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[[解析学]]において、'''アーベル総和法'''(アーベルそうわほう、{{lang-en-short|Abel's summability method}})とは、[[級数]]に対し、有限値を対応させる[[総和法]]の一つ<ref name ="ishiguro1977">石黒(1977)、第2章</ref><ref name ="ezawa1995">江沢(1995)、第4章</ref>。[[ベキ級数]]における[[アーベルの連続性定理|アーベルの定理]]に因む。
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== 導入 ==
複素数値の数列{{math|{''a<sub>n</sub>''}}}に対し、級数{{math|{{Sum|b=''n''{{=}}0|p=&infin;}} ''a<sub>n</sub>''}}が値{{mvar|l}}に収束するとは、部分和

:<math> s_n=\sum_{k=0}^{n}a_k </math>

が通常の数列の収束の意味で値{{mvar|l}}に収束することで定義される。一方、総和法では、通常の収束の意味を超えて、より広い形での級数の収束を定義する。

例えば、{{math|''a<sub>n</sub>'' {{=}} (-1)''<sup>n</sup>''}}とする[[グランディ級数]] {{math|{{Sum|b=''n''{{=}}0|p=&infin;}} (-1)''<sup>n</sup>''}}は

:<math>s_0=1, \, s_1=0, \, s_2=1,\, s_3=0, \cdots </math>

となり、通常の意味では収束しない。ここで、{{mvar|x}}を{{math|{{abs|''x''}} < 1}}を満たす複素数とし、{{mvar|x<sup>n</sup>}}を各項{{math|''a<sub>n</sub>'' }}に収束因子として乗ずると、ベキ級数

:<math> f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}(-1)^n x^n = 1 -x +x^2 +\cdots </math>

は、{{math|{{abs|''x''}} < 1}}で

:<math> f(x)= \frac{1}{1+x} </math>

に[[一様収束]]する。このとき、[[右極限]]{{math|''x'' &rarr; 1 &minus;}}は収束し、

:<math> \lim_{x \to 1 -}{f(x)}= \frac{1}{2} </math>

となり、級数 {{math|{{Sum|b=''n''{{=}}0|p=&infin;}} (-1)''<sup>n</sup>''}}に値1/2を対応させることができる。

== 定義 ==
複素数値の数列{{math|{''a<sub>n</sub>''}}}に対し、ベキ級数

:<math> f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} a_nx^n </math>

が{{math|{{abs|''x''}} < 1}}で収束し、右極限が

:<math> \lim_{x \to 1 -}{f(x)}= l </math>

と有限値{{mvar|l}}になるとき、値{{mvar|l}}に'''アーベル総和可能'''(Abel summable)といい、

:<math>\operatorname{A-}\sum_{n=0}^{\infty}a_n=l</math>

もしくは

:<math>\sum_{n=0}^{\infty} a_n=l \quad \operatorname{(A)}</math>

と記す。また、このように{{math|{''a<sub>n</sub>''}}}の級数を{{math|''f'''(''x'')}}の右極限{{math|''x'' &rarr; 1 &minus;}}で定義する総和法を'''アーベル総和法'''と呼ぶ。

