「ベリリウム」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
m編集の要約なし
131行目: 131行目:
|publisher = ONLINE Encyclopedia
|publisher = ONLINE Encyclopedia
|accessdate = 2011-10-12
|accessdate = 2011-10-12
}}</ref>, {{lang-en-short|beryllium}} {{IPA-en|bəˈrɪliəm|}})は、[[原子番号]] 4 の[[元素]]である。[[元素記号]]は '''Be'''。[[原子量]]は 9.01218。[[第2族元素]]のつ。
}}</ref>, {{lang-en-short|beryllium}} {{IPA-en|bəˈrɪliəm|}})は、[[原子番号]]4の[[元素]]である。[[元素記号]]は'''Be'''。[[原子量]]は9.01218。[[第2族元素]]のひとつ。


== 名称 ==
== 名称 ==
[[ファイル:Louis Nicolas Vauquelin.jpg|thumb|180px|ヴォークラン]]
[[ファイル:Louis Nicolas Vauquelin.jpg|thumb|180px|ヴォークラン]]
[[ファイル:Berillo.jpg|thumb|right|200px|緑柱石]]
[[ファイル:Berillo.jpg|thumb|right|200px|緑柱石]]
はじめに、[[ルイ=ニコラ・ヴォークラン]]が「グルシニウム(旧元素記号Gl, glucinium)」と名づけた。語源の glykys は、ギリシア語で甘さを意味する。これは、ベリリウム化合物が甘みを持つことにちなんでいる<ref name="Weeks">{{citation
はじめに、[[ルイ=ニコラ・ヴォークラン]]が「グルシニウム(旧元素記号Glglucinium)」と名づけた。語源のglykysは、ギリシア語で甘さを意味する。これは、ベリリウム化合物が甘みを持つことにちなんでいる<ref name="Weeks">{{citation
|last = Weeks
|last = Weeks
|first = Mary Elvira
|first = Mary Elvira
146行目: 146行目:
|isbn = 0-7661-3872-0}}</ref>。
|isbn = 0-7661-3872-0}}</ref>。


[[1828年]]には、[[マルティン・ハインリヒ・クラプロート]]が「ベリリウム」と命名した。この名前は[[緑柱石]](beryl, [[ギリシア語]]で beryllos)に由来している。<ref>[[#yamaguchi2007|山口 (2007) 58頁。]]</ref><ref>{{cite book|和書
[[1828年]]には、[[マルティン・ハインリヒ・クラプロート]]が「ベリリウム」と命名した。この名前は[[緑柱石]](beryl[[ギリシア語]]で beryllos)に由来している。<ref>[[#yamaguchi2007|山口 (2007) 58頁。]]</ref><ref>{{cite book|和書
|title = 元素を知る事典: 先端材料への入門
|title = 元素を知る事典: 先端材料への入門
|author = 村上雅人
|author = 村上雅人
156行目: 156行目:


== 歴史 ==
== 歴史 ==
初期の分析において[[緑柱石]]と[[エメラルド]]は常に類似した成分が検出されており、この物質は[[ケイ酸アルミニウム]]であると誤って結論けられていた。[[鉱物学]]者であった[[ルネ=ジュスト・アユイ]]はこのつの結晶が著しい類似点を示すことを発見し、彼はこれを化学的に分析するために[[化学者]]である[[ルイ=ニコラ・ヴォークラン]]に尋ねた。[[1797年]]、ヴォークランは緑柱石をアルカリで処理することによって[[水酸化アルミニウム]]を溶解させ、[[アルミニウム]]からベリリウム酸化物を分離させることに成功した<ref>{{citation
初期の分析において[[緑柱石]]と[[エメラルド]]は常に類似した成分が検出されており、この物質は[[ケイ酸アルミニウム]]であると誤って結論けられていた。[[鉱物学]]者であった[[ルネ=ジュスト・アユイ]]はこの2つの結晶が著しい類似点を示すことを発見し、彼はこれを化学的に分析するために[[化学者]]である[[ルイ=ニコラ・ヴォークラン]]に尋ねた。[[1797年]]、ヴォークランは緑柱石をアルカリで処理することによって[[水酸化アルミニウム]]を溶解させ、[[アルミニウム]]からベリリウム酸化物を分離させることに成功した<ref>{{citation
|journal = Annales de Chimie
|journal = Annales de Chimie
|url = http://books.google.com/books?id=dB8AAAAAMAAJ&pg=RA1-PA155
|url = http://books.google.com/books?id=dB8AAAAAMAAJ&pg=RA1-PA155
189行目: 189行目:
:<chem>BeCl2 + 2K -> 2KCl + Be</chem>
:<chem>BeCl2 + 2K -> 2KCl + Be</chem>


カリウムは、当時新しく発見された方法である[[電気分解]]によってカリウム化合物より生産されていた。この化学的手法によって得られるベリリウムは小さな粒状であり、金属ベリリウムの[[地金|インゴット]]を[[鋳造]]もしくは[[鍛造]]することは出来なかった<ref>{{cite book|和書
カリウムは、当時新しく発見された方法である[[電気分解]]によってカリウム化合物より生産されていた。この化学的手法によって得られるベリリウムは小さな粒状であり、金属ベリリウムの[[地金|インゴット]]を[[鋳造]]もしくは[[鍛造]]することはできなかった<ref>{{cite book|和書
|title = 元素を知る事典: 先端材料への入門
|title = 元素を知る事典: 先端材料への入門
|author = 村上雅人
|author = 村上雅人
198行目: 198行目:
}}</ref>。1898年、{{仮リンク|ポール・ルボー|en|Paul Lebeau}}は[[フッ化ベリリウム]]と[[フッ化ナトリウム]]の混合融液を直接電気分解することによって、初めて純粋なベリリウムの試料を得た<ref name="Weeks" />。
}}</ref>。1898年、{{仮リンク|ポール・ルボー|en|Paul Lebeau}}は[[フッ化ベリリウム]]と[[フッ化ナトリウム]]の混合融液を直接電気分解することによって、初めて純粋なベリリウムの試料を得た<ref name="Weeks" />。


[[第一次世界大戦]]以前にも有意な量のベリリウムが生産されていたが、大規模生産が始まったのは1930年代初期からである。ベリリウムの生産量は、硬い[[ベリリウム銅]]合金および蛍光灯の蛍光体用途の需要の伸びによって、[[第二次世界大戦]]中に急速に増加した。初期の[[蛍光灯]]にはベリリウムを含有した[[オルトケイ酸亜鉛]]が使用されていたが、にベリリウムの有毒性が発見されたため[[ハロリン酸系蛍光体]]に置き換えられた<ref>{{citation
[[第一次世界大戦]]以前にも有意な量のベリリウムが生産されていたが、大規模生産が始まったのは1930年代初期からである。ベリリウムの生産量は、硬い[[ベリリウム銅]]合金および蛍光灯の蛍光体用途の需要の伸びによって、[[第二次世界大戦]]中に急速に増加した。初期の[[蛍光灯]]にはベリリウムを含有した[[オルトケイ酸亜鉛]]が使用されていたが、のちにベリリウムの有毒性が発見されたため[[ハロリン酸系蛍光体]]に置き換えられた<ref>{{citation
|chapter = A Review of Early Inorganic Phosphors
|chapter = A Review of Early Inorganic Phosphors
|url = http://books.google.com/books?id=klE5qGAltjAC&pg=PA98
|url = http://books.google.com/books?id=klE5qGAltjAC&pg=PA98
206行目: 206行目:
|author1 = Kane, Raymond
|author1 = Kane, Raymond
|author2 = Sell, Heinz
|author2 = Sell, Heinz
|year = 2001}}</ref>。また、ベリリウムの初期の主要な用途のつとして、その硬さや融点の高さ、非常に優れた[[ヒートシンク]]性能を利用した軍用機の[[ブレーキ]]への利用が挙げられるが、こちらも環境への配慮から別の材料に代替された<ref name=Be/>。
|year = 2001}}</ref>。また、ベリリウムの初期の主要な用途のひとつとして、その硬さや融点の高さ、非常に優れた[[ヒートシンク]]性能を利用した軍用機の[[ブレーキ]]への利用が挙げられるが、こちらも環境への配慮から別の材料に代替された<ref name=Be/>。


== 特徴 ==
== 特徴 ==
ベリリウムは[[緑柱石]]などの鉱物から産出される。緑柱石は不純物に由来する色の違いによって[[アクアマリン]]や[[エメラルド]]などと呼ばれ、[[宝石]]としても用いられる。常温常圧で安定した[[結晶構造]]は[[六方最密充填構造]](HCP)である。単体は銀白色の金属で、空気中では表面に酸化被膜が生成され安定に存在できる。[[モース硬度]]は6から7を示し、硬く、常温では脆いが、高温になると[[展延性]]が増す。[[酸]]にも[[アルカリ]]にも溶解する。ベリリウムの安定同位体は恒星の[[元素合成]]においては生成されず、[[宇宙線による核破砕]]によって[[炭素]]や[[窒素]]などより重い元素から生成される。
ベリリウムは[[緑柱石]]などの鉱物から産出される。緑柱石は不純物に由来する色の違いによって[[アクアマリン]]や[[エメラルド]]などと呼ばれ、[[宝石]]としても用いられる。常温常圧で安定した[[結晶構造]]は[[六方最密充填構造]](HCP)である。単体は銀白色の金属で、空気中では表面に酸化被膜が生成され安定に存在できる。[[モース硬度]]は6から7を示し、硬く、常温では脆いが、高温になると[[展延性]]が増す。[[酸]]にも[[アルカリ]]にも溶解する。ベリリウムの安定同位体は恒星の[[元素合成]]においては生成されず、[[宇宙線による核破砕]]によって[[炭素]]や[[窒素]]などより重い元素から生成される。


ベリリウムは[[周期表]]の上では[[第2族元素]]に属しているが、その性質は同じ族の元素である[[カルシウム]]や[[ストロンチウム]]よりもむしろ[[第13族元素]]である[[アルミニウム]]に類似している<ref name=chitani187>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 187頁。</ref>。たとえば、カルシウムやストロンチウムは[[炎色反応]]によって発色するが、ベリリウムは無色である<ref name=chitani198>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 198頁。</ref>。そのため、ベリリウムは第2族元素ではあるが、[[アルカリ土類金属]]には含めないこともある<ref name=basic26>[[#櫻井鈴木中尾2003|櫻井、鈴木、中尾 (2005)]] 26頁。</ref>。また、ベリリウムの[[二元化合物]]の構造は[[亜鉛]]とも類似している<ref name=CW267>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 267頁。</ref>。
ベリリウムは[[周期表]]の上では[[第2族元素]]に属しているが、その性質は同じ族の元素である[[カルシウム]]や[[ストロンチウム]]よりもむしろ[[第13族元素]]である[[アルミニウム]]に類似している<ref name=chitani187>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 187頁。</ref>。たとえば、カルシウムやストロンチウムは[[炎色反応]]によって発色するが、ベリリウムは無色である<ref name=chitani198>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 198頁。</ref>。そのため、ベリリウムは第2族元素ではあるが、[[アルカリ土類金属]]には含めないこともある<ref name=basic26>[[#櫻井鈴木中尾2003|櫻井、鈴木、中尾 (2005)]] 26頁。</ref>。また、ベリリウムの[[二元化合物]]の構造は[[亜鉛]]とも類似している<ref name=CW267>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 267頁。</ref>。


=== 物理的性質 ===
=== 物理的性質 ===
ベリリウムの常温、常圧([[標準状態]])における安定した[[結晶構造]]は[[六方最密充填構造]](HCP)であり、その[[格子定数]]は a = 2.268 [[オングストローム|Å]]、b = 3.594 Å である<ref name=chitani199>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 199頁。</ref>。モース硬度6から7<ref>{{Cite journal
ベリリウムの常温、常圧([[標準状態]])における安定した[[結晶構造]]は[[六方最密充填構造]](HCP)であり、その[[格子定数]]はa=2.268[[オングストローム|Å]]、b=3.594Åである<ref name=chitani199>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 199頁。</ref>。モース硬度6から7<ref>{{Cite journal
|title = Occurrence of nonpegmatite beryllium in the United States
|title = Occurrence of nonpegmatite beryllium in the United States
|author = Lawrence A. Warner et al.
|author = Lawrence A. Warner et al.
221行目: 221行目:
|journal = U.S. Geological Survey professional paper
|journal = U.S. Geological Survey professional paper
|volume = 318
|volume = 318
}}</ref>と第2族元素の中でも硬いが、粉砕によって粉末にできるほど脆い<ref name=chitani193/>。しかしながら、高温になると[[展延性]]が増すため<ref>{{Cite book
}}</ref>と第2族元素の中でもっとも硬いが、粉砕によって粉末にできるほど脆い<ref name=chitani193/>。しかしながら、高温になると[[展延性]]が増すため<ref>{{Cite book
|title = 無機化学ハンドブック
|title = 無機化学ハンドブック
|author = 無機化学ハンドブック編集委員会
|author = 無機化学ハンドブック編集委員会
238行目: 238行目:
|url = http://jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1995/jspf1995_05/jspf1995_05-389.pdf
|url = http://jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1995/jspf1995_05/jspf1995_05-389.pdf
|accessdate = 2012-01-25
|accessdate = 2012-01-25
}}</ref>。この用途では、400 [[セルシウス度|℃]]を下回る温度になると使用上問題となるレベルにまで[[展延性]]が低下してしまう<ref name=yoshida/>。比重は 1.816、[[融点]]は 1284 ℃、[[沸点]]は 2767 ℃である<ref name=chitani193/>。
}}</ref>。この用途では、400[[セルシウス度|℃]]を下回る温度になると使用上問題となるレベルにまで[[展延性]]が低下してしまう<ref name=yoshida/>。比重は1.816、[[融点]]は1,284℃、[[沸点]]は2,767℃である<ref name=chitani193/>。


