ボッキディウム・チンチンナブリフェルム

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ボッキディウム・チンチンナブリフェルム
Bocydium tintinnabuliferum
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: カメムシ目 Hemiptera
亜目 : 頸吻亜目 Auchenorrhyncha
下目 : セミ型下目 Cicadomorpha
上科 : ツノゼミ上科 Membracoidea
: ツノゼミ科 Membracidae
亜科 : Stegaspidinae
: Stegaspidini
: ボッキディウム属 Bocydium
: ボッキディウム・チンチンナブリフェルム
B. tintinnabuliferum
学名
Bocydium tintinnabuliferum Lesson, 1832

ボッキディウム・チンチンナブリフェルムBocydium tintinnabuliferum)は、カメムシ目ツノゼミ科の昆虫。

1832年ルネ=プリムヴェール・レッソンによって記載された[1]種小名の由来はラテン語で「鈴」の意がある“tintinnabulum”に「…を持つ」の意がある接尾辞“-fer”を合わせたもの[2]

分布[編集]

ブラジルのバイーア州エスピリトサント州(Conceição da Barra, Santa Teresa)、リオデジャネイロ州から知られている[3]

形態[編集]

全長5ミリメートル。近縁種のマルヨツコブツノゼミB. globulareに似ているが、いくつかの特徴により区別出来る。黒い前胸(第一胸節)には特異な形状の突起した構造物がある(この構造物が何の役に立つか、説明できた者はいない[4])。それは頭部の真上に少し湾曲しつつ立ち上がる柱状の部分と、その先端に付属する5本の枝分かれした部分で構成される。前方に向かって2本の枝分かれがあるが、その先端には小さな球状の構造物がある。横向きに2本の枝分かれがあるが、その途中に小さな球状の構造物があり、先端は尖っている。後方にむかう1本の枝分かれは正中線に沿って腹部を越えて延び、その先端は尖っている。この構造物全体は光沢のある黒色である。褐色の鞘翅は長方形に近く、オレンジ色の腹部には黒色の細かい斑点がある。肢は黄色[1]。メスの亜生殖板は2葉に分かれ、オスでは細長く外側に湾曲する[5]

生態[編集]

不完全変態を行う。本種は単独で生活し、若虫[6]および成虫は葉の裏に生息し、樹液を吸収する。夜間、成虫は人工光源に誘引される。詳しい生態はよくわかっていない[3]

近縁種[編集]

本種を含むBocydium属は南米に分布し、いずれも奇妙な形態を持つツノゼミとして知られている[7]属名の由来は、一説としてギリシア語で「素早い」を意味する“ōkys”と指小辞-idium[2]。この説における語頭の“B”は発音上の都合または意味を強めるために挿入したものと考えられている[8]。一方で「牛」の意がある“βοῦς”と「装飾」の意がある“κύδος”に由来するとする説もある[9]

Bocydium属の模式種はB. globulare (= Centrotus globularis Fabricius, 1803) であり、1999年までに15有効種が知られている[5]。2017年に新種として6種が記載された[3]

  • Bocydium amischoglohum Sakakibara, 1981[5]
  • Bocydium anisobullatum Sakakibara, 1981[5]
  • Bocydium astilatum Richter, 1955[5]
  • Bocydium bilobum Flórez-V, 2017[3] ホソヨツコブツノゼミ[10]
  • Bocydium bulliferum Goding, 1930[3]
  • Bocydium duoglobum Cryan, 1999[5]
  • Bocydium germarii Guérin-Méneville, 1844[5]
  • Bocydium globulare (Fabricus, 1803)[5] ヨツコブツノゼミ[10]、マルヨツコブツノゼミ[7]: globe-bearing treehopper[11]
  • Bocydium globuliferum (Pallas, 1766)[5]
  • Bocydium hadronotum Flórez-V, 2017[3]
  • Bocydium mae Flórez-V, 2017[3]
  • Bocydium nigrofasciatum Richter, 1955[5]
  • Bocydium racemiferum Sakakibara, 1981[5]
  • Bocydium rufiglobum Fairmaire, 1846[5]
  • Bocydium sakakibarai Flórez-V, 2017[3]
  • Bocydium sanmiguelense Flórez-V, 2017[3]
  • Bocydium sexvesicatum Sakakibara, 1981[5]
  • Bocydium sphaerulatum Sakakibara, 1981[5]
  • Bocydium tatamaense Flórez-V, 2017[3]

人との関わり[編集]

