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中心柱

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中心柱(ちゅうしんちゅう)とは、維管束植物において、そのの内部の維管束を含む部分を指す。植物体の基本的な構成要素と考える立場もあるが、単に維管束の配置の意味で使われる場合も多い。維管束植物の進化を考える上で重要と考えられる。

概説

維管束植物の内部には、水や栄養を輸送する管状の構造があり、それらはまとまって束状になっている。これを維管束と言う。それぞれの維管束には主として水を運ぶ道管からなる部分と栄養を運ぶ師管からなる部分に分かれ、前者を木部、後者を師部と呼ぶ。

維管束はなどでは細かく分かれてバラバラに広がっているが、茎では特徴的な配置をする。特に一次組織における維管束の配置のことを中心柱(central cylinder, stele)と呼んでいる。最もよく知られているのは、真正中心柱であろう。裸子植物被子植物の大部分(単子葉類を除く)の茎に見られるものである。若い茎の断面でその形が観察できる。ただしこれらの植物のでは放射中心柱となっている。また、単子葉植物では散在中心柱が見られる。それ以外の型の中心柱のほとんどはシダ植物に見られるものである。

なお、中心柱と維管束の形には強い関連がある。たとえば真正中心柱の場合は並立維管束であるが、原生中心柱や管状中心柱では包囲維管束である。

歴史

中心柱の概念を提出したのはファンティガン(1886)である。彼は茎を表皮皮層中心柱の三つに区分し、これらは茎頂部における原表皮、原皮層、原中心柱に対応するものとした。彼によれば、皮層と中心柱の間には内皮があり、これによって両者は区別できる。

しかし、内皮は根では恒常的に見られるものの、茎では不明の場合が多く、実際にはこの両者を明確に区別できない例も多い。また、分裂組織との対応も混乱が見られる。そのため、本来の意味ではこの語を使うことが少なくなっている。ファンティガン自身はこれを植物体を構成する基本的な組織系の一つと見て、植物体はこれと皮層、それに表皮の三つの組織系の組み合わせで説明しようとした。しかしこの考え方がそのまま認められることは現在ではほとんどなくなっている。

つまり、はっきり周りから区別できる実体としての中心柱は明らかではないことが多い。それでも、維管束の構造と配置をまとめる言葉としては中心柱は有効であると考えられ、今日ではこの意味で使われることが多い。維管束の配置は特にシダ植物では群による違いが大きく、これらは陸上植物の進化の早い段階での発達の経過を示唆するものと考えられる。

一般的な型

真正中心柱

真正中心柱では、楕円形の維管束が複数、茎の中心からほぼ等距離に円を描くように並んでいる。個々の維管束では内側に道管を含む木部、外側に師管を含む師部が位置する並立維管束である。維管束より内側はとなる。

なお、二次肥大成長が行われる場合、分裂組織は維管束の木部と師部の間に割って入り、この形成層からは内側に木部、外側には師部を形成する。それが続くと本来の真正中心柱の形態は内側に押し潰され、全体に木部と師部が充満した姿となる。普通の材木はこの木部の部分に当たる。

この型は単子葉植物以外の種子植物に見られ、他にハナヤスリ類に見られる。また、トクサ植物のものはやや異なっているが、これの一つの型だと考えられている。

放射中心柱

放射中心柱は、木部と師部が別個にまとまり、それらが同一円周上に交互に並ぶものである。維管束の形として放射維管束と言うこともある。維管束植物では、根でこの形が見られる。なお、肥大成長する場合、形成層は師部の内側、木部の外側を蛇行するように配置し、内部へ木部を、外側へ師部を作るので、その断面は次第に幹のそれに似てくる。

不斉中心柱

単子葉植物の茎に見られるもので、維管束が茎の断面に不規則かつまばらに入っている状態のものを指す。個々の維管束に関しては真正中心柱のそれと同じく、木部が内側に位置する並立維管束であるのが普通である。

この型の中心柱では、維管束と見えるものの多くは実際には葉へ向かう維管束、つまり葉跡である。単子葉植物では一枚の葉に入る維管束の数が多く、それらが茎の中を長く走るために多数の維管束があるような形になっている。

原生中心柱

原生中心柱は、ヒカゲノカズラ類などに見られ、それ以外のシダ類にも点々と見られる。茎の中心に一本だけ維管束があり、その中心を木部が、外側を師部が覆う包囲維管束であり、それら全体が内皮に包まれる。最も原始的な中心柱だと考えられる。一般的なシダ類の中にもスジヒトツバのようにこの形になるものがあり、これらではむしろ退化的に出現したとの見方もある。

管状中心柱

木部が管状になったものを管状中心柱という。これは原生中心柱の中心が柔組織になったものと考えられ、その場合、師部は木部の内外側に層を成す。これを外師管状中心柱という。

さらに、内側にも師部があるものを両師管状中心柱という。この形では、葉に向かう維管束が出るところは葉跡として管の一部が切り欠かれた状態となる。このような葉跡が多数生じると、管が穴だらけの網で作られたような状態となり、これを網状中心柱と言う。たとえばイノモトソウ科はこのどちらかの形を取る。

さらに、管が複数、同心円状に配置したものを多環中心柱という。たとえばワラビは網状中心柱が二重になった二環中心柱である。

その進化

これらのうちで最も原始的なのが原生中心柱と見られる。上記のように管状中心柱はこれの中心に髄が発達したものに由来すると考えられる。

真正中心柱は、やはり原生中心柱から、むしろ放射状の方向へ分断が生じたものに由来すると考えられる。また、 不斉中心柱は上記のように真正中心柱に由来すると考えられている。

参考文献

  • 田村道夫『植物の系統』,(1999),文一総合出版
  • 小倉謙『植物解剖および形態学』,(1980),養賢堂