ベリリウムの[[ヤング率]]は287 GPa と[[鉄]]のヤング率より50 [[パーセント|%]]も高く<ref>{{Cite web|title=ベリリウム反射体要素欠陥評価法に関する検討|url=http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Technology-2011-034.pdf|publisher=日本原子力研究開発機構|page=6|accessdate=2014-08-19}}</ref>、非常に強い[[曲げ強さ]]を有している。このような高いヤング率の高さに由来してベリリウムの[[剛性]]は非常に優れており、後述の熱負荷の大きい環境における安定性も相まって[[宇宙船]]や[[航空機]]などの構造部材に利用されている。また、このヤング率の大きさと、ベリリウムが比較的低密度であるという物性が組み合わさることにより、周囲の状況に応じて変化するものの、およそ 12.9 km/s という著しく高い音の伝導性を示す。この性質を利用して音響材料におけるスピーカーの[[振動板]]などに用いられている。ベリリウムの他の重要な特性としては、{{math|1925 J ⋅ kg{{sup-|1}} ⋅ K{{sup-|1}}}} という高い[[比熱]]および、{{math|216 W ⋅ m{{sup-|1}} ⋅ K{{sup-|1}}}} という高い[[熱伝導率]]が挙げられ、これらの物性によってベリリウムは単位重量当たりの放熱物性にも優れた金属である。この放熱物性を利用した用途として[[ヒートシンク]]材料が挙げられ、電子材料などにおいて活用されている。またこれらの物性は、{{math|11.4×10{{sup-|6}} K{{sup-|1}}}} という比較的低い線形[[熱膨張率]]や1284 ℃という高い融点も相まって、熱負荷の大きな状況下における非常に高い安定性をもたらしている<ref name=Be>{{citation
ベリリウムの[[ヤング率]]は287GPaと[[鉄]]のヤング率より50パーセントも高く<ref>{{Cite web|title=ベリリウム反射体要素欠陥評価法に関する検討|url=http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Technology-2011-034.pdf|publisher=日本原子力研究開発機構|page=6|accessdate=2014-08-19}}</ref>、非常に強い[[曲げ強さ]]を有している。このような高いヤング率の高さに由来してベリリウムの[[剛性]]は非常に優れており、後述の熱負荷の大きい環境における安定性も相まって[[宇宙船]]や[[航空機]]などの構造部材に利用されている。また、このヤング率の大きさと、ベリリウムが比較的低密度であるという物性が組み合わさることにより、周囲の状況に応じて変化するものの、およそ秒速12.9キロという著しく高い音の伝導性を示す。この性質を利用して音響材料におけるスピーカーの[[振動板]]などに用いられている。ベリリウムの他の重要な特性としては、{{math|1925 J ⋅ kg{{sup-|1}} ⋅ K{{sup-|1}}}}という高い[[比熱]]および、{{math|216 W ⋅ m{{sup-|1}} ⋅ K{{sup-|1}}}}という高い[[熱伝導率]]が挙げられ、これらの物性によってベリリウムは単位重量当たりの放熱物性にもっとも優れた金属である。この放熱物性を利用した用途として[[ヒートシンク]]材料が挙げられ、電子材料などにおいて活用されている。またこれらの物性は、{{math|11.4×10{{sup-|6}} K{{sup-|1}}}}という比較的低い線形[[熱膨張率]]や1,284℃という高い融点も相まって、熱負荷の大きな状況下における非常に高い安定性をもたらしている<ref name=Be>{{citation
|title = Landolt-Börnstein&nbsp;– Group VIII Advanced Materials and Technologies: Powder Metallurgy Data. Refractory, Hard and Intermetallic Materials
|title = Landolt-Börnstein&nbsp;– Group VIII Advanced Materials and Technologies: Powder Metallurgy Data. Refractory, Hard and Intermetallic Materials
|chapter = 11 Beryllium
|chapter = 11 Beryllium
255行目: 255行目:


=== 化学的性質 ===
=== 化学的性質 ===
ベリリウムの[[単体]]は[[還元]]性が非常に強く、その標準[[酸化還元電位]] E{{sub|0}} は &minus;1.85 [[ボルト (単位)|V]] である<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 295頁。</ref>。この標準電位の値は[[イオン化傾向]]において[[アルミニウム]]の上に位置しているため大きな化学活性が期待されるが、実際には表面が酸化物の膜(酸化被膜)に覆われて[[不動態]]化するため高温に熱した状態でさえも空気や水と反応しない。しかしながら、一旦点火すれば輝きながら燃焼して[[酸化ベリリウム]]と[[窒化ベリリウム]]の混合物が形成される<ref name=Greenwood>{{citation
ベリリウムの[[単体]]は[[還元]]性が非常に強く、その標準[[酸化還元電位]]E{{sub|0}}は &minus;1.85 [[ボルト (単位)|V]] である<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 295頁。</ref>。この標準電位の値は[[イオン化傾向]]において[[アルミニウム]]の上に位置しているため大きな化学活性が期待されるが、実際には表面が酸化物の膜(酸化被膜)に覆われて[[不動態]]化する[[不動態|、]]ため高温に熱した状態でさえも空気や水と反応しない。しかしながら、いったん点火すれば輝きながら燃焼して[[酸化ベリリウム]]と[[窒化ベリリウム]]の混合物が形成される<ref name=Greenwood>{{citation
|author = N. N. Greenwood, A. Earnshaw
|author = N. N. Greenwood, A. Earnshaw
|year = 1997
|year = 1997
265行目: 265行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


ベリリウムは通常、表面に酸化被膜を形成しているため[[酸]]に対しての強い耐性を示すが、酸化被膜を取り除いた純粋なベリリウムでは[[塩酸]]や希[[硫酸]]のような[[酸化]]力を持たない酸に対しては容易に溶解する。[[硝酸]]のような酸化力を有する酸に対してはゆっくりとしか溶解しない。また、強[[アルカリ]]に対しては[[オキソ酸]]イオンであるベリリウム酸イオン (Be(OH){{sub|4}}{{sup|2&minus;}}) を形成して[[水素]]ガスを発生させながら溶解する。このような酸やアルカリに対する性質はアルミニウムと類似している<ref name=CW271>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 271頁。</ref>。ベリリウムは水とも水素を発生させながら反応するが、水との反応によって生じる[[水酸化ベリリウム]]は水に対する溶解度が低く金属表面に被膜を形成するため、金属表面のベリリウムが反応しきればそれ以上反応は進行しない<ref name=chitani195>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 195頁。</ref>。
ベリリウムは通常、表面に酸化被膜を形成しているため[[酸]]に対しての強い耐性を示すが、酸化被膜を取り除いた純粋なベリリウムでは[[塩酸]]や希[[硫酸]]のような[[酸化]]力を持たない酸に対しては容易に溶解する。[[硝酸]]のような酸化力を有する酸に対してはゆっくりとしか溶解しない。また、強[[アルカリ]]に対しては[[オキソ酸]]イオンであるベリリウム酸イオン(Be(OH){{sub|4}}{{sup|2&minus;}}を形成して[[水素]]ガスを発生させながら溶解する。このような酸やアルカリに対する性質はアルミニウムと類似している<ref name=CW271>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 271頁。</ref>。ベリリウムは水とも水素を発生させながら反応するが、水との反応によって生じる[[水酸化ベリリウム]]は水に対する溶解度が低く金属表面に被膜を形成するため、金属表面のベリリウムが反応しきればそれ以上反応は進行しない<ref name=chitani195>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 195頁。</ref>。
[[ファイル:Elektronskal 4.png|left|thumb|150px|ベリリウムの[[電子殻]]]]
[[ファイル:Elektronskal 4.png|left|thumb|150px|ベリリウムの[[電子殻]]]]
ベリリウム[[原子]]の[[電子配置]]は [He] 2s{{sup|2}} である。ベリリウムはその[[原子半径]]の小ささに対して[[イオン化エネルギー]]が大きいため[[電荷]]を完全に分離することは難しく、そのためベリリウムの化合物は[[共有結合]]性を有している<ref name=CW269>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 269頁。</ref>。[[第2周期元素]]は原子量が大きくなるにしたがって[[イオン化エネルギー]]も増大する法則が見られるがベリリウムはその法則から外れており、より原子量の大きな[[ホウ素]]よりもイオン化エネルギーが大きい。これは、ベリリウムの[[最外殻電子]]が2s軌道上にあり、[[ホウ素]]の最外殻電子は2p軌道上にあることに起因している。2p軌道の電子は内殻に存在するs軌道の電子によって[[遮蔽効果]]([[有効核電荷]]も参照)を受けるため、2p軌道に存在する最外殻電子のイオン化エネルギーが低下する。一方で2s軌道の電子は遮蔽効果を受けないため、相対的に2p軌道の電子よりも[[イオン化エネルギー]]が大きくなり、これによってベリリウムとホウ素の間でイオン化エネルギーの大きさの逆転が生じる<ref>{{cite book|和書
ベリリウム[[原子]]の[[電子配置]]は[He]2s{{sup|2}}である。ベリリウムはその[[原子半径]]の小ささに対して[[イオン化エネルギー]]が大きいため[[電荷]]を完全に分離することは難しく、そのためベリリウムの化合物は[[共有結合]]性を有している<ref name=CW269>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 269頁。</ref>。[[第2周期元素]]は原子量が大きくなるにしたがって[[イオン化エネルギー]]も増大する法則が見られるがベリリウムはその法則から外れており、より原子量の大きな[[ホウ素]]よりもイオン化エネルギーが大きい。これは、ベリリウムの[[最外殻電子]]が2s軌道上にあり、[[ホウ素]]の最外殻電子は2p軌道上にあることに起因している。2p軌道の電子は内殻に存在するs軌道の電子によって[[遮蔽効果]]([[有効核電荷]]も参照)を受けるため、2p軌道に存在する最外殻電子のイオン化エネルギーが低下する。一方で2s軌道の電子は遮蔽効果を受けないため、相対的に2p軌道の電子よりも[[イオン化エネルギー]]が大きくなり、これによってベリリウムとホウ素の間でイオン化エネルギーの大きさの逆転が生じる<ref>{{cite book|和書
|title = 物理化学II: 量子化学編
|title = 物理化学II: 量子化学編
|author = 伊藤和明
|author = 伊藤和明
277行目: 277行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


ベリリウムの[[錯体]]もしくは錯イオンは、たとえばテトラアクアベリリウム(II)イオン (Be[(H{{sub|2}}O){{sub|4}}]{{sup|2+}}) やテトラハロベリリウム酸イオン (BeX{{sub|4}}{{sup|2&minus;}}) のように、多くの場合4[[配位結合|配位]]を取る<ref name=CW269/>。[[エチレンジアミン四酢酸|EDTA]] はの[[配位子]]よりも優先してベリリウムに配位して[[八面体形]]の錯体を形成するため、分析技術にこの性質が利用される。たとえば、ベリリウムのアセチルアセトナト錯体に EDTA を加えると、EDTA が[[アセチルアセトン]]よりも優先してベリリウムとの間で錯体を形成してアセチルアセトンが分離するため、ベリリウムを[[溶媒抽出法|溶媒抽出]]することができる。このような EDTA を用いた錯体形成においては Al{{sup|3+}} のようなの陽イオンによって悪影響を受けることがある<ref>{{citation
ベリリウムの[[錯体]]もしくは錯イオンは、たとえばテトラアクアベリリウム(II)イオン(Be[(H{{sub|2}}O){{sub|4}}]{{sup|2+}}やテトラハロベリリウム酸イオン(BeX{{sub|4}}{{sup|2&minus;}}のように、多くの場合4[[配位結合|配位]]を取る<ref name=CW269/>。[[エチレンジアミン四酢酸|EDTA]] はほかの[[配位子]]よりも優先してベリリウムに配位して[[八面体形]]の錯体を形成するため、分析技術にこの性質が利用される。たとえば、ベリリウムのアセチルアセトナト錯体にEDTAを加えると、EDTAが[[アセチルアセトン]]よりも優先してベリリウムとの間で錯体を形成してアセチルアセトンが分離するため、ベリリウムを[[溶媒抽出法|溶媒抽出]]することができる。このようなEDTAを用いた錯体形成においてはAl{{sup|3+}}のようなほかの陽イオンによって悪影響を受けることがある<ref>{{citation
|title = Determination of a trace amount of beryllium in water samples by graphite furnace atomic absorption spectrometry after preconcentration and separation as a beryllium-acetylacetonate complex on activated carbon
|title = Determination of a trace amount of beryllium in water samples by graphite furnace atomic absorption spectrometry after preconcentration and separation as a beryllium-acetylacetonate complex on activated carbon
|author = Okutani, T.; Tsuruta, Y.; Sakuragawa, A.
|author = Okutani, T.; Tsuruta, Y.; Sakuragawa, A.
290行目: 290行目:
=== 化合物 ===
=== 化合物 ===
[[ファイル:Beryllium sulfate 4 hydrate.jpg|thumb|150px|硫酸ベリリウム]]
[[ファイル:Beryllium sulfate 4 hydrate.jpg|thumb|150px|硫酸ベリリウム]]
[[硫酸ベリリウム]]や[[硝酸ベリリウム]]のようなベリリウム[[塩 (化学)|塩]]の溶液は <chem>[Be(H2O)4]^{2+}</chem> イオンの[[加水分解]]によって酸性を示す。
[[硫酸ベリリウム]]や[[硝酸ベリリウム]]のようなベリリウム[[塩 (化学)|塩]]の溶液は <chem>[Be(H2O)4]^{2+}</chem>イオンの[[加水分解]]によって酸性を示す。
: <chem>[Be(H2O)4]^2+ + H2O <=> [Be(H2O)3(OH)]^+ + H3O^+</chem>
: <chem>[Be(H2O)4]^2+ + H2O <=> [Be(H2O)3(OH)]^+ + H3O^+</chem>
加水分解によるの生成物には、[[二量体|3量体]]イオン <chem>[Be3(OH)3(H2O)6]^{3+}</chem> が含まれる。


加水分解によるほかの生成物には、[[二量体|3量体]]イオン <chem>[Be3(OH)3(H2O)6]^{3+}</chem>が含まれる。
ベリリウムは多くの[[非金属]]原子と[[二元化合物]]を形成する。無水ハロゲン化物としては、[[フッ素]]、[[塩素]]、[[臭素]]、[[ヨウ素]]との化合物が知られており、固体状態においては橋掛け結合によって[[重合体|重合]]している<ref name=CW269/>。[[フッ化ベリリウム]] (BeF{{sub|2}}) は、[[二酸化ケイ素]]のような角を共有した BeF{{sub|4}} の四面体構造を取り、[[ガラス]]状においては無秩序な直鎖構造を取る<ref name=CW272>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 272頁。</ref>。[[塩化ベリリウム]]および[[臭化ベリリウム]]は両端を共有した直鎖状の構造を取る。ての[[ハロゲン化物|ハロゲン化]]ベリリウムは、気体の状態においては線形の[[モノマー]]分子構造を取る<ref name=CW269/><ref name = "Greenwood" />。塩化ベリリウムは金属ベリリウムを塩素と直接反応させることによって得られ、これは[[塩化アルミニウム]]と同様の製法である<ref name=chitani222>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 222頁。</ref>。


