「Pre-mRNA スプライシング」の版間の差分

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==概要==
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[[蛋白質]]の[[アミノ酸]]配列は基本的に[[遺伝子]]の[[塩基配列]]で決定される。しかし、多くの真核生物の遺伝子内にはイントロンと呼ばれる配列が存在し、これがアミノ酸をコードする配列を分断している。このため余分な配列であるイントロンの除去を行わない限り、そのままでは正常なアミノ酸配列へと[[翻訳]]することができない。この過程は[[DNA]]に変更を加えるものではなく、[[転写]]された[[RNA]]([[mRNA前駆体]]、pre-mRNA)に対して行われる。
[[蛋白質]]の[[アミノ酸]]配列は基本的に[[遺伝子]]の[[塩基配列]]で決定される。しかし、多くの真核生物の遺伝子内にはイントロンと呼ばれる配列が存在し、これがアミノ酸をコードする配列を分断している。このため余分な配列であるイントロンの除去を行わない限り、そのままでは正常なアミノ酸配列へと[[翻訳]]することができない。この過程は[[DNA]]に変更を加えるものではなく、[[転写]]された[[リボ核酸|RNA]]([[mRNA前駆体]]、pre-mRNA)に対して行われる。


DNA
DNA

2006年10月14日 (土) 12:24時点における版

一次転写産物からスプライセオソーマルイントロンが除去されエクソンが再結合される過程をpre-mRNAスプライシング(プレ・エムアールエヌエー・スプライシング)という。生物学の分野で単にスプライシングという時はこれを指すことが多い。

概要

蛋白質アミノ酸配列は基本的に遺伝子塩基配列で決定される。しかし、多くの真核生物の遺伝子内にはイントロンと呼ばれる配列が存在し、これがアミノ酸をコードする配列を分断している。このため余分な配列であるイントロンの除去を行わない限り、そのままでは正常なアミノ酸配列へと翻訳することができない。この過程はDNAに変更を加えるものではなく、転写されたRNAmRNA前駆体、pre-mRNA)に対して行われる。

DNA
EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEE
EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEE


          転写  ↓

pre-mRNA
EEEEEEEEEEEiiiiiiiiiiiiEEEEEEEEEEEEE

スプライシング等 ↓

mRNA
     EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

          翻訳  ↓

蛋白質
           AAAAAAAA

E:エクソン i;イントロン A:アミノ酸


ちょっと詳しく

イントロンの構造

基本的なpre-mRNA スプライシングに重要なイントロンのエレメントには、5'スプライス部位、3'スプライス部位、ブランチポイントがある。5'スプライス部位と3'スプライス部位は別名ドナーサイト、アクセプターサイトとも呼ばれ、それぞれイントロンの上端と下端に位置する。ブランチサイトは3'スプライス部位の数十塩基上流にあり、スプライシング反応の第一段階で、切断された5'スプライス部位がここのアデノシン残基に結合する。これらのエレメントは、それぞれ周辺に特徴的なある程度共通した塩基配列を持ち、これをコンセンサス配列という。さらに、酵母以外ではピリミジンに富んだ領域(ポリピリミジントラクト)がブランチサイトの下流、3'スプライス部位の上流にあり、イントロンの認識に重要な役割を果たしている。以下主要なイントロンであるGT-AGイントロンについて記述する。このイントロンではイントロンの両末端に存在するGTおよびAGの2塩基はほぼ完全に保存されている。下図は哺乳類でのコンセンサス配列を含んだ図だが、他の生物種でも類似した構造を持っている。

5' NNNNNNNAGgtragtnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnytraynnnnnnyyyyyyyyyynagRNNNNNNNNN 3'
            ^                                                  ^       ^^^^^^^^^^  ^
            5' ss                                       ブランチポイント          3' ss
                                                                     ポリピリミジントラクト
大文字はエクソン、小文字はイントロンを表す。核酸略号は塩基配列参照。

スプライシング反応の中心機構

pre-mRNAスプライシングには、さまざまな蛋白質とRNAからなる複合体であるスプライセオソームが必要となり、これは規則性を持った乖離会合を伴った複雑な過程であることが知られている。まず転写されたmRNA前駆体上の5'スプライス部位にU1 snRNP が結合し、U2 snRNP はブランチサイトに結合する。これらに含まれるU1 snRNAおよびU2 snRNAはpre-mRNAに一部相補的な配列を持ちこれがスプライス部位の認識に関わる。さらにU4U5U6 snRNPが会合し、U1 snRNPはU6 snRNPにその場を譲り乖離する。またU4 snRNPもこの前後に離れるとされる。この状態では、U6 snRNPはブランチサイトのU2 snRNPと5'スプライス部位に結合しており、U5 snRNPは上流のエクソンに結合している。ここで5'スプライス部位の切断とブランチサイトへの結合が起こる(スプライシング反応第一段階)。このとき、イントロンは投げ縄状の構造になる。別名ラリアット構造とも呼ばれる。U5 snRNPは下流のエクソンにも結合するようになり、両エクソンはU5 snRNPによって繋ぎ止められた状態になる。次に、3’スプライス部位の切断とエクソン同士の結合が起こり、イントロンが放出される(スプライシング反応第二段階)。放出された投げ縄状イントロンはブランチが外され(デブランチング)、分解される。一方、U snRNPsは再びスプライシング反応に使用するために再生される。

選択的スプライシング

ある一つのmRNA前駆体からいくつか異なった組み合わせのエクソンを持つmRNAが作られることがある。このようなmRNAを生み出す機構は選択的スプライシングと呼ばれ、ヒトの遺伝子の半数程度に見られるという見積もりもある。これに対し、ただ1通りのエキソンの組み合わせのみのmRNAが作られる反応は構成的スプライシングと呼ばれる。選択的スプライシングによって、一つの遺伝子から活性の異なる複数種のアイソフォームと呼ばれるタンパク質が作られる。また、発生段階や組織など環境に応じて、時間的・空間的に選択的スプライシングを制御することによってアイソフォームを作り分けている例も知られている。

例
 mRNA前駆体
          AAAAiiiiiiiiiiBBBBiiiiiiiiiiiiCCCCiiiiiiiiiiDDDD
                                        
               ↓                                 ↓
         エクソンCを含まない                     エクソンCを含む

               ↓                                 ↓
mRNA
          AAAABBBBDDDD                     AAAABBBBCCCCDDDD
               ↓                                 ↓
蛋白質    
              XXXX                              ZZZZZ
           活性型蛋白質                        非活性型蛋白質