運転手

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職業運転手の一例
京都市内のハイヤー

運転手(うんてんしゅ、: driver)とは、大まかに自動車トラックなどを運転するのこと。

もっぱら、運転を職業とする人を言うことが多い[1]。なお、道路交通法上は「運転者」を「車両等の運転をする者」と定義し、これは運転を職業としない者も含め全ての運転する者が当てはまる。

レーシングドライバーは職業であるが、「運転手」と呼ぶことは少なく、カタカナ語のドライバーと呼ばれることが多い。

乗用車以外の機械を運転する者を運転士と呼ぶ場合がある。などの使役動物を御して馬車を走らせる者は御者、使役動物に乗り馬車を操縦する者はポスティリオン英語版と呼ぶ。

日本における運転手[編集]

旅客輸送を職業とし、ドライバーやプロドライバーとも呼ばれる。自家用の貨物自動車や乗用車、自家用バスを運転する者も運転手と呼ばれる。

これに対し、(自動車運転免許以外の)資格が必要な鉄道軌道の電車・汽車、船舶や航空機、または機械を運転する職業は機関士や運転士操縦士と呼ばれる。鉄道軌道では、機関士や運転士と呼ばれる(動力車操縦者を参照)。一部の鉄道・軌道業者では運転手を社内呼称として用いる業者もある。

クレーンなどの操縦者は、運転士あるいはオペレーターと呼ばれる。

旅客輸送に従事するかつての職業には、人力車の「車夫」や、駕籠をかつぐ「駕籠かき」などもあったが、現在では観光向けのものがほとんどである。

バス運転手[編集]

営業用バス[編集]

主に、路線バス(乗合バス)貸切バス(観光バス)・ 特定輸送(送迎バス)があり、運転手はそれらを運行する事業者に属する者が多い。また、主に社内呼称として運転士とも呼ばれる[2]

日本の一般路線バスは乗務員として運転手のみが乗車するワンマン運転であることがほとんどである。ワンマン運転の場合、運転手は運転操作のほか、車内放送(自身による肉声放送もしくは車内放送用機器の操作)、乗客が乗降する自動ドアの開閉操作、運賃収受や回数乗車券販売なども行う。運行中に発生する突発的な事態にも基本的には運転士一人で対応にあたることとなる。冷静な判断力、立席の乗客にも配慮した高度な運転技術、幅広い利用者のニーズに対応したサービス、車両構造、安全運行、地理等に関する知識など、多種多様なスキル求められる職種である。近年では車内転倒事故を防止するためのマイク活用やCS向上に向けたより質の高い接客スキルが求められている。

社会に欠かせない公共交通に携わるエッセンシャルワーカーであるが、近年では不規則な長時間労働、労務や責任の重さに見合わない賃金、大型自動車第二種免許保有者の減少等を原因とする人材不足が社会問題化しており、現在従事している運転士の犠牲によりある程度維持できている地域の足もいわゆる「2024年問題」により大幅な減便、廃止に歯止めがかからなくなっている。大手私鉄系バス事業者の分社化やバス事業規制緩和が始まる前の2000年代初頭まで、バス運転士は安定して高い賃金を得られる花形職種であり、私鉄系や公営事業者では年収1000万円を超えるケースも珍しくなかった。平成中盤頃のバス業界のリストラブーム以降は、京都市交通局大阪市交通局のように一部の公営事業者でも賃金カットや民営化をするケースがみられた。業界が抱える問題が徐々に明るみになってきた近年では、事業者の経営努力や労働組合の活動により賃金が回復基調にある事業者も数多くあるが、依然として元の水準には達していない。事業者の規模(規制緩和により零細事業者が増加した)、地域間の格差も大きくなっている。また、使命感や意欲のある者に対する、いわゆるやりがい搾取のような一面が見られるケースもある。近年、国内ではワーク・ライフ・バランスの推進や春闘での大幅な賃上げが話題になっているが、バス業界ではいずれもそれほど浸透しておらず、他業種との格差拡大が懸念されている。バス業界や政策が人材不足を追い風にどう変化していくのか、今後の動向が社会全体から注目されている。