ベリリウムは多くの[[非金属]]原子と[[二元化合物]]を形成する。無水ハロゲン化物としては、[[フッ素]]、[[塩素]]、[[臭素]]、[[ヨウ素]]との化合物が知られており、固体状態においては橋掛け結合によって[[重合体|重合]]している<ref name=CW269/>。[[フッ化ベリリウム]](BeF{{sub|2}}は、[[二酸化ケイ素]]のような角を共有したBeF{{sub|4}}の四面体構造を取り、[[ガラス]]状においては無秩序な直鎖構造を取る<ref name=CW272>[[#CW1987|コットン、ウィルキンソン (1987)]] 272頁。</ref>。[[塩化ベリリウム]]および[[臭化ベリリウム]]は両端を共有した直鎖状の構造を取る。すべての[[ハロゲン化物|ハロゲン化]]ベリリウムは、気体の状態においては線形の[[モノマー]]分子構造を取る<ref name=CW269/><ref name = "Greenwood" />。塩化ベリリウムは金属ベリリウムを塩素と直接反応させることによって得られ、これは[[塩化アルミニウム]]と同様の製法である<ref name=chitani222>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 222頁。</ref>。
酸化ベリリウムは[[ウルツ鉱型構造]]を取る耐火性の白色結晶であり、金属と同じぐらい高い熱伝導率を有する。酸化ベリリウムは2種類の[[多形]]が存在し、低温型の酸化ベリリウムは熱したアルカリ溶液などに溶解するが、高温では[[相転移]]してより安定な構造となり濃硫酸に[[硫酸アンモニウム]]を加えた熱シロップのみにしか溶解しなくなる<ref name=CW271/>。のベリリウムと[[第16族元素]]との化合物は[[硫化ベリリウム]]や[[セレン化ベリリウム]]、[[テルル化ベリリウム]]が知られており、それらはて[[閃亜鉛鉱型構造]]を取る<ref name = "Wiberg&Holleman">{{citation

酸化ベリリウムは[[ウルツ鉱型構造]]を取る耐火性の白色結晶であり、金属と同じぐらい高い熱伝導率を有する。酸化ベリリウムは2種類の[[多形]]が存在し、低温型の酸化ベリリウムは熱したアルカリ溶液などに溶解するが、高温では[[相転移]]してより安定な構造となり濃硫酸に[[硫酸アンモニウム]]を加えた熱シロップのみにしか溶解しなくなる<ref name=CW271/>。ほかのベリリウムと[[第16族元素]]との化合物は[[硫化ベリリウム]]や[[セレン化ベリリウム]]、[[テルル化ベリリウム]]が知られており、それらはすべて[[閃亜鉛鉱型構造]]を取る<ref name = "Wiberg&Holleman">{{citation
|author = Wiberg, Egon; Holleman, Arnold Frederick
|author = Wiberg, Egon; Holleman, Arnold Frederick
|year = 2001
|year = 2001
302行目: 303行目:
|publisher = Elsevier
|publisher = Elsevier
|isbn = 0123526515
|isbn = 0123526515
}}</ref>。[[水酸化ベリリウム]]は[[両性 (化学)|両性]]を示し<ref name=CW271/>、その酸性水溶液がのベリリウム塩を合成する出発原料とされる<ref name = "Greenwood" />。
}}</ref>。[[水酸化ベリリウム]]は[[両性 (化学)|両性]]を示し<ref name=CW271/>、その酸性水溶液がほかのベリリウム塩を合成する出発原料とされる<ref name = "Greenwood" />。


[[窒化ベリリウム]] (Be{{sub|3}}N{{sub|2}}) は非常に[[加水分解]]をしやすい、高融点な化合物である。[[アジ化ベリリウム]] (BeN{{sub|6}}) および[[リン化ベリリウム]] (Be{{sub|3}}P{{sub|2}}) は窒化ベリリウムと類似した構造を有していることが知られている。塩基性硝酸ベリリウムおよび塩基性[[酢酸ベリリウム]]は4つのベリリウム原子が中心の酸素イオンに配位した四面体構造を取る<ref name = "Wiberg&Holleman" />。Be{{sub|5}}B、Be{{sub|4}}B、Be{{sub|2}}B、BeB{{sub|2}}、BeB{{sub|6}}、BeB{{sub|12}} のようないくつかの[[ホウ素化ベリリウム]]も知られている。[[炭化ベリリウム]] (Be{{sub|2}}C) は耐火性のレンガ色をした化合物であり、水と反応して[[メタン]]を発生させる<ref name = "Wiberg&Holleman" />。ケイ素化ベリリウムは同定されていない<ref name = "Greenwood" />。
[[窒化ベリリウム]](Be{{sub|3}}N{{sub|2}}は非常に[[加水分解]]をしやすい、高融点な化合物である。[[アジ化ベリリウム]](BeN{{sub|6}}および[[リン化ベリリウム]](Be{{sub|3}}P{{sub|2}}は窒化ベリリウムと類似した構造を有していることが知られている。塩基性硝酸ベリリウムおよび塩基性[[酢酸ベリリウム]]は4つのベリリウム原子が中心の酸素イオンに配位した四面体構造を取る<ref name = "Wiberg&Holleman" />。Be{{sub|5}}B、Be{{sub|4}}B、Be{{sub|2}}B、BeB{{sub|2}}、BeB{{sub|6}}、BeB{{sub|12}}のようないくつかの[[ホウ素化ベリリウム]]も知られている。[[炭化ベリリウム]](Be{{sub|2}}C)は耐火性のレンガ色をした化合物であり、水と反応して[[メタン]]を発生させる<ref name = "Wiberg&Holleman" />。ケイ素化ベリリウムは同定されていない<ref name = "Greenwood" />。


=== 核的性質 ===
=== 核的性質 ===
ベリリウムは、高エネルギーな[[中性子線]]に対して広い[[反応断面積|散乱断面積]]を有しており、その散乱断面積は0.01 [[電子ボルト|eV]] を上回るものに対しておよそ6 [[バーン (単位)|バーン]]である。散乱断面積の正確な値はベリリウムの結晶サイズや純度に強く依存するため実際の散乱断面積は1桁ほど低くなり、ベリリウムが効果的に[[減速材|減速]]させることのできる中性子線のエネルギー範囲0.03 eV 以上のものに限られる。このため、ベリリウムは高エネルギーな[[熱中性子]]は効果的に減速させることができるものの、エネルギーの低い[[中性子線|冷中性子]]は減速させることができずに透過してしまう。この性質を利用して様々なエネルギーを持つ[[中性子]]の中から冷中性子のみを取り出すためのフィルターとして利用される<ref>{{Cite journal
ベリリウムは、高エネルギーな[[中性子線]]に対して広い[[反応断面積|散乱断面積]]を有しており、その散乱断面積は0.01[[電子ボルト|eV]] を上回るものに対しておよそ6[[バーン (単位)|バーン]]である。散乱断面積の正確な値はベリリウムの結晶サイズや純度に強く依存するため実際の散乱断面積は1桁ほど低くなり、ベリリウムが効果的に[[減速材|減速]]させることのできる中性子線のエネルギー範囲0.03eV 以上のものに限られる。このため、ベリリウムは高エネルギーな[[熱中性子]]は効果的に減速させることができるものの、エネルギーの低い[[中性子線|冷中性子]]は減速させることができずに透過してしまう。この性質を利用して、さまざまなエネルギーを持つ[[中性子]]の中から冷中性子のみを取り出すためのフィルターとして利用される<ref>{{Cite journal
|url = http://hdl.handle.net/2115/41603
|url = http://hdl.handle.net/2115/41603
|title = ベリリウムフィルターの散乱冷中性子による透過スペクトル歪
|title = ベリリウムフィルターの散乱冷中性子による透過スペクトル歪
317行目: 318行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


ベリリウムのな同位体である {{sup|9}}Be (n, 2n) 中性子反応によって1つの中性子を消費して2つの中性子を放出し、2つのアルファ粒子に分裂する。したがって、ベリリウムの中性子反応は消費する中性子よりも多くの中性子を放出して系内の中性子を増加させる。
ベリリウムのおもな同位体である{{sup|9}}Beは(n, 2n)中性子反応によって1つの中性子を消費して2つの中性子を放出し、2つのアルファ粒子に分裂する。したがって、ベリリウムの中性子反応は消費する中性子よりも多くの中性子を放出して系内の中性子を増加させる。
:<chem>^9_4Be{} + \mathit{n} -> 2(^4_2He){} + 2\mathit{n}</chem><ref name ="BeMelurgy" />
:<chem>^9_4Be{} + \mathit{n} -> 2(^4_2He){} + 2\mathit{n}</chem><ref name ="BeMelurgy" />


327行目: 328行目:
|title = Beryllium its Metallurgy and Properties
|title = Beryllium its Metallurgy and Properties
|publisher = University of California Press
|publisher = University of California Press
|first = Henry H|last = Hausner}}</ref>
|first = Henry H|last = Hausner}}</ref>


=== 同位体および元素合成 ===
=== 同位体および元素合成 ===
[[ファイル:Solar Activity Proxies.png|thumb|300px|太陽活動の変化による{{sup|10}}Be濃度変化のプロット。{{sup|10}}Be濃度を示す左側の縦軸は上にくほど値が小さくなっていることに注意]]
[[ファイル:Solar Activity Proxies.png|thumb|300px|太陽活動の変化による{{sup|10}}Be濃度変化のプロット。{{sup|10}}Be濃度を示す左側の縦軸は上にくほど値が小さくなっていることに注意]]
{{main|ベリリウムの同位体}}
{{main|ベリリウムの同位体}}
ベリリウムの安定[[同位体]]は {{sup|9}}Be のみであり、したがってベリリウムは[[モノアイソトピック元素]]である。{{sup|9}}Be は恒星において[[宇宙線]]の[[陽子]]が[[炭素]]などのベリリウムよりも重い元素を崩壊させることによって生成され、[[超新星爆発]]によって宇宙中に分散する。このようにして宇宙中にチリやガスとして分散した {{sup|9}}Be は、[[分子雲]]を形成する原子の1つとして[[星形成]]に寄与し、新しくできた星の構成元素として取り込まれる<ref>[[#Monica2010|Brian, Monica (2010)]] p. 58</ref>。
ベリリウムの安定[[同位体]]は{{sup|9}}Beのみであり、したがってベリリウムは[[モノアイソトピック元素]]である。{{sup|9}}Beは恒星において[[宇宙線]]の[[陽子]]が[[炭素]]などのベリリウムよりも重い元素を崩壊させることによって生成され、[[超新星爆発]]によって宇宙中に分散する。このようにして宇宙中にチリやガスとして分散した{{sup|9}}Beは、[[分子雲]]を形成する原子のひとつとして[[星形成]]に寄与し、新しくできた星の構成元素として取り込まれる<ref>[[#Monica2010|Brian, Monica (2010)]] p. 58</ref>。


{{sup|10}}Beは、[[地球の大気]]に含まれる[[酸素]]および[[窒素]]が[[宇宙線による核破砕]]を受けることで生成される。宇宙線による核破砕によって生成したベリリウム同位体の大気中の滞在時間は[[成層圏]]で1年程度、[[対流圏]]で1か月程度とされており、その後は地表面に蓄積する。{{sup|10}}Be は[[ベータ崩壊]]によって {{sup|10}}[[ホウ素|B]] になるものの、その136万年という比較的長い[[半減期]]のために {{sup|10}}Be として地表面に長期間滞留し続ける。そのため、{{sup|10}}Be およびその娘核種は、自然界における[[土壌]]の[[侵食]]や形成、[[ラテライト]]の発達などを調査するのに利用される<ref>{{cite web
{{sup|10}}Beは、[[地球の大気]]に含まれる[[酸素]]および[[窒素]]が[[宇宙線による核破砕]]を受けることで生成される。宇宙線による核破砕によって生成したベリリウム同位体の大気中の滞在時間は[[成層圏]]で1年程度、[[対流圏]]で1か月程度とされており、その後は地表面に蓄積する。{{sup|10}}Beは[[ベータ崩壊]]によって{{sup|10}}[[ホウ素|B]] になるものの、その136万年という比較的長い[[半減期]]のために{{sup|10}}Beとして地表面に長期間滞留し続ける。そのため、{{sup|10}}Beおよびその娘核種は、自然界における[[土壌]]の[[侵食]]や形成、[[ラテライト]]の発達などを調査するのに利用される<ref>{{cite web
|url = http://www.sahra.arizona.edu/programs/isotopes/beryllium.html
|url = http://www.sahra.arizona.edu/programs/isotopes/beryllium.html
|title = Beryllium: Isotopes and Hydrology
|title = Beryllium: Isotopes and Hydrology
342行目: 343行目:
|publisher = University of Arizona, Tucson
|publisher = University of Arizona, Tucson
|accessdate =2011-04-10
|accessdate =2011-04-10
}}</ref>。また、[[太陽]]の磁気的活動が活発化すると[[太陽風]]が増大し、その期間は太陽風の影響によって地球に到達する[[銀河宇宙線]]が減少するため、銀河宇宙線によって生成される {{sup|10}}Be の生成量は太陽活動の活発さに反比例して減少する。したがって {{sup|10}}Be は、同様に宇宙線によって生成される {{sup|14}}C([[炭素14]])とともに太陽活動の変動を記録しているため、極地方の[[氷床コア|アイスコア]]中に残された {{sup|10}} Be および {{sup|14}}C の解析することで、過去の太陽活動の変遷を間接的に知ることができる<ref>{{Cite web
}}</ref>。また、[[太陽]]の磁気的活動が活発化すると[[太陽風]]が増大し、その期間は太陽風の影響によって地球に到達する[[銀河宇宙線]]が減少するため、銀河宇宙線によって生成される{{sup|10}}Beの生成量は太陽活動の活発さに反比例して減少する。したがって{{sup|10}}Beは、同様に宇宙線によって生成される{{sup|14}}C([[炭素14]])とともに太陽活動の変動を記録しているため、極地方の[[氷床コア|アイスコア]]中に残された{{sup|10}}Beおよび{{sup|14}}Cの解析することで、過去の太陽活動の変遷を間接的に知ることができる<ref>{{Cite web
|url = https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-18340153/18340153seika.pdf
|url = https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-18340153/18340153seika.pdf
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20181104182833/https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-18340153/18340153seika.pdf
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20181104182833/https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-18340153/18340153seika.pdf
354行目: 355行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


