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{{Otheruses|生物学上の基本的な構成単位|政治的意味合いの細胞|細胞 (政党)}}
{{Otheruses|生物学上の基本的な構成単位|政治的意味合いの細胞|細胞 (政党)}}
[[ファイル:Animal Cell.jpg|thumb|right|200px|動物の真核細胞のスケッチ]]
'''細胞'''(さいぼう)とは、全ての生物が持つ、微小な部屋状の<ref>「cell」とはギリシャ語で「小さな部屋」の意。1665年にこの構造を発見した[[ロバート・フック]]が自著においてcell と命名した </ref>、下部構造のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。
'''細胞'''(さいぼう)とは、全ての[[生物]]が持つ、微小な[[部屋]]状の下部[[構造]]のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。そして同時にそれ自体を[[生命体]]と言うこともできる<ref name="SeikagakuDic531-17">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.531-532 【単細胞生物】]]</ref>。


細胞を意味する英語の「{{lang|en|cell}}」の語源はギリシャ語で「小さな部屋」を意味する語である。1665年にこの構造を発見した[[ロバート・フック]]が自著において{{lang|en|cell}}と命名した。
== 概説 ==
[[ウイルス]]を除き、全ての生物がこの小部屋状の下部構造「細胞」から成り立っている。


== 概要 ==
近年では一般に「[[生物]]の最も基本的な構成単位」と認められている(→[[細胞説]])。 さらには、細胞を持つことが生物の定義とされることすらある(この場合、ウイルスは非生物に位置付けられる)。
細胞は、生物の原始的な形態である[[単細胞生物]]([[細菌]]・[[原生生物]]など)<ref name="SeikagakuDic802">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.802 【単細胞生物】]]</ref>では個体そのもの、複雑な[[多細胞生物]]では組織を構成する基本的な単位である<ref name="SeikagakuDic531-17" />。全ての生物がこの小部屋状の下部構造「細胞」から成り立ち、一般に「[[生物]]の最も基本的な構成単位」と認められ<ref name=Tamra3>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.3-4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-1細胞は生物の単位]]</ref>、細胞を持つことが生物の定義のひとつとされることもある<ref name=Tamra2>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.2、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞]]</ref>。この考えでは[[ウイルス]]や[[ウイロイド]]は、細胞を持たず代謝を行わないことや自己増殖ができない点などから、生物とはみなされない<ref name=Tamra2 />。


細胞には、[[細胞質]]と外界を隔てる[[膜]]構造に包まれ、内部には[[解糖系]]・[[クエン酸回路]]などの[[代謝]]する[[代謝経路|経路]]<ref name="SeikagakuDic777-10">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.777-778 【代謝経路】]]</ref>などを担い生命活動を恒常的に行う器官を持ち、[[自然治癒力|自己再生]]と[[複製]]をするための遺伝情報とそれを発現させる機能が備わっている<ref name="SeikagakuDic531-17" /><ref name=Kaibou2v2>[[#解剖学第2版|解剖学第2版、p.2-10、細胞]]</ref>。
構造としては、[[細胞膜]]に包まれており、[[細胞質]]から成る。(→[[#全ての細胞に共通する性質と構造]]) <!--中に一個の核を有している。-->


生物は多様であり、分類するドメインは複数ある。このうち、遺伝を担う共通の物質である[[DNA]]がどのような形態に置かれているかによって、細胞そして生物は2種類に分類される<ref name=Tamra7>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.7-8、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-3生物を二つに分類する]]</ref>。DNAを保持するはっきりした構造を持たないものを[[原核生物]](前核生物)と言い<ref name="SeikagakuDic531-17" />、その他の[[細胞小器官]](オルガネラ<ref name="SeikagakuDic239">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.239 【オルガネラ】]]</ref>)も持たない<ref name="SeikagakuDic440-15">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.440-441 【原核細胞】]]</ref>。このような細胞は[[原核細胞]](前核細胞・裸核細胞)と呼ばれる<ref name="SeikagakuDic440-14">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.440 【原核細胞】]]</ref>。これに対し、DNAを包むはっきりした[[細胞核|核]]を持つ細胞が[[真核細胞]](被核細胞・有核細胞)であり、明確な細胞小器官も見られる<ref name="SeikagakuDic531-17" /><ref name="SeikagakuDic666-1">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.666 【真核細胞】]]</ref>。[[細胞分裂]]においても、真核細胞が[[有糸分裂]]を行うのに対し、原核細胞は行わない<ref name="SeikagakuDic666-1" />。
細胞はその構造によって、原核細胞と真核細胞とに分類されている。(→[[#原核細胞と真核細胞]])真核細胞は原核細胞と比べると、細胞の内部に特に分化した形態や機能を持っているとされており、それは「細胞小器官」や「オルガネラ」と呼ばれている。(→[[#細胞小器官]])


さらに生物には、一つ一つの細胞が独立して生きていくような[[単細胞生物]]から、同じような細胞が集まって[[群体]]を形成して一緒に生きていくようなもの、また一つ一つの細胞に分かれては生きていけないほどまでに特殊化した細胞からなる[[多細胞生物]]まで、様々な形態がある<ref name=Tamra3 />。
細胞の一般的な大きさは、 1~100 μm 程度である。(→[[#原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ]] )


== 細胞を構成する原料 ==
生物は多様であり、一つ一つの細胞が独立して生きていくような[[単細胞生物]]から、同じような細胞が集まって[[コロニー]]や[[群体]]を形成して一緒に生きていくようなもの、また一つ一つの細胞に分かれては生きていけないほどまでに特殊化した細胞からなる[[多細胞生物]]まで、様々な形態がある。<!-- [[人体|ヒトの体]]は非常に多くの細胞(20~100兆個程度)が集まって出来た約220 種類の細胞組織で構成されている。-->また細胞は[[細胞分裂]]によって数を増やし、それ以外の方法によって細胞が作られることはない。
=== 元素 ===
細胞は15種類以上の[[元素]]が含まれる<ref name=Tamra25-1>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-3細胞をつくる元素]]</ref>。重量比64%の[[酸素]]は[[水]]や[[有機化合物]]の他に、[[呼吸]]で取り込んだ[[酸素]][[ガス]]に含まれる。同18%の[[炭素]]は有機化合物の他に、呼吸で排出する[[二酸化炭素]]中にも存在する。同10%の[[水素]]は水や有機化合物に使われる。同3%の[[窒素]]は[[アミノ酸]]や[[塩基]]の原料となる<ref name=Tamra25-2>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-4細胞に含まれる分子]]</ref>。ここまでの4種類は主要四元素と呼ばれる<ref name=Tamra25-1 />。


これに続き、神経細胞や細胞調整に使われる[[カルシウム]]・染色体やリン酸として使われる[[リン]]・[[ナトリウム]]・[[カリウム]]・[[塩素]]・[[マグネシウム]]などが続き、さらに微量元素と呼ばれる[[鉄]]・[[亜鉛]]・[[マンガン]]・[[ヨウ素]]などがある<ref name=Tamra25-1 /><ref name=Tamra25-2 />。
[[1665年]]、[[ロバート・フック]]が[[コルクガシ]]の[[コルク層]]の小片を顕微鏡で観察している時にこの構造を発見し、「cell(=小さな部屋)」と名づけた。[[1839年]]には[[テオドール・シュワン]]と[[マティアス・ヤコブ・シュライデン]]が、動物も植物も基本的に細胞から構成されているとし、細胞は生物共通の構造で発生の基本単位であるとする「[[細胞説]]」の基礎を築いた。(→[[#歴史]])

=== 分子 ===
生命に必須の物質といわれる水<ref name=Tamra24>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.24-25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-2水という特異な物質]]</ref>以外に細胞中に含まれる分子は、主に[[糖質]]・[[脂質]]・[[タンパク質]]([[アミノ酸]])・[[核酸]]の4種に分けられる<ref name=Tamra25-2 />。

糖質では、単糖のリボースがヌクレオチドの成分として重要である。グルコースはエネルギー源となり、単純多糖化すると植物では[[デンプン]]・動物では[[グリコーゲン]]となってエネルギー貯蔵能を持つ。[[セルロース]]は植物細胞の構造を支え、多糖の[[グリコサミノグリカン]]は動物細胞の細胞外マトリックスに多く含まれる<ref name=Tamra27>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.27-29、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-5糖質]]</ref>。

不水溶性の脂質はグリセロールとのエステルである[[中性脂肪]]の形で存在し、エネルギー貯蔵の役目を持つ。また、リン酸と結合した脂質であるホスファチジルコリンなどのリン脂質は細胞膜の主成分である<ref name=Tamra29>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.29-31、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-6脂質]]</ref>。

生体内においてタンパク質と核酸は、直接に遺伝情報を持つため「情報高分子」と呼ばれる<ref name=Tamra32-1>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.32、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質]]</ref>。酵素や<ref name=Tamra48>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.48-49、Ⅱ代謝:生体内化学反応、6酵素、6-1酵素はタンパク質触媒]]</ref>[[リボソーム]]<ref name=Tamra112>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.112-113、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、13タンパク質合成、13-3リボソーム]]</ref>など生体物質などに使われるタンパク質は、 [[光学異性体]]L形に限られた20種類のアミノ酸が[[ペプチド結合]]を重ね、高次構造を持ったさまざまな種類がある<ref name=Tamra32-2>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.32-37、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質、4-1タンパク質を構成するアミノ酸]]</ref>。