学名のカタカナ表記が下ネタ[注釈 1]であるとして各所で話題になることがある。2020年10月12日に放送された『つボイノリオの聞けば聞くほど』に、一人のリスナーからお便りが寄せられたが、つボイノリオはこの学名をいたく気に入った様子ではしゃいだ[12]2022年神尾晋一郎は自らが出演したイベントでこの学名について知り、同年8月31日の『サクラバシ919』の放送で、「言い間違えると危険な言葉が連発している」と衝撃を受けたと話した[13]。なお偶然の一致であるが、種小名の語源であるチンチンナブルムは大抵の場合勃起した陰茎の形をしていた。

ダーウィンが来た! 』のコーナー・「マヌールのゆうべ」に、ヨツコブツノゼミ[注釈 2]をモチーフにしたキャラクター「ツノミン」が登場する[14]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 勃起(ぼっき)、ちんちん
  2. ^ 本種か近縁種の Bocydium globulare かは不明。

出典[編集]

  1. ^ a b Lesson 1831, コマ番号:295/354.
  2. ^ a b 平嶋 2012, p. 137.
  3. ^ a b c d e f g h i j Flórez-V & Evangelista 2017.
  4. ^ 丸山 2011, p. 8-9.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n Cryan & Deitz 1999.
  6. ^ 山田常雄, 前川文夫, 江上不二夫, 八杉竜一, 小関治男, 古谷雅樹, 日高敏隆 編『岩波生物学辞典』(第2版)岩波書店、1979年10月25日、1304頁。 
  7. ^ a b 丸山 2017, p. 32.
  8. ^ 平嶋 2015, p. 196.
  9. ^ Dmitriev 2022.
  10. ^ a b 丸山ほか 2019, p. 8.
  11. ^ 矢野 2018, p. 463.
  12. ^ ボッキ…チンチン…?見た目も名前もすごすぎる虫が存在した!”. radichubu.jp. 株式会社CBCラジオ (2020年10月14日). 2022年12月31日閲覧。
  13. ^ 「これはすごい!」声優の神尾晋一郎が衝撃を受けた昆虫の学名”. sankei.com (2022年9月1日). 2023年1月1日閲覧。
  14. ^ ヨツコブツノゼミ ツノミン”. darwin-zoo.jp. 株式会社NHKエンタープライズ. 2023年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年6月26日閲覧。

参考文献[編集]

  • René Primevère Lesson (1831). Illustrations de zoologie, ou, Recueil de figures d'animaux peintes d'après nature. Imprimerie de Mme Huzard. doi:10.5962/bhl.title.41398. https://archive.org/stream/illustrationsdez00lesso#page/n294 2022年12月31日閲覧。(コマ番号:295/354) 
  • Jason Robert Cryan & Lewis L. Deitz (1999). “Review of the new world treehopper tribe Stegaspidini (Hemiptera: Membracidae: Stegaspidinae): I Bocydium Latreille, Lirania Stål, and Smerdalea Fowler”. Proceedings of the Entomological Society of Washington 101 (3): 469–489. 
  • Camilo Flórez-V & Olivia Evangelista (2017). “New species in the treehopper genus Bocydium Latreille, with description of nymphal stages and observations on their natural history”. Zootaxa 4281 (1): 22–57. doi:10.11646/zootaxa.4281.1.4. 
  • Dmitry A. Dmitriev (2022). “Etymology and grammatical gender of generic names in Auchenorrhyncha (Hemiptera)”. Illinois Natural History Survey Bulletin 43: 2022001. doi:10.21900/j.inhs.v43.837. 
  • 平嶋義宏「第4節 奇抜なツノゼミ」『学名論:学名の研究とその作り方』東海大学出版会、2012年、133-146頁。ISBN 978-4-486-01923-7 
  • 丸山宗利『ツノゼミ ありえない虫』(第1刷)幻冬舎、2011年6月25日、8-9頁。ISBN 978-4-344-02011-5 
  • 丸山宗利「フランス領ギアナのツノゼミ」『昆蟲(ニューシリーズ)』第20巻第1号、日本昆虫学会、2017年、32-34頁、doi:10.20848/kontyu.20.1_32 
  • 丸山宗利、小松貴知久寿焼『ふしぎないきもの ツノゼミ』あかね書房、2019年、8頁。ISBN 978-4-251-09927-3 
  • 矢野宏二 編『世界の昆虫英名辞典 vol.1 A-L』(初版第1刷)櫂歌書房、2018年5月12日、463頁。ISBN 978-4-434-24028-7 
  • 平嶋義宏『日本語でひく動物学名辞典』(第1版第1刷)、2015年2月5日、196頁。ISBN 978-4-486-02056-1 

関連項目[編集]