[[核爆発]]もまた {{sup|10}}Be の生成源であり、核爆発によって発生した[[高速中性子]]が大気中の[[二酸化炭素]]に含まれる{{sup|13}}C と反応することによって生成される。これは、[[核実験]]試験場の過去の活動を示す指標のつである<ref>{{citation
[[核爆発]]もまた{{sup|10}}Beの生成源であり、核爆発によって発生した[[高速中性子]]が大気中の[[二酸化炭素]]に含まれる{{sup|13}}Cと反応することによって生成される。これは、[[核実験]]試験場の過去の活動を示す指標のひとつである<ref>{{citation
|doi = 10.1016/j.jenvrad.2007.07.016
|doi = 10.1016/j.jenvrad.2007.07.016
|year = 2008
|year = 2008
367行目: 368行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


半減期53日の同位体 {{sup|7}}Be もまた宇宙線によって生成され、その大気中の存在量は {{sup|10}}Be と同様に太陽活動と関係している。[[ベリリウム8|{{sup|8}}Be]] の半減期はおよそ 7 × 10{{sup|&minus;17}} 秒と非常に短く、この半減期の短さはベリリウムよりも重い元素が[[ビッグバン原子核合成]]によっては生成されなかった原因ともなっている<ref>{{citation
半減期53日の同位体{{sup|7}}Beもまた宇宙線によって生成され、その大気中の存在量は{{sup|10}}Beと同様に太陽活動と関係している。[[ベリリウム8|{{sup|8}}Be]]の半減期はおよそ7×10{{sup|&minus;17}}秒と非常に短く、この半減期の短さはベリリウムよりも重い元素が[[ビッグバン原子核合成]]によっては生成されなかった原因ともなっている<ref>{{citation
|last1 = Boyd
|last1 = Boyd
|first1 = R. N.
|first1 = R. N.
379行目: 380行目:
|pages = L55
|pages = L55
|doi = 10.1086/185360
|doi = 10.1086/185360
}}</ref>。すなわち、{{sup|8}}Be の半減期が非常に短いためにビッグバン原子核合成段階の宇宙において[[原子核融合|核融合反応]]に利用できる {{sup|8}}Be の濃度が非常に低く、そのような低濃度{{sup|8}}Be {{sup|4}}He と核融合して炭素を合成するにはビッグバン原子核合成段階の時間が不十分であったことに起因する。[[イギリス]]の[[天文学者]]である[[フレッド・ホイル]]は、{{sup|8}}Be および {{sup|12}}C の[[エネルギー準位]]から、より多くの時間を元素合成に利用することが可能なヘリウムを燃料とする[[恒星]]内であれば、いわゆる[[トリプルアルファ反応]]と呼ばれる反応によって炭素の生成が可能であることを示し、それによって[[超新星]]によって放出されるチリとガスから炭素を基礎とした生命の創生が可能となることを明らかにした<ref>{{citation
}}</ref>。すなわち、{{sup|8}}Beの半減期が非常に短いためにビッグバン原子核合成段階の宇宙において[[原子核融合|核融合反応]]に利用できる{{sup|8}}Beの濃度が非常に低く、そのような低濃度{{sup|8}}Beが{{sup|4}}Heと核融合して炭素を合成するにはビッグバン原子核合成段階の時間が不十分であったことに起因する。[[イギリス]]の[[天文学者]]である[[フレッド・ホイル]]は、{{sup|8}}Beおよび{{sup|12}}Cの[[エネルギー準位]]から、より多くの時間を元素合成に利用することが可能なヘリウムを燃料とする[[恒星]]内であれば、いわゆる[[トリプルアルファ反応]]と呼ばれる反応によって炭素の生成が可能であることを示し、それによって[[超新星]]によって放出されるとガスから炭素を基礎とした生命の創生が可能となることを明らかにした<ref>{{citation
|url = http://books.google.com/?id=PXGWGnPPo0gC&pg=PA223
|url = http://books.google.com/?id=PXGWGnPPo0gC&pg=PA223
|page = 223
|page = 223
389行目: 390行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


ベリリウムのも内側の電子は[[化学結合]]に関与することができるため、{{sup|7}}Be の[[電子捕獲]]による崩壊は、化学結合に関与することのできる[[原子軌道]]から電子を奪うことによって起こる。その崩壊確率はベリリウムの電子構成に大部分を依存しており、核崩壊においてなケースである<ref>{{Cite web
ベリリウムのもっとも内側の電子は[[化学結合]]に関与することができるため、{{sup|7}}Beの[[電子捕獲]]による崩壊は、化学結合に関与することのできる[[原子軌道]]から電子を奪うことによって起こる。その崩壊確率はベリリウムの電子構成に大部分を依存しており、核崩壊においてまれなケースである<ref>{{Cite web
|url = http://math.ucr.edu/home/baez/physics/ParticleAndNuclear/decay_rates.html
|url = http://math.ucr.edu/home/baez/physics/ParticleAndNuclear/decay_rates.html
|title = How to Change Nuclear Decay Rates
|title = How to Change Nuclear Decay Rates
399行目: 400行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


既知のベリリウム同位体のうちも半減期が短いものは[[中性子放出]]によって崩壊する{{sup|13}}Be であり、その半減期は2.7 × 10{{sup|&minus;21}} 秒である。{{sup|6}}Be もまた非常に半減期が短く、5.0 × 10{{sup|&minus;21}} 秒である<ref name=crc>Hammond, C. R. "Elements" in {{RubberBible86th}}</ref>。[[エキゾチック原子核]]である {{sup|11}}Be および {{sup|14}}Be は、中性子が[[原子核]]の周りを周回する[[中性子ハロー]]を示すことが知られている<ref>{{citation
既知のベリリウム同位体のうち、もっとも半減期が短いものは[[中性子放出]]によって崩壊する{{sup|13}}Beであり、その半減期は2.7×10{{sup|&minus;21}}秒である。{{sup|6}}Beもまた非常に半減期が短く、5.0×10{{sup|&minus;21}}秒である<ref name=crc>Hammond, C. R. "Elements" in {{RubberBible86th}}</ref>。[[エキゾチック原子核]]である{{sup|11}}Beおよび{{sup|14}}Beは、中性子が[[原子核]]の周りを周回する[[中性子ハロー]]を示すことが知られている<ref>{{citation
|doi = 10.1146/annurev.ns.45.120195.003111
|doi = 10.1146/annurev.ns.45.120195.003111
|title = Nuclear Halos
|title = Nuclear Halos
425行目: 426行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


なお、原子番号が偶数で、安定同位体が1つしかない元素はベリリウムだけである<ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] p. 151</ref>。通常、原子番号が20以下の元素においては、[[ベーテ・ヴァイツゼッカーの公式|ベーテ・ヴァイツゼッカーの質量公式]]のペアリング項に現われるように、陽子と中性子が偶数であるものは奇数のものと比較して[[質量欠損|結合エネルギー]]が大きく安定であるのに加え、対称性項に現われるように陽子数と中性子数が同数のものほどのため安定となるが、陽子数および中性子数がに4である {{sup|8}}Be は例外的に不安定である<ref>{{Cite web
なお、原子番号が偶数で、安定同位体が1つしかない元素はベリリウムだけである<ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] p. 151</ref>。通常、原子番号が20以下の元素においては、[[ベーテ・ヴァイツゼッカーの公式|ベーテ・ヴァイツゼッカーの質量公式]]のペアリング項に現われるように、陽子と中性子が偶数であるものは奇数のものと比較して[[質量欠損|結合エネルギー]]が大きく安定であるのに加え、対称性項に現われるように陽子数と中性子数が同数のものほどのため安定となるが、陽子数および中性子数がともに4である{{sup|8}}Beは例外的に不安定である<ref>{{Cite web
|url = http://www.th.phys.titech.ac.jp/~muto/lectures/INP02/INP02_chap03.pdf
|url = http://www.th.phys.titech.ac.jp/~muto/lectures/INP02/INP02_chap03.pdf
|title = 原子核物理学概論 平成14年度講義資料 第3章 質量公式
|title = 原子核物理学概論 平成14年度講義資料 第3章 質量公式
431行目: 432行目:
|publisher = 東京工業大学 武藤研究室
|publisher = 東京工業大学 武藤研究室
|accessdate = 2011-10-13
|accessdate = 2011-10-13
}}</ref>。これは、{{sup|8}}Be の崩壊生成物である {{sup|4}}He が[[魔法数]]を取っているため非常に安定であることによる。
}}</ref>。これは、{{sup|8}}Beの崩壊生成物である{{sup|4}}Heが[[魔法数]]を取っているため非常に安定であることによる。


== 分析 ==
== 分析 ==
ベリリウムの性質は[[アルカリ土類金属]]よりも[[アルミニウム]]などと類似しているため、ベリリウムの分析方法はアルミニウムや鉄、[[クロム]]、[[希土類元素]]などと同一のグループとして扱わる。このようなグループは[[アンモニア]]によるアルカリ性の条件において[[水酸化物]]の[[沈殿]]を生じることから[[アンモニア属]]と呼ばれる<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 287頁。</ref>。
ベリリウムの性質は[[アルカリ土類金属]]よりも[[アルミニウム]]などと類似しているため、ベリリウムの分析方法はアルミニウムや鉄、[[クロム]]、[[希土類元素]]などと同一のグループとして扱わる。このようなグループは[[アンモニア]]によるアルカリ性の条件において[[水酸化物]]の[[沈殿]]を生じることから[[アンモニア属]]と呼ばれる<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 287頁。</ref>。


=== 定性分析 ===
=== 定性分析 ===
ベリリウムはアルカリ性の状態で3, 5, 7, 2', 4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)と反応させることで黄色の[[蛍光]]を観察することができるため、この反応を利用して[[定性分析]]を行うことができる。この蛍光は日光ではあまり発色しないため、発色を観察するためには[[紫外線]]の照射を行う。このベリリウムとモリンとの反応を阻害するようなイオンが共存していなければ、1 [[ppm]]の濃度でも十分に強い発色を観察することができるほどに分析感度が高く、この方法での検出限界は0.02 ng (10{{sup|&minus;9}} g) である<ref name=charlot297>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 297頁。</ref><ref name=WHO12>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 12頁。]]</ref>。モリンは[[リチウム]]や[[スカンジウム]]、大量の[[カルシウム]]や[[亜鉛]]などとも反応して蛍光を発するため、これらのイオンが共存しているとベリリウムの検出を阻害するが、その発光強度は弱いため通常は問題とならない。また、カルシウムは[[ピロリン酸]]、亜鉛は[[シアン化物]]を加えることによってそれらの元素とモリンとの反応を抑制することができる<ref name=charlot297/>。
ベリリウムはアルカリ性の状態で3, 5, 7, 2', 4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)と反応させることで黄色の[[蛍光]]を観察することができるため、この反応を利用して[[定性分析]]を行うことができる。この蛍光は日光ではあまり発色しないため、発色を観察するためには[[紫外線]]の照射を行う。このベリリウムとモリンとの反応を阻害するようなイオンが共存していなければ、1[[ppm]]の濃度でも十分に強い発色を観察することができるほどに分析感度が高く、この方法での検出限界は0.02ng(10{{sup|&minus;9}}g)である<ref name=charlot297>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 297頁。</ref><ref name=WHO12>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 12頁。]]</ref>。モリンは[[リチウム]]や[[スカンジウム]]、大量の[[カルシウム]]や[[亜鉛]]などとも反応して蛍光を発するため、これらのイオンが共存しているとベリリウムの検出を阻害するが、その発光強度は弱いため通常は問題とならない。また、カルシウムは[[ピロリン酸]]、亜鉛は[[シアン化物]]を加えることによってそれらの元素とモリンとの反応を抑制することができる<ref name=charlot297/>。


=== 定量分析 ===
=== 定量分析 ===
ベリリウムはアンモニアによって水酸化物の沈殿を生じるため、これを利用して[[重量分析]]を行うことができる<ref name=katou100>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 100頁。</ref>。この水酸化物の沈殿は [[水素イオン指数|pH]] 6.5 から 10 までの範囲で生じ、アンモニア添加量が過剰になり pH が高くなりすぎると水酸化物の沈殿が再溶解してしまう<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 296頁。</ref>。得られた水酸化物を[[濾過]]、洗浄した、強熱することで水酸化ベリリウムを酸化ベリリウムとし、その重量を計量することでベリリウム濃度が分析される。この方法を用いる場合、分析試料の溶液中に[[炭酸塩]]もしくは[[炭酸ガス]]が含まれると、水酸化ベリリウムとして沈殿せずに炭酸ベリリウムとして溶液中に残ってしまうため分析結果に誤差が生る原因となる。また、沈殿の洗浄が不十分で[[塩化物]]が残留していると、強熱時に[[水酸化ベリリウム]]と反応して[[塩化ベリリウム]]となって[[揮発]]してしまうため、こちらも誤差の原因になる<ref name=katou100/>。鉱石中のベリリウムの分析などの多成分中のベリリウムを分析する際には、アルミニウムや鉄などの成分がベリリウムと同様の条件で水酸化物の沈殿を生成するため、前処理を行いこれらの元素を分離する必要がある<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 102頁。</ref>。通常用いられる方法としては、一旦不純物を含んだ水酸化物の沈殿を生成させ、その水酸化物を[[炭酸水素ナトリウム]]で処理しベリリウムを水溶性の炭酸塩として水に溶解させることで鉄やアルミニウムから分離する方法が用いられる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 101、104頁。</ref>。また、ケイ素を多く含む場合は[[炭酸ナトリウム]]を用いたアルカリ溶融法が用いられる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 104頁。</ref>。このような古典的手法のほか、イオン交換膜法や水銀電極を用いた[[電気分解]]などの方法も利用される<ref name=WHO12/>。
ベリリウムはアンモニアによって水酸化物の沈殿を生じるため、これを利用して[[重量分析]]を行うことができる<ref name=katou100>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 100頁。</ref>。この水酸化物の沈殿は[[水素イオン指数|pH]]6.5から10までの範囲で生じ、アンモニア添加量が過剰になりpHが高くなりすぎると水酸化物の沈殿が再溶解してしまう<ref>[[#charlot1974|シャルロー (1974)]] 296頁。</ref>。得られた水酸化物を[[濾過]]、洗浄したあと、強熱することで水酸化ベリリウムを酸化ベリリウムとし、その重量を計量することでベリリウム濃度が分析される。この方法を用いる場合、分析試料の溶液中に[[炭酸塩]]もしくは[[炭酸ガス]]が含まれると、水酸化ベリリウムとして沈殿せずに炭酸ベリリウムとして溶液中に残ってしまうため分析結果に誤差が生る原因となる。また、沈殿の洗浄が不十分で[[塩化物]]が残留していると、強熱時に[[水酸化ベリリウム]]と反応して[[塩化ベリリウム]]となって[[揮発]]してしまうため、こちらも誤差の原因になる<ref name=katou100/>。鉱石中のベリリウムの分析などの多成分中のベリリウムを分析する際には、アルミニウムや鉄などの成分がベリリウムと同様の条件で水酸化物の沈殿を生成するため、前処理を行いこれらの元素を分離する必要がある<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 102頁。</ref>。通常用いられる方法としては、いったん不純物を含んだ水酸化物の沈殿を生成させ、その水酸化物を[[炭酸水素ナトリウム]]で処理しベリリウムを水溶性の炭酸塩として水に溶解させることで鉄やアルミニウムから分離する方法が用いられる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 101、104頁。</ref>。また、ケイ素を多く含む場合は[[炭酸ナトリウム]]を用いたアルカリ溶融法が用いられる<ref>[[#katou1932|加藤 (1932)]] 104頁。</ref>。このような古典的手法のほか、イオン交換膜法や水銀電極を用いた[[電気分解]]などの方法も利用される<ref name=WHO12/>。