核酸は糖の1’位に塩基が結びついた[[ヌクレオシド]]を基礎に、糖の4’位に結合した[[リン酸]](ここまでの構造を[[ヌクレオチド]]という)を介した[[ジエステル結合]]によって連続的に繋がった構造を持つDNAと、そこから転写されつくられるヌクレオチド重合体であるRNAがある。DNAの糖は2-デオキシリボース、RNAの糖はリボースである。また塩基は、DNAではプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)およびピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の4種が、RNAではチミンに代わってピリミジン塩基のウラシル(U)を含む4種が使われる<ref name=Tamra38>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.38-40、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-1核酸を構成するヌクレオチド]]</ref>。


== 全ての細胞に共通する性質と構造 ==
== 全ての細胞に共通する性質と構造 ==
何種類かの特殊な細胞を例外として、全ての細胞は[[細胞膜]][[リボソーム]][[細胞質]]([[原形質]])といった共通構成要素を持っている。外界から内部を隔てる構造細胞膜である。細胞膜は[[脂質二重層]]から構成されている。その内部は生体物質を含む[[水溶液]]があり[[代謝]]の場となっている。生体物質としては構造や代謝に機能する[[蛋白質|タンパク質]]、遺伝情報を担う[[核酸]]、エネルギー源や情報源として[[脂質]][[質]]等がある。これらの生体物質は集合してより高次の構っている。[[翻訳 (生物学)|翻訳]]の場として [[rRNA]] とタンパク質からなる[[リボソーム]]などがある。
全ての細胞は生体膜である[[細胞膜]]で包まれ<ref name=Matsu47>[[#松本ら(1993)p.47-50、3.細胞の微細構造とその機能、3.1.細胞膜]]</ref>、内部は生体物質を含む[[水溶液]]があり[[代謝]]の場となっている。[[リボソーム]]、[[細胞質]][[原形質]])といった共通の構成要素っている。


外界から内部を隔てる約5nmの厚みを持つ細胞膜は、[[脂質二重層]]にタンパク質が結合した構成を持っている。その微細構造は疎水性の脂肪酸に親水性のリンや糖が結びついた分子が、疎水基を向かい合わせてP面を作り、親水基が外側のE面を作って緩く並び、所々にタンパク質が挟まっており、全体が流動している<ref name=Matsu47 />。脂質部分は水や脂溶性物質のみの通過を許し、水溶性物質が通れる箇所は挟まったチャンネルタンパク質に空いた小さな穴のみ限定される上、キャリアタンパク質という箇所はエネルギーを消費して通過する物質を選択する性質を持つ<ref name=Matsu47 />。
また、細胞には[[細胞分裂]]、[[遺伝子発現]]、[[代謝]]などの能力がある。細胞分裂は細胞が増殖を行なう手段であり、[[遺伝]]と[[進化]]の基本現象である。遺伝子発現は[[DNA]] が持つ遺伝情報がタンパク質などの機能物質へと変換される過程である。代謝は原材料となる物質を摂取し、それを細胞の構成要素の構築やエネルギー生産に利用したり、その副産物を放出したりする現象であり、生物の[[恒常性]]を維持する基本的な機構である。


細胞が持つDNAは、[[塩基配列]]または遺伝暗号 (genetic code)と言うヌクレオチドの塩基部分が並ぶ構造を持つ<ref name=Take14>[[#武村(2012)|武村(2012)、p.14-24、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-1 DNAとセントラルドグマ]]</ref>。この塩基の並びは3つを基本的な単位としており、これをmRNAに[[転写 (生物学)|転写]]し、細胞内の[[リボソーム]]でmRNAの情報([[コドン]])が[[翻訳 (生物学)|翻訳]]され、それに沿って[[アミノ酸]]が数珠状に合成され[[タンパク質]]が作られる。この一連の反応はすべての細胞に共通する基本的な原理であり、そのため[[セントラルドグマ]]と呼ばれる<ref name=Take14 />
このことを言い換えれば、細胞そのものが生きていると言える。そのため、細胞が生命の単位と言われる。


== 原核細胞と真核細胞 ==
== 原核細胞と真核細胞 ==
[[ファイル:Cells_Size_comparison.jpg|thumb|right|200px|いろいろな細胞 (A)マウス肝細胞、(B)大腸菌、(C)出芽酵母]]
[[ファイル:Cells_Size_comparison.jpg|thumb|right|200px|いろいろな細胞 (A)マウス肝細胞、(B)大腸菌、(C)出芽酵母]]
[[ファイル: Halobacteria.jpg|thumb|right|200px|[[高度好塩菌]]。原核細胞生物である[[古細菌]]の一種。]]
細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられる。これらの最も大きな差異は[[細胞核]]の有無である(原核細胞には細胞核がない)。原核細胞には[[真正細菌]]と[[古細菌]]が含まれ、真核細胞は[[真核生物]]が含まれる。また、原核細胞から構成される生物をまとめて[[原核生物]]と呼ぶ。これら3 種類の生物群はドメインと呼ばれる最も上位の分類群で、進化的には古細菌と真核生物が近く、真正細菌が離れている。
細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられる。これらの最も大きな差異は[[細胞核]]の有無であり、原核細胞には細胞核がない<ref name=Tamra7 />。原核細胞には[[真正細菌]]と[[古細菌]]が含まれ、真核細胞は[[真核生物]]が含まれる。また、原核細胞から構成される生物をまとめて[[原核生物]]と呼ぶ。これら3 種類の生物群はドメインと呼ばれる最も上位の分類群で、古細菌と真核生物が近く、真正細菌が離れている<ref name=Tamra8>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.8-12、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-4生物の進化]]</ref>。


原核細胞は真核細胞に比べ、構造単純である。原核細胞は単細胞生物や群体をなす生物に限定して見ることができる。真核細胞は、その細胞膜の内側に[[細胞小器官]]を有する。[[ミトコンドリア]]と[[葉緑体]]は細胞に取り込まれた[[真正細菌]]が共生したものに由来すると考えられている([[細胞内共生説]])。単細胞の真核生物は非常に多様な種類があるが、群体や多細胞生物の種類も多い(多細胞生物の中に含まれる[[界 (分類学)|界]]である[[動物界]]、[[植物界]]、[[真菌]]は全て真核細胞生物である)。なお、原核細胞を裸核細胞、真核細胞を被核細胞と呼ぶこともある。
原核細胞は真核細胞に比べ、細胞膜の中に[[懸濁]]したリボソームがあるだけの単純な構造を持つ。原核細胞は単細胞生物や群体をなす生物に限定して見ることができ、[[五界説]]の[[モネラ界]]が相当す<ref name=Tamra7 />。真核細胞は、その細胞膜の内側に[[細胞小器官]]を有する<ref name=Tamra7 />。[[ミトコンドリア]]と[[葉緑体]]は細胞に取り込まれた[[真正細菌]]が共生したものに由来すると考えられている([[細胞内共生説]])。単細胞の真核生物は非常に多様な種類があるが、群体や多細胞生物の種類も多い(多細胞生物の中に含まれる[[界 (分類学)|界]]である[[動物界]]、[[植物界]]、[[真菌]]は全て真核細胞生物である)。なお、原核細胞を裸核細胞、真核細胞を被核細胞と呼ぶこともある。


=== 原核細胞 ===
=== 原核細胞 ===
原核細胞は単純な組織を持ち、細胞を持つ生物の初期の形態を維持していると考えられる。最大の特徴はDNAを含む[[核様体]]が膜の区切りが無く細胞質の中に漂っている事と、一般に単位膜で包まれた細胞小器官を持たない事である<ref name=Matsu50>[[#松本ら(1993)、p.50-52、3.細胞の微細構造とその機能、3.2.原核生物とその構造的特長]]</ref>。DNA は環状で<ref name=Ide65>[[#井出(2006)|井出(2006)、p.65-75、第6章 テロメアとは何か]]</ref>、その一端が細胞膜の決まった箇所に付着している<ref name=Matsu50 />。
ごく一部の例外を除き、細胞が小さく構造も真核生物に比べれば単純である。細胞の大部分を液体が占めており、原核細胞の細胞質基質はそこに拡散した状態になっている。また、リボソームが細胞内に浮遊しているのでざらざらしている。[[ゲノム]]DNA は環状で、DNA は[[核様体]]という形で凝縮し細胞膜に付着している場合が多い。ゲノムサイズも一般的にかなり小型である。最も複雑な生活をおくる細菌の一つである[[粘液細菌]]でもゲノムサイズは1,300 万bp、遺伝子数約9,500 であり、[[出芽酵母]]よりもやや大きな程度でしかない。


リボソームは細胞質中に浮遊したもの(遊離リボソーム)と、細胞膜に付着したもの(膜リボソーム)がある<ref name=Matsu50 />ため細胞質気質はザラザラしている。なお原核細胞のリボソームは真核細胞のそれよりやや小さい<ref name=Matsu50 />。
細胞膜は主に脂質二重層であり、細胞内と外界とを隔てている。[[エンドサイトーシス]]やミトコンドリアを持たない原核生物にとって、ここは[[電子伝達系]]を始めとした代謝の主要な場であり、盛んに内外との物質のやり取り、エネルギー生産などを行っている。原核生物にとって細胞膜の機能は大変に重要であり、体積に対してある程度の表面積を確保する必要がある。これが原核生物が細胞サイズをあまり拡大できない理由の一つといえる。


