量子レーダー

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量子レーダー(りょうしレーダー)は、EPR相関(特に量子エンタングルメント)と出力量子検出に基づいた新たなリモートセンシング技術である。理論的には、レーダーはバックグラウンドノイズの影響を回避して機能しうる。これにより、ステルス機を検出し、電子的な妨害を避け、高いバックグラウンドノイズの領域で動作させることができる。

ほか、濃霧など悪天候下でのレーダー性能の向上が期待され、自動車の自動操縦に用いるセンサーとしてなど、軍事用途のみならず民需用の応用も期待される。

量子レーダの最初の実現可能な設計は、国際チームによって2015年に提案された[1][2]。これはガウシアン量子イルミネーションのプロトコルに基づいている[3]

概要[編集]

一般的なレーダーは電波を発射し、その反射波を測定することで物体の存在を把握する。

一方量子レーダーは量子エンタングルメントという光の現象を利用して対象物を知る。

従来のレーダーはレーダーによって使用される周波数と同じ電波を送信することにより電子的に妨害できる。これを受信者が自分の送信波と区別することは不可能である。

しかしながら、妨害側は理論的にレーダーが持つ内部信号の量子状態を知りえず、これを模擬することができないため、量子レーダーの場合は妨害できない。

人為的に発生した妨害波のみならず、オーロラなど環境要因も同様に回避できる[4]

反ステルス技術としても量子レーダーは注目される。ステルス機は、レーダーからの電波をレーダーの受信元以外に反射するか、吸収することで受信機にレーダー波が帰らないようにする。完全に反射を防ぐのは困難であるが、十分に小さければ熱的バックグラウンドノイズに反射波が埋もれ検知できなくなる。だが量子レーダーはオーロラなどと同様バックグラウンドノイズを回避できるので、反射波が著しく小さいステルス機であっても探知できる。

脚注[編集]

  1. ^ Barzanjeh, Shabir; Guha, Saikat; Weedbrook, Christian; Vitali, David; Shapiro, Jeffrey H.; Pirandola, Stefano (2015-02-27). “Microwave Quantum Illumination”. Physical Review Letters 114 (8): 080503. arXiv:1503.00189. Bibcode2015PhRvL.114h0503B. doi:10.1103/PhysRevLett.114.080503. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.114.080503. 
  2. ^ Ball, Philip (27 February 2015). “Focus: Quantum Mechanics Could Improve Radar”. Physical Review Letters 8: 18. https://physics.aps.org/articles/v8/18. 
  3. ^ Tan, Si-Hui (2008). “Quantum Illumination with Gaussian States”. Physical Review Letters 101 (25). arXiv:0810.0534. Bibcode2008PhRvL.101y3601T. doi:10.1103/PhysRevLett.101.253601. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.101.253601. 
  4. ^ Ball, Philip (27 February 2015). “Focus: Quantum Mechanics Could Improve Radar”. Physical Review Letters 8: 18. https://physics.aps.org/articles/v8/18.