溶液中の微量のベリリウムの分析には電気炉加熱[[原子吸光|原子吸光光度法]] (AAS) もしくは[[誘導結合プラズマ|誘導結合プラズマ発光分析法]] (ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法 (ICP-MS) が用いられる。AAS の吸収波長は234.9 [[ナノメートル|nm]] であり、ICP-AES の発光波長は313.042 nm が用いられる。AAS では試料溶液は[[塩酸]]もしくは[[硝酸]]で[[酸性]]に調整し、ICP-AES および ICP-MS では硝酸で酸性に調整して分析を行う。[[海水]]のようなの塩類を多く含む試料を測定する場合には、EDTA およびアセチルアセトンを用いて[[溶媒抽出法]]によりベリリウムを分離する<ref>{{Cite web
溶液中の微量のベリリウムの分析には電気炉加熱[[原子吸光|原子吸光光度法]](AAS)もしくは[[誘導結合プラズマ|誘導結合プラズマ発光分析法]](ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)が用いられる。AASの吸収波長は234.9[[ナノメートル|nm]] であり、ICP-AESの発光波長は313.042nm が用いられる。AASでは試料溶液は[[塩酸]]もしくは[[硝酸]]で[[酸性]]に調整し、ICP-AESおよびICP-MSでは硝酸で酸性に調整して分析を行う。[[海水]]のようなほかの塩類を多く含む試料を測定する場合には、EDTAおよびアセチルアセトンを用いて[[溶媒抽出法]]によりベリリウムを分離する<ref>{{Cite web
|title = 要調査項目等調査マニュアル(水質、底質、水生生物)
|title = 要調査項目等調査マニュアル(水質、底質、水生生物)
|url = http://www.env.go.jp/water/chosa/h12-12/401.pdf
|url = http://www.env.go.jp/water/chosa/h12-12/401.pdf
450行目: 451行目:
|year = 2000
|year = 2000
|accessdate = 2011-12-23
|accessdate = 2011-12-23
}}</ref>。も感度の高いベリリウムの分析手法としては、トリフルオロアセチルアセトンを用いて揮発性のベリリウム錯体として[[ガスクロマトグラフィー]]を用いて分析する方法が挙げられ、検出限界0.08 pg (10{{sup|&minus;12}} g) という分析精度が1971年に報告されている<ref name=WHO1213>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 12-13頁。]]</ref>。
}}</ref>。もっとも感度の高いベリリウムの分析手法としては、トリフルオロアセチルアセトンを用いて揮発性のベリリウム錯体として[[ガスクロマトグラフィー]]を用いて分析する方法が挙げられ、検出限界0.08pg(10{{sup|&minus;12}}g)という分析精度が1971年に報告されている<ref name=WHO1213>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 12-13頁。]]</ref>。


== 分布 ==
== 分布 ==
[[ファイル:Beryllium OreUSGOV.jpg|thumb|ベリリウム鉱石]]
[[ファイル:Beryllium OreUSGOV.jpg|thumb|ベリリウム鉱石]]
ベリリウムは[[宇宙]]において非常にな元素で、宇宙全体の平均濃度の推定値は重量濃度で1 ppb(10億分の1)であり、[[ニオブ]]より原子量の小さい元素の中ではホウ素と並んでも存在率が小さい<ref>{{citation
ベリリウムは[[宇宙]]において非常にまれな元素で、宇宙全体の平均濃度の推定値は重量濃度で1ppb(10億分の1)であり、[[ニオブ]]より原子量の小さい元素の中ではホウ素と並んでもっとも存在率が小さい<ref>{{citation
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_universe/ |title=Abundance in the universe
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_universe/ |title=Abundance in the universe
|work = Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK
|work = Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK
|publisher = WebElements
|publisher = WebElements
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>。[[太陽]]内部でも重量濃度0.1 ppbであり、[[レニウム]]と同程度の存在量である<ref>{{citation |url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_sun/
}}</ref>。[[太陽]]内部でも重量濃度0.1ppbまれであり、[[レニウム]]と同程度の存在量である<ref>{{citation |url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_sun/
|title = Abundance in the sun
|title = Abundance in the sun
|work = Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK
|work = Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK
|publisher = WebElements
|publisher = WebElements
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>。一方、地球におけるベリリウム濃度は、地表の岩石中の重量濃度の推定値でおよそ2.8から5 ppm<ref name=WHO16>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 16頁。]]</ref>、海水中でおよそ0.0006 ppb<ref>{{citation
}}</ref>。一方、地球におけるベリリウム濃度は、地表の岩石中の重量濃度の推定値でおよそ2.8 - 5ppm<ref name=WHO16>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 16頁。]]</ref>、海水中でおよそ0.0006ppb<ref>{{citation
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_seawater/
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_seawater/
|title = Abundance in oceans
|title = Abundance in oceans
470行目: 471行目:
|publisher = WebElements
|publisher = WebElements
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>、河川の水においては海水中よりは多くおよそ0.1 ppbである<ref>{{citation
}}</ref>、河川の水においては海水中よりは多くおよそ0.1ppbである<ref>{{citation
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_stream/
|url = http://www.webelements.com/periodicity/abundance_stream/
|title = Abundance in stream water
|title = Abundance in stream water
491行目: 492行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


地表の岩石中のベリリウム濃度は前述のようにおよそ2.8から5 ppmであるが、ベリリウム鉱石によって高濃度にベリリウムが存在する地域もある<ref name=WHO16>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 16頁。]]</ref>。ベリリウムは約4,000種類の既知の鉱石のうち、約100種類の鉱石において主成分となっており<ref>{{Cite book
地表の岩石中のベリリウム濃度は前述のようにおよそ2.8 - 5ppmであるが、ベリリウム鉱石によって高濃度にベリリウムが存在する地域もある<ref name=WHO16>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 16頁。]]</ref>。ベリリウムは約4,000種類の既知の鉱石のうち、約100種類の鉱石において主成分となっており<ref>{{Cite book
|author = Rick Adair
|author = Rick Adair
|year = 2007
|year = 2007
498行目: 499行目:
|publisher = The Rosen Publishing Group
|publisher = The Rosen Publishing Group
|isbn = 1404210032
|isbn = 1404210032
}}</ref>、その中でも重要なものは、{{仮リンク|ベルトラン石|en|Bertrandite}} (Be{{sub|4}}Si{{sub|2}}O{{sub|7}}(OH){{sub|2}})、[[緑柱石]] (Al{{sub|2}}Be{{sub|3}}Si{{sub|6}}O{{sub|18}}) および[[フェナカイト]] (Be{{sub|2}}SiO{{sub|4}}) である<ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] p. 65</ref>。このようなベリリウム鉱石はに[[マグマ]]の冷却過程に由来する[[ペグマタイト]]中で濃縮される<ref>{{Cite web
}}</ref>、その中でも重要なものは、{{仮リンク|ベルトラン石|en|Bertrandite}}(Be{{sub|4}}Si{{sub|2}}O{{sub|7}}(OH){{sub|2}}、[[緑柱石]](Al{{sub|2}}Be{{sub|3}}Si{{sub|6}}O{{sub|18}}および[[フェナカイト]](Be{{sub|2}}SiO{{sub|4}}である<ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] p. 65</ref>。このようなベリリウム鉱石は、おもに[[マグマ]]の冷却過程に由来する[[ペグマタイト]]中で濃縮される<ref>{{Cite web
|title = 梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1015-1020p)から〕
|title = 梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1015-1020p)から〕
|url = http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rmin_EG_B3.html
|url = http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rmin_EG_B3.html
509行目: 510行目:
}}</ref>、これらはすべて火山活動に由来する[[火成岩]]や[[火山砕屑岩]]である。また、土壌中のベリリウムは植物によってわずかに吸収され、[[カラマツ]]など特定の植物はベリリウムを蓄積する<ref name=WHO15>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 15頁。]]</ref>。
}}</ref>、これらはすべて火山活動に由来する[[火成岩]]や[[火山砕屑岩]]である。また、土壌中のベリリウムは植物によってわずかに吸収され、[[カラマツ]]など特定の植物はベリリウムを蓄積する<ref name=WHO15>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 15頁。]]</ref>。


大気中のベリリウム濃度は先進国の都市部でおよそ0.03から0.07 [[ナノグラム毎立方メートル|ng/m{{sup|3}}]]ほどであるが、ベリリウムの[[大気]]への主要供給源は[[化石燃料]]の燃焼によるものであるため、工業化の進んでいない国においてはさらに低濃度になると推測されている。1987年の[[アメリカ合衆国環境保護庁]]のデータによれば、自然におけるベリリウムの大気への放出量は年間5.2 tほどであるが、化石燃料の燃焼を含む人類の活動によるベリリウムの大気への放出量は年間187.4 tにも及ぶ<ref name=WHO1516>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 15-16頁。]]</ref>。
大気中のベリリウム濃度は先進国の都市部でおよそ0.03 - 0.07[[ナノグラム毎立方メートル|ng/m{{sup|3}}]]ほどであるが、ベリリウムの[[大気]]への主要供給源は[[化石燃料]]の燃焼によるものであるため、工業化の進んでいない国においてはさらに低濃度になると推測されている。1987年の[[アメリカ合衆国環境保護庁]]のデータによれば、自然におけるベリリウムの大気への放出量は年間5.2トンほどであるが、化石燃料の燃焼を含む人類の活動によるベリリウムの大気への放出量は年間187.4トンにも及ぶ<ref name=WHO1516>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 15-16頁。]]</ref>。


== 生産 ==
== 生産 ==
[[ファイル:Be-140g.jpg|thumb|高純度ベリリウム(99%以上、140 g)]]
[[ファイル:Be-140g.jpg|thumb|高純度ベリリウム(99パーセント以上、140グラム)]]
ベリリウムは高温状態で酸素と高い親和性を示すなどの性質を有しているため、ベリリウム化合物から金属ベリリウムを精製することは非常に困難である。19世紀の間は金属ベリリウムを得るための方法として、[[フッ化ベリリウム]]と[[フッ化ナトリウム]]の混合物を[[電気分解]]するという方法が用いられていた<ref name="Weeks" />。しかしこのような方法は、ベリリウムの融点が高いために金属ベリリウムの製造に類似した方法を用いるアルカリ金属の製造と比較して多くのエネルギーが必要だった。[[20世紀]]の初めには、[[ヨウ化ベリリウム]]の熱分解によるベリリウムの生産法が研究され、[[ジルコニウム]]の生産法に類似した方法が成功を収めたが、この方法では大量生産において経済的に採算が取れないことが判明した<ref>{{citation
ベリリウムは高温状態で酸素と高い親和性を示すなどの性質を有しているため、ベリリウム化合物から金属ベリリウムを精製することは非常に困難である。19世紀の間は金属ベリリウムを得るための方法として、[[フッ化ベリリウム]]と[[フッ化ナトリウム]]の混合物を[[電気分解]]するという方法が用いられていた<ref name="Weeks" />。しかしこのような方法は、ベリリウムの融点が高いために金属ベリリウムの製造に類似した方法を用いるアルカリ金属の製造と比較して多くのエネルギーが必要だった。[[20世紀]]の初めには、[[ヨウ化ベリリウム]]の熱分解によるベリリウムの生産法が研究され、[[ジルコニウム]]の生産法に類似した方法が成功を収めたが、この方法では大量生産において経済的に採算が取れないことが判明した<ref>{{citation
|doi = 10.1080/08827508808952633
|doi = 10.1080/08827508808952633
534行目: 535行目:
}}</ref>。
}}</ref>。
:<chem>BeF2 + Mg -> MgF2 + Be</chem>
:<chem>BeF2 + Mg -> MgF2 + Be</chem>
この金属ベリリウムの精製に用いられるフッ化ベリリウムは、にベリリウム鉱物である[[緑柱石]]を原料として生産される<ref name=chitani193/>。ベリリウム鉱石は[[石英]]と同程度の比重であるために比重差を利用した[[選鉱]]を行うことができず多くの場合選鉱は手作業に頼っているが、ベリリウム鉱石に[[ガンマ線]]を照射することでベリリウムから放出された中性子を検出して選別する自動装置も開発されている<ref name=Ullman16>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 16</ref>。こうして選鉱された緑柱石からベリリウムを抽出するために[[硫酸]]処理が行われるが、鉱石のままでは硫酸と400度で反応させたとしてもベリリウムはほとんど溶解しないため、前処理としてアルカリ処理もしくは熱処理が行われる<ref name=Ullman17/>。アルカリ処理はケイ素を多く含む試料を分析する際に用いられるアルカリ溶融法と同様の原理で[[ケイ素]]と金属を分離する方法であり、ベリリウム鉱石に[[水酸化ナトリウム]]や[[炭酸ナトリウム]]のようなアルカリを加えて溶融させる<ref name=Ullman17/>。熱処理は1650度以上の高温に加熱することで緑柱石を溶融させ鉱石中のベリリウムを完全に酸化ベリリウムとした、再度900度に加熱することで二酸化ケイ素から遊離させてベリリウムの溶解性を高める方法である<ref name=Ullman17>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 17</ref>。このようにしてベリリウムを溶出させやすいように前処理を行った、[[硫酸]]処理を行うことで[[硫酸ベリリウム]]の溶液として鉱石からベリリウムを抽出することができる<ref name=chitani193/>。得られた硫酸ベリリウム溶液をアルカリで中和することで水酸化ベリリウムの沈殿が得られ、これを[[フッ化アンモニウム]]と反応させた、熱分解させることによってフッ化ベリリウムが生産される<ref name=chitani193>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 193頁。</ref>。また、ベリリウム鉱石中からベリリウムを分離抽出する方法としては他にも、[[ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム]]を加えて700度で溶融させテトラフルオロベリリウム酸ナトリウムとして抽出する方法や<ref name=Ullman1718>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] pp. 17-18</ref>、ベリリウム鉱石を[[炭素]]とに塩素気流下、630度以上で塩素と直接反応させて[[塩化ベリリウム]]として抽出する方法などがある<ref name=Ullman18>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 18</ref>。このようにして得られた塩化ベリリウムを[[溶融塩電解]]することでも金属ベリリウムを生産することができる<ref name=tanaka/>。この方法では、塩化ベリリウムの電気伝導度が非常に低く電解効率が悪いため、[[塩化ナトリウム]]が助剤として加えられる<ref name=CW271/>。