この他目立つ構造に[[細胞壁]]と[[鞭毛]]がる。[[モリクテス綱]]と[[テルモプラズマ綱]]を除く殆どの原核生物には、何らかの細胞壁があり、細胞を外界の影響から守る強固なっている。また細胞壁の存在は、低張液などの条件下での[[浸透圧]]による細胞の破裂を防止する。鞭毛基部に回転モーターが付いており、これ振り回して動的に移動することができる(ただし全ての原核生物が鞭毛わけではない)
細胞膜は脂質二重層でり、その外側に[[モリクテス綱]]と[[テルモプラズマ綱]]を除くと[[細胞壁]]を持ち<ref name=Matsu50 />細胞内と外界とを隔てている<ref name=Matsu47 />。 [[エンドサイトーシス]]やミトコンドリアを持たない原核生物にとって、ここ[[電子伝達系]]を始めとした代謝の主要な場であり盛んに内外と物質のやり取り、エネルギー生産などを行っている<ref name=Matsu50 />。原核生物にとって細胞膜の機能は大変に重要であり、体積に対してある程度の表面積を確保する必要がある。これが原核生物が細胞サイズあまり拡大できい理由の一つといる。また細胞壁の存在は、低張液などの条件下での[[浸透圧]]による細胞の破裂を防止する。原核藻類([[シアノバクテリア]]など)[[光合成]]行う機能を<ref name=Matsu50 />


この他目立つ構造に、[[鞭毛]]や[[線毛]]または[[莢膜]]や[[粘膜]]層を持つものがある<ref name=Matsu50 />。鞭毛はアクチン様タンパク質フラジェリンの螺旋様多重合体であり、これが細胞壁から突き出して回転し<ref name=Matsu50 />、能動的に移動することができる。線毛はタンパク質の繊維で、病原体などが他者へ付着することを容易にする<ref name=Matsu50 />。水を多く含み細胞を取り巻く莢膜や粘膜層は、食作用を受けにくくさせる効果がある<ref name=Matsu50 />。
真正細菌と古細菌を比較した場合、鞭毛や細胞壁は細菌や古細菌がそれぞれ独立に進化させたものであり、目的は同じでも両者の構造に共通点はない。また、古細菌の遺伝子発現やタンパク質合成系は真正細菌よりもむしろ真核生物に似ている(ただしDNA が細胞質中に存在するなど原核生物の基本的な性質は保存している)。古細菌のエーテル型脂質、特にその立体構造の違いは両者を決定的に区別するが、これは真正細菌と古細菌の違いというより、むしろ古細菌とその他の生物を区別する特徴である。

真正細菌と古細菌を比較した場合、鞭毛や細胞壁は細菌や古細菌がそれぞれ独立に持つものであり、目的は同じでも両者の構造に共通点はない。また、古細菌の遺伝子発現やタンパク質合成系は真正細菌よりもむしろ真核生物に似ている(ただしDNA が細胞質中に存在するなど原核生物の基本的な性質は保存している)。古細菌のエーテル型脂質、特にその立体構造の違いは両者を決定的に区別するが、これは真正細菌と古細菌の違いというより、むしろ古細菌とその他の生物を区別する特徴である。

原核細胞の[[生理]]は機能化が進んだ真核生物よりも多様である。発見された数千種に過ぎない原核生物には、真核生物が成しえない[[硫黄]]からエネルギーを得るものや、空中窒素固定を可能にするものも存在する<ref name=Matsu50 />。


=== 真核細胞 ===
=== 真核細胞 ===
真核細胞は原核生物よりも一般に大きく、数種類の細胞小器官を持つなど複雑な構造をしている<ref name=Matsu53>[[#松本ら(1993)、p.53-56、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.1真核生物の構造と機能概説]]</ref>。
* 真核細胞の細胞質基質は原核細胞と違ってざらざらしていない。これはリボソームの主要な部分が小胞体に結合しているためである。

* 細胞膜は、原核細胞と構成は少々異なる部分もあるが、機能はほぼ同じである。真核細胞では、細胞壁があるものもあれば、無いものもある。
細胞質の基質は原核細胞と違ってざらざらしていない。これはリボソームの主要な部分が小胞体に結合しているためである。真核細胞の細胞質には[[細胞骨格]](サイトスケルトン)と呼ばれる微小な管やフィラメント状がつくる網目もしくは束状をした3次元構造<ref name="SeikagakuDic534-8">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.534 【細胞骨格タンパク質】]]</ref>がある。これが特に発達した動物の細胞では、細胞骨格が各細胞の形を決定づける。植物の場合、細胞の形は細胞壁による影響が大きいが、細胞骨格が原形質の流動を制御する。[[細胞小器官]]はこの細胞骨格に定着しており、浮遊状態には無い<ref name="SeikagakuDic534-7">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.534 【細胞骨格】]]</ref>。細胞骨格は細胞質フィラメントと呼ばれる3種類のタンパク質からなる繊維に分けられる<ref name="SeikagakuDic534-8" />。また、細胞質フィラメントは骨格的機能だけでなく、分泌や情報の伝達、また運動にも機能すると推定されている<ref name="SeikagakuDic535-9">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.535 【細胞質フィラメント】]]</ref>。細胞膜は、原核細胞と構成は少々異なる部分もあるが、機能はほぼ同じである。真核細胞では、細胞壁があるものもあれば、無いものもある。
* 真核細胞のDNA は、一本、または複数本の分子から構成され、[[染色体]]と呼ばれる。染色体は、DNA が[[ヒストン]]に絡みついてしっかりと凝縮した状態になっている。全ての染色体のDNA は核の中に閉じ込められており、[[核膜]]によって細胞質と隔てられている。何種類かの[[細胞内小器官]]は、それぞれが独自のDNA を持つものがある。それらは、元は別の生物であり、共生によって細胞小器官となったとする、[[細胞内共生説]]が現在ではほぼ認められている。

* 真核細胞生物の中には、[[繊毛]]や[[鞭毛]]で移動できるものがある。鞭毛は原核生物のものとは構造が異なり、まったく違った性格のものである。
真核細胞のDNA は、一本または複数本の分子から構成される直線状で原核生物よりも多く<ref name=Matsu53 />、[[染色体]]と呼ばれる<ref name=Ide65 />。染色体は、DNA が[[ヒストン]]という塩基性タンパク質に絡みついた複合体(ヌクレオソーム)を構成してしっかりと凝縮した状態になっている<ref name=Ide99>[[#井出(2006)|井出(2006)、p.99-119、第9章 テロメナーゼという酵素]]</ref>。全ての染色体のDNA は核の中に閉じ込められており、[[核膜]]によって細胞質と隔てられている。何種類かの[[細胞内小器官]]は、それぞれが独自のDNA を持つものがある。それらは大きさがほぼ細菌に近い事もあり、元々は別の生物だったものが共生によって細胞小器官となったとする考えを[[細胞内共生説]]という<ref name=Tamra8 />。

真核細胞生物の中には、[[繊毛]]や[[鞭毛]]で移動できるものがある。鞭毛は原核生物のものとは構造が異なり、まったく違った性格のものであり、細胞骨格の一種である微小管がタンパク質繊維で結びついたものである<ref name=Matsu56>[[#松本ら(1993)、p.56-57、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.2細胞小器官以外の細胞質-細胞骨格、鞭毛、繊毛]] </ref>。


=== 原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ ===
=== 原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ ===
{| align="center" border="1" cellpadding="2"
{| class="wikitable" border="1" style="margin:0 auto;"
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|&nbsp;
!&nbsp;
!colspan="2"|原核細胞
!colspan="2"|原核細胞
!真核細胞
!真核細胞
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!典型的な生物
!典型的な生物
|細菌([[真正細菌]])
|細菌([[真正細菌]])
|[[古細菌]]
|[[古細菌]]
|[[真核生物]]([[原生生物]]、[[真菌]]、[[植物]]、[[動物]])
|[[真核生物]]([[原生生物]]、[[真菌]]、[[植物]]、[[動物]])<ref name=Ide65 />
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!一般的な大きさ
!一般的な大きさ
|colspan="2"|~ 1-10 μm
|colspan="2"| 1から10 μm
|~ 5-100 μm
| 5から100 μm
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![[細胞核]]の形態
![[細胞核]]の形態
65行目: 87行目:
|二重膜で区切られたはっきりした核がある
|二重膜で区切られたはっきりした核がある
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!DNA
!DNAの形態
|環状。直線状は稀
|環状。直線状は稀
|環状、ヒストンと結合している
|環状、ヒストンと結合している
|直線状で、ヒストンと結合している<br />細胞分裂時には[[染色体]]を形成する
|直線状で、ヒストンと結合している<br />細胞分裂時には[[染色体]]を形成する<br />末端は[[テロメア]]と結合する<ref name=Ide65 />
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!DNAの存在様式<ref name=Tamra7 /><ref name=Tamra8 />
|裸のDNA
|クロマチン様
|タンパク質が結合したクロマチン様
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!RNA-/タンパク質-合成
!RNA-/タンパク質-合成
79行目: 106行目:
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!細胞質
!細胞質
|エステル型脂質<ref name=Tamra8 />
|colspan="2"|構造はほとんどない
|エーテル型脂質<ref name=Tamra8 />
|膜と[[細胞骨格]]によって高度に構造化されている
|膜と[[細胞骨格]]によって高度に構造化されている
|-
!細胞壁<ref name=Tamra7 /><ref name=Tamra8 />
|ペプチドグリカン<br />ムラミン酸を持つ
|タンパク質<br />ムラミン酸は無い
|あり・なし
|-
|-
!細胞の移動
!細胞の移動
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|-
|-
![[ミトコンドリア]]
![[ミトコンドリア]]
|colspan="2"|なし
|colspan="2"|なし<ref name=Tamra7 />
|1-数十個
|1から数十個
|-
|-
![[葉緑体]]
![[葉緑体]]
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|Zリング(ユーリ古細菌)<br />ESCRT複合体(クレン古細菌)
|Zリング(ユーリ古細菌)<br />ESCRT複合体(クレン古細菌)
|収縮環<br />細胞板(植物)
|収縮環<br />細胞板(植物)
|-
!細胞骨格<ref name=Tamra7 />
|colspan="2"|なし
|あり
|-
!原形質流動<ref name=Tamra7 />
|colspan="2"|なし
|あり
|}
|}


