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|名称=ウシ偶蹄目
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|目 = '''偶蹄目/鯨偶蹄目''' Artiodactyla/Cetartiodactyla
|上目=[[ローラシア獣上目]] {{sname|Laurasiatheria}}
|学名 = Artiodactyla [[リチャード・オーウェン|Owen]], [[1848年|1848]]<ref name="grubb">Peter Grubb, "[http://www.departments.bucknell.edu/biology/resources/msw3/browse.asp?id=14200001 Order Artiodactyla]," ''Mammal Species of the World'', (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637 - 722.</ref><br />Cetartiodactyla
|目=[[クジラ偶蹄目]] {{sname|Cetartiodactyla}}
|和名 = 偶蹄目<ref name="kawada_et_al">[[川田伸一郎]]他 「[https://doi.org/10.11238/mammalianscience.58.S1 世界哺乳類標準和名目録]」『哺乳類科学』第58巻 別冊、[[日本哺乳類学会]]、2018年、1 - 53頁。</ref><br />鯨偶蹄目<ref>日本哺乳類学会 種名·標本検討委員会 目名問題検討作業部会 「[https://doi.org/10.11238/mammalianscience.43.127 哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について]」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127 - 134頁。</ref>
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'''ウシ目'''(ウシもく)または'''偶蹄目'''(ぐうていもく) {{sname|Artiodactyla}} は、かつて使われていた[[脊椎動物門]] [[哺乳綱]]の1目。現在の[[鯨偶蹄目]](クジラ偶蹄目)から[[クジラ目|鯨類]](鯨目)を除いたグループによって構成されていた。'''偶蹄類'''(ぐうているい)ともいう。


'''偶蹄目''' (Artiodactyla) は、哺乳綱の目。別名'''ウシ目'''<ref>田隅本生 「[https://doi.org/10.11238/mammalianscience.40.83 哺乳類の日本語分類群名,特に目名の取扱いについて 文部省の“目安”にどう対応するか]」『哺乳類科学』第40巻 1号、日本哺乳類学会、2000年、83 - 99頁。</ref>。

近年の分子系統解析から鯨目を含むという解析結果が得られ従来の本目と鯨目を組み合わせることもあるが、その分類群に対し鯨偶蹄目Cetartiodactylaを用いる説と鯨類を含んだ本目に対しても引き続きArtiodactylaを用いる説がある<ref>Michelle Spaulding ''et al''., "[https://doi.org/10.1371/journal.pone.0007062 Relationships of Cetacea (Artiodactyla) Among Mammals: Increased Taxon Sampling Alters Interpretations of Key Fossils and Character Evolution]," PLoS One, Volume 4, Issue 9, 2009.</ref><!-- さらに爬虫類などと同じく分子系統解析により偽系統群であることが判明しているものの、従来の分類を保留している説もあると思われる。こちらは証明が難しいため記事には反映させない -->。

