで動作し、シリンジポンプを制御できるTCIプログラム"Stanpump"を公開した[5]。StanpumpはMS-DOS上で動作するため、WindowsXPよりも新しいWindows系OSでは、使用が困難となった。

TCI は 1996 年以来、プロポフォールとともに臨床現場で使用されている[6]

2001年 テルモ社がテルフュージョンTCIポンプTE-371を日本で発売[7]。アストラゼネカがTCI対応のプロポフォールのプレフィルドシリンジ製剤を発売[8]

2017年 TCI モデルをPython言語でエミュレートするプロジェクトがGitHubで公開された。

2018年 テルモ社が後継機種のテルフュージョンシリンジポンプSS型3TCIを発売[7]

関連項目

参考文献

  1. ^ Anthony Absalom, Michel MRF Struys (2020-06-12). AN OVERview OF TCI & TIVA (3 ed.). Lannoo Publishers. p. 11 
  2. ^ “Safety and efficacy of target controlled infusion (Diprifusor) vs manually controlled infusion of propofol for anaesthesia”. Anaesth Intensive Care 27 (3): 260–4. (June 1999). doi:10.1177/0310057x9902700306. PMID 10389558. http://www.aaic.net.au/PMID/10389558 2018年6月28日閲覧。. 
  3. ^ Schraag, Stefan (2001). “Theoretical basis of target controlled anaesthesia: history, concept and clinical perspectives”. Best Practice & Research Clinical Anaesthesiology 15 (1): 1–17. doi:10.1053/bean.2001.0132. ISSN 1521-6896. 
  4. ^ Struys, M. M.; De Smet, T.; Depoorter, B.; Versichelen, L. F.; Mortier, E. P.; Dumortier, F. J.; Shafer, S. L.; Rolly, G. (February 2000). “Comparison of plasma compartment versus two methods for effect compartment--controlled target-controlled infusion for propofol”. Anesthesiology 92 (2): 399–406. doi:10.1097/00000542-200002000-00021. PMID 10691226. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10691226/. 
  5. ^ Shafer, Steven L.; Siegel, Lawrence C.; Cooke, James E.; Scott, James C. (1988-02-01). “Testing Computer-controlled Infusion Pumps by Simulation” (英語). Anesthesiology 68 (2): 261–266. doi:10.1097/00000542-198802000-00013. ISSN 0003-3022. https://pubs.asahq.org/anesthesiology/article/68/2/261/30335/Testing-Computercontrolled-Infusion-Pumps-by. 
  6. ^ “The History of Target-Controlled Infusion”. Anesth. Analg. 122 (1): 56–69. (January 2016). doi:10.1213/ANE.0000000000001008. PMID 26516804. http://Insights.ovid.com/pubmed?pmid=26516804 2018年6月29日閲覧。. 
  7. ^ a b テルモ、TCI対応スマートポンプを発売 | テルモ”. www.terumo.co.jp. 2022年11月4日閲覧。
  8. ^ 麻酔領域で日本初のTCIを可能にする「1%ディプリバン®注-キット(一般名: プロポフォール)」本年3月承認、6月発売へ”. AstraZeneca. 2022年11月13日閲覧。