== 細胞小器官 ==
== 細胞小器官 ==
{{main|細胞小器官}}
{{main|細胞小器官}}
[[ファイル:Biological cell.svg|thumb|350px|典型的な動物細胞の模式図:(1)[[核小体]](仁)、(2)[[細胞核]]、(3)[[リボソーム]]、(4)[[小胞]]、(5)[[粗面小胞体]]、(6)[[ゴルジ体]]、(7)[[微小管]]、(8)[[滑面小胞体]]、(9)[[ミトコンドリア]]、(10)[[液胞]]、(11)[[細胞質基質]]、(12)[[リソソーム]]、(13)[[中心体]]]]

[[ファイル:Plant cell structure.png|right|350px|thumb|典型的な植物細胞の模式図: 動物細胞との違いは、濃い緑色で描かれている'''細胞壁'''(Cell wall)、紺色で示されている'''液胞'''(vacuole)、筋の入った緑色の紡錘形に見える'''葉緑体'''(Chloroplast) 、核の左横に描かれた小さな球体である'''白色体'''(Leukoplast)のほか、細胞質分裂の後にも細胞壁の表面に残り、隣接する細胞と原形質を連絡する通路となる'''原形質連絡'''(Plasmodesmata)などである。]]
[[ファイル:Biological cell.svg|thumb|400px|典型的な動物細胞の模式図: (1) [[核小体]](仁)、(2) [[細胞核]]、(3) [[リボソーム]]、(4) [[小胞]]、(5) [[粗面小胞体]]、(6) [[ゴルジ体]]、(7) [[微小管]]、(8) [[滑面小胞体]]、(9) [[ミトコンドリア]]、(10) [[液胞]]、(11) [[細胞質基質]]、(12) [[リソソーム]]、(13) [[中心体]]]]
真核細胞の内部には、細胞小器官(細胞器官、オルガネラ)と呼ばれる膜に包まれた<ref name=Matsu53 />構造体がある。これらはそれぞれ特有の機能を持ち<ref name=Matsu53 />、まるで生命個体の[[器官]]のように働くため、このような名称がつけられた。例えば[[酸素]]を吸収し[[二酸化炭素]]を排出する面から見た[[呼吸]]の役割は、[[ミトコンドリア]]と比される。[[消化]]を[[高分子]]を取り入れて[[加水分解]]することとすれば、[[口]]は[[ピノソーム]]、[[消化管]]は[[リソソーム]]に相当する<ref name="SeikagakuDic537-4">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.537 【細胞小器官】]]</ref>。
[[ファイル:Plant cell structure.png|right|400px|thumb|典型的な植物細胞の模式図: 動物細胞との違いは、濃い緑色で描かれている'''細胞壁''' (Cell wall)、紺色で示されている'''液胞''' (vacuole)、筋の入った緑色の紡錘形に見える'''葉緑体''' (Chloroplast) 、核の左横に描かれた小さな球体である'''白色体''' (Leukoplast) のほか、細胞質分裂の後にも細胞壁の表面に残り、隣接する細胞と原形質を連絡する通路となる'''原形質連絡''' (Plasmodesmata) などである。]]
他に、

* [[マイクロフィラメント]](アクチンフィラメント)
また、図には示されていないが、
# [[マイクロフィラメント]](アクチンフィラメント)
* [[中間径フィラメント]](中間フィラメトあるいは10nmフィラメント)
* [[デスモソーム]](接着斑)
# [[中間径フィラメント]](中間フィラメントあるいは10nm フィラメント)
* [[ギャップ結合]](間隙結合あるいはネクサス)
# [[デスモソーム]](接着斑)
# [[ギャップ結合]](間隙結合あるいはネクサス
* [[タイト結合]](タイトジャンクションあるいは密着結合、閉鎖帯
* [[エンドソーム]]
# [[タイト結合]](タイトジャンクションあるいは密着結合、閉鎖帯)
# [[エンドソーム]]
* [[ペルオキシソーム]]
* [[分泌顆粒]](分泌小胞)
# [[ペルオキシソーム]]
# [[分泌顆粒]](分泌小胞)
なども存在する。
なども存在する。


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多細胞生物では、逆に細胞として不可欠なはずの内容を欠く例もある。例えば我々[[ほ乳類]]の[[赤血球]]には核がない。これはむしろ多細胞生物に見られる細胞の役割分担の中で、なくてもその機能が果たせる場合にはそれが[[退化]]することもある、ということであろう。
多細胞生物では、逆に細胞として不可欠なはずの内容を欠く例もある。例えば我々[[ほ乳類]]の[[赤血球]]には核がない。これはむしろ多細胞生物に見られる細胞の役割分担の中で、なくてもその機能が果たせる場合にはそれが[[退化]]することもある、ということであろう。

== 原核生物から多細胞生物へ ==
45億年前と言われる[[地球]]誕生後、最初の細胞は40億年前頃に原核生物として誕生した。真核背細胞への進化はその15億年後に成されたが、当初は単細胞生物であった。多細胞生物が誕生するには更に10億年の期間を待たなければならなかった<ref name=Take104>[[#武村(2012)|武村(2012)、p.104-120、第4章 体細胞の分化とエピジェネティクス、4-1 多細胞生物の細胞とホメオティック遺伝子]]</ref>。

原核細胞と真核細胞の大きな差異である核や細胞小器官は、それぞれが膜に包まれ、内容物を閉じ込めている。核では傷つきやすいDNAであり、葉緑体やミトコンドリアはエネルギー転移系、小胞体やゴルジ体は膜合成系と分泌器官系、細胞にとって危険な[[過酸化水素]]をつくる酵素[[ベルオキシダー]]を閉じ込めるミクロボディや、リソソームはやはり危険を伴う酵素や異物の消化を行う<ref name=Matsu53 />。

このような小器官は複数の発生段階を踏んだと考えられている<ref name=Matsu57>[[#松本ら(1993)、p.57-60、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.3真核生物の系統発生と葉緑体、ミトコンドリア、羽型鞭毛]]</ref>。葉緑体やミトコンドリアはそれぞれの機能を持つ原核生物を、初期の真核生物が食作用で細胞内に取り込み共生し、現在の姿になったと考えられる。この根拠として、両者は2重以上の単位膜に覆われ、独自のDNAを持ち、原核生物と同じ70Sのリボソームを持ち、また2重以上の単位膜に覆われる点が挙げられる。特に複数の膜は、内側が原核生物時代の細胞膜、外側が真核生物の食作用時につくった窪み部分の細胞膜をそれぞれ由来とすると思われる<ref name=Matsu57 />。

機械的に脆いDNAを守る核も2重の単位膜を持つ。この由来はよく分かっていないが<ref name=Matsu60>[[#松本ら(1993)、p.60-63、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.4核]]</ref>、原核細胞で見られるDNAが付着する細胞膜部分の周囲がへこみ、2重に折りたたまれた単位膜がDNAを覆った球状器官が細胞内部に入ったという意見がある<ref name=Matsu55>[[#松本ら(1993)、p.55]]</ref>。

小胞体やゴルジ体は1重の単位膜で構成される。タンパク質の合成と分泌に関わるこれら小器官に相当する機能を原核細胞では細胞膜と付着するリボソームで行っている。真核細胞は進化の過程でリボソームを持つ細胞膜の一部を内部に凹ませ、細胞内でのタンパク質合成とゴルジ体そして液胞を使った分泌のメカニズムを獲得したという説がある<ref name=Matsu55 />。同様に1重単位膜のリソソームも、食作用のため細胞膜の一部を異物を取り囲むように腔を作った部分の変化とも考えられる<ref name=Matsu55 />。

多細胞生物は生命活動の役割を細胞単位で分担しているという特徴がある。しかし、このように違う各細胞のDNAは基本的に変わらない。これは、ひとつはDNAの発現部分の選択や後成的な仕組みによってコントロールされる。これらは[[エピジェネティック]]と呼ばれる<ref name=Take25>[[#武村(2012)|武村(2012)、p.25-33、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-2 エピジェネティクスとはなにか]]</ref>。

== 細胞の大きさ ==
[[地球]]生物で細胞の大きさを競えるものは[[卵細胞]]であり、ヒトが持ちうる最大の細胞も[[卵子]]と例外ではない。特に[[鳥類]]が産む大きな[[卵]]の[[黄身]]は1つの卵細胞に当たり、最大と言われる[[ダチョウ]]では7,500,000,000,000,000μm<sup>3</sup>にもなる。ヒトの卵子は1,400,000μm<sup>3</sup>に過ぎない<ref>{{cite book|和書|title=空想自然科学入門|chapter=第一部 生物学 2.卵とチビ|pages=32-49|author=[[アイザック・アシモフ]]|translator=小尾信彌、山高昭|publisher=ハヤカワ文庫|edition=18刷|origdate=1978|year=1995|isbn=4-15-050021-5}}</ref>。

