職種 (陸上自衛隊)

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職種(しょくしゅ)は、1等陸佐以下の陸上自衛官に割り当てられ、素質及び技能に基づいて指定することで、その配置及び教育訓練を適正にし、もって個人及び部隊の能率を向上し、かつ、人事管理を容易にすることを目的とした職務区分をいう。旧軍においては兵科: Branch: Truppengattung)と呼ばれた。「陸上自衛官の職種に関する訓令」(平成13年陸上自衛隊訓令第18号)では15種だが、一般向けの解説では野戦特科と高射特科を分けて16種とされ職種き章も別デザインのものを用いる[1]

概要[編集]

警察予備隊では、職種の分類に軍隊風用語が忌避されており、陸上自衛隊でもその名称をそのまま引き継いでいる(名称に変更があったのは保安科が警務科に、補給科が需品科に、それぞれ改称されたのみ)

警察予備隊では、一般部、技術部及び行政部に大別した。そして、一般部に、普通科及び特科を置いた。技術部に、施設科、輸送科、衛生科、補給科、武器科、通信科及び化学科を置いた。行政部に、保安科、会計科、法務科及び総務科を置いた。警察予備隊時代にあった法務科及び総務科は現在までに廃止された。そのため、陸上自衛官の法務官配置(陸上幕僚監部、各師団、各旅団等に置かれている)には、各職種の者が充てられている。機甲科は、保安隊時代の1953年(昭和28年)8月に新設された。なお、2009年度(平成21年度)末には新たに「軍事情報科」に当たる情報科を設けて情報専門家の自衛官を育成し、2014年度(平成26年度)までには幹部1300人、曹士1900人を情報専門要員とする方針である。

1等陸佐以下の陸上自衛官は、分類された職種に属する部隊に配置されるのが原則である。もっとも、これを厳格に適用すると1等陸佐相当職(連隊長群長など)を多数有している普通科特科に比して、他の職種の上級幹部が昇進配置に際して不利となってしまうので、他の職種であっても配置されることはある(佐藤正久など)。

職種徽章(きしょう。法令上は「き章」)には、当該職種で主に使用される道具や、当該職種を象徴するものが用いられている。なお、アメリカ陸軍にある「副官」「法務」に相当する課職種は、自衛隊には存在しない事から徽章もない。

高射特科を除く戦闘職種の学校は、富士学校に集合されている。後方職種の学校は、警務科及び会計科が小平学校に集約されているが、それを除いては各職種毎に設けられている。ただし、音楽科のみは職種学校を有していない[2]

2023年現在、女性自衛官の配置制限がある職域は特殊武器防護隊で放射線を扱う部署及び坑道中隊となっている。

各職種[編集]

普通科 (Infantry)[編集]

旧帝国陸軍における歩兵科、兵種としての歩兵に相当する。軽火器や迫撃砲対戦車ミサイルなどをもって近接戦闘を行う。陸上自衛隊の主幹部隊であり、人員も最も多い。

職種徽章は、交差した2丁の小銃(歩兵が肌身離さない武器)、(陸上自衛隊を象徴する)、及び月桂樹(勝利の象徴)を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊富士学校

機甲科 (Armor)[編集]

旧陸軍における兵種としての戦車兵と、騎兵科(兵種としての騎兵)に相当する。戦車部隊機動戦闘車部隊偵察部隊水陸両用車部隊に大別され、機甲戦闘を司る。

職種徽章は、戦車(機甲科の代表的兵器)に2頭の天馬偵察を表す)を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊富士学校(水陸両用車部隊については陸上自衛隊水陸機動教育隊

特科 (Artillery)[編集]

旧陸軍における砲兵科に相当する。野戦特科(野戦砲兵)と高射特科(高射砲兵)とに分類されており、国賓等に対する礼砲も担当する。

野戦特科 (Field Artillery)[編集]