なお、{{math|''f'''(''x'')}}は部分和

:<math> s_n=\sum_{k=0}^{n}a_k </math>

によって、

:<math> f(x)=(1-x)\sum_{n=0}^{\infty} s_n x^n </math>

とも表すことができる。したがって、{{math|''f'''(''x'')}}は部分和の列{{math|{''s<sub>n</sub>''}}}に

:<math> \sum_{n=0}^{\infty} (1-x) x^n= (1-x) \frac{1}{1-x}=1 </math>

を満たす因子{{math|(1-''x'')''x<sup>n</sup>''}}を乗じて、和を取っていることになる。

== タウバー型定理 ==
{{Main|タウバー型定理}}
一般に級数はアーベル総和であっても、通常の意味では収束しない。すなわち、ベキ級数における[[アーベルの連続性定理|アーベルの定理]]の逆は成り立たない。しかしながら、級数にある種の条件を付与すれば、アーベルの定理の逆が成り立つことがある。そのような例として、1897年にオーストリアの数学者[[アルフレッド・タウバー]]が示した[[タウバーの定理]]がある<ref name ="tauber1897">A. Tauber, [http://www.literature.at/viewer.alo?viewmode=overview&olfullscreen=true&objid=12409&page=280 "Ein Satz aus der Theorie der unendlichen Reihen" ], ''Monatshefte für Mathematik und Physik'', '''8''' (1897), pp. 273–277. {{doi|10.1007/BF01696278}} </ref>。後に英国の数学者[[ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ|G. H. ハーディ]]と[[ジョン・エデンサー・リトルウッド|J. E. リトルウッド]]はタウバーの定理を原型とする種々の拡張を与え、それらを[[タウバー型定理]]と呼んだ。

== 脚注 ==
{{reflist}}

== 参考文献 ==
* G. H. Hardy, [http://www.archive.org/details/divergentseries033523mbp ''Divergent Series ''], Clarendon Press (1949)
* 石黒一男『発散級数論』森北出版(1977) ISBN 978-4627031494
* 江沢博『漸近解析(岩波講座 応用数学14)』岩波書店(1995) ISBN 4000105248

== 関連項目 ==
* [[アーベルの連続性定理]]
* [[タウバー型定理]]

{{DEFAULTSORT:あへるそうわほう}}
[[Category:級数]]
[[Category:総和法]]
[[Category:漸近解析]]
[[Category:解析学]]

2016年7月30日 (土) 15:48時点における版

解析学において、アーベル総和法(アーベルそうわほう、: Abel's summability method)とは、級数に対し、有限値を対応させる総和法の一つ[1][2]ベキ級数におけるアーベルの定理に因む。

導入

複素数値の数列{an}に対し、級数
n=0
an
が値lに収束するとは、部分和

が通常の数列の収束の意味で値lに収束することで定義される。一方、総和法では、通常の収束の意味を超えて、より広い形での級数の収束を定義する。

例えば、an = (-1)nとするグランディ級数
n=0
(-1)n

となり、通常の意味では収束しない。ここで、x|x| < 1を満たす複素数とし、xnを各項an に収束因子として乗ずると、ベキ級数

は、|x| < 1

一様収束する。このとき、右極限x → 1 −は収束し、

となり、級数
n=0
(-1)n
に値1/2を対応させることができる。

定義

複素数値の数列{an}に対し、ベキ級数

|x| < 1で収束し、右極限が

と有限値lになるとき、値lアーベル総和可能(Abel summable)といい、

もしくは

と記す。また、このように{an}の級数をf'(x)の右極限x → 1 −で定義する総和法をアーベル総和法と呼ぶ。

なお、f'(x)は部分和

によって、

とも表すことができる。したがって、f'(x)は部分和の列{sn}に

を満たす因子(1-x)xnを乗じて、和を取っていることになる。

タウバー型定理

一般に級数はアーベル総和であっても、通常の意味では収束しない。すなわち、ベキ級数におけるアーベルの定理の逆は成り立たない。しかしながら、級数にある種の条件を付与すれば、アーベルの定理の逆が成り立つことがある。そのような例として、1897年にオーストリアの数学者アルフレッド・タウバーが示したタウバーの定理がある[3]。後に英国の数学者G. H. ハーディJ. E. リトルウッドはタウバーの定理を原型とする種々の拡張を与え、それらをタウバー型定理と呼んだ。

脚注

  1. ^ 石黒(1977)、第2章
  2. ^ 江沢(1995)、第4章
  3. ^ A. Tauber, "Ein Satz aus der Theorie der unendlichen Reihen" , Monatshefte für Mathematik und Physik, 8 (1897), pp. 273–277. doi:10.1007/BF01696278

参考文献

関連項目