ムーンナイト (マーベル・コミック)

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ムーンナイトMoon Knight)は、マーベル・コミックより出版されるコミック作品に登場する架空のキャラクター、スーパーヒーローである。1975年8月にダグ・メンヒドン・パーリンによって創造され、『ウェアウルフ・バイ・ナイト』第32号でデビューした[1]

Moon Knight
出版の情報
出版者マーベル・コミック
初登場ウェアウルフ・バイ・ナイト』第32号(1975年8月)
クリエイターダグ・メンヒ
ドン・パーリン
作中の情報
本名マーク・スペクター
スティーヴン・グラント
ジェイク・ロックリー
種族人間
所属チーム
著名な別名ルナ・レジオネア
フィスト・オブ・コンス
ムーンマン
Mr.ナイト
能力
  • 月の満ち欠けによる夜間の能力の向上
  • ハイテク機器の駆使
  • 優秀な探偵
  • 神秘的なビジョン
  • 武器の専門家
  • 格闘家

発行履歴[編集]

キャラクター経歴[編集]

その他のバージョン[編集]

MCU版[編集]

マーベル・シネマティック・ユニバース』(MCU)のドラマ『ムーンナイト』では、オスカー・アイザックが演じる。日本語吹替は関智一が担当。

キャラクター像[編集]

解離性同一性障害を患ったことから、1つの身体に複数の人格を有するアメリカ人男性。現在のところ、“マーク・スペクター”、“スティーヴン・グラント”、“ジェイク・ロックリー”という3つの人格が確認されており、身体の主導権(制御権)を握って表に出ている1つの人格は、主に鏡面反射を通して内側に留まる他の人格と対話することができ、別の人格に主導権を交代するには、その時点で表に出ている人格が同意しなければならない[注釈 1]。マークによると、彼とスティーヴンの棲み分けが上手くできていたが、現在では表に出た人格の方が強くなっている様子である。

