特撮

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特撮(とくさつ)ないし特撮作品特撮ものは、日本の映像作品のジャンル。

「特撮」はもともと特殊撮影技術(SFX)を指す略語[1][2]であるが、日本では特殊撮影技術が大きな役割を果たす映像作品群が一つのジャンルを形成するほど発展しており、それら作品が「特撮」と総称されている。予算も人数も少ない中で、毎年安定して特殊撮影技術やVFXを駆使した見応えのあるシリーズ作品を制作して放送できる体制やノウハウは日本固有のものであり、海外からは驚異的と評されている[3]

解説[編集]

[4][注釈 1]

庵野秀明映画監督特撮監督)の円谷英二が日本における特殊撮影技術の事実上の元祖と評しているが[6][7]、円谷作品以前にも忍術などの表現でトリック撮影を用いた作品などは既に存在しており、円谷の師匠である枝正義郎は、合成やミニチュアを使用したトリック撮影を取り入れた作品を戦前の時期に制作している[注釈 2]。円谷は前述の海外特撮映画『キングコング』などに影響を受けて特殊撮影技術を研究し[8]怪獣映画などを通して、1950年代以降に特撮映画を日本独自の映像技術として発展させ、映像文化や社会に多くの影響を与えた。

テレビドラマでは『月光仮面』、『七色仮面』など等身大のヒーローが活躍する作品が放映されはじめた。『七色仮面』は劇場公開を前提として、35mmフィルムで撮影されており、撮影費用は1本500万円という、当時のテレビ番組としては破格の金額で製作された[9]。『新 七色仮面』で主人公を波島進から引き継いだ千葉真一器械体操で培ったアクションを披露し、彼の演技は後に製作されていく変身ヒーローを題材とした特撮作品に大きな影響を与えている[9][10]1965年には主に東映作品の特撮パートを手掛けている株式会社「特撮研究所」が創立され、1966年には「空想特撮シリーズ」と銘打った円谷プロの『ウルトラマン』が放送されている[11]。フィルム撮影時代は、本格的な特殊撮影を使った映画やテレビドラマは珍しく、高度な技術と多大な予算が必要なものだった。

「特撮」という言葉自体は、SFXを指す言葉として、1958年頃から日本のマスコミで使われ始めており[12]第一次怪獣ブーム時に完全に定着している[11]。それ以前には、特殊技術(特技)[1]という呼称も用いられていた。また、光学合成などのVFX技術も、SFXと特に区別されず「特撮」とされた。

「特撮映画」「特撮もの」という言葉は1980年代頃まではよく使われており、対象層やジャンルを問わずに特殊撮影技術を使った作品という意味であった。一方で、特殊撮影が多用されていても、他の既存ジャンルに近い物はその分類で呼ばれ、特撮ものとは分類されない場合もあった。例えば『西部警察』は多くの特撮が使われているが、一般的には刑事ドラマと呼ばれる。

1990年代以降になると、コンピュータグラフィックスなどのデジタル映像技術によるVFXが発達し、従来はSFXが必要とされたような映像もVFXで作れるようになった。上述の通り技術としての「特撮」はVFXをも含む言葉であったが、CGは「特撮」には含まれず、従来の技術のみが「特撮」と呼ばれた。一方で、過去の特撮作品の流れを汲む作品は、たとえCGを多用していても特撮ものとされた。一方で「特撮」は旧式な手法や作品として否定的な意味で使われる場面も増えた[13]

デジタル映像技術の発達に応じて、特撮技術による撮影は急激に減少した。番組としての特撮でも、CG技術が多用されSFXが減るなどの形態が変化していった。そのため、2010年代になると、日本独特の文化として保護を求める声があがった[6][14]2012年(平成24年)には、東京都現代美術館の企画展「館長 庵野秀明 特撮博物館」が開催されて全国で巡回も行われた他、文化庁の振興策「メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業」の一環として実施された「日本特撮に関する調査報告書」が2013年(平成25年)5月に公開されるなどしている。庵野は、それまで文化庁の支援対象は漫画・アニメ・ゲームだけであったところに、「特撮」を同等の扱いで国の文書に明記できたことを重要な点としている[15]

日本の主な特撮作品(テレビ番組)[編集]

日本の主な特撮作品(映画)[編集]

  • 特撮映画作品に関しては「特撮映画」を参照。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 映画監督の庵野秀明は、「日本特撮に関する調査報告書」に寄せたメッセージの中で、特撮を「技術体系」「日本が世界に誇るコンテンツ産業」などと表現している[5]
  2. ^ 1917年『西遊記』、1934年『大仏廻国・中京篇』など。

出典[編集]

  1. ^ a b 「怪獣アイテム豆辞典」『東宝編 日本特撮映画図鑑 BEST54』特別監修 川北紘一成美堂出版〈SEIBIDO MOOK〉、1999年2月20日、151頁。ISBN 4-415-09405-8 
  2. ^ 特撮 - Yahoo!辞書大辞泉ジャパンナレッジ)(2013年10月25日閲覧)
  3. ^ ピンズバNEWS編集部 (2023年5月4日). “「仮面ライダー俳優」井上正大×松田悟志が「YouTube特撮」の伝説を作る! 「“海外に向けた特撮を作りたい”が根底にあります」【YouTube連続特撮ドラマ『華衛士F8ABA6ジサリス』公開記念対談インタビュー#1】|ニュース|ピンズバNEWS”. ピンズバNEWS. 2024年3月12日閲覧。
  4. ^ 日本特撮に関する調査 2013, p. 4
  5. ^ 日本特撮に関する調査 2013, p. 2
  6. ^ a b 展覧会紹介ーはじめに - 館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技(2013年)
  7. ^ 特撮のミカタ - バンダイチャンネル
  8. ^ 日本特撮に関する調査 2013, p. 11
  9. ^ a b 全怪獣怪人』 上巻、勁文社、1990年3月24日、pp.48-49頁。ISBN 4-7669-0962-3。C0676。 
  10. ^ 竹書房 / イオン編 編「テレビと劇場でデビューした七色仮面」『超人画報 国産架空ヒーロー40年の歩み』竹書房、1995年11月30日、42-43頁。ISBN 4-88475-874-9。C0076。 
  11. ^ a b 日本特撮に関する調査 2013, p. 8
  12. ^ 宇宙船 vol41』「古今特撮映画の散歩道」竹内博
  13. ^ 日本特撮に関する調査 2013, pp. 115–116
  14. ^ 日本特撮に関する調査 2013, pp. 117–118
  15. ^ 「原口智生×庵野秀明×三好寛」『夢のかけら 円谷プロダクション篇』修復-原口智生 撮影-加藤文哉、ホビージャパン、2021年8月31日、119頁。ISBN 978-4-7986-2523-2 

参考文献[編集]

関連項目[編集]