耳鳴り

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耳鳴り
概要
診療科 耳鼻咽喉科学
分類および外部参照情報
ICD-10 H93.1
ICD-9-CM 388.3
DiseasesDB 27662
MedlinePlus 003043
eMedicine article/856916
Patient UK 耳鳴り
MeSH D014012

耳鳴り(みみなり、: Tinnitus)とは、実際にはがしていないのにも拘らず、何かが聞こえるように感じる現象

耳鳴とは[編集]

一般に耳鳴りは、難聴とともに出現することが多いとされている。このありふれた病態は、軽い不快感から、不眠、ときに状態など、大小のストレスを引き起こしうる。耳鳴は本人にしか聞こえない自覚的耳鳴と、外部から聴取可能な他覚的耳鳴に分類される。急に生じた耳鳴りが急性感音難聴の唯一の自覚症状であることもあり、早めに一度は耳鼻咽喉科を受診するべきであると考えられる。また、頻度は少ないものの、脈拍と同調する耳鳴の一部に、腫瘍や血管病変に起因するものがあり、注意が必要である。

耳鳴の原因[編集]

内耳が原因[編集]

蝸牛性耳鳴には、次の原因が考えられている[1]

  • 蝸牛有毛細胞の異常運動
  • 伝達機構の障害
  • 信号変換機構の障害

脳が原因[編集]

近年の研究で、脳のいわば誤動作で耳鳴が認識される、という説も有力視されている。 以下のような機序によると考えられている。

加齢などで聴覚細胞がダメージを受けその音高の信号を出さなくなる→脳はその音高の信号が来ないため感度を上げる→それでも信号は来ないので一層感度を上げる→信号のハウリングのような現象が起き、すなわちこれが耳鳴りのように認識される、というものである。

こちらが原因の場合は、ステロイドの投与などは無意味で、後述のような脳をリラックスさせる薬が効果がある。

また、こちらが原因の場合、補聴器を使用し、認識しにくい音高の部分を増幅してやれば、内耳で聞こえるようになり、脳もむやみに感度をあげることはなくなり、耳鳴も消失する、という例が報告されている。

耳鳴の分類[編集]

自覚的耳鳴[編集]

自覚的耳鳴は、本人にしか聞こえることのない耳鳴である。

耳鳴りはベンゾジアゼピン離脱症候群の1つとして、ベンゾジアゼピン系の治療投薬の中断により発生する可能性がある。それはまれに遷延性離脱症候群として何ヶ月も続く。[2][3]

病的な耳鳴り[編集]

難聴とともに出現することが多く、外有毛細胞の障害がその原因であると想定されているが、明確な原因は不明である。病院を訪れた耳鳴患者は80-90%程度の割合で何らかの難聴を伴うと報告されている。よって、耳鳴の自覚がある場合、早期に、一度は、耳鼻科一般外来を受診し、鼓膜の診察と聴力検査を受けるべきである。難聴の自覚が無くとも軽度の急性感音難聴が背後に存在する場合もあり、このような場合にはステロイド全身投与などの治療を早期に受けるべきである。慢性の耳鳴は、しばしば強烈なストレスを伴うが、脳腫瘍などから来ているものの場合を除き、生命予後に関わる疾患の一症状であることはあまり無い。しかし、そのストレスは時に絶大になりうることが知られている。

生理的耳鳴り[編集]

完全な無音状態で、「シーン」または「キーン」といった耳鳴りが聞こえることがあるが、健常な反応であり、病気ではない。

他覚的耳鳴[編集]

他覚的耳鳴とは、病変部から実際に音波が発せられ、本人以外にも客観的に聴取が可能な耳鳴である。その正体としては、大小の筋肉の痙攣や、血管病変の拍動などが知られている。このなかで、血管病変が耳鳴の原因である場合には、時に致命的になることがある。心拍に同調した拍動性耳鳴の訴えがある場合には、脳神経外科や耳鼻咽喉科を早期に受診するべきである。

治療[編集]

自覚的耳鳴[編集]