この金属ベリリウムの精製に用いられるフッ化ベリリウムは、おもにベリリウム鉱物である[[緑柱石]]を原料として生産される<ref name=chitani193/>。ベリリウム鉱石は[[石英]]と同程度の比重であるために比重差を利用した[[選鉱]]を行うことができず多くの場合選鉱は手作業に頼っているが、ベリリウム鉱石に[[ガンマ線]]を照射することでベリリウムから放出された中性子を検出して選別する自動装置も開発されている<ref name=Ullman16>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 16</ref>。こうして選鉱された緑柱石からベリリウムを抽出するために[[硫酸]]処理が行われるが、鉱石のままでは硫酸と400度で反応させたとしてもベリリウムはほとんど溶解しないため、前処理としてアルカリ処理もしくは熱処理が行われる<ref name=Ullman17/>。アルカリ処理はケイ素を多く含む試料を分析する際に用いられるアルカリ溶融法と同様の原理で[[ケイ素]]と金属を分離する方法であり、ベリリウム鉱石に[[水酸化ナトリウム]]や[[炭酸ナトリウム]]のようなアルカリを加えて溶融させる<ref name=Ullman17/>。熱処理は1,650度以上の高温に加熱することで緑柱石を溶融させ鉱石中のベリリウムを完全に酸化ベリリウムとしたあと、再度900度に加熱することで二酸化ケイ素から遊離させてベリリウムの溶解性を高める方法である<ref name=Ullman17>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 17</ref>。このようにしてベリリウムを溶出させやすいように前処理を行ったあと、[[硫酸]]処理を行うことで[[硫酸ベリリウム]]の溶液として鉱石からベリリウムを抽出することができる<ref name=chitani193/>。得られた硫酸ベリリウム溶液をアルカリで中和することで水酸化ベリリウムの沈殿が得られ、これを[[フッ化アンモニウム]]と反応させたあと、熱分解させることによってフッ化ベリリウムが生産される<ref name=chitani193>[[#千谷1959|千谷 (1959)]] 193頁。</ref>。また、ベリリウム鉱石中からベリリウムを分離抽出する方法としては、[[ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム]]を加えて700度で溶融させテトラフルオロベリリウム酸ナトリウムとして抽出する方法や<ref name=Ullman1718>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] pp. 17-18</ref>、ベリリウム鉱石を[[炭素]]とともに塩素気流下、630度以上で塩素と直接反応させて[[塩化ベリリウム]]として抽出する方法などがある<ref name=Ullman18>[[#Ullman|Aldinger et al. (1985)]] p. 18</ref>。このようにして得られた塩化ベリリウムを[[溶融塩電解]]することでも金属ベリリウムを生産することができる<ref name=tanaka/>。この方法では、塩化ベリリウムの電気伝導度が非常に低く電解効率が悪いため、[[塩化ナトリウム]]が助剤として加えられる<ref name=CW271/>。
工業規模でのベリリウム産出に関与しているのはアメリカ、中国およびカザフスタンの3国のみである<ref>{{citation

工業規模でのベリリウム産出に関与しているのはアメリカ、中国カザフスタンの3国のみである<ref>{{citation
|url = http://www.beryllium.com/sources-beryllium
|url = http://www.beryllium.com/sources-beryllium
|title = Sources of Beryllium
|title = Sources of Beryllium
542行目: 544行目:
|publisher = Materion Brush Inc.
|publisher = Materion Brush Inc.
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>。2008年時点のアメリカにおけるベリリウムおよびベリリウム化合物のな生産者はブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社である<ref>{{citation
}}</ref>。2008年時点のアメリカにおけるベリリウムおよびベリリウム化合物のおもな生産者はブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社である<ref>{{citation
|url = http://www.brushelmore.com/history.asp
|url = http://www.brushelmore.com/history.asp
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20080724113346/http://www.brushelmore.com/history.asp
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20080724113346/http://www.brushelmore.com/history.asp
549行目: 551行目:
|accessdate = 2011-09-20
|accessdate = 2011-09-20
|deadurldate = 2017年9月
|deadurldate = 2017年9月
}}</ref>。ブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社では、ベリリウムを製錬するための原料の大部分を自身が所有するスポール山の鉱床([[ユタ州]])から産出されるベリリウム鉱石(ベルトラン石を含む)から得ている。ベリリウムの製錬およびの精製は、ユタ州{{仮リンク|デルタ (ユタ州)|en|Delta, Utah|label=デルタ}}の北10[[マイル]]にある工場で行われており<ref name="spor">{{citation
}}</ref>。ブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社では、ベリリウムを製錬するための原料の大部分を自身が所有するスポール山の鉱床([[ユタ州]])から産出されるベリリウム鉱石(ベルトラン石を含む)から得ている。ベリリウムの製錬およびほかの精製は、ユタ州{{仮リンク|デルタ (ユタ州)|en|Delta, Utah|label=デルタ}}の北10[[マイル]]にある工場で行われており<ref name="spor">{{citation
|url = http://pubs.usgs.gov/of/1998/ofr-98-0524/SPORMTN.HTM
|url = http://pubs.usgs.gov/of/1998/ofr-98-0524/SPORMTN.HTM
|title = Slides of the fluorspar, beryllium, and uranium deposits at Spor Mountain, Utah
|title = Slides of the fluorspar, beryllium, and uranium deposits at Spor Mountain, Utah
562行目: 564行目:
|publisher = The Center for Land Use Interpretation
|publisher = The Center for Land Use Interpretation
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>。1998年から2008年までの間、ベリリウムの世界の生産量は343トンからおよそ200トンにまで減少しており、200トンのうち176トン (88%) はアメリカで生産されている<ref name="USGSMCS2000">{{citation
}}</ref>。1998年から2008年までの間、ベリリウムの世界の生産量は343トンからおよそ200トンにまで減少しており、200トンのうち176トン(88パーセント)はアメリカで生産されている<ref name="USGSMCS2000">{{citation
|url = http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/beryllium/100300.pdf
|url = http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/beryllium/100300.pdf
|title = Commodity Summary 2000: Beryllium
|title = Commodity Summary 2000: Beryllium
577行目: 579行目:
|publisher = United States Geological Survey
|publisher = United States Geological Survey
|accessdate = 2011-09-19
|accessdate = 2011-09-19
}}</ref>。日本での国内取り扱いトップの日本ガイシによると70~80万円/kg<ref>
}}</ref>。日本での国内取り扱いトップの日本ガイシによると1キロあたり70 - 80万円である<ref>
TBSがっちりマンデー2019年
TBSがっちりマンデー2019年
4月28日放送分
4月28日放送分
583行目: 585行目:


== 用途 ==
== 用途 ==
ベリリウムはに[[合金]]の硬化剤として利用され、その代表的なものに[[ベリリウム銅]]合金がある。また、非常に強い[[曲げ強さ]]、熱的安定性および[[熱伝導率]]の高さ、金属としては比較的低い密度などの物理的性質を利用して、高速[[航空機]]や[[ミサイル]]、[[宇宙船]]、[[通信衛星]]などの[[軍事産業]]や[[航空宇宙産業]]において構造部材として用いられる。ベリリウムは低密度かつ原子量が小さいため[[X線]]やその他[[電離放射線]]に対して透過性を示し、その特性を利用してX線装置や[[素粒子物理学|粒子物理学]]の試験における[[X線透過窓]]として用いられる。
ベリリウムはおもに[[合金]]の硬化剤として利用され、その代表的なものに[[ベリリウム銅]]合金がある。また、非常に強い[[曲げ強さ]]、熱的安定性および[[熱伝導率]]の高さ、金属としては比較的低い密度などの物理的性質を利用して、高速[[航空機]]や[[ミサイル]]、[[宇宙船]]、[[通信衛星]]などの[[軍事産業]]や[[航空宇宙産業]]において構造部材として用いられる。ベリリウムは低密度かつ原子量が小さいため[[X線]]やその他[[電離放射線]]に対して透過性を示し、その特性を利用してX線装置や[[素粒子物理学|粒子物理学]]の試験における[[X線透過窓]]として用いられる。


ベリリウムの用途には、その物理的性質を利用したX線装置や構造材、鏡(ベリリウムミラー)、合金材料、音響材料としての用途、磁気的性質を利用した工具製造、電子物性を利用した電子材料、核的性質を利用した中性子源や、ベリリウム鉱石の外観の美しさを利用した宝石としての用途が挙げられる。この中には[[核兵器]]や[[ミサイル]]、[[射撃管制装置]]などの軍事的用途も含まれ、そのような分野に関する詳細な情報を入手することは難しい<ref>Petzow, Günter ''et al.'' "Beryllium and Beryllium Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 2005, Wiley-VCH, Weinheim. {{DOI|10.1002/14356007.a04_011.pub2}}</ref>。また、ベリリウムの毒性により、過去に用いられていた蛍光材料としての用途はの代替材料に置き換えられており、ベリリウム銅合金なども代替材料の開発が進められている。
ベリリウムの用途には、その物理的性質を利用したX線装置や構造材、鏡(ベリリウムミラー)、合金材料、音響材料としての用途、磁気的性質を利用した工具製造、電子物性を利用した電子材料、核的性質を利用した中性子源や、ベリリウム鉱石の外観の美しさを利用した宝石としての用途が挙げられる。この中には[[核兵器]]や[[ミサイル]]、[[射撃管制装置]]などの軍事的用途も含まれ、そのような分野に関する詳細な情報を入手することは難しい<ref>Petzow, Günter ''et al.'' "Beryllium and Beryllium Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 2005, Wiley-VCH, Weinheim. {{DOI|10.1002/14356007.a04_011.pub2}}</ref>。また、ベリリウムの毒性により、過去に用いられていた蛍光材料としての用途はすでほかの代替材料に置き換えられており、ベリリウム銅合金なども代替材料の開発が進められている。


=== X線透過窓 ===
=== X線透過窓 ===
[[ファイル:Be foil square.jpg|thumb|right|鋼鉄製のケースに乗せられた四角いベリリウム箔。真空チャンバーと[[X線顕微鏡]]の間で「窓」として用いられる]]
[[ファイル:Be foil square.jpg|thumb|right|鋼鉄製のケースに乗せられた四角いベリリウム箔。真空チャンバーと[[X線顕微鏡]]の間で「窓」として用いられる]]
ベリリウムは原子番号が小さく電子の数が少ないため、[[X線]]に対する[[透過率 (光学)|透過率]]が非常に高い。そのため、X線源やビームライン、[[X線望遠鏡]]などの検出器用の窓に用いられる。この用途においては、X線像に不要な像が写り込むことを回避するためにベリリウムの純度と清潔さがも要求される。また、X線探知機のX線放射窓としてもベリリウムの薄膜が用いられている。これは、ベリリウムのX線吸収率が非常に低いことによって、高強度の[[シンクロトロン放射光]]に典型的な低エネルギーX線に起因する熱の影響を最小限に留めることができるためである。さらに、[[シンクロトロン]]による放射線試験のための真空気密窓およびビームチューブの素材にはベリリウムのみが用いられている。にも、[[エネルギー分散型X線分析]]などの様々なX線を利用した分析機器においてはベリリウム製のサンプルホルダーが常用される。これは、ベリリウムから発生する[[特性X線]]や[[蛍光X線]]の有するエネルギーが100 eV以下と分析試料由来のX線と比較して非常に低く、試料の分析データに影響を与えないためである<ref name=Be/>。
ベリリウムは原子番号が小さく電子の数が少ないため、[[X線]]に対する[[透過率 (光学)|透過率]]が非常に高い。そのため、X線源やビームライン、[[X線望遠鏡]]などの検出器用の窓に用いられる。この用途においては、X線像に不要な像が写り込むことを回避するためにベリリウムの純度と清潔さがもっとも要求される。また、X線探知機のX線放射窓としてもベリリウムの薄膜が用いられている。これは、ベリリウムのX線吸収率が非常に低いことによって、高強度の[[シンクロトロン放射光]]に典型的な低エネルギーX線に起因する熱の影響を最小限に留めることができるためである。さらに、[[シンクロトロン]]による放射線試験のための真空気密窓およびビームチューブの素材にはベリリウムのみが用いられている。ほかにも、[[エネルギー分散型X線分析]]などのさまざまなX線を利用した分析機器においてはベリリウム製のサンプルホルダーが常用される。これは、ベリリウムから発生する[[特性X線]]や[[蛍光X線]]の有するエネルギーが100eV以下と分析試料由来のX線と比較して非常に低く、試料の分析データに影響を与えないためである<ref name=Be/>。