== 特徴 ==
{{出典の明記|date=2021年7月|seciton=1}}
このグループは、[[ウマ目]](奇蹄目)と共に、四肢の先端に[[蹄]](ひづめ)をもつことを特徴とする。また全てのウシ目は[[後肢]]の[[かかと]]の[[関節]]にある[[距骨]]の上下端に滑車状の構造を持つ(これを両滑車とも呼ぶ)。ウシ目(偶蹄目)とウマ目(奇蹄目)を合わせて[[有蹄目]]と分類されることもあったが、現在ではウマ目はウシ目よりも[[ネコ目]]や[[コウモリ目]]により近いとする説が有力であり、ウシ類とウマ類が共に蹄をもつのは、[[平行進化]]によるものであることがわかっている。[[中新世]]以降次第に衰退していったウマ目に対し、ウシ目は次第に勢力を伸ばしていった。現在では、[[カバ]]、[[イノシシ]]、[[ラクダ]]、[[キリン]]、[[ヤギ]]、[[シカ]]などの仲間を含む大きなグループに発展し、有蹄動物全体の約90%を占めている。また、後述されるようにクジラ類をも内包することが明らかになりつつあり、非常に多様性に富んだ発展を遂げて、繁栄しているグループであることになる。
このグループは、[[ウマ目]](奇蹄目)と共に、四肢の先端に[[蹄]](ひづめ)をもつことを特徴とする。また全てのウシ目は[[後肢]]の[[かかと]]の[[関節]]にある[[距骨]]の上下端に滑車状の構造を持つ(これを両滑車とも呼ぶ)。ウシ目(偶蹄目)とウマ目(奇蹄目)を合わせて[[有蹄目]]と分類されることもあったが、現在ではウマ目はウシ目よりも[[ネコ目]]や[[コウモリ目]]により近いとする説が有力であり、ウシ類とウマ類が共に蹄をもつのは、[[平行進化]]によるものであることがわかっている。[[中新世]]以降次第に衰退していったウマ目に対し、ウシ目は次第に勢力を伸ばしていった。現在では、[[カバ]]、[[イノシシ]]、[[ラクダ]]、[[キリン]]、[[ヤギ]]、[[シカ]]などの仲間を含む大きなグループに発展し、有蹄動物全体の約90%を占めている。また、後述されるようにクジラ類をも内包することが明らかになりつつあり、非常に多様性に富んだ発展を遂げて、繁栄しているグループであることになる。


<u>偶蹄</u>目と呼ばれるように、ウシ目の特徴は、2つに割れた蹄である。これは第3指と第4指(中指と薬指)が変化したもので、主蹄(しゅてい)と呼ばれる。また、かかとにあたる部分に、副蹄(ふくてい)とよばれる小さな蹄がついているものもあり、岩場などでずり落ちないようになっている。第3指が体重を支える重心軸となるウマ目と異なり、ウシ目は第3指と第4指の二本が重心軸であるため、このような蹄の構造となる。
<u>偶蹄</u>目と呼ばれるように、ウシ目の特徴は、2つに割れた蹄である。これは第3指と第4指(中指と薬指)が変化したもので、主蹄(しゅてい)と呼ばれる。また、かかとにあたる部分に、副蹄(ふくてい)とよばれる小さな蹄がついているものもあり、岩場などでずり落ちないようになっている。第3指が体重を支える重心軸となるウマ目と異なり、ウシ目は第3指と第4指の二本が重心軸であるため、このような蹄の構造となる。


==分類の見直し==
== 分類 ==
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後述するように、近年の分子生物学的手法の導入により、鯨類とかつての偶蹄類との系統関係が明らかになった。それによれば、鯨類は[[カバ|カバ類]]と姉妹群であり、両者は、先に[[ウシ亜目|反芻類]]と分かれた1グループ([[鯨凹歯下目]])から、さらに2つに分岐したものである。また、鯨凹歯類と反芻類が分岐したのは、[[ラクダ|ラクダ類]]および[[イノシシ|イノシシ類]]が、相次いで他の鯨偶蹄類から分岐した後のことであったこともわかっている([[鯨偶蹄目#系統と分類|鯨偶蹄目の系統と分類]]を参照)。したがって、ラクダ類・イノシシ類とカバ類・反芻類を含んで鯨類を含まない「偶蹄目」は、[[単系統群]]ではなく[[側系統群]]であることになり、[[分岐分類学]]の考え方によれば、(かつての「有蹄目」と同様)1つの[[分類群]]としては成立し得ない。これにより、「偶蹄目」(ウシ目)は生物学的な分類群としては無効となり、かつての偶蹄類と鯨類を併せた「鯨偶蹄目」という分類群が新たに設けられた。
後述するように、近年の分子生物学的手法の導入により、鯨類とかつての偶蹄類との系統関係が明らかになった。それによれば、鯨類は[[カバ|カバ類]]と姉妹群であり、両者は、先に[[ウシ亜目|反芻類]]と分かれた1グループ([[鯨凹歯下目]])から、さらに2つに分岐したものである。また、鯨凹歯類と反芻類が分岐したのは、[[ラクダ|ラクダ類]]および[[イノシシ|イノシシ類]]が、相次いで他の鯨偶蹄類から分岐した後のことであったこともわかっている([[鯨偶蹄目#系統と分類|鯨偶蹄目の系統と分類]]を参照)。したがって、ラクダ類・イノシシ類とカバ類・反芻類を含んで鯨類を含まない「偶蹄目」は、[[単系統群]]ではなく[[側系統群]]であることになり、[[分岐分類学]]の考え方によれば、(かつての「有蹄目」と同様)1つの[[分類群]]としては成立し得ない。これにより、「偶蹄目」(ウシ目)は生物学的な分類群としては無効となり、かつての偶蹄類と鯨類を併せた「鯨偶蹄目」という分類群が新たに設けられた。