マーク・スペクター / ムーンナイト(Marc Spector / Moon Knight)
主人格。1987年3月9日生まれ。イリノイ州シカゴ出身のため、シカゴアクセントのアメリカ英語で会話する。幼少期は父イライアス、母ウェンディ、そして弟のランドールと共に暮らし、大好きな映画『トゥーム・バスター』の影響から怖いもの知らずな少年だったが、あるの日に母からの注意に反して探検に入った洞窟で、連れ出していたランドールを雨の水害で事故死させてしまい、そのことを恨んだウェンディに、弟の葬儀から罵言を浴びせられ、暴力を振るわれ続ける日々へ追いやられ、このことへの恐怖とランドールの死に対する深い罪悪感から解離性同一障害を患ってしまった。
ティーンエイジャーの頃に虐待に耐え兼ねて家出するとアメリカ海兵隊に入隊し、患った障害も安定させたが、極端なトラウマから発作による徘徊を何度も起こしたために除隊となり、仕方なく元上官兼相棒のラウル・ブッシュマンの助力を得て傭兵に転身すると、エジプトの寺院盗掘作業にあたった。しかし、作業中にその場を目撃したアブドゥラ・エル=フーリーの発掘隊を皆殺しにするよう命令を受けると、それを拒否してアブドゥラたちを庇おうとするも、彼らを殺害されてしまい、自身もブッシュマンの裏切りに遭って瀕死の重傷を負わされ、自決しようとしたところに邂逅した古代エジプトの月の神コンスとアバターとしての契約を結び、夜の旅人などの弱者を守るために、彼らを狙う悪党を制裁する“制裁の拳ムーンナイト”となった。
以降は、ドバイガボンニューヨークなどでコンスの指示で殺人犯や略奪者などの悪党を制裁し続け、やがてアブドゥラを救えなかった自責の念から、彼の娘のレイラ・エル=フーリーと出会い、彼女の父親の死の真相を打ち明けようとしてもできないまま、親密な仲となった彼女と結婚。コンスからアメミットの墓を探す労働を強いられたことで、レイラと発掘や盗掘などの冒険ばかりの結婚生活を送った末、コンスが彼女を自分の次のアバターに据えようと狙っていると思い込み、無署名の離婚届を残してレイラの元から離れた。
そしてウェンディの訃報をイライアスから知らされてシヴァに赴くも[注釈 2]、直接参加せずに母の死に直面し、弟を死なせた悔恨の念と、これに起因する家庭崩壊、最終的に母を不幸にしてしまったという極度の歪んだ自己嫌悪からその人格が破綻し、身体の主導権は完全に副人格のスティーヴンへと移行してしまった。
ここまでの生い立ちから現在では、実戦において敵対者に容赦なく力技でねじ伏せるほどの勇ましさと冷徹さを見せる一方、普段は虚ろ目をして他者へ率直に話ができず、頑固で悲観的なだけでなく、レイラにアブドゥラの死の真相と彼女の元から離れた理由や、スティーヴンの人格が生まれた経緯を当人たちに隠し続けて苦悩するなど、不器用で影があるが、全く無個性な人物ではなく、時に焼きもちを焼くこともあるほどレイラに本物の愛情を秘め、表に出たスティーヴンにも要所要所で様々な助言を与えたり、未成年と対峙した際には深く傷付けたり手にかけることを拒否するくらいの倫理観までを持ち併せ[注釈 3]、重要な“スカラベ”をうっかり落としたり、突然の問いかけに戸惑って適した応答ができなかったり、タウエレトや“アアル”への砂漠を初めて目にした際にオーバーリアクションで絶叫したり、スティーヴンとの複数のやりとりで激しく取り乱すほどの脆い精神性に加えて、彼との再会も抱き合って大きく喜ぶなど、ストレートなヒューマニティを秘めている。
スティーヴン・グラント / Mr.ナイト(Steven Grant / Mr.Knight)
一人目の副人格。母から虐待を受けていた頃のマークの内側に彼の現実逃避の目的で生まれ、その名前の由来は『トゥーム・バスター』の主人公の考古学者の名を取っており、イギリス英語で会話する。しかし、マークの悲しみから彼の愛情の理想が擬人化した存在であるため、自分がマークの副人格であるという事実に気づかず、虐待を受けていた出来事も忘れ、母親に愛された子ども時代を過ごしたと思い込んでいた。そのため強い道徳観を持ち、誰に対しても温和で愉しげなヴィーガンだが[注釈 4]、おどろおどろしく、通勤中のバスの車内で他の乗客に寄りかかって居眠りするだけでなく別の乗客の新聞をふと覗き見てしまったり、ナショナル・ギャラリーの同僚たちに押し回されてばかりの毎日を過ごすなど、臆病で遅刻癖まで持ったうだつの上がらない男である。
ウェンディの死後に、マークの人格が破綻したことから本格的に表に出て、ロンドンでナショナル・ギャラリーのギフトショップのスタッフとして働き、私生活ではペットである片鰭の金魚の“ガス”や、パフォーマーのバートランド・クロウリーに話しかけ、そして既に存在しない母親にも不定期に電話をかけるなどの暮らしを送っていた傍ら、自分を睡眠障害を有していると思い込むほど就寝中に無意識の行動をしてしまうことに悩まされていた。
そんな日々が続いていた中で、アーサー・ハロウやコンスに遭遇し、スカラベを巡る騒動と危険な状況に次々と直面してひどく混乱する羽目になり、当初はそんな厄介事に怯えて逃げようとするばかりだったが、主人格として声をかけてきたマークの影響や、新たに出会ったレイラの危機、そしてコンスのアバターとしてのスーパーパワーの存在も知らされたことで“Mr.ナイト”となり、徐々に困難に立ち向かう自信と勇気も身につけていく。
ジェイク・ロックリー(Jake Lockley)
もう一人の副人格。現時点ではどのような経緯でこの人格が誕生したのかは不明で、マークとスティーヴンにもその存在を了知されておらず、ラテン系のスペイン語を話す[2]口笛を吹く一面もあるが、ただならない殺気を放つほどの鋭い目つきをしており、マークやスティーヴンが窮地に陥った際に突如表出して身体の主導権を握り、彼らの敵対者を徹底的に叩きのめして命まで奪ったり、ハロウを連れ出して使用済みとなった車椅子を蹴り捨てるなど、極めて武骨かつマーク以上に残忍な性質の持ち主である。
自身もコンスとアバターとしての契約を結んでいたようで、その性質からコンスに彼のアバターとして最も適した者と気に入られており、マーク及びスティーヴンがハロウとの戦いを制してアメミットを封印し、コンスのアバターとしての役割から解放されても、自分との契約は継続していた様子で、コンスの指示によりハンチング帽革製の手袋を身につけ、ハロウの後始末に赴いている。

能力[編集]

マーク
兵士として鍛えられたことから荒削りな徒手空拳による格闘戦や武器による白兵戦双方に長け、一定のパルクール技能も有しており、状況にもよるが並の人間なら複数同時に相手どっても力尽くでねじ伏せられる戦闘能力を持ち、後述のスーツを身に纏ってムーンナイトになることで、その実力がより向上する。また、アメリカ英語だけでなくアラビア語を話す言語力も有している。
スティーヴン
マークが結婚していたレイラの影響から、ロンドンで暮らし始めた頃にエジプト神話を中心とした古代エジプトの歴史や遺跡、ヒエログリフなどに造詣が極めて深くなり、プライベートでの独学に明け暮れたことから、これらに関して専門家並みの知識量を持つ。加えて、マークと異なり他者へ率直に話をする人柄から、簡単な交渉術も見せる。また、元来の臆病さも手伝って当初実戦能力は皆無に等しかったが、その心身の変化に伴ってMr.ナイトとしてハロウらに挑んだ際には、マーク/ムーンナイトに勝るとも劣らないほど独特でアグレッシブな攻め込みと、軽やかな身のこなしを披露するくらいにスーツの能力を活かせるセンスまで発揮できるようになった。

