グループIIイントロン

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Group II catalytic intron, D5
グループIIイントロンの全二次構造
識別
略称 Intron_gpII
Rfam RF00029
その他のデータ
PDB構造 PDBe 6cih
Group II catalytic intron, D1-D4
識別
略称 group-II-D1D4
Rfam CL00102
その他のデータ
PDB構造 PDBe 4fb0

グループIIイントロン: group II intron)は、自己触媒型リボザイムのグループの1つである。特定の遺伝子内にみられる可動性遺伝因子であり、生命の全てのドメインに存在している。リボザイム活性(自己スプライシングなど)はin vitroでは高塩濃度条件下で生じるものの、in vivoでのスプライシングにはタンパク質の補助が必要である[1]グループIイントロン英語版とは対照的に、イントロンの切除はGTPの非存在下で生じ、内でのpre-mRNAスプライシング時のもの非常によく似た、アデニン残基を分岐点とするラリアット(投げ縄)構造が形成される。スプライソソームによるpre-mRNAのスプライシングはグループIIイントロンから進化したものである可能性があり、触媒機構に加え、グループIIイントロンのドメインVとU6/U2 snRNAとの間にも構造的類似性がみられる[2][3]。また、グループIIイントロンはDNAへ部位特異的に挿入を行う能力を持ち、バイオテクノロジーにおけるツールとしても利用されている[4]。一例として、グループIIイントロンをゲノムに部位特異的に組み込まれるよう改変を行い、レポーター遺伝子lox部位の挿入に利用することができる[5]

構造と触媒[編集]

ドメインVの構造は、グループIIイントロンとU6 snRNAとの共通点である。

グループIIイントロンの二次構造は6つの典型的なステムループ構造で特徴づけられ、ドメインIからVI(DI–DVIまたはD1–D6)と呼ばれている。中心部のコアから各ドメインが放射状に延び、このコアによって5'側と3'側のスプライスジャンクションは近接している。各ドメインの基部のらせん構造は中心コアの数ヌクレオチド(リンカーもしくは joiner sequenceと呼ばれる)で連結されている。ドメインIのサイズは非常に大きいため、さらにサブドメインaからdへ分けられる。グループIIイントロンは配列の差異によりサブグループIIA、IIB、IICへと分類され、ドメインIのcoordination loopなどの構造エレメントがIIBとIICのイントロンには存在するが、IIAには存在しないといった差異がみられる[1]。グループIIイントロン全体は非常に複雑な三次構造を形成している。

グループIIイントロンには保存されたヌクレオチドはごくわずかしか存在せず、触媒機能に重要なヌクレオチドはイントロン構造全体に散らばっている。配列が厳密に保存されているわずかな例としては、5'、3'スプライス部位のコンセンサス配列(...↓GUGYG...と...AY↓...、Yはピリミジンを表している)、中心部のコアのヌクレオチド(joiner sequence)、ドメインVの比較的多数のヌクレオチド、ドメインIのいくつかの短い配列などがある。ドメインVIの塩基対を形成していないアデノシン(冒頭の図でアスタリスクで示されている、3'スプライス部位から7–8ヌクレオチド離れた塩基)も保存されており、スプライシング過程に中心的役割を果たす。このバルジを形成したアデノシンの2'ヒドロキシル基が5'スプライス部位を攻撃し、続いて上流のエクソンの3'ヒドロキシル基が3'スプライス部位へ求核攻撃を行う。その結果、このアデノシンでの2'ホスホジエステル結合によって連結されたラリアット構造を持つ、分岐したイントロンが形成される。

In vivoでのスプライシングにはタンパク質装置が必要であり、スプライス部位の決定には長距離のイントロン-イントロン相互作用やイントロン-エクソン相互作用のほか、キッシングループ英語版相互作用やテトラループ英語版-レセプター相互作用といった、いくつかのモチーフ間の三次構造的接触が重要となる。スプライシングの第一段階が起こる前には、分岐部位、双方のエクソン、ドメインV、J2/3リンカー領域など触媒に必須の領域、そしてε−ε'構造が近接して位置している。ドメインVのバルジとAGC triad、J2/3、ε−ε'、ドメインIのcoordination loopが活性部位の構造と機能に重要である[6]