==反芻類==
{{Main|ウシ亜目}}


イノシシ亜目以外のウシ目の動物は、消化しにくい繊維分を消化するために、本来の胃(第4胃)のほかに、[[食道]]から第1-第3の胃を分化させて、合計4つの[[胃]]をもつ([[ラクダ]]、[[キリン]]などは、第3胃と第4胃の区別がはっきりしないため、3つとする場合もある)。これらの動物は、複胃または反芻胃と呼ばれるこれら複数の胃によって、一度食べた食物を[[吐き戻し]]、噛み返すという'''[[反芻]]'''(はんすう)を行う。
イノシシ亜目以外のウシ目の動物は、消化しにくい繊維分を消化するために、本来の胃(第4胃)のほかに、[[食道]]から第1-第3の胃を分化させて、合計4つの[[胃]]をもつ([[ラクダ]]、[[キリン]]などは、第3胃と第4胃の区別がはっきりしないため、3つとする場合もある)。これらの動物は、複胃または反芻胃と呼ばれるこれら複数の胃によって、一度食べた食物を[[吐き戻し]]、噛み返すという'''[[反芻]]'''(はんすう)を行う。
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以前は、反芻の度合いに従い、同じウシ目でも反芻をしない、現生のイノシシ類やカバ類を含む系統をイノシシ亜目(猪豚亜目)とし、系統的に両者の中間に位置すると考えられる、現生のラクダ類を含むグループを、ラクダ亜目(核脚亜目)と分類されていた。しかし[[分子分岐学]]により、カバ類は(クジラ類と共に)反芻類に近いこと、中間的と思われたラクダ亜目がクジラ偶蹄類の中で最も初期に分岐したことがわかっている。
以前は、反芻の度合いに従い、同じウシ目でも反芻をしない、現生のイノシシ類やカバ類を含む系統をイノシシ亜目(猪豚亜目)とし、系統的に両者の中間に位置すると考えられる、現生のラクダ類を含むグループを、ラクダ亜目(核脚亜目)と分類されていた。しかし[[分子分岐学]]により、カバ類は(クジラ類と共に)反芻類に近いこと、中間的と思われたラクダ亜目がクジラ偶蹄類の中で最も初期に分岐したことがわかっている。