この他、バス運転士が敬遠される要因に、カスタマーハラスメントの増加が挙げられる。運転士のプライバシー対策として2023年には車内名刺の掲示義務が廃止された。

バス運転士になるハードルは運転免許制度の改正や前述の要員不足により、以前と比べやや下がっている。しかし、鉄道業界のような専門の教育課程が存在せず入社後に独学で学ばなければならないことが多く、定着率は低い。日本バス協会によると採用後5年以内に約半数が離職するという。ほとんどの事業者では指導運転士による実技指導は行っているものの、座学は現場での乗務経験がない総合職社員や外部機関のスタッフにより形式的に指導されるケースが多い。軽井沢スキーバス転落事故のようにノウハウが身についていない運転士による事故も発生している。

運転士の中には運行管理者資格を取得し、営業所長等の管理職にキャリアアップする者もいる。2012年関越自動車道高速バス居眠り運転事故が発生し、バスの安全性が問題視されて以降、運行管理者試験の合格率は概ね30%台と以前より大幅に低下しており、こちらはかつてに比べると狭き門となっている。一部の事業者では、管理職になっても賃金が上がらない(あるいは時間外が減って下がる)ケースもある。

ネガティブな面ばかりが報道されがちであるが、大手系事業者に若いうちに入社し年功を重ねれば、労務の対価として見合っているかどうかは別として、生涯賃金はさほど悪くないとの見方もできる(国の統計やメディア等で公表される平均年収には中高年になってからの中途採用者や再雇用者、規制緩和で増大した零細事業者も含まれてしまっているため)。また、景気に左右されにくい、年齢を重ねてもも仕事を継続しやすいというメリットもある。さらに前述の通り、資格を取得し現場叩き上げの管理職としてキャリアアップすることも可能である。一部では、既存の事業者で実務を学んだ後、自ら新規の事業者を起業する者もいる。

2020年頃からの新型コロナウイルス感染拡大期には貸切バスを中心に大きな打撃を受け、運転士の収入にも大きく影響した。経営悪化により廃業に追いやらたる事業者もあった。

無事に安全運行することが職責であるため、小説テレビドラマの題材にはなりにくいが、バス運転士が主人公である作品にバスストップ2000年)がある。本作品は東武バス(当時は東武鉄道バス事業本部)の引退車両である本物の路線バスを使用して撮影された。

自家用バス[編集]

主に企業学校幼稚園宿泊レジャーの各施設やレストラン・官公庁などが所有する法人自家用のバスであり、運転手はそれらの団体に属する者または専門の会社より派遣される。

また、福祉有償運送ほか自家用有償旅客運送道路運送法第78条)により自家用バス(または自家用普通自動車や自家用セダン等自動車)を運転する場合もある。

タクシー運転手[編集]

トラックの運転手[編集]

トラック運転手は、乗務する車ごとに積載量で25t超・10t・8t・4t・3t半・2tなどの貨物自動車を運転する。大手運送会社では、入社時に過去数年間の運転記録証明(自動車安全運転センターで取得出来る)などを提出されるよう求められることがある。

積荷に応じ、危険物取扱者高圧ガス移動監視者毒物劇物取扱責任者などの国家資格が必要となる。

トレーラーの運転手[編集]

サファリパーク遊園地などのランドトレイン(列車状の遊具)もフルトレーラーである。空港内ではプッシュバックが該当する。

牽引車両のブレーキホース、電装系の切り離し作業は運転手が主に行い、輸送コンテナなどの荷役作業は主に到着先の会社の社員が行う場合もある。

必要な運転免許[編集]

これらの職業運転手のために必要な運転免許については、「日本の運転免許」を参照のこと。

欧州における運転手[編集]

ロンドンのタクシー運転手

トラック運転手[編集]

貨物自動車の運転免許についてEU指令では、車両総重量3.5t未満の自動車に係る運転免許をB免許(普通免許に相当)、車両総重量3.5t以上7.5t未満の貨物自動車に係る運転免許をC1免許(準中型免許に相当)として区分しており、C1免許は基本的に18歳になれば取得できる[3]。さらにEU指令では車両総重量7.5t以上の貨物自動車に係る運転免許をC免許とし21歳になれば取得できるとしている(アイルランドオランダなどではEU指令とは異なり18歳でC免許を取得できる)[3]

C1免許はB免許取得後に取得手続を開始できる[3]。C免許とは別にC1免許を設けて18歳で取得できることとしている理由は、若年での大型車の運転の危険性を踏まえつつ、若年労働者の確保などの社会的必要性に配慮するためである[3]