グループIIイントロンの結晶構造は、Oceanobacillus iheyensis英語版のグループIICイントロンの構造が2008年に初めて解かれ[7]、2014年にはPylaiella littoralis英語版 (P.li.LSUI2) のグループIIBイントロンの構造が解かれた[8]。さらに、既知の構造へのホモロジーマッピングや未解明の領域のde novoモデリングを行うプログラムを組み合わせることにより、ai5γグループIIBイントロンなど、その他のグループIIイントロンの三次構造をモデリングする試みも行われている[9]。グループIICはCGCからなるcatalytic triadを持つことで特徴づけられるのに対し、グループIIAとIIBはAGCからなるcatalytic triadを持ち、スプライソソームのcatalytic triadとの類似性が高い。グループIICのイントロンはより小さく、反応性が高く、より歴史が古いものであると考えられている。グループIICイントロンのスプライシングの第一段階は水分子によって行われ、イントロンはラリアット構造ではなく直線形で切り出される[10]

分布と系統[編集]

Domain X
識別子
略号 Domain_X
Pfam PF01348
Pfam clan CL0359
InterPro IPR024937
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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Group II intron, maturase-specific
識別子
略号 GIIM
Pfam PF08388
Pfam clan CL0359
InterPro IPR013597
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
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グループIIイントロンは菌類植物原生生物オルガネラrRNAtRNAmRNAに見つかるほか、細菌のmRNAにも存在する。グループIとは異なるものとして最初に同定されたのはai5γグループIIBイントロンであり、1986年に出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeoxi3ミトコンドリア遺伝子のpre-mRNA転写産物から単離された[11]

グループIIイントロンの一部は、イントロンORFにIEP(intron-encoded protein)と呼ばれる、必要不可欠なスプライシングタンパク質をコードしている。その結果、こうしたイントロンの長さは最大で3 kbにもなる。グループIIイントロンのスプライシングは核内でのpre-mRNAのスプライシングとほぼ同じ様式の2段階のエステル交換反応で進行し、また各段階で脱離基の安定化にマグネシウムイオンを用いる点も同じである。そのため、グループIIイントロンと核内のスプライソソームとが系統学的に関係しているという仮説が立てられている。この関係を支持するさらなる証拠として、スプライソソームRNAのU2/U6ジャンクションとグループIIイントロンのドメインVは構造的に類似しており、この領域には触媒を担うAGC triadや活性部位の心臓部の大部分が含まれている。そのほか、5'末端と3'末端の保存配列も共通している[12]

LtrA英語版を含む多くのIEPには、共通して逆転写酵素(RT)様ドメインと「ドメインX」(Domain X)と呼ばれる領域が存在する[13]。こうしたIEPとある程度の類似性を示すタンパク質としてはMatK英語版があり、植物の葉緑体に存在する。MatKはin vivoでのグループIIイントロンのスプライシングに必要であり、葉緑体ゲノムのイントロンもしくは核ゲノムにコードされている[13]

タンパク質ドメイン[編集]

グループIIイントロンのIEPは、オルガネラではドメインX、細菌では"GIIM"と呼ばれる保存されたドメインを共通して持つが、他のレトロエレメントはこうした配列を持たない[14][15]。ドメインXは酵母のミトコンドリア内でのスプライシングに必要不可欠である[16]。このドメインはイントロンRNA[15]もしくはDNA[17]の認識と結合を担っている可能性がある。

出典[編集]