ベリリウムはまた、[[素粒子物理学]]の実験装置において高エネルギー粒子を衝突させる場所周辺のビームラインを構築するための素材として用いられる。たとえば、[[大型ハドロン衝突型加速器]]の実験における主要な4つの検出器て([[ALICE検出器]]、[[ATLAS検出器]]、{{仮リンク|CMS検出器|en|Compact Muon Solenoid}}、{{仮リンク|LHCb検出器|en|LHCb}})<ref>{{citation
ベリリウムはまた、[[素粒子物理学]]の実験装置において高エネルギー粒子を衝突させる場所周辺のビームラインを構築するための素材として用いられる。たとえば、[[大型ハドロン衝突型加速器]]の実験における主要な4つの検出器すべて([[ALICE検出器]]、[[ATLAS検出器]]、{{仮リンク|CMS検出器|en|Compact Muon Solenoid}}、{{仮リンク|LHCb検出器|en|LHCb}})<ref>{{citation
|title = Installation and commissioning of vacuum systems for the LHC particle detectors
|title = Installation and commissioning of vacuum systems for the LHC particle detectors
|publisher = CERN
|publisher = CERN
608行目: 610行目:
|url = http://cdsweb.cern.ch/record/1199583/files/CERN-ATS-2009-005.pdf
|url = http://cdsweb.cern.ch/record/1199583/files/CERN-ATS-2009-005.pdf
|accessdate = 2011-09-26
|accessdate = 2011-09-26
}}</ref>や[[テバトロン]]、[[SLAC国立加速器研究所]]において用いられている。このような用途においてはベリリウムが持つ様々な性質が効果的に働いている。すなわち、ベリリウムの原子番号の小ささに由来する高エネルギー粒子に対する透過性が比較的高いという性質や、ベリリウムの密度が低いという性質によって、粒子の衝突によって発生した生成物を重大な相互作用なしに周囲の検出器へと誘導することができる。また、ベリリウムは剛性が高いためベリリウムのパイプ内を非常に高真空にでき、残留した気体分子による相互作用を最小限にすることができる。さらに、ベリリウムは熱的に非常に安定しているため、[[絶対零度]]よりわずかに高い程度の極低温においても正常に機能することができる。その、ベリリウムの[[反磁性]]を有する性質によって、[[粒子線]]を収束させて検出器まで導くために用いられる複雑な多極電磁石システムへの干渉を防ぐことができる<ref>{{citation
}}</ref>や[[テバトロン]]、[[SLAC国立加速器研究所]]において用いられている。このような用途においてはベリリウムが持つさまざまな性質が効果的に働いている。すなわち、ベリリウムの原子番号の小ささに由来する高エネルギー粒子に対する透過性が比較的高いという性質や、ベリリウムの密度が低いという性質によって、粒子の衝突によって発生した生成物を重大な相互作用なしに周囲の検出器へと誘導することができる。また、ベリリウムは剛性が高いためベリリウムのパイプ内を非常に高真空にでき、残留した気体分子による相互作用を最小限にすることができる。さらに、ベリリウムは熱的に非常に安定しているため、[[絶対零度]]よりわずかに高い程度の極低温においても正常に機能することができる。そのうえ、ベリリウムの[[反磁性]]を有する性質によって、[[粒子線]]を収束させて検出器まで導くために用いられる複雑な多極電磁石システムへの干渉を防ぐことができる<ref>{{citation
|doi = 10.1016/S0168-9002(01)01149-4
|doi = 10.1016/S0168-9002(01)01149-4
|title = A new inner vertex detector for STAR
|title = A new inner vertex detector for STAR
647行目: 649行目:
}}</ref>。また、ベリリウムは硬く、融点が高く、さらに非常に優れた[[ヒートシンク]]性能を有しているため、軍用機やレース車両の[[ブレーキディスク]]に用いられていたが、環境への配慮のため代替材料が用いられている<ref name=Be/><ref>ポルシェ909[[ベルクスパイダー]]のブレーキディスクなどに使用された。christophorus 336 2009年2月/3月 The Porsche Magagine, 39</ref>。
}}</ref>。また、ベリリウムは硬く、融点が高く、さらに非常に優れた[[ヒートシンク]]性能を有しているため、軍用機やレース車両の[[ブレーキディスク]]に用いられていたが、環境への配慮のため代替材料が用いられている<ref name=Be/><ref>ポルシェ909[[ベルクスパイダー]]のブレーキディスクなどに使用された。christophorus 336 2009年2月/3月 The Porsche Magagine, 39</ref>。


ベリリウムは優れた弾性剛性を有しているため、例えば[[ジャイロスコープ]]による[[慣性航法装置]]や光学系のための支持構造物などの精密機器に利用される<ref name=Be/>。
ベリリウムは優れた弾性剛性を有しているため、[[ジャイロスコープ]]による[[慣性航法装置]]や光学系のための支持構造物などの精密機器に利用される<ref name=Be/>。


=== ベリリウムミラー ===
=== ベリリウムミラー ===
[[ファイル:James Webb Space Telescope Mirror37.jpg|thumb|right|ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のベリリウム製の主鏡]]
[[ファイル:James Webb Space Telescope Mirror37.jpg|thumb|right|ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のベリリウム製の主鏡]]
ベリリウムミラーは、[[気象衛星]]のような低重量および長期間の寸法安定性が重要とされる用途に対する大面積の鏡(しばしば{{仮リンク|ハニカムミラー|en|Honeycomb mirror}})に用いられる。たとえば、[[ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡]]の主鏡はベリリウム製であり<ref>{{citation
ベリリウムミラーは、[[気象衛星]]のような低重量および長期間の寸法安定性が重要とされる用途に対する大面積の鏡(しばしば{{仮リンク|ハニカムミラー|en|Honeycomb mirror}})に用いられる。たとえば、[[ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡]]の主鏡はベリリウム製であり<ref>{{citation
|title = Origami Observatory: Behind the Scenes with the Webb Space Telescope
|title = Origami Observatory: Behind the Scenes with the Webb Space Telescope
679行目: 681行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


また、より小さなベリリウムミラーは光学的な[[制御システム]]や[[射撃管制装置]]に用いられる。えば、ドイツの[[主力戦車]]である[[レオパルト1]]や[[レオパルト2]]に用いられている<ref>{{citation
また、より小さなベリリウムミラーは光学的な[[制御システム]]や[[射撃管制装置]]に用いられる。たとえば、ドイツの[[主力戦車]]である[[レオパルト1]]や[[レオパルト2]]に用いられている<ref>{{citation
|url = http://spie.org/x648.html?product_id=137998
|url = http://spie.org/x648.html?product_id=137998
|title = Production of metal matrix composite mirrors for tank fire control systems (Proceedings Paper)
|title = Production of metal matrix composite mirrors for tank fire control systems (Proceedings Paper)
695行目: 697行目:
|date = 1961-08-09
|date = 1961-08-09
|accessdate = 2011-09-26
|accessdate = 2011-09-26
}}</ref>。それらはまた、強い磁場を発生させる[[核磁気共鳴画像法]] (MRI) の機械の近くで用いられるメンテナンス器具や建設材料にも用いられる<ref>{{citation
}}</ref>。それらはまた、強い磁場を発生させる[[核磁気共鳴画像法]](MRI)の機械の近くで用いられるメンテナンス器具や建設材料にも用いられる<ref>{{citation
|url = http://books.google.com/?id=EqtlqFNkWwQC&pg=PT891
|url = http://books.google.com/?id=EqtlqFNkWwQC&pg=PT891
|page = 891
|page = 891
716行目: 718行目:
=== 音響材料 ===
=== 音響材料 ===
[[ファイル:Yamaha NS-2000 Speaker -midrange-.jpg|thumb|200px|ベリリウム製ドーム型振動板を持つスピーカーユニット]]
[[ファイル:Yamaha NS-2000 Speaker -midrange-.jpg|thumb|200px|ベリリウム製ドーム型振動板を持つスピーカーユニット]]
ベリリウムは低質量かつ高剛性であるため、およそ12.9 [[キロメートル毎秒|km/s]]と高い音の伝導率を示す。ベリリウムのこの物性を利用して、[[ツイーター]](高音域スピーカー)の[[振動板]]としてに[[ドーム]]型に成形し使用される。しかしながら、ベリリウムはしばしば[[チタン]]以上に高価であり、その脆性の高さにより成形が困難であり、処置を誤れば製品の毒性を封印できないため、ベリリウム製のツイーターは[[ハイエンド]]な家庭用や業務用オーディオ、[[Public Address]]などの用途に限られている<ref>{{Cite web
ベリリウムは低質量かつ高剛性であるため、およそ12.9[[キロメートル毎秒|km/s]]と高い音の伝導率を示す。ベリリウムのこの物性を利用して、[[ツイーター]](高音域スピーカー)の[[振動板]]としておもに[[ドーム]]型に成形し使用される。しかしながら、ベリリウムはしばしば[[チタン]]以上に高価であり、その脆性の高さにより成形が困難であり、処置を誤れば製品の毒性を封印できないため、ベリリウム製のツイーターは[[ハイエンド]]な家庭用や業務用オーディオ、[[Public Address]]などの用途に限られている<ref>{{Cite web
|url = http://www.hometheaterhifi.com/speaker-product-reviews/speakers/usher-be-718-bookshelf-speakers-with-beryllium-tweeters.html
|url = http://www.hometheaterhifi.com/speaker-product-reviews/speakers/usher-be-718-bookshelf-speakers-with-beryllium-tweeters.html
|first = John E.
|first = John E.
744行目: 746行目:
|publisher = 日経ものづくり
|publisher = 日経ものづくり
|accessdate = 2011-10-11
|accessdate = 2011-10-11
}}</ref>の音響機器メーカーの製品があり、またヤマハ・パイオニア・[[オーディオテクニカ]]・[[品川無線|グレース]]製[[レコードプレーヤー|ピックアップ・カートリッジ]]の[[カンチレバー]]に用いられた例がある<ref>{{Cite web
}}</ref>などの音響機器メーカーの製品があり、またヤマハ・パイオニア・[[オーディオテクニカ]]・[[品川無線|グレース]]製[[レコードプレーヤー|ピックアップ・カートリッジ]]の[[カンチレバー]]に用いられた例がある<ref>{{Cite web
|url = http://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?07_class=l&key=104810541010&APage=762
|url = http://sts.kahaku.go.jp/sts/detail.php?07_class=l&key=104810541010&APage=762
|title = PUカートリッジ F-8L
|title = PUカートリッジ F-8L
|publisher = [[国立科学博物館]] 産業技術史資料情報センター
|publisher = [[国立科学博物館]] 産業技術史資料情報センター
|accessdate = 2011-10-11
|accessdate = 2011-10-11
}}</ref>。また、その熱伝導率のさから、セラミック送信管({{仮リンク|アイマック|en|Eimac}}社製、eimac 8873)の本体および純正放熱用熱伝導体として酸化ベリリウムが採用された例がある<ref>{{Cite web
}}</ref>。また、その熱伝導率のさから、セラミック送信管({{仮リンク|アイマック|en|Eimac}}社製、eimac8873)の本体および純正放熱用熱伝導体として酸化ベリリウムが採用された例がある<ref>{{Cite web
|url = http://www.radioamator.ro/articole/files/388/8873-8874-8875%20-%20Eimac.pdf
|url = http://www.radioamator.ro/articole/files/388/8873-8874-8875%20-%20Eimac.pdf
|title = TECHNICAL DATA
|title = TECHNICAL DATA
755行目: 757行目:
|page = 4
|page = 4
|accessdate = 2011-11-12
|accessdate = 2011-11-12
}}</ref>。ベリリウムはの金属との合金としても頻繁に利用されるが、その合金組成に明記されないこともある<ref>{{Cite web
}}</ref>。ベリリウムはほかの金属との合金としても頻繁に利用されるが、その合金組成に明記されないこともある<ref>{{Cite web
|url = http://www.electrofusionproducts.com/userfiles/China_Be_Domes_Report.pdf
|url = http://www.electrofusionproducts.com/userfiles/China_Be_Domes_Report.pdf
|first = Mark
|first = Mark
768行目: 770行目:


=== 核物性の利用 ===
=== 核物性の利用 ===
ベリリウムの薄いプレートやホイールは、しばしば[[テラー・ウラム型]]のような熱核爆弾において、核融合燃料に「点火」するためのトリガーである第一段階の核分裂爆弾を囲う[[ピット (核兵器)|プルトニウムピット]]の最外層として用いられる。このようなベリリウムの層は、{{sup|239}}Pu を[[爆縮]]させるための良好な核反応促進材であり、初期の実験的な[[原子炉]]において中性子反射減速材として利用されていたように良好な[[中性子反射体]]でもある<ref name=weapons/>。
ベリリウムの薄いプレートやホイールは、しばしば[[テラー・ウラム型]]のような熱核爆弾において、核融合燃料に「点火」するためのトリガーである第一段階の核分裂爆弾を囲う[[ピット (核兵器)|プルトニウムピット]]の最外層として用いられる。このようなベリリウムの層は、{{sup|239}}Puを[[爆縮]]させるための良好な核反応促進材であり、初期の実験的な[[原子炉]]において中性子反射減速材として利用されていたように良好な[[中性子反射体]]でもある<ref name=weapons/>。