さらに、マークとスティーヴンが互いの存在を認め合うと、戦闘時には双方の人格が交互に表に出て各々の攻撃を敵に繰り出すという多重人格ならではのユニークな戦法が可能となった。

武装・ビークル[編集]

スーツ
コンスの力を分け与えられたアバターが“召喚”して身に纏うことができる「コンスの神殿の儀礼用アーマー」。アバターの意思とコンスの力により、ミイラを思わせるような複数のくすんだ包帯がアバターの背部から現れながら全身を覆い、アバターが想像したデザインに低速で組み立てられる。アバターが着用を解除する際には、包帯が解かれるように消失し、頭だけなど部分的に消失させることもできる。
現在のところ、マーク/ムーンナイトが身に纏うタイプとスティーヴン/Mr.ナイトが身に纏うタイプの2種類が登場しており、共通点としては身に纏ったアバターの両目が常に白く発光し、自動車のバンパーに指をめり込ませながら外してしまうほどの握力や優れた敏捷性、ジャッカルの攻撃や車の衝突を受けても耐え抜く強靭性、身体を貫かれても僅かな時間で回復する驚異的な治癒力などの超人的な身体能力に加えて、星座操作封印の呪文といった古代エジプトの神々と同等の超能力・魔法もアバターに付与される。しかし打撃や銃撃にも破損しない一方で、常人によるでの刺突攻撃に貫通してしまうことからスーツ本体の防御力はそれ程高いとは言えない様子である。また、スーツを身に纏っている最中に別人格が表に出るとそれに合わせてスーツのデザインも変化し、その際も包帯が現れて全身を覆う形で変化する[注釈 5]
ムーンナイト仕様
マーク/ムーンナイトが召喚・着用するタイプのスーツ。そのデザインは身体にミイラのような襤褸切れを纏ったコンスと酷似しており、くすんだ白を基調色とし、包帯をそのまま全身に巻いた意匠とアクセントの金色の装飾、後述のクレセントダーツがシンボルとして収められた胸部プレート、灰色のロインクロス、両前腕の籠手ダークカーキブーツで構成され、特有のパーツとして包帯で包まれた頭部に浅く被さるフードと背中に羽織るロングマントが付属する。また、胸部プレートと両大腿部には、呪文と思しきアラビア文字が施されている。
マントは三日月状に展開すると、高所から下降する速度を抑え、宙も滑空できるというパラシュートハンググライダーのように機能するほか、大きく翻すことで弾丸を防ぎつつ跳ね返すことも可能。
Mr.ナイト仕様
スティーヴン/Mr.ナイトが召喚・着用するタイプのスーツ。レイラと共にジャッカルに追い詰められたスティーヴンが彼女やマークからスーツの召喚を促されてパニックになりながらも咄嗟に「スーツ!、スーツ!」と叫びながら頭の中で思い描いたスーツのデザインで形作られた。そのため、ムーンナイト仕様のスーツよりもやや明るめの白を基調色とし、イギリス式のスリーピース・スーツワイシャツネクタイ手袋シューズ、頭頂部から右顎に伸びる縫い目のようなラインと額の三日月のシンボルが特徴の覆面で構成される[注釈 6]。また、このタイプのスーツ特有の能力なのかは不明だが、着用するアバターが思い描いた武器を生成することも可能。
クレセントダーツ(Crescent Darts)[3][4]
マーク/ムーンナイトが主な武器として使用する、中央と両端にヒエログリフが刻まれた三日月型の黄金の。ムーンナイト仕様のスーツの胸部プレートに収められ、使用したい枚数を引き出すことができ、ナックルダスターのように装備して、斬撃や刺突、投擲攻撃などに行使される。
トランチョン
はじめてMr.ナイト仕様のスーツを着用したスティーヴンが、思いがけずスーツのポケットに両手を差し込んだ際に生成されて取り出した一対の警棒銀色の本体に描き込まれた黒いヒエログリフと金色の両端が特徴で、ワイヤー付きグラップリングフックの射出機能も備わっている。
主にスティーヴン/Mr.ナイトの打撃・投擲用武器として使用されるが、マーク/ムーンナイトもスティーヴンがハロウに弾き返されたものをキャッチして使っている。