EUでは貨物運送事業等を主たる業務として運送を行うためには一定の講習や試験を受けることが義務付けられており、免許も5年ごとの更新制で健康診断の受診や35時間以上の講習が義務付けられている[3]

タクシー運転手[編集]

米国における運転手[編集]

米国、ミネソタ、ミネアポリス付近のバス運転手

トラック運転手[編集]

アメリカ合衆国では州ごとに運転免許制度が異なる[3]。多くは車両総重量11.7t(2万6,000ポンド)以上が大型に区分されるが、大型を中心とする商用自動車については年齢等の諸規制が設けられている[3]

タクシー運転手[編集]

お抱え運転手[編集]

近世、近代には家事使用人として、お抱え運転手英語: Chauffeur、ショーファー)という職業があった。主人のための馬車自動車の運転者として屋敷に住み込んでいる者である。運転をしない時は、車の整備や洗車・ワックスがけ、馬の世話などをする一種の専門職である。現在でも、リムジンの呼称の一種である「ショーファードリブン(カー)」に名を残す。またショーファーは車内という極めて限られた空間において主人の私的事項を知り得た。

現代では、大使館や大企業で専門の要員を確保し、重役に専用車を与えている場合はこれに近いが、運転手が住み込みの個人的な使用人でない、あくまで企業の従業員である点が異なる。二種免許は不要である。社によってはタクシー会社や車両管理会社と契約しハイヤーで送迎を行なっている例もある。

ホテル正面、都心部繁華街の路上、巨大地下駐車場や車寄せなどで見かける黒塗りの白ナンバーセダンは、お抱え運転手により運行されている車両である場合が多い。

アメリカにおけるショーファー[編集]

米国ではChauffeurをDriverと区別して『単に運転だけをする者ではない(顧客や雇い主の世話をする者)』と認識される。 つまり、バスやタクシーの運転手はDriverと呼ばれ、お抱え運転手(Private Chauffeur)に限らず、リムジン(ストレッチリムジンに限らず)の運転手などはChauffeurと呼ばれる。 タクシーの運転手はショーファーではないが、日本の地方都市でタクシーを借り切って観光などをする場合の運転手はショーファーに近い業務内容をこなしている。 アメリカでタクシーを借り切って観光をしても運転手はショーファーとはほど遠い。

米国では1都市に各種のリムジン会社が存在し多様な車種を揃えているので、必要な時に必要なタイプの車を手配する方がはるかに経済的である為、Private Chauffeur(専従のお抱え運転手)を雇い入れている個人雇用主の多くは、運転手にボディーガードを兼務させる(逆の意味ではボディガードに『運転もさせる』)意図が強いので、都市によってはPrivate Chauffeurは“ボディー”(警護対象者)を守るための拳銃を携帯している確率が高い。

アメリカでは日本のようにナンバープレートで営業用・自家用の区別が付けられない(公用と民間の区別のみがある)為、前後のバンパーに業務用ステッカーが貼ってあるかどうかで、Private(自家用)・Commercial(営業用)の区別をする。

サウジアラビアの運転手[編集]

サウジアラビアでは、宗教由来の法律で女性が自動車を運転することを禁止しており、多くの家庭で運転手を雇用してきた。政府の統計によれば運転手は約140万人に及び、その多くは南アジアなどから来た出稼ぎ労働者であった。なお2018年サウジアラビアにおける女性の人権が見直される中で、女性の自動車運転も認められることとなったため、将来的に職業的な運転手の数は減少する見込みである[4]

その他[編集]

  • 台湾で話される台湾語にはウンチャン白話字:ùn-chiàng)という語彙があり、「運将」、「運匠」等と表記される。語源は日本統治時代の台製和語「運ちゃん」(運転手の愛称)であるという説が有力である。日本語と異なり、侮蔑の意は無くかつ差別用語などにも指定されておらず、ニュース報道等でも一般的に使用される。

出典[編集]

  1. ^ 広辞苑 第五版 p.277 運転 - 運転手
  2. ^ 神姫バス株式会社 バス運転士 採用サイト
  3. ^ a b c d e f g 貨物自動車に係る運転免許制度 の在り方に関する報告書” (PDF). 警察庁. 2018年1月14日閲覧。
  4. ^ 男性運転手が大量失職か、女性の車運転解禁で CNN(2017年9月28日)2018年1月12日閲覧

関連項目[編集]