相貌失認

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相貌失認(そうぼうしつにん、Prosopagnosia[1])とは脳障害による失認の一種で、特に「顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」[2]を指す。頭部損傷や脳腫瘍・血管障害等が後天的に相貌失認を誘発する要因となる。

歴史

親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古くから確認されており、トゥキディデスの歴史書にはペロポネソス戦争に参加し、頭部を負傷した兵士の症例が記述されており、その後も同様の症例が数多く報告されてきた。1947年に、一連の症状をドイツの神経学者Bodamerが、「他の認知機能には支障がない」選択的な障害としてとりまとめ、相貌失認と命名した。

症状

認知機能障害

視覚失認などの他の失認と同様、相貌失認の発症者も目・鼻・口といった個々の顔のパーツや輪郭などを知覚することはできている。しかしこれを全体として「一つの顔」として正しく認識することができないため、人間の顔の区別がつかない、覚えられないといったもの、男女の区別、表情がわからないといった症状を訴える。よって、発症者は個人の認識を着衣や声といった、顔以外の情報により行っているケースが多い。ただし障害の程度によってはごく近しい人間は識別できている[3]ケースもあり、事例によりかなり差異がある。

なお、同じカテゴリーにあるものを区別することが困難であるため、たとえば車の車種の区別などがつかないという症例を併発する事例も報告されているが、これを相貌失認と同一視すべきかについては議論がある。

脳機能障害

人間の顔を認識・識別する機能は側頭葉後頭葉に偏在する「顔領域[4]」と呼ばれる部位に依存しているとされ、この脳神経が何らかの原因で機能障害を生じることにより相貌失認に至ると考えられている。

先天性相貌失認

先天的に相貌失認を発症する確率は2%程度と推定されており、一般的に想像されるよりかなり多い[5]

人間の個体識別は顔の認識だけでなく声や着衣、体格、振る舞いなど様々な情報を総合して行われており、顔の認識に障害があっても他の機能で代償し、日常生活に支障をきたしていないため、相貌失認を自覚していない人が相当に存在すると考えられる。

なお、遺伝による生得的症例である可能性も否定できず、1999年には父親と2人の娘にのみ障害があらわれ,母親と息子には障害がみられないという家族が報告されている。

相貌失認の判定

各種の顔認知検査により判定される。代表的なものとしては

  • 有名人の顔と見知らぬ人の顔およびその名前を写真を見せて答えさせる
  • 喜び、悲しみ、怒り、普通の顔の4種類の写真から表情を判定する

等がある。発症者は正答率に有意な差が見られる。

フィクションへの登場

脚注

  1. ^ ギリシャ語の「prosopon(顔)」と「失認(agnosia)」の合成語
  2. ^ 通信用語の基礎知識より
  3. ^ London のMcConachie(1976)で報告された12歳9か月の少女の事例等。
  4. ^ 紡錘状回(Fusiform Face Area 相手の顔を識別する)、上側頭溝(Superior Temporal Sulcus 相手の表情や視線を解釈する)、扁桃体(Amygdala 相手の表情によって情動・感情を喚起する)等
  5. ^ First Report of Prevalence of Non-Syndromic Hereditary Prosopagnosiaによる報告では689名中17名2.47%、なお発症者の一親等にも高確率で発症例が確認されている。

関連項目

参考文献

日本語のオープンアクセス文献

外部リンク