急性期には、まず難聴の原因となる疾患毎に推奨されている治療を受けるべきである。たとえば、突発性難聴であればステロイドの内服や点滴高気圧酸素療法などがその治療となる。慢性化した耳鳴には、漢方薬の内服、安定剤の内服、局所麻酔薬の注射、鍼灸などの民間療法などが行われるが、確実にこれを消失させることはしばしば困難である。その他、慢性期におこなわれうる治療として、Pawel Jastreboffの神経生理学的耳鳴理論によるTinnitus Retraining Therapy(TRT)日本にも広まっており、その有効率は6-80%程度とされている。他に、内耳に、微量のステロイドや麻酔薬を注入する療法[4]、ブロック療法(星状神経節ブロック)、自律訓練法、故意に低音量のノイズを流し続けて耳鳴りから意識をそらせる「マスカー法」などがある。

治療法とは呼べないが、異なるアプローチとして、目が覚めている間、居室で、常に音を出し続けて意識をそらせる、という方法も提案されている。音は、「川のせせらぎ」や「滝の音」などが向いているという。これは、音量のアップダウンもなく、何か歌詞のような言葉があるわけでもないので、耳鳴りの音を上書きしてごまかすには最適、とされている。

適用外の処方薬などによる治療[編集]

標準治療としては、ステロイドとビタミンB12とアデホスの投与があげられる。しかし、実は、この3剤の耳鳴りに対する効果は、エビデンスがない。経験的に投与が続けられているだけである。投与して効果がある場合もあるし、ない場合もある。

近年注目されているのは、SSRISNRI、セロトニン遮断再取り込み阻害薬(SARI)、CBDセントジョーンズワートロフラゼプ酸エチルなどである。これらは、いずれも、脳内のセロトニンを増やし、脳をリラックスさせる作用の薬である。耳鳴りに対しては保険は適用外である。SSRIなどこれら一群の薬物が耳鳴りに効くメカニズムが解析されつつあり、論文も出ている。またウィキペディアのこれらの薬の項目も参照にされたい。

ローヤルゼリーが効果がある、という説もある。ウィキペディアの項目を参考にされたい。

また、一部の医師は、「ヘルペスウイルスが原因であるため、治療薬のバルトレックスが効果がある」と主張している。これも耳鳴りは保険適用外となる。

ニコチン酸アミド(ビタミンB3)が効果があるとする説もある。OTCの耳鳴りの経口薬は、主成分がこの物質のものが多い。総合ビタミン剤の中にも、この物質を含有する商品がある。

上記の薬物は、保険適用ではなく、エビデンスも確立されていないが、現状、強力な治療薬がないため、選択の一つとして検討の余地があるだろう。

漢方薬による治療[編集]

以下に処方例を示す。

老齢者・腎虚
牛車腎気丸八味地黄丸、六味丸
全身性疾患(脳動脈軟化症、高血圧症、低血圧症)
柴胡加竜骨牡蠣湯大柴胡湯釣藤散、柴胡佳枝乾姜湯、真武湯苓桂朮甘湯
精神神経疾患(心身症、更年期障害、神経症)
女神散、加味逍遥散、芎婦調血飲、抑肝散加陳皮半夏、連珠飲

参考文献[編集]

  • 神崎仁『耳鳴の克服とその指導』金原出版、1999年。ISBN 4-307-50601-4 

出典[編集]

  1. ^ 神崎(1999)p.90
  2. ^ Riba, Michelle B.; Ravindranath, Divy (12 April 2010). Clinical manual of emergency psychiatry. Washington, DC: American Psychiatric Publishing Inc. p. 197. ISBN 978-1-58562-295-5. https://books.google.com/books?id=l8veL1bDoF8C&pg=PA197 
  3. ^ Delanty, Norman (27 November 2001). Seizures: medical causes and management. Totowa, N.J.: Humana Press. p. 187. ISBN 978-0-89603-827-1. https://books.google.com/books?id=u2B3SdfE8-gC&pg=PA187 
  4. ^ 坂田英治『耳鳴りを治す本: 耳鳴りを撲滅する生活法・治療法を専門医が明かした!』マキノ出版〈ビタミン文庫〉、2002年。ISBN 4837611672 

外部リンク[編集]