旧陸軍における兵種としての野砲兵・野戦重砲兵・重砲兵に相当する。方面隊には特科団もしくは方面特科(連)隊が編成され、北部方面隊、中部方面隊の師団旅団には特科連隊又は特科隊が配備される。主な装備品は、155mmりゅう弾砲 FH70等。

職種徽章は、砲口、加農砲及びロケット弾を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊富士学校

高射特科 (Anti–aircraft Artillery)[編集]

旧陸軍における兵種としての高射砲兵に相当する。方面隊には高射特科団、高射特科群または高射特科隊が、師団には高射特科大隊、旅団には高射特科隊または高射特科中隊(第7師団、第15旅団は高射特科連隊編成)が配備される。航空自衛隊が全般的な防空を担当しているので、陸上自衛隊の高射特科部隊は、低・中高度用誘導弾や87式自走高射機関砲等で、部隊及び施設等の個別的な防空を担当している。

職種徽章は、主要な装備である高射機関砲及び対空誘導弾を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊高射学校

情報科 (Military Intelligence)[編集]

軍事情報科に相当し、専門的知識・技能をもって諜報防諜活動に関することを担当する。

職種学校: 陸上自衛隊情報学校(語学教育に関わる部門は第2教育部(旧:陸上自衛隊小平学校語学教育部))

航空科 (Aviation)[編集]

旧陸軍における航空兵科、兵種としての飛行兵に相当する。各種航空機を用いて地上部隊の支援を行う。

職種徽章は、回転翼(航空科の主装備たるヘリコプターを表す)を中央に配したを中心にして、その両側にを配したもの。

職種学校: 陸上自衛隊航空学校

施設科 (Engineer)[編集]

旧陸軍における工兵科、兵種としての工兵に相当する。築城や障害物の敷設などを担当する。

職種徽章は、及び(施設科の代表的作業である築城・架橋を象徴する)を組み合わせてEの形に模したもの(アメリカ陸軍の工兵の兵科徽章に類似している。法令上は、Engineer(工兵)の頭文字をとって「Eの形」と規定されているが、横倒しにされており、どう見ても「山」の形)。

職種学校: 陸上自衛隊施設学校

通信科 (Signal)[編集]

各種通信組織の構成・維持・運営を司る。

職種徽章は、イナズマ(無線通信を象徴する)及びのろし(古代における通信手段)を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊システム通信・サイバー学校

武器科 (Ordnance)[編集]

火器・車両の整備・不発弾処理に関することを行う。

職種徽章は、火炎弾に2本のスパナ(武器の補修を象徴する)を組み合わせてかぶとに模したもの。これは、米陸軍武器科の職種徽章に類似しているが、それにスパナが加わっている点が異なる。また、特に不発弾処理に関する教育を受けた者等は、制服に不発弾処理き章を着用する。

職種学校: 陸上自衛隊武器学校

需品科 (Quartermaster)[編集]

旧陸軍における経理部の一部に相当する。兵站のうち、燃料、糧食、需品の補給整備及び隊員の給水・入浴・洗濯等を担当し、災害派遣においては被災者に対する入浴・給水支援などで活躍する。

職種徽章は、(宿営・倉庫管理を象徴)、ロート(燃料補給を象徴)及び三日月(糧食補給を象徴。初の糧食補給部隊を作った仏のクロワッサン(croissantは三日月と同意)に由来していると言われている)を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊需品学校

輸送科 (Transportation)[編集]

旧陸軍における輜重兵科、兵種としての輜重兵に相当する。大型車両による人員・装備品の輸送並びに自動車教習所の管理・運営に関することを担当する。

職種徽章は、舵輪(船舶による輸送を象徴する)の中央にハンドル(トラックによる輸送を象徴する)を置き、舵輪の左右水平部の握りを翼(航空機による輸送を象徴する)に変えたもの。

職種学校: 陸上自衛隊輸送学校

化学科 (Chemical)[編集]