== 細胞の死 ==
細胞の死は生物が成長する各段階において見られ、例えば[[オタマジャクシ]]の尾が収縮する例が挙げられる。その死には遺伝子にあらかじめ組み込まれた情報に則ったものから、偶発的な場合もある<ref name="SeikagakuDic535-1">[[#生化学辞典(2版)|生化学辞典第2版、p.533 【細胞死】]]</ref>。自発的な細胞死は[[アポトーシス]]、偶発的な細胞死(壊死)は[[ネクローシス]]と呼ばれる<ref name="SeikagakuDic-3-572">[[#生化学辞典(3版)|生化学辞典第3版 p.572 【細胞死】]]</ref>。

細胞中の塩基は[[波長]]260nmの[[紫外線]]を特異的に吸収する性質を持ち、DNAの塩基構造を変化させることがある。例えば、チミンが並ぶ部分が紫外線を吸光すると、その間シクロブタン環が形成され、対になるグリシンがアデニンに変化する現象が起こる。結果遺伝情報が書き換えられ、突然変異やガン化または細胞死などの異常を起こす可能性が生じる。また塩基構造の変化はDNAの複製や転写を阻害してしまう事もある<ref name=Tamra42>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.42-45、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-4核酸の性質]]</ref>。

[[クロイツフェルト・ヤコブ病]]は不充分な折りたたみ構造を持つ異常タンパク質が引き起こす脳細胞死が原因である。これを含む[[プリオン病]]は[[プリオン]]は本来水溶性のタンパク質だが、らせん構造が減少しβシート構造が増えた異常プリオンは不溶化し、分解されずに脳細胞に沈着する。これが鋳型となり正常はプリオンを異常化させ、増殖するように振舞いながら脳細胞を死に至らしめる
<ref name=Tamra123>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.123-126、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、14タンパク質の局在化,成熟,分解、14-6タンパク質の分解]]</ref>。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[ファイル:RobertHookeMicrographia1665.jpg|thumb|left|200px|コルクの細胞を描いたロバート・フックのスケッチ]]
* [[1665年]]: "Cell" の名前の由来は、[[ロバート・フック]] (Robert Hooke) が1665 年に刊行した[[顕微鏡図譜]]「Micrographia」で、[[コルクガシ]]の[[コルク層]]小片を観察し、多数の中空の構造として見られた死細胞を、小部屋を意味する "Cell" と命名したのが始まりとされる。
英語「{{lang|en|cell}}(=小さな部屋)」の命名は[[ロバート・フック]]著「[[顕微鏡図譜]]」「{{ルビ|{{lang|en|Micrographia}}|ミクログラフィア}}」が始まりとされる。
* [[1839年]]: [[テオドール・シュワン]]と[[マティアス・ヤコブ・シュライデン]]は動植物は基本的に細胞から構成されていることを解明した。 すなわち細胞は生物共通の構造と発生の基本単位であるとする[[細胞説]]の基礎となった。
1665年、彼は[[コルクガシ]]の[[コルク]]層の小片を自作の顕微鏡で観察している時にこの構造を始めて発見し、生物は細胞から作られていると考えた。ただし彼が実際に観察したものは、内容物を失ったあとの細胞壁であった<ref name=Tamra3 />。その後、[[アントニ・ファン・レーウェンフック]]が発明した高性能の顕微鏡で細胞観察を行った<ref name=Tamra3 />。
* [[19世紀]]: [[ルイ・パスツール]]は生物の[[自然発生説]]を否定した。

* [[ルドルフ・ウィルヒョウ]]は、新しい細胞は常に細胞分裂から生じるとした。
1838年には[[テオドール・シュワン]]が植物組織を、翌年には[[マティアス・ヤコブ・シュライデン]]が動物組織を観察した結果から<ref name=Tamra4>[[#田村(2010)|田村(2010)、p.4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-2細胞生物学の発展]]</ref>、生物は基本的に細胞から構成されているとし、細胞は生物共通の構造で発生の基本単位であるとする「[[細胞説]]」を提唱した<ref name=Tamra3 />。細胞説は、細胞がどのように発生するかを説明していなかったが、1855年に[[ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー]]が「細胞は分裂して増える」という説を発表し、1860年に[[ルイ・パスツール]]が生物の[[自然発生説]]を否定し、生物は細胞増殖で成長すると考えられるようになった<ref name=Tamra3 />。

1857年にはミトコンドリアが、1898年には[[カミッロ・ゴルジ]]によってゴルジ体が発見された<ref name=Tamra4 />。1950年代頃から[[電子顕微鏡]]による観察が盛んに行われ、細胞膜や細胞骨格が観察された<ref name=Tamra4 />。さらに、多細胞生物の組織内部にある細胞についても1951年に[[HeLa細胞]]で細胞培養と不死化が成功して以来、観察が可能となった。技術は進み、均一な細胞集団の早い増殖技術、[[生化学]]や[[遺伝学]]の研究技法の導入、遺伝子組み換え技術や細胞工学的技術の発展、発生生物学技術の進歩などを取り込みながら、細胞の研究は進展している<ref name=Tamra4 />。

== ヒトの細胞 ==
ヒトの細胞は、最小の[[リンパ球]]で直径約5 μm、最大のひとつ[[卵子]]は約120 μmある。一般的な細胞は10-20 μmである。人体1kg当たりの平均的細胞数は約1兆個であり、体重60 kgの平均的[[男性]]の場合、その身体は約60兆個で作られている事になる<ref name=Kaibou2v2 />。

ヒトの体には[[生殖細胞]]と[[体細胞]]があり、そのほとんどを占める体細胞は約200種で、増殖方法から大きく3種類の組織に分けられる<ref name=Ide1>[[#井出(2006)|井出(2006)、p.1-10、第1章 ヒトを構成する細胞]]</ref>。生理的再生系組織では、正常な状態でも常に細胞が再生・機能・死にある3つの群が存在する。[[血液]]の単球は数日から比較的長い[[赤血球]]でも120日程度で死を迎え、一方で[[骨髄]]の[[幹細胞]]から常に再生供給される。その入れ替わりは1分間に数億個に相当する。[[表皮]]や[[消化器系]]の上皮も常に基底部で新しい細胞が作られ、表面の細胞は死んで脱落を繰り返す<ref name=Ide1 />。条件再生系組織の細胞は、通常ではほとんど増えないが、傷つくなど特別な状況で増殖を行う。[[肝細胞]]はこの顕著な例で、分裂は通常の場合年に1回程度だが、手術などで一部を除去すると猛烈に増殖を行う。例えば肝臓の70%を切除しても1週間程度で元に戻る。この種類の細胞になる幹細胞は未だ発見されていない<ref name=Ide1 />。非再生系組織の細胞は増殖能力が無く、自然には再生しない。[[神経]]細胞、[[骨格筋]]細胞、[[心筋]]細胞など特殊な機能に分化したものがこれに当たり、加齢とともに減少の一途を辿る。筋力トレーニングで骨格筋は太くなるが、これは細胞が増えたのではなく細胞内のタンパク質が増えたものである。同様に肥満も細胞が脂肪を蓄えたためで、細胞の数は基本的に変わらない<ref name=Ide1 />。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
144行目: 216行目:
*『細胞の分子生物学』第3版
*『細胞の分子生物学』第3版
*『岩波生物学辞典』第4版
*『岩波生物学辞典』第4版
* {{Cite book|和書|author = |title = 生化学辞典第2版|edition = 第2版第6刷|year = 1995|publisher = [[東京化学同人]]|isbn = 4-8079-0340-3|page = |ref = 生化学辞典(2版)}}
* {{Cite book|和書|author = |title = 生化学辞典第3版|edition = 第3版第4刷|year = 2000|publisher = [[東京化学同人]]|isbn = 4-8079-0480-9|page = |ref = 生化学辞典(3版)}}
* {{Cite book|和書|author =河野邦雄、伊藤隆造、坂本裕和、前島徹、樋口桂|editor = 財団法人 東洋療法学校協会 |title = 解剖学第2版|edition = 第2版第1刷|year = 2006|publisher = [[医歯薬出版]]|isbn = 4-263-24207-6|page = |ref = 解剖学第2版}}
* {{Cite book|和書|author =田村隆明|editor = |title =基礎細胞生物学|edition = 第1版第1刷|year = 2010|publisher = [[東京化学同人]]|isbn = 978-4-8079-0724-3|page = |ref = 田村(2010)}}
* {{Cite book|和書|author =井出利憲|editor = |title =細胞の運命Ⅳ細胞の老化|edition = 初版|year = 2006|publisher = [[サイエンス社]]|isbn = 4-7819-1127-7|page = |ref = 井出(2006)}}
* {{Cite book|和書|author =松本信二、船越浩海、玉野井逸朗|editor = |title =細胞の増殖と生体システム|edition = 初版|year = 1993|publisher = [[学会出版センター]]|isbn = 4-7622-6737-6|page = |ref = 松本ら(1993)}}
* {{Cite book|和書|author =武村政春|editor = |title =DNAを操る分子たち|edition = 初版第1刷|year = 2012|publisher = [[技術評論社]]|isbn = 978-4-7741-4998-1|page = |ref = 武村(2012)}}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{Wiktionary}}
{{Wiktionary}}
{{Commonscat|Cells}}
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* [http://www.ugoky.com/scope/ugoky_bioscope.swf 生きものスコープ] - 細胞~原子までのFLASHアニメ 著者:[http://www.ugoky.com/ UGOKY]
* {{Mpedia|英語版記事名=Cells|英語版タイトル=Cells}}
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* [http://bunseiri.michikusa.jp/Cell.htm 細胞の構造] - [http://bunseiri.michikusa.jp/ ビジュアル生理学] 内の項目。
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2013年2月8日 (金) 16:18時点における版

