アミスクウィア

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頭部の模式図と復元図

アミスクウィア(Amiskwia)は、古生代の海産無脊椎動物の一つである。バージェス生物群で発見され、この生物群の中では数少ない遊泳性の動物と考えられる。分類学的な位置については論議があるが、2019年には大型の担顎動物であるとされた[1]

特徴

アミスクウィア Amiskwia sagittiformis は、体長11-23mm程度の小型の動物化石である。細長くて、全体に腹背から扁平で、付属肢体節はない。また全体に柔らかな体で、硬化した部分や外骨格を持たない。

アミスクウィアの化石

全体は、先端に頭部が区別できるほかにはっきり区別できる部分はない。先端はやや狭まり、後方へ広くなってからまた狭まり、ここまでが頭部として区別できる。頭部の先端には互いに少し離れた位置に、一対の触角のような触手らしいものがある。触手は頭部の長さ程度で、先端に向かって細まる。関節などはないようである。

それ以降の胴体はあまり幅が変わらないまま後端にいたり、水平に広がった丸っこい三角の鰭らしいもので終わる。実際には胴体半ばにも幅の広い部分があるが、これも鰭が左右に突き出しているものと見なされている。いずれの鰭にも条は入っていない。

内部構造についてはあまりわかっていない。消化管は頭部の下面中央に口が開き、後端尾ひれの付け根に肛門があって、頭部の口の上でふくらんでいる他は単純で、その間を真っ直ぐに繋いでいるらしい。また、頭部中程にある程度まとまった組織が区別され、であったと考えられている。

生態

付属肢や固着装置がなく、鰭が発達していることから、水中をある程度以上活発に遊泳する動物であったろうと考えられる。おそらく体を上下方向にくねらせるかしならせるように動いて、鰭で水をかいて泳いだと思われる。バージェス生物群には海底に生活するものが多く、これは元々その場が海底であり、そこに泥流がおこって一気にそれらを埋めたためと考えられている。従って、この動物はその泥流に紛れて埋められた数少ない遊泳性の動物のひとつと考えられる。

時代

上述のようにバージェス頁岩から発見され、それ以外に記録がないので、古生代カンブリア紀だけで発見されている事になる。

分類的位置

この動物の大まかな特徴をあげると、

  1. 細長い体に、先端に区別できる頭部があること
  2. 体が腹背に扁平で、胴体半ば左右と尾端にそれぞれ水平に広がる鰭があること

である。現生の動物でこれに当てはまるものは二つある。一つはヤムシ類(毛顎動物門)である。この動物の学名の種小名も「ヤムシ Sagitta の形に似ている」の意味である。もう一つはヒモムシ類(紐形動物門)で、普通のヒモムシはひも状で底性の不活発な動物であるが、オヨギヒモムシ類という遊泳性のものがあり、ほぼこれに近い姿である。従って、化石生物を現生の生物に当てはめて考えるという観点から、この動物もこのどちらかに近いものという判断を下されたこともあった。最初にこの種を記載したチャールズ・ウォルコットは毛顎動物に属するものと判断した。

しかし、このどちらでもない、との説もある。ブリッグスらはこの立場から、以下のように論じている。

  • 毛顎動物には餌を捕獲する棘状の歯が並んでおり、また消化管は体の後端よりずっと前にある。この動物では歯はいっさいなく、また肛門は体の後端にある。
  • 紐形動物には奔出できる吻があるが、この動物にはそれがない。

したがってこのどちらとも縁の遠いものと判断した。外見的な共通点は、むしろ遊泳生活への適応という点での収斂進化の結果と考える。

脚注

  1. ^ Caron, Jean-Bernard; Cheung, Brittany (2019-05-03). “Amiskwia is a large Cambrian gnathiferan with complex gnathostomulid-like jaws” (英語). Communications Biology 2 (1): 1–9. doi:10.1038/s42003-019-0388-4. ISSN 2399-3642. https://www.nature.com/articles/s42003-019-0388-4. 

参考文献

  • デレク・E.G.ブリッグス他著、鈴木寿志他訳、大野照文監訳、『バージェス頁岩 化石図譜』、(2003)、朝倉書店