T細胞

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Yorozuya01 (会話 | 投稿記録) による 2012年4月3日 (火) 05:03個人設定で未設定ならUTC)時点の版であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

T細胞(ティーさいぼう、T cellT lymphocyte)とは、リンパ球の一種で、骨髄で産生された前駆細胞胸腺での選択を経て分化成熟したもので、細胞表面に特徴的なT細胞受容体(T cell receptor;TCR)を有している。末梢血中のリンパ球の70〜80%を占める。名前の『T』は胸腺を意味するThymusに由来する。1968年にG. F. MitchelおよびJ. F. A. P. Millerにより、初めてマウスの胸管リンパ中に19S溶血素(抗ヒツジ赤血球抗原IgM抗体)産生細胞前駆細胞(すなわちB細胞)及び、その前駆細胞を抗原依存性に19S溶血素産生細胞へと分化させる細胞(すなわちT細胞)における、二つのリンパ球亜集団が存在することが見出された。

細胞表面のマーカー分子としてCD4CD8などを発現している。CD4を発現したT細胞は他のT細胞の機能発現を誘導したりB細胞の分化成熟、抗体産生を誘導したりするヘルパーT細胞として機能する。このCD4陽性T細胞は、後天性免疫不全症候群 (AIDS) の病原ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス (HIV) や、成人T細胞白血病 (ATL) の病原ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス (HTLV-1) が感染する細胞である。CD8陽性T細胞はウイルス感染細胞などを破壊するCTLキラーT細胞)として機能する。

また、NK細胞とT細胞の性質を併せ持つNKT細胞や、CD25分子を発現して他のT細胞の活性を抑制する働きのあるレギュラトリーT細胞などもある。最近では胸腺を介さずに分化成熟する末梢性T細胞が存在することも知られるようになった。

T細胞の分類

1968年のT細胞の証明以来T細胞そのものにもさらに亜集団が存在することが予想されていたが、1975年にはP. C. Marrack及びJ. W. Kapplerが限界希釈法(limited dilution)の応用によってT細胞クローン間の明確な機能的差異について報告して以来、さまざまな亜集団、さらにはその下位の亜集団の存在が提起されている。

ヘルパーT細胞
細胞表面にCD4抗原を発現しているリンパ球の亜集団。
1986年にT. R. Mosmannらが初めてマウスのT細胞クローン間のサイトカインの分泌パターンの違いによってTh1細胞及びTh2細胞の二つのヘルパーT細胞の亜集団の概念を提起して以来、この二つの亜集団に関しては精力的な研究が行われてきている。
CD4陽性T細胞から分化し、IFN-γ(Th1細胞)、IL-4IL-5(Th2細胞)またはIL-17(Th17細胞)等を産生し他の細胞の活性化、機能の行使等を助ける。

Th1という細胞はキラーT細胞やマクロファージに作用してそれを活性化して、細胞の活性を増強させる物である。 Th2は、いわゆるヘルパーT細胞と呼ばれるもので、B細胞や抗原提示細胞と協力して抗体生産を行なう。

細胞傷害性T細胞
ウイルスに感染した細胞や癌細胞を認識しその細胞を殺す。キラーT細胞ともいう。詳しくは、細胞傷害性T細胞を参照。
サプレッサーT細胞
免疫反応を抑制 (suppress) し、終了に導く。一世を風靡したが、現在では存在自体に疑問符がつけられている。次の項のレギュラトリーT細胞とは別の細胞である。
レギュラトリーT細胞
胸腺から分化してくるレギュラトリーT細胞はCD4、CD25、Foxp3分子を発現して他のT細胞の活性を抑制する。その他、末梢で抗原特異的に誘導されてくるレギュラトリーT細胞や、CD8陽性T細胞から分化するレギュラトリーT細胞もいる。

Th1細胞、Th2細胞とTh17細胞

ヘルパーT細胞は、そのサイトカイン産生パターンよりさらに3つの集団に分けられ、T cell helperの頭文字をとってTh1細胞Th2細胞Th17細胞と名づけられた。Th1細胞は主にIL-12の存在下で分化し、分化後はIFN-γを主に産生する。Th2細胞はIL-4によって分化し、分化後に主に産生するサイトカインもIL-4である。Th17細胞は最近発見された新たなT細胞集団でIL-6TGF-β存在下で分化し、分化後はIL-17を産生する。

Th1細胞は細胞性免疫を媒介し、自己免疫疾患遅延型アレルギーにも関与すると考えられている。対するTh2細胞は液性免疫を媒介し、即時型アレルギーに関与している。また、Th17細胞は多くの自己免疫疾患モデルマウスにおいて増加していることから自己免疫疾患に関わっていることが考えられている。

これらのTh1とTh2の各細胞を分化させたり、分化後に産生されるサイトカインは、お互いの細胞群を抑制し調整する性質が単純図式上は見られる。つまりTh1/Th2のバランスがお互いに拮抗しあって保たれていると見ることができる。Th1型サイトカインを外部から投与することによるアレルギー疾患の治療など、このバランスを操作することによる治療法が提唱されたが、成功は見ていない。複雑に関連しあう関係があると見られている。 Template:Link GA