動物の真核細胞のスケッチ

細胞(さいぼう)とは、全ての生物が持つ、微小な部屋状の下部構造のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。そして同時にそれ自体を生命体と言うこともできる[1]

細胞を意味する英語の「cell」の語源はギリシャ語で「小さな部屋」を意味する語である。1665年にこの構造を発見したロバート・フックが自著においてcellと命名した。

概要

細胞は、生物の原始的な形態である単細胞生物細菌原生生物など)[2]では個体そのもの、複雑な多細胞生物では組織を構成する基本的な単位である[1]。全ての生物がこの小部屋状の下部構造「細胞」から成り立ち、一般に「生物の最も基本的な構成単位」と認められ[3]、細胞を持つことが生物の定義のひとつとされることもある[4]。この考えではウイルスウイロイドは、細胞を持たず代謝を行わないことや自己増殖ができない点などから、生物とはみなされない[4]

細胞には、細胞質と外界を隔てる構造に包まれ、内部には解糖系クエン酸回路などの代謝する経路[5]などを担い生命活動を恒常的に行う器官を持ち、自己再生複製をするための遺伝情報とそれを発現させる機能が備わっている[1][6]

生物は多様であり、分類するドメインは複数ある。このうち、遺伝を担う共通の物質であるDNAがどのような形態に置かれているかによって、細胞そして生物は2種類に分類される[7]。DNAを保持するはっきりした構造を持たないものを原核生物(前核生物)と言い[1]、その他の細胞小器官(オルガネラ[8])も持たない[9]。このような細胞は原核細胞(前核細胞・裸核細胞)と呼ばれる[10]。これに対し、DNAを包むはっきりしたを持つ細胞が真核細胞(被核細胞・有核細胞)であり、明確な細胞小器官も見られる[1][11]細胞分裂においても、真核細胞が有糸分裂を行うのに対し、原核細胞は行わない[11]

さらに生物には、一つ一つの細胞が独立して生きていくような単細胞生物から、同じような細胞が集まって群体を形成して一緒に生きていくようなもの、また一つ一つの細胞に分かれては生きていけないほどまでに特殊化した細胞からなる多細胞生物まで、様々な形態がある[3]

細胞を構成する原料

元素

細胞は15種類以上の元素が含まれる[12]。重量比64%の酸素有機化合物の他に、呼吸で取り込んだ酸素ガスに含まれる。同18%の炭素は有機化合物の他に、呼吸で排出する二酸化炭素中にも存在する。同10%の水素は水や有機化合物に使われる。同3%の窒素アミノ酸塩基の原料となる[13]。ここまでの4種類は主要四元素と呼ばれる[12]

これに続き、神経細胞や細胞調整に使われるカルシウム・染色体やリン酸として使われるリンナトリウムカリウム塩素マグネシウムなどが続き、さらに微量元素と呼ばれる亜鉛マンガンヨウ素などがある[12][13]

分子

生命に必須の物質といわれる水[14]以外に細胞中に含まれる分子は、主に糖質脂質タンパク質アミノ酸)・核酸の4種に分けられる[13]

糖質では、単糖のリボースがヌクレオチドの成分として重要である。グルコースはエネルギー源となり、単純多糖化すると植物ではデンプン・動物ではグリコーゲンとなってエネルギー貯蔵能を持つ。セルロースは植物細胞の構造を支え、多糖のグリコサミノグリカンは動物細胞の細胞外マトリックスに多く含まれる[15]

不水溶性の脂質はグリセロールとのエステルである中性脂肪の形で存在し、エネルギー貯蔵の役目を持つ。また、リン酸と結合した脂質であるホスファチジルコリンなどのリン脂質は細胞膜の主成分である[16]

生体内においてタンパク質と核酸は、直接に遺伝情報を持つため「情報高分子」と呼ばれる[17]。酵素や[18]リボソーム[19]など生体物質などに使われるタンパク質は、 光学異性体L形に限られた20種類のアミノ酸がペプチド結合を重ね、高次構造を持ったさまざまな種類がある[20]

核酸は糖の1’位に塩基が結びついたヌクレオシドを基礎に、糖の4’位に結合したリン酸(ここまでの構造をヌクレオチドという)を介したジエステル結合によって連続的に繋がった構造を持つDNAと、そこから転写されつくられるヌクレオチド重合体であるRNAがある。DNAの糖は2-デオキシリボース、RNAの糖はリボースである。また塩基は、DNAではプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)およびピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の4種が、RNAではチミンに代わってピリミジン塩基のウラシル(U)を含む4種が使われる[21]

全ての細胞に共通する性質と構造

全ての細胞は生体膜である細胞膜で包まれ[22]、内部は生体物質を含む水溶液があり代謝の場となっている。リボソーム細胞質原形質)といった共通の構成要素を持っている。

外界から内部を隔てる約5nmの厚みを持つ細胞膜は、脂質二重層にタンパク質が結合した構成を持っている。その微細構造は疎水性の脂肪酸に親水性のリンや糖が結びついた分子が、疎水基を向かい合わせてP面を作り、親水基が外側のE面を作って緩く並び、所々にタンパク質が挟まっており、全体が流動している[22]。脂質部分は水や脂溶性物質のみの通過を許し、水溶性物質が通れる箇所は挟まったチャンネルタンパク質に空いた小さな穴のみ限定される上、キャリアタンパク質という箇所はエネルギーを消費して通過する物質を選択する性質を持つ[22]

細胞が持つDNAは、塩基配列または遺伝暗号 (genetic code)と言うヌクレオチドの塩基部分が並ぶ構造を持つ[23]。この塩基の並びは3つを基本的な単位としており、これをmRNAに転写し、細胞内のリボソームでmRNAの情報(コドン)が翻訳され、それに沿ってアミノ酸が数珠状に合成されタンパク質が作られる。この一連の反応はすべての細胞に共通する基本的な原理であり、そのためセントラルドグマと呼ばれる[23]

原核細胞と真核細胞

いろいろな細胞 (A)マウス肝細胞、(B)大腸菌、(C)出芽酵母
高度好塩菌。原核細胞生物である古細菌の一種。

細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられる。これらの最も大きな差異は細胞核の有無であり、原核細胞には細胞核がない[7]。原核細胞には真正細菌古細菌が含まれ、真核細胞は真核生物が含まれる。また、原核細胞から構成される生物をまとめて原核生物と呼ぶ。これら3 種類の生物群はドメインと呼ばれる最も上位の分類群で、古細菌と真核生物が近く、真正細菌が離れている[24]

原核細胞は真核細胞に比べ、細胞膜の中に懸濁したリボソームがあるだけの単純な構造を持つ。原核細胞は単細胞生物や群体をなす生物に限定して見ることができ、五界説モネラ界が相当する[7]。真核細胞は、その細胞膜の内側に細胞小器官を有する[7]ミトコンドリア葉緑体は細胞に取り込まれた真正細菌が共生したものに由来すると考えられている(細胞内共生説)。単細胞の真核生物は非常に多様な種類があるが、群体や多細胞生物の種類も多い(多細胞生物の中に含まれるである動物界植物界真菌は全て真核細胞生物である)。なお、原核細胞を裸核細胞、真核細胞を被核細胞と呼ぶこともある。

原核細胞

原核細胞は単純な組織を持ち、細胞を持つ生物の初期の形態を維持していると考えられる。最大の特徴はDNAを含む核様体が膜の区切りが無く細胞質の中に漂っている事と、一般に単位膜で包まれた細胞小器官を持たない事である[25]。DNA は環状で[26]、その一端が細胞膜の決まった箇所に付着している[25]

リボソームは細胞質中に浮遊したもの(遊離リボソーム)と、細胞膜に付着したもの(膜リボソーム)がある[25]ため細胞質気質はザラザラしている。なお原核細胞のリボソームは真核細胞のそれよりやや小さい[25]

細胞膜は脂質二重層であり、その外側にモリクテス綱テルモプラズマ綱を除くと細胞壁を持ち[25]細胞内と外界とを隔てている[22]エンドサイトーシスやミトコンドリアを持たない原核生物にとって、ここは電子伝達系を始めとした代謝の主要な場であり、盛んに内外との物質のやり取り、エネルギー生産などを行っている[25]。原核生物にとって細胞膜の機能は大変に重要であり、体積に対してある程度の表面積を確保する必要がある。これが原核生物が細胞サイズをあまり拡大できない理由の一つといえる。また細胞壁の存在は、低張液などの条件下での浸透圧による細胞の破裂を防止する。原核藻類(シアノバクテリアなど)は光合成を行う機能を持つ[25]

この他目立つ構造に、鞭毛線毛または莢膜粘膜層を持つものがある[25]。鞭毛はアクチン様タンパク質フラジェリンの螺旋様多重合体であり、これが細胞壁から突き出して回転し[25]、能動的に移動することができる。線毛はタンパク質の繊維で、病原体などが他者へ付着することを容易にする[25]。水を多く含み細胞を取り巻く莢膜や粘膜層は、食作用を受けにくくさせる効果がある[25]