==クジラの系統についての議論==
[[クジラ]]の仲間の先祖は、[[化石]]研究からは、[[顆節目]]に分類されていたメソニクス類、さらにさかのぼれば同じくトリイソドン類と考えられていたが、{{いつ範囲|最近|date=2016年3月}}の分子生物学的な研究からは、ウシ目から分化したとする説が出された。これは、{{いつ範囲|最近|date=2016年3月}}しばしば見られる、化石研究者と分子生物学者の意見が対立するケースの、典型的な例であった。しかし、[[パキケトゥス|パキケトゥス・アトッキ]]の化石骨格の研究により、化石研究者側からもクジラがウシ目起源であるとする仮説を補強する、強力な根拠が提出された。[[鯨偶蹄目]]も参照。
[[クジラ]]の仲間の先祖は、[[化石]]研究からは、[[顆節目]]に分類されていたメソニクス類、さらにさかのぼれば同じくトリイソドン類と考えられていたが、{{いつ範囲|最近|date=2016年3月}}の分子生物学的な研究からは、ウシ目から分化したとする説が出された。これは、{{いつ範囲|最近|date=2016年3月}}しばしば見られる、化石研究者と分子生物学者の意見が対立するケースの、典型的な例であった。しかし、[[パキケトゥス|パキケトゥス・アトッキ]]の化石骨格の研究により、化石研究者側からもクジラがウシ目起源であるとする仮説を補強する、強力な根拠が提出された。[[鯨偶蹄目]]も参照。


==分類==
カバ科はかつてはイノシシ亜目に含めることが多かった。
カバ科はかつてはイノシシ亜目に含めることが多かった。


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ここでは「偶蹄類の分類」を示すため {{sname|Ancodonta}} を独立亜目としたが、実際は {{sname|Ancodonta}} はクジラ類と[[姉妹群]]である。そこで、{{sname|Ancodonta}} とクジラ類を1つの亜目として {{sname|Ancodonta}} は下目にしたり、さらには反芻類も同じ亜目にして反芻類は下目、{{sname|Ancodonta}} は小目とすることも多い。
ここでは「偶蹄類の分類」を示すため {{sname|Ancodonta}} を独立亜目としたが、実際は {{sname|Ancodonta}} はクジラ類と[[姉妹群]]である。そこで、{{sname|Ancodonta}} とクジラ類を1つの亜目として {{sname|Ancodonta}} は下目にしたり、さらには反芻類も同じ亜目にして反芻類は下目、{{sname|Ancodonta}} は小目とすることも多い。


*[[クジ偶蹄目]] ({{sname|Cetartiodactyla}})
* [[ラクダ亜目]] (核脚亜目、{{sname|Tylopoda}})
**[[ラクダ亜目]] (核脚亜目、{{sname|Tylopoda}}
** [[ラクダ]] ({{sname|Camelidae}}): [[ラクダ]]、[[リャマ]]
* [[イノシシ亜目]] 猪豚亜目{{sname|Suina}}
***[[ラクダ科]] ({{sname|Camelidae}}): [[ラクダ]]、[[リャマ]]
**[[イノシシ亜目]] (猪豚亜目、{{sname|Suina}}
** [[イノシシ]] ({{sname|Suidae}}): [[ブタ]]、[[イノシシ]]
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** [[ペッカリー科]] ({{sname|Tayassuidae}}
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***[[マメジカ]] ({{sname|Tragulidae}}
** [[ジャコウジカ]] ({{sname|Moschidae}})→[[麝香]]
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** [[カ科]] ({{sname|Cervidae}}):シカ、 [[トナカイ]]、[[シフゾウ]]
***[[シカ科]] ({{sname|Cervidae}}):シカ、 [[トナカイ]]、[[シフゾウ]]
** [[キリン科]] ({{sname|Giraffidae}}): [[キリン]]、[[オカピ]]
***[[キリン科]] ({{sname|Giraffidae}}): [[キリン]]、[[オカピ]]
** [[プロングホーン科]] ({{sname|Antilocapridae}}
** [[ウシ科]] ({{sname|Bovidae}}) - [[アンテロープ]]、[[ウシ族]]([[ウシ]]など)、[[ヤギ亜科]]([[ヤギ]]、[[ヒツジ]])
***[[プロングホーン科]] ({{sname|Antilocapridae}})
* [[カバ亜目]] {{sname|Ancodonta}}
***[[ウシ科]] ({{sname|Bovidae}}) - [[アンテロープ]]、[[ウシ族]]([[ウシ]]など)、[[ヤギ亜科]]([[ヤギ]]、[[ヒツジ]])
**[[カバ亜目]] ({{sname|Ancodonta}}
** [[カバ]] ({{sname|Hippopotamidae}}): [[カバ]]、[[コビトカバ]]
* [[クジラ亜目]] ({{sname||Cetacea}})
***[[カバ科]] ({{sname|Hippopotamidae}}): [[カバ]]、[[コビトカバ]]
** [[クジラ目]] ({{sname||Cetacea}})
** [[ヒゲクジラ目]] ({{sname||Mysticeti}}) : [[シロナガスクジラ]]、[[ザトウクジラ]]
*** [[ヒゲクジラ下目]] ({{sname||Mysticeti}}) : [[シロナガスクジラ]]、[[ザトウクジラ]]
** [[クジラ下目]] ({{sname||Odontoceti}}) : [[マッコウクジラ]]、[[イルカ]]

