しきしま (巡視船・初代)
しきしま | |
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基本情報 | |
建造所 | 石川島播磨重工業東京工場 |
船種 | 巡視船 (ヘリコプター2機搭載型) |
次級 | あきつしま |
母港 |
横浜 (第三管区) →鹿児島 (第十管区) |
船歴 | |
発注 | 平成元年度補正予算 |
起工 | 1990年4月28日 |
進水 | 1991年6月27日 |
就役 | 1992年4月8日 |
退役 | 2024年4月15日 |
要目 | |
総トン数 | 7,175トン[1] |
全長 | 150.0 m[1] |
最大幅 | 16.5 m[1] |
深さ | 9.0 m[1] |
主機 | ディーゼルエンジン×4基 |
推進 | スクリュープロペラ×2軸 |
速力 | 25ノット |
航続距離 | 20,000海里 (18kt巡航時)[2] |
乗員 | 110名+航空要員30名[2] |
兵装 |
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搭載機 | AS.332L1ヘリコプター×2機[1] |
「しきしま」(JCG Shikishima, PLH-31)は、海上保安庁のヘリコプター2機搭載型巡視船。PLH-31の記号・番号を付されている。船名は日本の古い国号である敷島に由来する。
なお建造当初は巡視船として世界最大であり、現在でも中国海警局の「海警2901」と「海警3901」[3]に次いで、世界最大級である[4]。
来歴[編集]
日本の原子力発電所で生じた使用済み核燃料は、イギリス・フランス両国の再処理工場でプルトニウムと放射性廃棄物に処理されたうえで保管されてきたが、行き場がないために備蓄量は増加の一途をたどっていた。このことから、これを用いたMOX燃料によるプルサーマル発電が試みられることになり、プルトニウムを日本に輸送する必要が生じた。まずイギリスからのプルトニウムが日本に輸送されることになり、1970年代後半から1980年代初めにかけて4回にわたる海上輸送が行われたが、この際にはイギリス船籍の貨物船が利用され、輸送船舶に武装した護衛要員が同乗していた[5]。続いてフランスからの輸送が行われることになり、まず1986年に晴新丸による海上輸送が行われた。このときには、警備救難部に所属する海上保安官4名が64式7.62mm小銃などの火器を携行して警乗護衛を行ったほか、輸出国であるフランス海軍のフリゲートが日本近海まで交代で護衛し[6]、アメリカ海軍の艦船も護衛にあたっていた[7]。
その後、1990年代初頭には、フランスからの2回目の輸送が計画されたが、1988年の日米原子力協定改訂を受けて核ジャックなどに対する体制強化が求められた[8][9]。この輸送の際の護衛を海上保安庁と海上自衛隊のどちらが行うかが政府内で議論となったが、内閣外政審議室のジャッジにより海上保安庁が実施することになった。しかし、出発地であるフランスのシェルブールから東海港に至る航路は2万海里を超えるうえに、安全確保や航路周辺諸国の感情配慮の観点から途中燃料補給などは行わない予定であったことから、当時海保最大の巡視船であったみずほ型巡視船ですらその任に堪えないことは明らかであった。このことから長大な航続距離と強力な監視警戒能力を備えた巡視船として、平成元年度補正計画で建造されたのが「しきしま」であった[10][8]。
設計[編集]
船型は既存のPLH(旧「みずほ」型、「そうや」「つがる」型)と同様、全通甲板を備えた長船首楼型とされている。内部構造は軍艦に準じて抗堪性に優れたものといわれており、船橋構造物は両舷に通路を配し、中央部の区画も横方向の通路で細かく区分している。また船橋周りの防弾にはかなり留意されており、窓の内側にはポリカーボネート製の防弾ガラスを用意、外壁にも防弾板用の金具が取り付けられている。弾片防御のみとされている同世代の軍艦よりもむしろ強固である可能性も指摘されている[11]。なお上記の経緯より核テロリズムを警戒して本型の設計の細部は非公開とされており、乗員の名前も船長ら数名の主要乗組員を除いては海上保安庁職員名簿にも掲載されず、人事異動のリストにも掲載されない[12]。
主機関はディーゼルエンジン4基、合計出力3~4万馬力と推測されている[11]。アメリカ海軍協会(USNI)では、既存のPLHで採用されてきたSEMT ピルスティクPC2シリーズのV型16気筒モデルであるIHI-SEMT 16PC2-5 V400を搭載しているものと推測している[2]。推進器はハイスキュード・タイプの可変ピッチ・プロペラ、またバウスラスターも2基備えられている。なお減揺装置として、フィンスタビライザー2組を備えている[13]。
装備[編集]
主兵装として、90口径35mm機銃の連装マウントを船首甲板上の甲板室と後部格納庫上に1基ずつ搭載した。機銃そのものは、昭和53年度補正計画より装備化されたものであったが、従来は機側操作の単装マウントであったのに対し、本型では連装化して火力を増すとともに、光学射撃指揮装置(FCS)による遠隔操作が基本となった。ただし万一に備えて、機側操作機能と射手席も残されている[9]。また船橋直前の両舷には、20mm多銃身機銃も搭載された。これもやはり従来は機側操作であったもの(JM61-M)をもとに光学射撃指揮装置(RFS)と連動して遠隔操作される箱型の単装砲塔に組み込んだものであり、JM61-RFSと称される[9][注 1]。これらは当時の巡視船としては強力な兵装であったが、これでも軍艦に比べて武装が軽すぎるという批判があった[15]。またこのほか、格納庫の両舷に放水銃を装備していた[12]。(この放水銃は対ヘリ甲板上用で自船用に装備されているものである)
なお本船では、巡視船では唯一の対空捜索用レーダーとして「対空監視装置」を備えているが、これは海上自衛隊のOPS-14あるいはその改良型とみられている[11]。
搭載艇・搭載機[編集]
全天候型の救命艇と警備艇を各2隻搭載した。この警備艇のうち、右舷側の「PLH31-M3」はプロペラ推進艇、左舷側の「PLH31-M4」は浅海域での使用を考慮したウォータージェット推進艇であり、甲板室の形状も異なっていた[11]。また格納庫上の前端には複合艇が搭載され、揚降用のクレーンが装備された[13]。