化学防護戦を担当する。

職種徽章は、フラスコ化学薬品を象徴する)に桜星を配したもの。

職種学校: 陸上自衛隊化学学校

警務科 (Military Police)[編集]

旧陸軍における憲兵科、憲兵に相当する。司法警察職務及び保安職務に関することを司る。

職種徽章は、「警」(警務科の一字)の文字を入れた旭日章を中心に置き、その下方に交差した2本の警棒(使用する道具)及び桜葉を配したもの。

職種学校: 陸上自衛隊小平学校

会計科 (Finance)[編集]

旧陸軍における経理部の一部に相当する。金銭の出納保管・給与計算に関することを司る。

職種徽章は、ダイヤモンド(取扱う金銭を象徴する)を中央に、その外側に桜葉を、桜葉の茎部にはFin(財務を意味する英語Financeの略)の記号を配したもの。

職種学校: 陸上自衛隊小平学校

衛生科 (Medical)[編集]

旧陸軍における衛生部に相当する。傷病者の治療等に関することを担当する。なお、有事の際の扱いについては衛生兵#自衛隊の衛生要員も参照。

職種徽章は、アスクレピオスの杖(蛇杖。医療を象徴する)及び桜花を組み合わせたもの。

職種学校: 陸上自衛隊衛生学校

音楽科 (Band)[編集]

旧陸軍における軍楽部に相当する。音楽演奏を通じて士気の高揚を図る。

職種徽章は、リラ(古代メソポタミアエジプトギリシアなどで用いられた竪琴)の下部に桜星を配し、外側をで囲ったもの。

職種学校はないが、これに相当する部隊として陸上自衛隊中央音楽隊(朝霞駐屯地)がある。以前は隊旗色がなかったが、平成21年度末の情報科職種創設とともに隊旗色が「桜色」と定められた。

隊種標識の色[編集]

隊種標識の色は「陸上自衛官及び陸上自衛隊の自衛官候補生の部隊章に関する訓令」によって定められている[3]。これは全陸上自衛官が制服の右上腕に付けている部隊章に付されるほか、自衛隊旗第1空挺団所属部隊を除く部隊の旗の地の色[4] や、戦闘服装パレードを行う際に襟元に巻くスカーフにも同じ色のものが使われることが多い。

例:第6師団部隊章 普通科(隊種標識色・赤)
職種 備考
普通科
旧陸軍の歩兵科(緋)にほぼ同じ。
機甲科
だいだい
特科
濃黄
旧陸軍の砲兵科(黄)にほぼ同じ。
情報科
航空科
あさぎ
旧陸軍の航空兵科(淡紺青)にほぼ同じ。
施設科
えび茶
旧陸軍の工兵科(鳶)にほぼ同じ。
通信科
武器科
需品科
旧陸軍の経理部(銀茶)に類似。
輸送科
化学科
金茶
衛生科
濃緑
旧陸軍の衛生部(深緑)にほぼ同じ。
その他
警務科・会計科・音楽科
陸幕、陸上総隊司令部と隷下部隊の団本部、方面総監部及び師・旅団司令部
諸職種混成部隊(後方支援連隊・隊等)

脚注[編集]

  1. ^ 動画でわかる!自衛隊:自衛隊での仕事:【陸上】普通科 - 防衛省
  2. ^ 中央音楽隊が教育を担任。
  3. ^ 陸上自衛官及び陸上自衛隊の自衛官候補生の部隊章に関する訓令
  4. ^ ただし、司令部付隊等は隊種標識の色の旗は使用されることはなく、白地の物が使用される。なお、防衛大臣直轄部隊などの各職種混成部隊や海外派遣隊の諸職種混合部隊にも「白色」の隊旗が使用される場合が多い(隊旗は平成21年度末、各職種ごとに独自の色が配分されたが部隊章の隊種標識の色は従来通り。詳細は自衛隊の旗を参照)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]