*** [[ハクジラ下目]] ({{sname||Odontoceti}}) : [[マッコウクジラ]]、[[イルカ]]
== 出典 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}


== 関連項目 ==
{{哺乳類}}
{{Commonscat}}
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[[Category:偶蹄目|*]]
[[Category:偶蹄目|*]]

2021年7月30日 (金) 12:34時点における版

偶蹄目/鯨偶蹄目
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目/鯨偶蹄目 Artiodactyla/Cetartiodactyla
学名
Artiodactyla Owen, 1848[1]
Cetartiodactyla
和名
偶蹄目[2]
鯨偶蹄目[3]

偶蹄目 (Artiodactyla) は、哺乳綱の目。別名ウシ目[4]

近年の分子系統解析から鯨目を含むという解析結果が得られ従来の本目と鯨目を組み合わせることもあるが、その分類群に対し鯨偶蹄目Cetartiodactylaを用いる説と鯨類を含んだ本目に対しても引き続きArtiodactylaを用いる説がある[5]

特徴

このグループは、ウマ目(奇蹄目)と共に、四肢の先端に(ひづめ)をもつことを特徴とする。また全てのウシ目は後肢かかと関節にある距骨の上下端に滑車状の構造を持つ(これを両滑車とも呼ぶ)。ウシ目(偶蹄目)とウマ目(奇蹄目)を合わせて有蹄目と分類されることもあったが、現在ではウマ目はウシ目よりもネコ目コウモリ目により近いとする説が有力であり、ウシ類とウマ類が共に蹄をもつのは、平行進化によるものであることがわかっている。中新世以降次第に衰退していったウマ目に対し、ウシ目は次第に勢力を伸ばしていった。現在では、カバイノシシラクダキリンヤギシカなどの仲間を含む大きなグループに発展し、有蹄動物全体の約90%を占めている。また、後述されるようにクジラ類をも内包することが明らかになりつつあり、非常に多様性に富んだ発展を遂げて、繁栄しているグループであることになる。

偶蹄目と呼ばれるように、ウシ目の特徴は、2つに割れた蹄である。これは第3指と第4指(中指と薬指)が変化したもので、主蹄(しゅてい)と呼ばれる。また、かかとにあたる部分に、副蹄(ふくてい)とよばれる小さな蹄がついているものもあり、岩場などでずり落ちないようになっている。第3指が体重を支える重心軸となるウマ目と異なり、ウシ目は第3指と第4指の二本が重心軸であるため、このような蹄の構造となる。

分類

後述するように、近年の分子生物学的手法の導入により、鯨類とかつての偶蹄類との系統関係が明らかになった。それによれば、鯨類はカバ類と姉妹群であり、両者は、先に反芻類と分かれた1グループ(鯨凹歯下目)から、さらに2つに分岐したものである。また、鯨凹歯類と反芻類が分岐したのは、ラクダ類およびイノシシ類が、相次いで他の鯨偶蹄類から分岐した後のことであったこともわかっている(鯨偶蹄目の系統と分類を参照)。したがって、ラクダ類・イノシシ類とカバ類・反芻類を含んで鯨類を含まない「偶蹄目」は、単系統群ではなく側系統群であることになり、分岐分類学の考え方によれば、(かつての「有蹄目」と同様)1つの分類群としては成立し得ない。これにより、「偶蹄目」(ウシ目)は生物学的な分類群としては無効となり、かつての偶蹄類と鯨類を併せた「鯨偶蹄目」という分類群が新たに設けられた。