このほかにも、マークがベックから取り上げたM1911を持ち構え[注釈 7]、ムーンナイトのパワーを失った状態でハロウの信奉者らに対してアレクサンダー大王のミイラが握っていた金のを振るったほか、スティーヴンはハロウの信奉者にカップケーキをぶつけ、Mr.ナイトとなった際にはジャッカルに対して朽ちた車輪を、アアルへの砂漠では“亡者”にバットをそれぞれ打撃に使っている。また、ジェイクはハロウの射殺時にサプレッサー付きのベレッタと思しきハンドガンを用いている[注釈 8]

専用のビークルは現時点で存在しないものの[注釈 9]アルプスにおいて、ハロウの信奉者らに追われはじめたスティーヴンが逃亡目的で「カップケーキ号」と呼んだメルセデス・ベンツ・スプリンター(初代)を即席で無免許運転[注釈 10]、ハロウの後始末の際にはジェイクがナンバープレート部分に“SPKTR”と記された白いリムジンを運用している。

自宅[編集]

ロンドン市内の2階建てバスが走る車道沿いに構えられた[注釈 11]、多階建ての古びた複合施設内にあるアパート屋根裏部屋(502号室)。かなり広い室内には、エジプト考古学に関する文献などが多数収められた大きな本棚をはじめ[注釈 12]、ガスを飼育する水槽ベッドなどの家具が設置されている。天井には、マークによって、彼とレイラやほかの知人との連絡用のフィーチャーフォン貸倉庫の鍵が隠されていた。自分が就寝中に無意識の行動をすると悩んでいた頃のスティーヴンは、ベッド下の周囲に足跡が残るように蒔く、玄関ドアの端に貼るダクトテープ、就寝中の自分の右足を縛るバンドなどの道具を使ったり、眠らないようにする際にはアプリの“スティング・アウェイク”の操作やルービックキューブいじり、読書とヒエログリフの勉強に励むなど、夢遊病対策に尽力していた。

活躍[編集]

ムーンナイト

その他のメディア[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ただし場面によっては、内側に留まる他の人格が主導権を握っている人格を半ば強引に押し退けて表に出たり、片腕などの身体の一部だけを操って干渉することも少なくない。
  2. ^ 喪服に身を包んだだけでなく、キッパも被っていた。
  3. ^ ムーンナイトとして悪党を制裁し続けてきた際には、「殺されたい」と思うようになったとスティーヴンに述懐している。
  4. ^ やけを起こすとステーキチョコレートをむやみに食べてしまうことがある。
  5. ^ ムーンナイト仕様のスーツが砕け散ってMr.ナイト仕様に変化する描写もあった。
  6. ^ マーク曰く「頭がおかしいカーネル・サンダース」。
  7. ^ アルプスにおいて、マークもしくはジェイクがハロウの手下からグロック19を取り上げて使用したことを示唆する描写もあった。
  8. ^ 本編開始前にマークは、コンスと邂逅する直前にグロック17で自決を図ろうとしており、更にベレッタ 92FS Inoxを護身用に使用していたことが、スティーヴンが赴いた貸倉庫の場面で示唆されている。
  9. ^ 少なくともスティーヴンは、自動車の運転免許を持っていないと述懐している。
  10. ^ マーク、もしくはジェイクも運転したと思しき描写がある。
  11. ^ レイラ曰く、「前の家から20分の位置にあるアパート」で、スティーヴンはかつて母親が住んだアパートでもあると勘違いしていた。
  12. ^ 考古学者コンラッド・スピンドラーの著書『The Man in the Ice』や、詩人であるマルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの詩集も収められており、加えて机の上に夥しく置かれた数冊の書籍の中には、『What’s Old is New Again: Asgard』や、『History of Wakanda』という、“アスガルド”や“ワカンダ”に関するタイトルの書物も混じっていた[5]

参考[編集]

  1. ^ DeFalco, Tom; Sanderson, Peter; Brevoort, Tom; Teitelbaum, Michael; Wallace, Daniel; Darling, Andrew; Forbeck, Matt; Cowsill, Alan et al. (2019). The Marvel Encyclopedia. DK Publishing. p. 247. ISBN 978-1-4654-7890-0 
  2. ^ 最終話 第6話ネタバレ解説『ムーンナイト』ラストの意味は? あの人は一体… 考察&あらすじ”. VG+ (バゴプラ) (2022年5月12日). 2022年6月3日閲覧。
  3. ^ ドラマ「ムーンナイト」、2話のチェックしておくべきポイントをピックアップ”. 2022年4月10日閲覧。
  4. ^ ドラマ「ムーンナイト」、プロデューサーが彼の持つ回復能力について説明”. 2022年5月12日閲覧。
  5. ^ 【ネタバレ】「ムーンナイト」第1話、『ブラックパンサー』『マイティ・ソー』ネタがこっそり写り込んでいた”. 2022年4月12日閲覧。

参考文献[編集]