真正細菌と古細菌を比較した場合、鞭毛や細胞壁は細菌や古細菌がそれぞれ独立に持つものであり、目的は同じでも両者の構造に共通点はない。また、古細菌の遺伝子発現やタンパク質合成系は真正細菌よりもむしろ真核生物に似ている(ただしDNA が細胞質中に存在するなど原核生物の基本的な性質は保存している)。古細菌のエーテル型脂質、特にその立体構造の違いは両者を決定的に区別するが、これは真正細菌と古細菌の違いというより、むしろ古細菌とその他の生物を区別する特徴である。

原核細胞の生理は機能化が進んだ真核生物よりも多様である。発見された数千種に過ぎない原核生物には、真核生物が成しえない硫黄からエネルギーを得るものや、空中窒素固定を可能にするものも存在する[25]

真核細胞

真核細胞は原核生物よりも一般に大きく、数種類の細胞小器官を持つなど複雑な構造をしている[27]

細胞質の基質は原核細胞と違ってざらざらしていない。これはリボソームの主要な部分が小胞体に結合しているためである。真核細胞の細胞質には細胞骨格(サイトスケルトン)と呼ばれる微小な管やフィラメント状がつくる網目もしくは束状をした3次元構造[28]がある。これが特に発達した動物の細胞では、細胞骨格が各細胞の形を決定づける。植物の場合、細胞の形は細胞壁による影響が大きいが、細胞骨格が原形質の流動を制御する。細胞小器官はこの細胞骨格に定着しており、浮遊状態には無い[29]。細胞骨格は細胞質フィラメントと呼ばれる3種類のタンパク質からなる繊維に分けられる[28]。また、細胞質フィラメントは骨格的機能だけでなく、分泌や情報の伝達、また運動にも機能すると推定されている[30]。細胞膜は、原核細胞と構成は少々異なる部分もあるが、機能はほぼ同じである。真核細胞では、細胞壁があるものもあれば、無いものもある。

真核細胞のDNA は、一本または複数本の分子から構成される直線状で原核生物よりも多く[27]染色体と呼ばれる[26]。染色体は、DNA がヒストンという塩基性タンパク質に絡みついた複合体(ヌクレオソーム)を構成してしっかりと凝縮した状態になっている[31]。全ての染色体のDNA は核の中に閉じ込められており、核膜によって細胞質と隔てられている。何種類かの細胞内小器官は、それぞれが独自のDNA を持つものがある。それらは大きさがほぼ細菌に近い事もあり、元々は別の生物だったものが共生によって細胞小器官となったとする考えを細胞内共生説という[24]

真核細胞生物の中には、繊毛鞭毛で移動できるものがある。鞭毛は原核生物のものとは構造が異なり、まったく違った性格のものであり、細胞骨格の一種である微小管がタンパク質繊維で結びついたものである[32]

原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ

  原核細胞 真核細胞
典型的な生物 細菌(真正細菌 古細菌 真核生物原生生物真菌植物動物[26]
一般的な大きさ 1から10 μm 5から100 μm
細胞核の形態 核様体; はっきりとした核の境界は無い。核膜の存在はごく稀 二重膜で区切られたはっきりした核がある
DNAの形態 環状。直線状は稀 環状、ヒストンと結合している 直線状で、ヒストンと結合している
細胞分裂時には染色体を形成する
末端はテロメアと結合する[26]
DNAの存在様式[7][24] 裸のDNA クロマチン様 タンパク質が結合したクロマチン様
RNA-/タンパク質-合成 細胞質中で行われる RNAの合成は核の中で、タンパク質の合成は細胞質で行われる
リボソーム 50S+30S 60S+40S
細胞質 エステル型脂質[24] エーテル型脂質[24] 膜と細胞骨格によって高度に構造化されている
細胞壁[7][24] ペプチドグリカン
ムラミン酸を持つ
タンパク質
ムラミン酸は無い
あり・なし
細胞の移動 フラジェリンから構成される鞭毛。滑走 古細菌型鞭毛 チューブリンから構成される鞭毛と繊毛
ミトコンドリア なし[7] 1から数十個
葉緑体 なし 藻類植物にある
組織化 通常単細胞。稀に群体 単細胞。稀に群体、融合細胞 単細胞、群体から高度に分化した多細胞まで
細胞分裂 Zリング Zリング(ユーリ古細菌)
ESCRT複合体(クレン古細菌)
収縮環
細胞板(植物)
細胞骨格[7] なし あり
原形質流動[7] なし あり

細胞小器官

典型的な動物細胞の模式図:(1)核小体(仁)、(2)細胞核、(3)リボソーム、(4)小胞、(5)粗面小胞体、(6)ゴルジ体、(7)微小管、(8)滑面小胞体、(9)ミトコンドリア、(10)液胞、(11)細胞質基質、(12)リソソーム、(13)中心体
典型的な植物細胞の模式図: 動物細胞との違いは、濃い緑色で描かれている細胞壁(Cell wall)、紺色で示されている液胞(vacuole)、筋の入った緑色の紡錘形に見える葉緑体(Chloroplast) 、核の左横に描かれた小さな球体である白色体(Leukoplast)のほか、細胞質分裂の後にも細胞壁の表面に残り、隣接する細胞と原形質を連絡する通路となる原形質連絡(Plasmodesmata)などである。

真核細胞の内部には、細胞小器官(細胞器官、オルガネラ)と呼ばれる膜に包まれた[27]構造体がある。これらはそれぞれ特有の機能を持ち[27]、まるで生命個体の器官のように働くため、このような名称がつけられた。例えば酸素を吸収し二酸化炭素を排出する面から見た呼吸の役割は、ミトコンドリアと比される。消化高分子を取り入れて加水分解することとすれば、ピノソーム消化管リソソームに相当する[33]。 他に、

なども存在する。

微小管、中間系フィラメントおよびアクチンフィラメントをまとめて、細胞骨格と呼ぶ。

そのあり方

実際には、すべての生物で細胞がこの様な構造が見られるわけではない。原生生物は多細胞生物の細胞と同様に核構造を持ち真核生物に分類されるが、変形菌の変形体やミズカビケカビなどでは大きな体が細胞に分かれておらず、しかも多数の核を含む。これは細胞の成長と核分裂が起きても細胞質分裂が起きないためで、多数の細胞に当たる内容が単一の細胞容器に含まれる。この様な生物は多核体と呼ばれる。同様に多数の細胞に当たる内容が単一の細胞の輪郭に含まれるものは多細胞生物にもあり、例えば横紋筋などがそうであるが、これはむしろ多数の細胞が融合したものと見なし、これを合胞体という。

多細胞生物では、逆に細胞として不可欠なはずの内容を欠く例もある。例えば我々ほ乳類赤血球には核がない。これはむしろ多細胞生物に見られる細胞の役割分担の中で、なくてもその機能が果たせる場合にはそれが退化することもある、ということであろう。

原核生物から多細胞生物へ

45億年前と言われる地球誕生後、最初の細胞は40億年前頃に原核生物として誕生した。真核背細胞への進化はその15億年後に成されたが、当初は単細胞生物であった。多細胞生物が誕生するには更に10億年の期間を待たなければならなかった[34]

原核細胞と真核細胞の大きな差異である核や細胞小器官は、それぞれが膜に包まれ、内容物を閉じ込めている。核では傷つきやすいDNAであり、葉緑体やミトコンドリアはエネルギー転移系、小胞体やゴルジ体は膜合成系と分泌器官系、細胞にとって危険な過酸化水素をつくる酵素ベルオキシダーを閉じ込めるミクロボディや、リソソームはやはり危険を伴う酵素や異物の消化を行う[27]

このような小器官は複数の発生段階を踏んだと考えられている[35]。葉緑体やミトコンドリアはそれぞれの機能を持つ原核生物を、初期の真核生物が食作用で細胞内に取り込み共生し、現在の姿になったと考えられる。この根拠として、両者は2重以上の単位膜に覆われ、独自のDNAを持ち、原核生物と同じ70Sのリボソームを持ち、また2重以上の単位膜に覆われる点が挙げられる。特に複数の膜は、内側が原核生物時代の細胞膜、外側が真核生物の食作用時につくった窪み部分の細胞膜をそれぞれ由来とすると思われる[35]

機械的に脆いDNAを守る核も2重の単位膜を持つ。この由来はよく分かっていないが[36]、原核細胞で見られるDNAが付着する細胞膜部分の周囲がへこみ、2重に折りたたまれた単位膜がDNAを覆った球状器官が細胞内部に入ったという意見がある[37]

小胞体やゴルジ体は1重の単位膜で構成される。タンパク質の合成と分泌に関わるこれら小器官に相当する機能を原核細胞では細胞膜と付着するリボソームで行っている。真核細胞は進化の過程でリボソームを持つ細胞膜の一部を内部に凹ませ、細胞内でのタンパク質合成とゴルジ体そして液胞を使った分泌のメカニズムを獲得したという説がある[37]。同様に1重単位膜のリソソームも、食作用のため細胞膜の一部を異物を取り囲むように腔を作った部分の変化とも考えられる[37]

多細胞生物は生命活動の役割を細胞単位で分担しているという特徴がある。しかし、このように違う各細胞のDNAは基本的に変わらない。これは、ひとつはDNAの発現部分の選択や後成的な仕組みによってコントロールされる。これらはエピジェネティックと呼ばれる[38]

