リノール酸エチル

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リノール酸エチル
Ethyl Linoleate
識別情報
CAS登録番号 544-35-4 チェック
PubChem 5282184
ChemSpider 4445379 チェック
UNII MJ2YTT4J8M チェック
特性
化学式 C20H36O2
モル質量 308.5 g mol−1
外観 無色ないしごく薄い黄色の液体[2]
匂い 特有の香気[1]
密度 0.8 g/mL
沸点

193℃(8hPa[3]

への溶解度 不溶
有機溶媒への溶解度 エタノールクロロホルムジエチルエーテルに混和[3]
危険性
引火点 113℃(密閉式引火点試験)[4]
194℃(クリーブランド開放式)[1]
半数致死量 LD50 111,250 mg/kg(マウス、経口)[2]
関連する物質
関連する高級脂肪酸エステル リノール酸メチル
リノレン酸エチル
ミリスチン酸エチル
パルミチン酸エチル
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

リノール酸エチル(リノールさんエチル、: Ethyl Linoleate)は、リノール酸エチルエステルである。

焼酎[編集]

泡盛本格焼酎は貯蔵中に、油臭と表現されるオフフレーバーを生じることがあるが、この臭気はアゼライン酸セミアルデヒドエチルエステル(SAEA)と相関があることが分かっている[5]。焼酎の原料中の脂質は蒸きょう[注釈 1]の過程である程度散逸するが、大部分が醸造工程に持ち込まれ、もろみの中期までにエチルエステル化し、未溶解の固形物に吸着される。もろみを固形物ごと蒸留する焼酎醸造の特性上、エチルエステルの相当量は製品中に留出する[6]ミリスチン酸パルミチン酸オレイン酸などのエステルも生じるが、このうちSAEAの前駆物質となるのはリノール酸のエチルエステルであり、空気中の酸素により酸化されてSAEAを生じる。この反応において、太陽光が促進的に作用する[6]。SAEAは空気中では酸化されやすく、ほぼ匂いがなく安定的なアゼライン酸モノエチルとなるが、エタノールに溶解すると非常に酸化されにくくなる[7]

リノール酸エチルはSAEAに比べて溶解度が低いため、貯蔵前にろ過を行い、油状に浮いたリノール酸エチルを除去する方法が油臭防止に効果的である[8]。ただし、焼酎のアルコール度数が35度を超えると溶解度が高まりろ過効率が落ちるため、焼酎を冷却するか、加水して一時的に30度以下まで薄めたのちに再蒸留する方法が採られる[7]。脂肪酸エチルエステルは酒のまろやかさに寄与する成分でもあるため、どれだけ除去するかは杜氏の品質設計による[9]

メラニンの生成抑制[編集]

リノール酸エチルは醤油[10]味噌にも含まれる。味噌中のメラニン生成抑制物質として、リノール酸およびリノール酸エチルが同定された[11]表皮細胞でのメラノソーム取り込み抑制作用についても研究され、美白化粧品に応用されている[12]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「じょうきょう」、原料を蒸すこと。「きょう」は、食へんに強、蒸𩝽。

出典[編集]

  1. ^ a b 安全データシート エチルリノレート”. 井上香料製造所 (2022年2月1日). 2023年10月5日閲覧。
  2. ^ a b 製品コードL0135 リノール酸エチル”. 東京化成工業 (2022年3月20日). 2023年10月5日閲覧。
  3. ^ a b 安全データシート リノール酸エチル”. 関東化学 (2013年8月22日). 2023年10月5日閲覧。
  4. ^ 安全データシート Ethyl Linoleate”. シグマアルドリッチ (2022年10月6日). 2023年10月5日閲覧。
  5. ^ 西谷尚道 ・荒巻功・久保井雅男・菅間誠之助「油臭発現を防止するための貯蔵管理法の検討」(PDF)『日本醸造協会雑誌』第78巻第4号、日本醸造協会、318-320頁、2023年10月5日閲覧 
  6. ^ a b 菅間誠之助・西谷尚道・河内邦英「本格焼酎の熟成に関する研究(第1報)」(PDF)『日本醸造協会雑誌』第70巻第10号、日本醸造協会、739-742頁、2023年10月5日閲覧 
  7. ^ a b 西谷尚道・菅間誠之助「本格焼酎における油臭関連物質の溶解特性」(PDF)『日本醸造協会雑誌』第73巻第4号、日本醸造協会、311-313頁、2023年10月5日閲覧 
  8. ^ 西谷尚道・久保井雅男・菅間誠之助「本格焼酎の油臭前駆物質のろ過による除去」(PDF)『日本醸造協会雑誌』第72巻第4号、日本醸造協会、310-313頁、2023年10月5日閲覧 
  9. ^ 焼酎の科学 油臭発生防止技術」(PDF)『お酒のはなし』第3巻、酒類総合研究所、2017年、5頁、2023年10月5日閲覧 
  10. ^ 石津日出子「しょうゆの香気成分」(PDF)『調理科学』第2巻第3号、日本調理科学会、156-164頁、2023年10月5日閲覧 
  11. ^ 間和彦・新本洋士・小堀真珠子・津志田藤二郎「味噌中のメラニン生成抑制物質の同定」(PDF)『日本食品科学工学会誌』第42巻第3号、日本食品科学工学会、205-209頁、2023年10月5日閲覧 
  12. ^ “日光ケミカルズ、メラニンの排出を促すリノール酸誘導体を展開”. 週刊粧業. (2019年6月25日). https://www.syogyo.jp/news/2019/06/post_024527 2023年10月5日閲覧。