レトロニム

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レトロニム英語: retronym[1])とは、ある意味時代とともに拡張された、あるいは変化した場合に、古い意味の範囲を特定的に表すために後から考案された語のことを指す[2]

「レトロニム」という単語は、「過去」を意味する「レトロ(retro)」と「語」を意味する接尾辞 (-onym) の合成語である[3]

つまり、時代の変化により新しい事物が生まれたことから、既存の事物を新しいものと区別するため「後から」つくられた言葉を「レトロニム」と呼ぶ[1]。一例を挙げれば、カメラにおいてデジタルカメラが出現したために「フィルムカメラ」の語が生まれ[1]、またオンラインショップの普及により「実店舗」の語が生まれた[1]

概要[編集]

語源[編集]

1980年ナショナル・パブリック・ラジオ局長の Frank Mankiewicz が造語し、コラムニストウィリアム・サファイアが、ニューヨーク・タイムズの中で使用したことで広まった[4][5]

なお、日本語の「命名」という用語は、1976年鈴木孝夫が『日本語の語彙と表現』の中で用いている[6]。これは「レトロニム」に先立つ用語である。

レトロニムの例[編集]

  • 人類の長い歴史で、もともと樹皮から分泌される粘着性の液体が固化した物質のみを樹脂(レジン、: resin)と呼んでいて、あくまで樹木から採れたものだけが「樹脂」と呼ばれていた時代は非常に長いが、19世紀以降に、樹木からではなく化石燃料資源を原料として、樹脂に似た物質が人工的に製造されるようになり、それを「合成樹脂」(: synthetic resin)と呼ぶようになったことで、それと区別しつつ従来「樹脂」と呼ばれていたものを呼ぶ必要が生じ、「天然樹脂」(: natural resin)というレトロニムがつくられた。
  • 19世紀前半に発明された「カメラ」は、もともと写真だけを撮影するものだということが当然視されていてそれを「カメラ」と呼んでいたが、19世紀後半に写真が連続的に動く映画を撮影できるカメラが発明され、それを「映画用カメラ」(: cine-camera)などと呼ぶことが行われると、それと区別・対比して従来のカメラを呼ぶために「スチルカメラ」というレトロニムがつくられた(また動画に対して「スチル写真」というレトロニムもつくられた)。
またカメラは写真フィルムを使うのが当たり前だと見なされており、それを単に「カメラ」と呼んでいた時代は長かったが、1975年にイーストマンコダックの技術者Steven Sassonがフィルムを使わずCCDを用いてデジタル方式で画像情報を記録するカメラのプロトタイプを制作し、1980年代後半から1990年代前半にかけてその方式のカメラが多数のメーカーで開発され一般向けに広く販売されるようになり「デジタルカメラ」と呼ばれるようになると、それと区別して従来のカメラを呼ぶ必要が生じて「フィルムカメラ」というレトロニムがつくられた。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d "レトロニム". デジタル大辞泉. コトバンクより2024年5月23日閲覧
  2. ^ Retronym”. http://www.websters-online-dictionary.org/:+ Webster's Online Dictionary. 2013年3月23日閲覧。 “A word introduced because an existing term has become inadequate; "Nobody ever heard of analog clocks until digital clocks became common, so `analog clock' is a retronym".
  3. ^ "retronym", "retro", "-onym" Merriam-Webster Dictionary
  4. ^ Richard Nordquist. “retronym”. About.com Grammar & Composition. 2012年5月16日閲覧。
  5. ^ William Safire (2007年1月7日). “On Language: Retronym”. The New York Times. http://www.nytimes.com/2007/01/07/magazine/07wwln_safire.t.html 
  6. ^ 「レトロニム」という言葉、現象について, レファレンス協同データベース, 2016-10-21

関連項目[編集]