本船の最大の特徴が、8トン級と大型のAS.332ヘリコプターを2機搭載・運用できるという強力な航空運用能力である[13]。これは巡視船「そうや」の初期設計案、続いてみずほ型巡視船の初期計画で検討されたもののいずれも断念されたものであった[8]。
搭載機の変遷[編集]
機種 | 機番 | 愛称 | 配属期間 | 備考 |
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AS.332L1 | MH685 | わかたか | 1992年4月8日-2011年 | |
MH686 | うみたか | 1992年4月8日-2012年3月21日 | ||
うみたか1号 | 2012年3月21日-2018年3月25日 | |||
MH805 | 2018年3月25日- | 旧わかわし1号 | ||
MH806 | うみたか2号 | 2012年3月21日- | 旧わかわし2号 |
船歴[編集]
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1992年4月8日に竣工し、横浜海上保安部(第三管区)に配属された[1]。
竣工直後の11月には、フランスのシェルブールから日本の東海港までプルトニウムを輸送する「あかつき丸」の護衛にあたった[8]。なお、この護衛任務の際、シェルブール出港直後に環境運動家の抗議船に体当たりされて軽微な損傷を受けたが、任務遂行に支障はなかった[16]。
上記のように、本船はもともとこの護衛任務のために建造されたものであったが、第2回目以降の輸送は行われなかったため、以後は他のヘリ巡と同様の業務に従事することになった[8]。また特に長大な航続距離を活かして、広域哨戒や東南アジア諸国への派遣、尖閣警備などに活用された。就役以来、25年以上に渡って横浜を母港としていたが、2018年3月25日に鹿児島海上保安部(第十管区)に配属替えとなった[1]。
海上保安庁最大の巡視船ではあるが、就役以来観閲式においては観閲船を務めることはなく、受閲船第一小隊の一番船が定位置になっていた。
本船は当初延命・機能向上工事により延命する予定であったが[注 2]、検査の結果予想以上に老朽化が進んでいることが判明し、令和3年度補正予算で代船が建造されることとなった[17][18]。2024年4月15日付で解役されで、PLHとしてはみずほ型巡視船の「ふそう」(PLH-21)に次いで2隻目の解役船となる。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ a b c d e f g h i 海人社 2018, p. 42.
- ^ a b c Wertheim 2013, p. 383.
- ^ 防衛駐在官の見た中国(その22)-中国海警は第2の中国海軍- 海上自衛隊幹部学校
- ^ 第3管区海上保安本部 船艇紹介
- ^ 高度情報科学技術研究機構 (1998年3月). “イギリス返還プルトニウム輸送 (11-02-06-06)”. 2015年11月3日閲覧。
- ^ 柿谷 & 菊池 2008, pp. 107–140.
- ^ “漂流する核のごみ”. 東京新聞. (2013年6月5日)
- ^ a b c d e 邉見 2001.
- ^ a b c 中名生 2015.
- ^ 海人社 2014b.
- ^ a b c d e 海人社 2004.
- ^ a b 海人社 2014a.
- ^ a b c 海人社 2014c.
- ^ 真山 2003.
- ^ 長沢光男「原子力」『イミダス1993』集英社、1993年。 NCID BN00805593。
- ^ 佐藤 2019, ファイル10 核燃料輸送船を護衛せよ.
- ^ 「補正予算の6500トン級PLHは「しきしま」の代船」『世界の艦船』、2021年11月30日。2021年12月1日閲覧。
- ^ “令和3年度海上保安庁関係補正予算の概要”. 海上保安庁. 2021年12月1日閲覧。
参考文献[編集]
- 海人社(編)「巡視船「しきしま」を見る」『世界の艦船』第628号、海人社、2004年7月、6-9頁、NAID 40006239088。
- 海人社(編)「海上保安庁の新フラッグシップ「あきつしま」竣工!」『世界の艦船』第792号、海人社、2014年2月、62-65頁、NAID 40019927792。
- 海人社(編)「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、44-45頁、NAID 40020105550。
- 海人社(編)「海上保安庁の新型船艇」『世界の艦船』第800号、海人社、2014年7月、144-147頁、NAID 40020105615。
- 海人社(編)「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第881号、海人社、2018年7月、39-90頁、NAID 40021585370。
- 佐藤, 雄二『波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル』文藝春秋、2019年。ISBN 978-4163910567。
- 中名生, 正己「巡視船 武装の歩み(下)」『世界の艦船』第825号、海人社、2015年11月、168-173頁、NAID 40020597434。
- 邉見, 正和「PLH建造の経緯 (特集2 海上保安庁のPLH)」『世界の艦船』第590号、海人社、2001年12月、141-145頁、NAID 40002156215。
- 真山, 良文「海上保安庁船艇整備の歩み」『世界の艦船』第613号、海人社、2003年7月、193-205頁、NAID 40005855317。
- Wertheim, Eric (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. ISBN 978-1591149545
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- ウィキメディア・コモンズには、しきしま (巡視船・初代)に関するカテゴリがあります。
- 海上保安庁船艇一覧