細胞の大きさ

地球生物で細胞の大きさを競えるものは卵細胞であり、ヒトが持ちうる最大の細胞も卵子と例外ではない。特に鳥類が産む大きな黄身は1つの卵細胞に当たり、最大と言われるダチョウでは7,500,000,000,000,000μm3にもなる。ヒトの卵子は1,400,000μm3に過ぎない[39]

細胞の死

細胞の死は生物が成長する各段階において見られ、例えばオタマジャクシの尾が収縮する例が挙げられる。その死には遺伝子にあらかじめ組み込まれた情報に則ったものから、偶発的な場合もある[40]。自発的な細胞死はアポトーシス、偶発的な細胞死(壊死)はネクローシスと呼ばれる[41]

細胞中の塩基は波長260nmの紫外線を特異的に吸収する性質を持ち、DNAの塩基構造を変化させることがある。例えば、チミンが並ぶ部分が紫外線を吸光すると、その間シクロブタン環が形成され、対になるグリシンがアデニンに変化する現象が起こる。結果遺伝情報が書き換えられ、突然変異やガン化または細胞死などの異常を起こす可能性が生じる。また塩基構造の変化はDNAの複製や転写を阻害してしまう事もある[42]

クロイツフェルト・ヤコブ病は不充分な折りたたみ構造を持つ異常タンパク質が引き起こす脳細胞死が原因である。これを含むプリオン病プリオンは本来水溶性のタンパク質だが、らせん構造が減少しβシート構造が増えた異常プリオンは不溶化し、分解されずに脳細胞に沈着する。これが鋳型となり正常はプリオンを異常化させ、増殖するように振舞いながら脳細胞を死に至らしめる [43]

歴史

コルクの細胞を描いたロバート・フックのスケッチ

英語「cell(=小さな部屋)」の命名はロバート・フック著「顕微鏡図譜」「Micrographiaミクログラフィア」が始まりとされる。 1665年、彼はコルクガシコルク層の小片を自作の顕微鏡で観察している時にこの構造を始めて発見し、生物は細胞から作られていると考えた。ただし彼が実際に観察したものは、内容物を失ったあとの細胞壁であった[3]。その後、アントニ・ファン・レーウェンフックが発明した高性能の顕微鏡で細胞観察を行った[3]

1838年にはテオドール・シュワンが植物組織を、翌年にはマティアス・ヤコブ・シュライデンが動物組織を観察した結果から[44]、生物は基本的に細胞から構成されているとし、細胞は生物共通の構造で発生の基本単位であるとする「細胞説」を提唱した[3]。細胞説は、細胞がどのように発生するかを説明していなかったが、1855年にルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーが「細胞は分裂して増える」という説を発表し、1860年にルイ・パスツールが生物の自然発生説を否定し、生物は細胞増殖で成長すると考えられるようになった[3]

1857年にはミトコンドリアが、1898年にはカミッロ・ゴルジによってゴルジ体が発見された[44]。1950年代頃から電子顕微鏡による観察が盛んに行われ、細胞膜や細胞骨格が観察された[44]。さらに、多細胞生物の組織内部にある細胞についても1951年にHeLa細胞で細胞培養と不死化が成功して以来、観察が可能となった。技術は進み、均一な細胞集団の早い増殖技術、生化学遺伝学の研究技法の導入、遺伝子組み換え技術や細胞工学的技術の発展、発生生物学技術の進歩などを取り込みながら、細胞の研究は進展している[44]

ヒトの細胞

ヒトの細胞は、最小のリンパ球で直径約5 μm、最大のひとつ卵子は約120 μmある。一般的な細胞は10-20 μmである。人体1kg当たりの平均的細胞数は約1兆個であり、体重60 kgの平均的男性の場合、その身体は約60兆個で作られている事になる[6]

ヒトの体には生殖細胞体細胞があり、そのほとんどを占める体細胞は約200種で、増殖方法から大きく3種類の組織に分けられる[45]。生理的再生系組織では、正常な状態でも常に細胞が再生・機能・死にある3つの群が存在する。血液の単球は数日から比較的長い赤血球でも120日程度で死を迎え、一方で骨髄幹細胞から常に再生供給される。その入れ替わりは1分間に数億個に相当する。表皮消化器系の上皮も常に基底部で新しい細胞が作られ、表面の細胞は死んで脱落を繰り返す[45]。条件再生系組織の細胞は、通常ではほとんど増えないが、傷つくなど特別な状況で増殖を行う。肝細胞はこの顕著な例で、分裂は通常の場合年に1回程度だが、手術などで一部を除去すると猛烈に増殖を行う。例えば肝臓の70%を切除しても1週間程度で元に戻る。この種類の細胞になる幹細胞は未だ発見されていない[45]。非再生系組織の細胞は増殖能力が無く、自然には再生しない。神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞など特殊な機能に分化したものがこれに当たり、加齢とともに減少の一途を辿る。筋力トレーニングで骨格筋は太くなるが、これは細胞が増えたのではなく細胞内のタンパク質が増えたものである。同様に肥満も細胞が脂肪を蓄えたためで、細胞の数は基本的に変わらない[45]

脚注

  1. ^ a b c d e 生化学辞典第2版、p.531-532 【単細胞生物】
  2. ^ 生化学辞典第2版、p.802 【単細胞生物】
  3. ^ a b c d e f 田村(2010)、p.3-4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-1細胞は生物の単位
  4. ^ a b 田村(2010)、p.2、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞
  5. ^ 生化学辞典第2版、p.777-778 【代謝経路】
  6. ^ a b 解剖学第2版、p.2-10、細胞
  7. ^ a b c d e f g h i 田村(2010)、p.7-8、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-3生物を二つに分類する
  8. ^ 生化学辞典第2版、p.239 【オルガネラ】
  9. ^ 生化学辞典第2版、p.440-441 【原核細胞】
  10. ^ 生化学辞典第2版、p.440 【原核細胞】
  11. ^ a b 生化学辞典第2版、p.666 【真核細胞】
  12. ^ a b c 田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-3細胞をつくる元素
  13. ^ a b c 田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-4細胞に含まれる分子
  14. ^ 田村(2010)、p.24-25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-2水という特異な物質
  15. ^ 田村(2010)、p.27-29、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-5糖質
  16. ^ 田村(2010)、p.29-31、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-6脂質
  17. ^ 田村(2010)、p.32、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質
  18. ^ 田村(2010)、p.48-49、Ⅱ代謝:生体内化学反応、6酵素、6-1酵素はタンパク質触媒
  19. ^ 田村(2010)、p.112-113、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、13タンパク質合成、13-3リボソーム
  20. ^ 田村(2010)、p.32-37、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質、4-1タンパク質を構成するアミノ酸
  21. ^ 田村(2010)、p.38-40、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-1核酸を構成するヌクレオチド
  22. ^ a b c d #松本ら(1993)、p.47-50、3.細胞の微細構造とその機能、3.1.細胞と膜
  23. ^ a b 武村(2012)、p.14-24、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-1 DNAとセントラルドグマ
  24. ^ a b c d e f 田村(2010)、p.8-12、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-4生物の進化
  25. ^ a b c d e f g h i j k l #松本ら(1993)、p.50-52、3.細胞の微細構造とその機能、3.2.原核生物とその構造的特長
  26. ^ a b c d 井出(2006)、p.65-75、第6章 テロメアとは何か
  27. ^ a b c d e #松本ら(1993)、p.53-56、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.1真核生物の構造と機能概説
  28. ^ a b 生化学辞典第2版、p.534 【細胞骨格タンパク質】
  29. ^ 生化学辞典第2版、p.534 【細胞骨格】
  30. ^ 生化学辞典第2版、p.535 【細胞質フィラメント】
  31. ^ 井出(2006)、p.99-119、第9章 テロメナーゼという酵素
  32. ^ #松本ら(1993)、p.56-57、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.2細胞小器官以外の細胞質-細胞骨格、鞭毛、繊毛
  33. ^ 生化学辞典第2版、p.537 【細胞小器官】
  34. ^ 武村(2012)、p.104-120、第4章 体細胞の分化とエピジェネティクス、4-1 多細胞生物の細胞とホメオティック遺伝子
  35. ^ a b #松本ら(1993)、p.57-60、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.3真核生物の系統発生と葉緑体、ミトコンドリア、羽型鞭毛
  36. ^ #松本ら(1993)、p.60-63、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.4核
  37. ^ a b c #松本ら(1993)、p.55
  38. ^ 武村(2012)、p.25-33、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-2 エピジェネティクスとはなにか
  39. ^ アイザック・アシモフ 著、小尾信彌、山高昭 訳「第一部 生物学 2.卵とチビ」『空想自然科学入門』(18刷)ハヤカワ文庫、1995年(原著1978年)、32-49頁。ISBN 4-15-050021-5 
  40. ^ 生化学辞典第2版、p.533 【細胞死】
  41. ^ 生化学辞典第3版 p.572 【細胞死】
  42. ^ 田村(2010)、p.42-45、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-4核酸の性質
  43. ^ 田村(2010)、p.123-126、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、14タンパク質の局在化,成熟,分解、14-6タンパク質の分解
  44. ^ a b c d 田村(2010)、p.4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-2細胞生物学の発展
  45. ^ a b c d 井出(2006)、p.1-10、第1章 ヒトを構成する細胞

参考文献

外部リンク


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