下書きのイオータ

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下書きのイオータ(したがきのイオータ、ラテン語: Iota subscriptum, ギリシア語: ὑπογεγραμμένη)は、ギリシア語のアクセント注記式正書法に用いるもので、イオータを母音の下に小さく書くときのことを言う。古代ギリシア語表記において、いわゆる「長い二重母音」のᾳ, ῃ, ῳに用いられたものである。

概要

ユークレイドスの改革と、Ω, Ηの発明(403-402 BCE)以前は、アッティカ方言において、母音の長短を書き表すすべがなかった。古典ギリシア語において、ΑΙ, ΕΙ, ΟΙは、母音の長短を問わず、単に母音とイオータの組み合わせを意味していた。

14世紀半ばから15世紀半ば、ギリシア語の二重母音の後続音は、ほとんど脱落しかかっていた。ηιの発音は、アッティカ方言におけるειと、コイネーにおけるιと同一のものとなりつつあった。長いαιは、同様に長いαと合一し、ωιωも同様であった。ギリシア語から二重母音が消滅し、長い二重母音の音韻が他の音韻と合流したことで、以前は長い二重母音を書く際に使われてきたιも書かれないようになっていった。下書きのイオータは、その後、ビザンティン時代に写本で脱落していたιを補うために、しかしその当時には発音されなくなったことを示すために、横書きすることを避けて再導入された。

近年、イオータは母音文字の下ではなく、右に表記する場合も増えてきた。これを「横書きのイオータ」という(ラテン語: Iota adscript,ギリシア語: προσγεγραμμένη)。この横書きのイオータは、しかし、前接する母音にくらべて、いちじるしく小さいおおきさで印刷されることがある。

歴史

12世紀ビザンツ帝国の時代に古典時代の表記を反映させるために(ただし発音はしない)符号として字の下に小さくイオータを書くようになった。現代の流儀ではアルファ、エータ、オーに大文字を使う場合には下書きにせずΑι、Ηι、ΩιあるいはΑΙ、ΗΙ、ΩIのように書く。これを「横書きのイオータ」という。また小文字の場合でも横書きにすることもある。