ワールブルク効果

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ワールブルク効果(ワールブルクこうか、: Warburg effect)とは、植物生理学ならびに腫瘍学のそれぞれの分野での2種類の関連のない生化学的現象である。どちらもノーベル賞受賞者であるオットー・ワールブルクによる。

植物生理学[編集]

植物生理学では、ワールブルク効果は高酸素濃度による光合成の低下である[1][2]。酸素は、RubisCOによって開始される二酸化炭素固定の競合的阻害剤である。さらに、酸素は光合成の出力を低下させる光呼吸を刺激する。共に働くこれら2つのメカニズムがワールブルク効果の原因である[3]

腫瘍学[編集]

原理[編集]

1955年、オットー・ワールブルクは、体細胞が長期間低酸素状態に晒されると呼吸障害を引き起こし、通常酸素濃度環境下に戻しても大半の細胞が変性や壊死を起こし、ごく一部の細胞が酸素呼吸に代わるエネルギー生成経路を昂進させて生存する細胞が細胞となる説を発表した。酸素呼吸よりも発酵によるエネルギー産生に依存するものは下等動物や胎生期の未熟な細胞が一般的であり、体細胞が酸素呼吸によらず発酵に依存することで細胞が退化し癌細胞が発生するとしている[4]。 腫瘍学におけるワールブルク効果は、悪性腫瘍の腫瘍細胞内で、嫌気環境のみならず好気環境でも、解糖系に偏ったブドウ糖代謝がみられることである。

悪性腫瘍細胞は有酸素下でもミトコンドリア酸化的リン酸化よりも、解糖系でATPを産生する[5][6]ブドウ糖(グルコース)は、解糖系で代謝されピルビン酸を経た後にミトコンドリアに入ることなく、最終代謝産物として乳酸に変換される。

解糖系はブドウ糖1分子当り2分子のATPしか生み出すことができず、ブドウ糖1分子当り36分子のATPを生み出す酸化的リン酸化と比較して、ATP産生効率は非常に悪い。ただし解糖系はメカニズムが単純であるため、ATP産生速度は速い。解糖系は酸素を必要としないので、ワールブルク効果は悪性腫瘍の低酸素環境への適応の結果だとする説がある。またワールブルク効果は解糖系の副産物としての生体分子の合成原料(核酸NADPH)を提供することにあるとする説もある。

臨床医学での応用[編集]

フルオロデオキシグルコース (FDG) を用いたポジトロン断層法 (PET) はワールブルク効果を応用したものである[7][8]

脚注[編集]

  1. ^ Turner JS, Brettain EG (February 1962). “Oxygen as a factor in photosynthesis”. Biol Rev Camb Philos Soc 37: 130–70. doi:10.1111/j.1469-185X.1962.tb01607.x. PMID 13923215. ftp://171.66.68.104/pub/joeberry/Ref_Links_2.html/Biological%20Reviews%201962%20Turner.pdf. 
  2. ^ Zelitch I (1971). “Chapter 8, Section E: Inhibition by O2 (The Warburg Effect)”. Photosynthesis, Photorespiration, and Plant Productivity. New York: Academic Press. pp. 253–255. ISBN 0124316085. http://books.google.com/books?id=kej9jDg5ZogC&lpg=PP1&dq=Photosynthesis%2C%20Photorespiration%2C%20and%20Plant%20Productivity&pg=PA253#v=onepage&q=Photosynthesis,%20Photorespiration,%20and%20Plant%20Productivity&f=false. 
  3. ^ Schopfer P, Mohr H (1995). “The leaf as a photosynthetic system”. Plant physiology. Berlin: Springer. pp. 236–237. ISBN 3-540-58016-6. http://books.google.com/books?id=jTxfMQg38B4C&lpg=PA236&ots=5IiQLoTiSk&dq=RuBisCO%20warburg%20effect&pg=PA236#v=onepage&q=RuBisCO%20warburg%20effect&f=false. 
  4. ^ Warburgの「癌細胞の起原」に就いて、小野 興作, 大島 福造, 渡辺 漸, 八木 日出雄, 津田 誠次, 陣内 伝之助, 平木 潔, 妹尾 左知丸, 浜崎 幸雄、岡山医学会雑誌、Vol. 70 (1958) No. 12supplement
  5. ^ Gatenby RA; Gillies RJ (2004). “Why do cancers have high aerobic glycolysis?”. Nature Reviews Cancer 4 (11). PMID 15516961. 
  6. ^ Kim JW, Dang CV (2006). “Cancer's molecular sweet tooth and the Warburg effect”. Cancer Res. 66 (18): 8927–8930. doi:10.1158/0008-5472.CAN-06-1501. PMID 16982728. http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=16982728. 
  7. ^ PET Scan: PET Scan Info Reveals ...”. 2005年12月5日閲覧。
  8. ^ 4320139 549..559”. 2005年12月5日閲覧。

関連項目[編集]