イノシシ亜目以外のウシ目の動物は、消化しにくい繊維分を消化するために、本来の胃(第4胃)のほかに、食道から第1-第3の胃を分化させて、合計4つのをもつ(ラクダキリンなどは、第3胃と第4胃の区別がはっきりしないため、3つとする場合もある)。これらの動物は、複胃または反芻胃と呼ばれるこれら複数の胃によって、一度食べた食物を吐き戻し、噛み返すという反芻(はんすう)を行う。

明確な反芻をおこない、系統的にも近いウシ科シカ科プロングホーン科キリン科ジャコウジカ科マメジカ科をまとめて反芻類と呼ぶ。反芻亜目、ウシ亜目とも呼ぶが、近年は亜目より下の分類階級とされることもあるので注意が必要である。

4つの胃のうち、第1胃には微生物が大量に住み、ここで摂取した食物の分解発酵をしている。この第1胃での微生物による分解と、反芻によって繰り返し咀嚼することによって、他の哺乳類が消化吸収できないセルロースなどを栄養として取り込むことができる。この強力な消化吸収能力が、ウシ目の動物が繁栄した一因とされている。

以前は、反芻の度合いに従い、同じウシ目でも反芻をしない、現生のイノシシ類やカバ類を含む系統をイノシシ亜目(猪豚亜目)とし、系統的に両者の中間に位置すると考えられる、現生のラクダ類を含むグループを、ラクダ亜目(核脚亜目)と分類されていた。しかし分子分岐学により、カバ類は(クジラ類と共に)反芻類に近いこと、中間的と思われたラクダ亜目がクジラ偶蹄類の中で最も初期に分岐したことがわかっている。

クジラの仲間の先祖は、化石研究からは、顆節目に分類されていたメソニクス類、さらにさかのぼれば同じくトリイソドン類と考えられていたが、最近[いつ?]の分子生物学的な研究からは、ウシ目から分化したとする説が出された。これは、最近[いつ?]しばしば見られる、化石研究者と分子生物学者の意見が対立するケースの、典型的な例であった。しかし、パキケトゥス・アトッキの化石骨格の研究により、化石研究者側からもクジラがウシ目起源であるとする仮説を補強する、強力な根拠が提出された。鯨偶蹄目も参照。

カバ科はかつてはイノシシ亜目に含めることが多かった。

亜目は、原始的なものから派生的なものの順に並べた。科は順不同。

ここでは「偶蹄類の分類」を示すため Ancodonta を独立亜目としたが、実際は Ancodonta はクジラ類と姉妹群である。そこで、Ancodonta とクジラ類を1つの亜目として Ancodonta は下目にしたり、さらには反芻類も同じ亜目にして反芻類は下目、Ancodonta は小目とすることも多い。

出典

  1. ^ Peter Grubb, "Order Artiodactyla," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637 - 722.
  2. ^ 川田伸一郎他 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1 - 53頁。
  3. ^ 日本哺乳類学会 種名·標本検討委員会 目名問題検討作業部会 「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127 - 134頁。
  4. ^ 田隅本生 「哺乳類の日本語分類群名,特に目名の取扱いについて 文部省の“目安”にどう対応するか」『哺乳類科学』第40巻 1号、日本哺乳類学会、2000年、83 - 99頁。
  5. ^ Michelle Spaulding et al., "Relationships of Cetacea (Artiodactyla) Among Mammals: Increased Taxon Sampling Alters Interpretations of Key Fossils and Character Evolution," PLoS One, Volume 4, Issue 9, 2009.

関連項目