悋気の独楽

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悋気の独楽(りんきのこま)は上方落語の演目の一つ。

概要[編集]

女性の悋気(嫉妬)をテーマにした噺。東京でも同題もしくは辻占の独楽(つじうらのこま)の題で広く演じられている。東京には3代目柳家小さんが移植したといわれる。

五代目桂文枝二代目桂春蝶が得意としていた。最近では四代目林家染丸桂きん枝などが演じる。

女性の嫉妬をテーマにした噺には、このほかに『悋気の火の玉』『一つ穴』などがある。

あらすじ[編集]

ある商店の主人が、外出したまま家に帰ってこないので、主人の妻は「内緒でを囲っているのでは」と、気が気でない。「旦那(だん)さん知らんか?」と奉公人たちに訊いてまわるが、的の外れた返事ばかりを返されて要領を得ない。からかわれていると感じ、泣き出す妻に対し、女中のお松(あるいは、お竹、お清など)が「丁稚定吉が旦那さんのお供をしとります」と密告し、自身の離婚経験を語りつつ、「御寮人(ごりょん)さん、一遍、旦那さんにおっしゃらな(言うべきことは言わないと)あきまへんで」とけしかける。

その頃、主人とともに妾宅に付いた定吉は、主人に「わしここに泊るから店に帰れ。うちの者(妻)には、ここのこと言うたらアカンで。何せ、えらく悋気強い(嫉妬深い)さかいな」と釘を刺され、得意先で碁の相手をしている、と嘘をつくように吹き込まれ、店に帰される。

帰った定吉は、店の本妻に対し、吹きこまれたとおり嘘をつく。本妻は「そうか、まあ御苦労はんやったさかいにな」と言って、定吉に薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)を与える。うまそうに食べる定吉に対し、本妻は「そのオマン(饅頭)の中には、熊野の牛王さん入ったある。嘘ついたら血ィ吐いて死ぬで」と脅す。「わて、旦那さんに五十銭もろた義理がおます」「あんた、たったの五十銭のために死んでええのんか? わたい(私)は(定吉が本当のことを言えば)一円あげます」定吉はやりこめられる。

定吉は、死ぬかもしれない怖さと一円ほしさで、主人に妾がいることや、妾宅の所在地を白状する。そのとき本妻は、定吉が懐に3つのコマを持っているのを見つける。定吉によると、これは主人がそれぞれコマを本妻、妾、主人に見立て、回した主人のコマが、本妻・妾どちらのコマに当たったかで泊まる家を決めるのに使うものであるという。定吉がコマを回すと、主人のコマは妾のコマに当たった。

「まあ、悔しやの。定吉、一遍回しなはれ……キイー、腹の立つ。定吉! もう一遍やんなはれ」定吉は何度もコマを廻すが、主人のコマはどうしても妾のコマに当たってしまい、本妻は悔しがる。

「あ、御寮人さん、こら、あきまへんわ」「なんでやの?」「へえ、肝心のしんぼう(心棒/辛抱)が狂うてます」

バリエーション[編集]

  • 東京では、定吉が妻の言いつけで主人を尾行して妾宅にたどり着く、という演じ方が多く、この場合は身の上を語る女中が登場しない。また、妾宅の場面が上方より長い。妾宅では、定吉が室内にコマを飾っているのを見つけ、妾が「このコマは花柳界で占いに使ったものだ」と、コマの使い方を説明し、定吉がコマをねだって手に入れる、と言う展開があり、後半のシーンで定吉がコマを懐に入れていることに合理性をつけている。

エピソード[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 低俗と五十三演題の上演禁止『東京日日新聞』(昭和15年9月21日)『昭和ニュース事典第7巻 昭和14年-昭和16年』本編p773 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年