収穫加速の法則
収穫加速の法則(The Law of Accelerating Returns)とは、アメリカの発明家レイ・カーツワイルが提唱した、一つの重要な発明は他の発明と結びつき、次の重要な発明の登場までの期間を短縮し、イノベーションの速度を加速することにより、科学技術は直線グラフ的ではなく指数関数的に進歩するという法則。および、彼がこの法則について言及したエッセイの表題。伝統的な収穫逓減あるいは限定的な収穫逓増と対比する概念として提唱している。
収穫加速の法則と技術的特異点の到来
カーツワイルの唱えた収穫加速の法則は、技術革新のスピードに関する法則性だけを射程に入れたものではなく、広義の有用な情報量と定義される秩序とカオスと時間の関係の一般法則の下位法則として位置づけられている。これはエントロピー増大の法則を考慮にいれたもので、宇宙の秩序増大に関する法則性を射程に入れたものである。カーツワイルの定義によれば、収穫加速の法則は
「 | 秩序が指数関数的に成長すると、時間は指数関数的に速くなる — つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は、時間の経過とともに短くなる。 | 」 |
というものである。
また収穫加速の法則は、生命進化のプロセスにも適用されており、DNAの成立、生殖という発明、発明を作る発明としての人間の誕生などを一元的に捉え、ムーアの法則によって示されたような秩序を増大させる技術革新はトランジスタ製造技術の枠を超えて継続するという主張を展開した。
このプロセスの継続により、人間の脳の能力を数値化した際に、早ければ2020年代前半、遅くとも2045年ぐらいにその数値をコンピュータの能力が追い越すことから、カーツワイルは「シンギュラリティ(技術的特異点)は近い」と結論付けた。
参考文献
- 『スピリチュアル・マシーン コンピューターに魂が宿るとき』レイ・カーツワイル著 田中三彦・田中茂彦訳 翔泳社 2001年
- Ander Korotayev, Artemy Malkov, Daria Khaltourina, 「社会のマイクロダイナミクス:世界システムの成長とコンパクト・マクロモデル」情報社会学会誌. 2007. Vol.2. No.1
- 『ポスト・ヒューマン誕生 コンピューターが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル著 井上健監訳他 NHK出版 2007年