  1. ^ a b “Group II introns: mobile ribozymes that invade DNA”. Cold Spring Harbor Perspectives in Biology 3 (8): a003616. (August 2011). doi:10.1101/cshperspect.a003616. PMC 3140690. PMID 20463000. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3140690/. 
  2. ^ “Structure of a self-splicing group II intron catalytic effector domain 5: parallels with spliceosomal U6 RNA”. RNA 12 (2): 235–47. (February 2006). doi:10.1261/rna.2237806. PMC 1370903. PMID 16428604. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1370903/. 
  3. ^ “Role of the snRNAs in spliceosomal active site”. RNA Biology 7 (3): 345–53. (May–Jun 2010). doi:10.4161/rna.7.3.12089. PMID 20458185. 
  4. ^ “Group II introns as controllable gene targeting vectors for genetic manipulation of bacteria”. Nat Biotechnol 19 (12): 1162–7. (December 2001). doi:10.1038/nbt1201-1162. PMID 11731786. 
  5. ^ “A Targetron-Recombinase System for Large-Scale Genome Engineering of Clostridia”. mSphere 4 (6): e00710-19. (December 2019). doi:10.1128/mSphere.00710-19. PMC 6908422. PMID 31826971. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6908422/. 
  6. ^ “A single active-site region for a group II intron”. Nature Structural & Molecular Biology 12 (7): 626–7. (July 2005). doi:10.1038/nsmb957. PMID 15980867. 
  7. ^ Toor, Navtej; Keating, Kevin S.; Taylor, Sean D.; Pyle, Anna Marie (2008-04-04). “Crystal structure of a self-spliced group II intron”. Science (New York, N.Y.) 320 (5872): 77–82. doi:10.1126/science.1153803. ISSN 1095-9203. PMC 4406475. PMID 18388288. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18388288. 
  8. ^ Robart, Aaron R.; Chan, Russell T.; Peters, Jessica K.; Rajashankar, Kanagalaghatta R.; Toor, Navtej (2014-10-09). “Crystal structure of a eukaryotic group II intron lariat”. Nature 514 (7521): 193–197. doi:10.1038/nature13790. ISSN 1476-4687. PMC 4197185. PMID 25252982. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25252982. 
  9. ^ “Visualizing the ai5γ group IIB intron”. Nucleic Acids Research 42 (3): 1947–58. (February 2014). doi:10.1093/nar/gkt1051. PMC 3919574. PMID 24203709. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3919574/. 
  10. ^ “A structural analysis of the group II intron active site and implications for the spliceosome”. RNA 16 (1): 1–9. (January 2010). doi:10.1261/rna.1791310. PMC 2802019. PMID 19948765. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2802019/. 
  11. ^ “A self-splicing RNA excises an intron lariat”. Cell 44 (2): 213–23. (January 1986). doi:10.1016/0092-8674(86)90755-5. PMID 3510741. 
  12. ^ “Metal ion catalysis during the exon-ligation step of nuclear pre-mRNA splicing: extending the parallels between the spliceosome and group II introns”. RNA 6 (2): 199–205. (February 2000). doi:10.1017/S1355838200992069. PMC 1369906. PMID 10688359. http://rnajournal.cshlp.org/content/6/2/199.long. 
  13. ^ a b “Evolutionary origin of a plant mitochondrial group II intron from a reverse transcriptase/maturase-encoding ancestor”. Journal of Plant Research 119 (4): 363–71. (July 2006). doi:10.1007/s10265-006-0284-0. PMID 16763758. 
  14. ^ “Evolutionary relationships among group II intron-encoded proteins and identification of a conserved domain that may be related to maturase function”. Nucleic Acids Research 21 (22): 4991–7. (November 1993). doi:10.1093/nar/21.22.4991. PMC 310608. PMID 8255751. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC310608/. 
  15. ^ a b “Presence of a group II intron in a multiresistant Serratia marcescens strain that harbors three integrons and a novel gene fusion”. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 46 (5): 1402–9. (May 2002). doi:10.1128/AAC.46.5.1402-1409.2002. PMC 127176. PMID 11959575. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC127176/. 
  16. ^ “Splicing defective mutants of the COXI gene of yeast mitochondrial DNA: initial definition of the maturase domain of the group II intron aI2”. Nucleic Acids Research 22 (11): 2057–64. (June 1994). doi:10.1093/nar/22.11.2057. PMC 308121. PMID 8029012. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC308121/. 
  17. ^ “Group II intron endonucleases use both RNA and protein subunits for recognition of specific sequences in double-stranded DNA”. The EMBO Journal 16 (22): 6835–48. (November 1997). doi:10.1093/emboj/16.22.6835. PMC 1170287. PMID 9362497. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1170287/. 

関連文献[編集]

関連項目[編集]