相反定理

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相反定理と呼ばれるものは以下のようにいくつかある。一般に二つのものを入れ替えても同等であるということを示す定理。

  1. 熱力学における、オンサーガーの相反定理
  2. 材料力学における相反作用の定理(「ベッティマクスウェルの相反作用の定理」、en:Betti's theorem
  3. 電磁気学における、グリーンの相反定理
  4. 電気回路における、テレゲンの相反定理 (Tellegen's theorem)

この記事ではオンサーガーの相反定理について述べる。


相反定理(そうはんていり)(発見者の名を冠してオンサーガーの相反定理、Onsager reciprocal relationsともいう)とは、熱力学において、平衡から外れているが局所的に平衡状態にあるとみなせる系(線型非平衡熱力学)での「流れ」と「力」との関係に関する定理である。

たとえば、系内に温度差()がある場合、高温部から低温部へ流れが生じる。同様に、圧力差()がある場合には高圧部から低圧部へ物質の流れが生じる。そして温度と圧力の両方に差がある場合には、圧力差が熱の流れを生み出し温度差が物質の流れを生み出すという「交差関係」が実験的に明らかにされている。ここで、圧力差当りの熱の流れと、温度差当りの密度(物質)の流れが等しい、というのが相反定理である。同じような「相反関係」は他の様々な力と流れの間にも成り立つ(たとえばゼーベック効果ペルティエ効果など)。

この定理はラルス・オンサーガーによって微視的時間に関する対称性から統計力学的に導かれた(1931年)。時間対称性が成り立たない磁場回転がない場合にのみ成り立つ。統計力学では揺動散逸定理に含まれる。

例:流体系[編集]

熱力学的なポテンシャル、力、流れ[編集]

最も基本的な熱力学的ポテンシャル内部エネルギーである。流体系では、エネルギー密度(u)は次のように物質密度(r)とエントロピー密度(s)に依存する:

du = T ds + m dr

ここで T は温度、 m は圧力と化学ポテンシャルを合わせたものである。これは次のように書きなおせる:

ds = (1/T) du - (m/T) dr

示量性状態量である u および r は保存され、次の連続方程式を満たす:

 \partial_{t}u + \nabla \cdot \mathbf{J}_{u} = 0 \! および  \partial_{t}r + \nabla \cdot \mathbf{J}_{r} = 0 \!

ただし  \partial_{t} は時間(t)に関する偏微分\nabla \cdot は流束密度ベクトル J発散を示す。 変数 u および r の勾配、すなわち 1/T および -m/T は熱力学的な力であり、それぞれ対応する示量性変数の流れを起こす。物質の流れがない場合は

 \mathbf{J}_{u} = k\, \nabla(1/T) \!

で、熱の流れがない場合は

 \mathbf{J}_{r} = -k'\, \nabla(m/T) \!

となる(kk' は定数)。ただしここでは \nabla勾配を示す。

相反関係[編集]

この例では、熱と物質の流れが両方あり、流れと力との関係に“交差項”があるとする。比例定数(輸送係数)を L と書く。

 \mathbf{J}_{u} = L_{uu}\, \nabla(1/T) - L_{ur}\, \nabla(m/T) \! および
 \mathbf{J}_{r} = L_{ru}\, \nabla(1/T) - L_{rr}\, \nabla(m/T) \!

オンサーガーの相反定理は“交差係数” LurLru が等しいことを主張するものである。 比例関係は次元解析から導かれる(両係数は時間×質量密度という同じ次元となる)。

一般的な定式化[編集]

Ei を示量性変数とし、エントロピー(S)がこれに依存するものとする。以下ではこれらの記号で各熱力学的量の密度を表す。すると

dS = Σi Ii dEi

ここで

 I_{i} := \partial{S}/\partial{E_{i}} \!

によって示強性変数 Ii に共役な示量性変数 Ei が定義される。 示強性変数の勾配が熱力学的な力である:

 \mathbf{F}_{i} = -\nabla{I_{i}} \!

そしてこれらは示量性変数の流れ Ji を生み出し、連続方程式

 \partial_{t}E_{i} + \nabla \cdot \mathbf{J}_{i} = 0 \!

を満たす。流れは熱力学的な力に比例し、比例定数は行列 Li'j となる:

Ji = Σj Li'jFj

そして

 \partial_{t}E_{i} = \nabla \cdot \sum_{j} L_{ij}\, \nabla{I_{j}} \!

ここで行列

 \sigma_{ij} = \partial{E_{i}}/\partial{I_{j}} \!

を導入すると

 \sum_{j} \sigma_{ij}\, \partial_{t}I_{j} = \nabla \cdot \sum_{j} L_{ij}\, \nabla{I_{j}} \!

という形になる。

関連項目[編集]