[[ファイル:Beryllium target.jpg|thumb|[[陽子線]]を[[中性子線]]に「変換」するベリリウムターゲット]]
[[ファイル:Beryllium target.jpg|thumb|[[陽子線]]を[[中性子線]]に「変換」するベリリウムターゲット]]
ベリリウムはまた、比較的少ない中性子を必要とする原子炉規模以下の実験用途において、一般的に中性子源として用いられる。この目的のための {{sup|9}}Be ターゲット材は、{{sup|210}}[[ポロニウム|Po]] {{sup|226}}[[ラジウム|Ra]]、{{sup|239}}[[プルトニウム|Pu]]、{{sup|241}}[[アメリシウム|Am]] などの[[放射性同位体]]から放出される高エネルギーなアルファ粒子を衝突させることで中性子が取り出される。このに起こる核反応によって、{{sup|9}}Be {{sup|12}}C になり、遊離した中性子はアルファ粒子が移動するのと同じ方向へ放出される。ベリリウムはそのような中性子源として、''urchin'' と呼ばれる{{仮リンク|中性子点火器|en|Modulated neutron initiator}}として初期の原子爆弾にも利用されていた<ref name=weapons>{{citation
ベリリウムはまた、比較的少ない中性子を必要とする原子炉規模以下の実験用途において、一般的に中性子源として用いられる。この目的のための{{sup|9}}Beターゲット材は、{{sup|210}}[[ポロニウム|Po]]や{{sup|226}}[[ラジウム|Ra]]、{{sup|239}}[[プルトニウム|Pu]]、{{sup|241}}[[アメリシウム|Am]]などの[[放射性同位体]]から放出される高エネルギーなアルファ粒子を衝突させることで中性子が取り出される。このときに起こる核反応によって、{{sup|9}}Beは{{sup|12}}Cになり、遊離した中性子はアルファ粒子が移動するのと同じ方向へ放出される。ベリリウムはそのような中性子源として、''urchin''と呼ばれる{{仮リンク|中性子点火器|en|Modulated neutron initiator}}として初期の原子爆弾にも利用されていた<ref name=weapons>{{citation
|url = http://books.google.com/?id=yTIOAAAAQAAJ&pg=PA35
|url = http://books.google.com/?id=yTIOAAAAQAAJ&pg=PA35
|page = 35
|page = 35
789行目: 791行目:
|year = 2005
|year = 2005
|isbn = 3540230386
|isbn = 3540230386
}}</ref>。ベリリウムはまた、その機械的、化学的、核的な物性の組み合わせのさから、[[燃料棒|核燃料棒]]の被覆素材としての利用も提案されている<ref name=Be/>。[[フッ化ベリリウム]]は、[[溶融塩原子炉]]設計の多くの仮定において、溶媒、減速材および冷却材としての使用が想定されている、[[共晶塩]]である{{仮リンク|フッ化リチウムベリリウム|en|FLiBe}}を構成する塩の1つである<ref>{{citation
}}</ref>。ベリリウムはまた、その機械的、化学的、核的な物性の組み合わせのさから、[[燃料棒|核燃料棒]]の被覆素材としての利用も提案されている<ref name=Be/>。[[フッ化ベリリウム]]は、[[溶融塩原子炉]]設計の多くの仮定において、溶媒、減速材および冷却材としての使用が想定されている、[[共晶塩]]である{{仮リンク|フッ化リチウムベリリウム|en|FLiBe}}を構成する塩のひとつである<ref>{{citation
|doi = 10.1016/j.fusengdes.2005.08.101
|doi = 10.1016/j.fusengdes.2005.08.101
|title = JUPITER-II molten salt Flibe research: An update on tritium, mobilization and redox chemistry experiments
|title = JUPITER-II molten salt Flibe research: An update on tritium, mobilization and redox chemistry experiments
809行目: 811行目:


=== 電子材料 ===
=== 電子材料 ===
ベリリウムは[[III-V族半導体]]において[[P型半導体]]の[[ドープ|ドーパント]]である。それは、[[分子線エピタキシー法]] (MBE) によって製造される[[ヒ化ガリウム]]や{{仮リンク|ヒ化アルミニウムガリウム|en|Aluminium gallium arsenide}}、[[ヒ化インジウムガリウム]]、{{仮リンク|ヒ化インジウムアルミニウム|en|Aluminium indium arsenide}}のような素材において広く用いられている<ref>{{Cite book
ベリリウムは[[III-V族半導体]]において[[P型半導体]]の[[ドープ|ドーパント]]である。それは、[[分子線エピタキシー法]](MBE)によって製造される[[ヒ化ガリウム]]や{{仮リンク|ヒ化アルミニウムガリウム|en|Aluminium gallium arsenide}}、[[ヒ化インジウムガリウム]]、{{仮リンク|ヒ化インジウムアルミニウム|en|Aluminium indium arsenide}}のような素材において広く用いられている<ref>{{Cite book
|url = http://books.google.com/?id=oJs6nK3TZrwC&pg=PA104
|url = http://books.google.com/?id=oJs6nK3TZrwC&pg=PA104
|page = 104
|page = 104
817行目: 819行目:
|year = 2000
|year = 2000
|isbn = 3540666931
|isbn = 3540666931
}}</ref>。クロス圧延されたベリリウムのシートは[[プリント基板]]への[[表面実装]]における優れた構造支持体である。電子材料におけるベリリウムの重要な用途は、構造支持のみならず[[ヒートシンク]]素材としての用途がある。この用途においては、[[アルミナ]]および[[ポリイミドガラス基盤]]と調和した[[熱膨張率]]が必要とされる。これらの電子的用途のために特別に設計されたベリリウム-[[酸化ベリリウム]]複合材料は「{{仮リンク|E-Material|en|E-Material}}」と呼ばれ、様々な基盤素材に合わせて熱膨張率を調整できる利点がある<ref name=Be/>。
}}</ref>。クロス圧延されたベリリウムのシートは[[プリント基板]]への[[表面実装]]における優れた構造支持体である。電子材料におけるベリリウムの重要な用途は、構造支持のみならず[[ヒートシンク]]素材としての用途がある。この用途においては、[[アルミナ]]および[[ポリイミドガラス基盤]]と調和した[[熱膨張率]]が必要とされる。これらの電子的用途のために特別に設計されたベリリウム-[[酸化ベリリウム]]複合材料は「{{仮リンク|E-Material|en|E-Material}}」と呼ばれ、さまざまな基盤素材に合わせて熱膨張率を調整できる利点がある<ref name=Be/>。


[[絶縁性|電気絶縁性]]および優れた熱伝導率、高い耐久性、硬さ、非常に高い融点という複数の特性が要求されるような多くの用途において、酸化ベリリウムが利用される。酸化ベリリウムは、[[電気通信]]のための[[高周波|無線周波]][[送信機]]における[[電力用半導体素子|パワートランジスタ]]の絶縁基盤として多用される。酸化ベリリウムはまた、[[酸化ウラン(IV)|酸化ウラン]]の[[核燃料]]ペレットにおいて熱伝導性を向上させるための用途が検討されている<ref>{{Cite web
[[絶縁性|電気絶縁性]]および優れた熱伝導率、高い耐久性、硬さ、非常に高い融点という複数の特性が要求されるような多くの用途において、酸化ベリリウムが利用される。酸化ベリリウムは、[[電気通信]]のための[[高周波|無線周波]][[送信機]]における[[電力用半導体素子|パワートランジスタ]]の絶縁基盤として多用される。酸化ベリリウムはまた、[[酸化ウラン(IV)|酸化ウラン]]の[[核燃料]]ペレットにおいて熱伝導性を向上させるための用途が検討されている<ref>{{Cite web
835行目: 837行目:


=== 宝石 ===
=== 宝石 ===
ベリリウム鉱物である[[緑柱石]]のうち状態のは宝石として利用される<ref name=Be/><ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] pp. 20-26</ref><ref>{{citation
ベリリウム鉱物である[[緑柱石]]のうち状態のいいものは宝石として利用される<ref name=Be/><ref>[[#kenneth2009|Kenneth (2009)]] pp. 20-26</ref><ref>{{citation
|chapter = Distribution of major deposits
|chapter = Distribution of major deposits
|url = http://books.google.com/books?id=zNicdkuulE4C&pg=PA265
|url = http://books.google.com/books?id=zNicdkuulE4C&pg=PA265
862行目: 864行目:
=== 合金 ===
=== 合金 ===
[[ファイル:CuBe Tool.jpg|thumb|150px|ベリリウム銅製の工具]]
[[ファイル:CuBe Tool.jpg|thumb|150px|ベリリウム銅製の工具]]
[[銅]] (Cu) に0.15%から2.0%程度を混ぜて[[ベリリウム銅|ベリリウム銅合金]]として利用される。銅よりもはるかに強く、純銅に近い良好な電気伝導性がある。膨張率は[[ステンレス]]鋼や鋼(はがね)に近い。ゆっくり変化する[[磁界]]に対し高い[[透磁率]]をもつ<ref name=BeCu>{{Cite web
[[銅]](Cu)に0.15 - 2.0パーセント程度を混ぜて[[ベリリウム銅|ベリリウム銅合金]]として利用される。銅よりもはるかに強く、純銅に近い良好な電気伝導性がある。膨張率は[[ステンレス]]鋼や鋼に近い。ゆっくり変化する[[磁界]]に対し高い[[透磁率]]をもつ<ref name=BeCu>{{Cite web
|url = http://www.materion.jp/alloy/tech_lit/GuideToCopperBeryllium.pdf
|url = http://www.materion.jp/alloy/tech_lit/GuideToCopperBeryllium.pdf
|title = ベリリウム銅ガイド
|title = ベリリウム銅ガイド
868行目: 870行目:
|page = 6
|page = 6
|accessdate = 2011-10-12
|accessdate = 2011-10-12
}}</ref>。銅合金の中でも優れた[[機械的強度]]を持っており、電気回路のコネクタなどで使われる[[バネ]]の材料に用いられる<ref>{{Cite book |和書 |editor=ばね技術研究会 |year=2000 |title=ばね用材料とその特性 |publisher=日刊工業新聞社 |pages=pp. 190, 203&ndash;204 }}</ref>。また、磁化しにくい打撃を受けても火花が出ない特徴を持つ<ref>{{Cite web
}}</ref>。銅合金の中でも優れた[[機械的強度]]を持っており、電気回路のコネクタなどで使われる[[バネ]]の材料に用いられる<ref>{{Cite book |和書 |editor=ばね技術研究会 |year=2000 |title=ばね用材料とその特性 |publisher=日刊工業新聞社 |pages=pp. 190, 203&ndash;204 }}</ref>。また、磁化しにくい打撃を受けても火花が出ない特徴を持つ<ref>{{Cite web
|url = http://www.materion.jp/alloy/tech_lit/GuideToCopperBeryllium.pdf
|url = http://www.materion.jp/alloy/tech_lit/GuideToCopperBeryllium.pdf
|title = ベリリウム銅ガイド
|title = ベリリウム銅ガイド
874行目: 876行目:
|page = 37
|page = 37
|accessdate = 2011-10-12
|accessdate = 2011-10-12
}}</ref>ことから、[[石油化学工業]]などの爆発雰囲気の中で使用する[[防爆工具]]に安全保持上用いることもある。ベリリウム銅合金はまた、Jason pistols と呼ばれる船から[[錆]]や[[ペンキ]]をはぎ取るのに用いられる針状の器具にも用いられる<ref>{{Cite news
}}</ref>ことから、[[石油化学工業]]などの爆発雰囲気の中で使用する[[防爆工具]]に安全保持上用いることもある。ベリリウム銅合金はまた、Jason pistolsと呼ばれる船から[[錆]]や[[ペンキ]]をはぎ取るのに用いられる針状の器具にも用いられる<ref>{{Cite news
|date = 2005-02-01
|date = 2005-02-01
|url = http://www.smh.com.au/news/National/Defence-forces-face-rare-toxic-metal-exposure-risk/2005/02/01/1107228681666.html
|url = http://www.smh.com.au/news/National/Defence-forces-face-rare-toxic-metal-exposure-risk/2005/02/01/1107228681666.html
921行目: 923行目:
| EU分類={{Hazchem T}}{{Hazchem Xn}}
| EU分類={{Hazchem T}}{{Hazchem Xn}}
| GHSPictograms ={{GHSp|GHS06}}{{GHSp|GHS08}}
| GHSPictograms ={{GHSp|GHS06}}{{GHSp|GHS08}}
| な危険性=腐食性
| おもな危険性=腐食性
| IngestionHazard=大いにあり
| IngestionHazard=大いにあり
| InhalationHazard=大いにあり
| InhalationHazard=大いにあり
| ExternalMSDS =
| ExternalMSDS =
| 眼への危険性=大いにあり
| 眼への危険性=大いにあり
| 皮膚への危険性=大いにあり
| 皮膚への危険性=大いにあり
| NFPA-H = 4 | NFPA-F = 3 | NFPA-R = 3 | NFPA-O = <!-- 英語版ではこの数値でしたので、そのまま転記しました。相違点がございましたら訂正お願い申し上げる次第でございます。-->
| NFPA-H = 4 | NFPA-F = 3 | NFPA-R = 3 | NFPA-O = <!-- 英語版ではこの数値でしたので、そのまま転記しました。相違点がございましたら訂正お願い申し上げる次第でございます。-->
| MainHazards = 腐食性
| MainHazards = 腐食性
946行目: 948行目:
|style="width:80pt;"|金属ベリリウムに対する[[NFPA 704|ファイア・ダイアモンド]]表示<ref name=icsc>{{ICSC-ref|0226||accessdate=2011-12-11}}</ref>
|style="width:80pt;"|金属ベリリウムに対する[[NFPA 704|ファイア・ダイアモンド]]表示<ref name=icsc>{{ICSC-ref|0226||accessdate=2011-12-11}}</ref>
|}</div>
|}</div>
ベリリウムは人体への曝露によって[[ベリリウム肺症]]もしくは慢性ベリリウム症として知られる深刻な慢性肺疾患を引き起こすようにめて毒性の高い物質であり<ref name=NIHS/>、水棲生物に対しても非常に強い毒性を示す<ref name=icsc/>。また、細胞組織に対して腐食性であるため、可溶性塩の吸入によって化学性肺炎である急性ベリリウム症を引き起こし、皮膚との接触によって炎症が引き起こされる<ref name=NIHS>{{citation
ベリリウムは人体への曝露によって[[ベリリウム肺症]]もしくは慢性ベリリウム症として知られる深刻な慢性肺疾患を引き起こすようにきわめて毒性の高い物質であり<ref name=NIHS/>、水棲生物に対しても非常に強い毒性を示す<ref name=icsc/>。また、細胞組織に対して腐食性であるため、可溶性塩の吸入によって化学性肺炎である急性ベリリウム症を引き起こし、皮膚との接触によって炎症が引き起こされる<ref name=NIHS>{{citation
|title = 環境保健クライテリア No.106 ベリリウム
|title = 環境保健クライテリア No.106 ベリリウム
|url = http://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc106.html
|url = http://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc106.html
953行目: 955行目:
}}</ref>。
}}</ref>。


慢性ベリリウム症は数週間から20年以上と非常に個人差の大きい潜伏期間があり、その死亡率は37%で、妊婦においてはさらに死亡率が高くなる<ref name=NIHS/>。慢性ベリリウム症は基本的には[[自己免疫疾患]]であり、感受性を有する人は5%以下であると見られている<ref name=WHO37>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 37頁。]]</ref>。慢性ベリリウム症におけるベリリウムの毒性の機序は、ベリリウムが酵素に影響を与えることで代謝や細胞複製が阻害されることによる<ref name=NIHS/>。慢性ベリリウム中毒は多くの点で[[サルコイドーシス]]に類似しており、[[鑑別診断]]においてはこれらを見分けることが重要とされる<ref name=WHO36>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 36頁。]]</ref>。
慢性ベリリウム症は数週間から20年以上と非常に個人差の大きい潜伏期間があり、その死亡率は37パーセントで、妊婦においてはさらに死亡率が高くなる<ref name=NIHS/>。慢性ベリリウム症は基本的には[[自己免疫疾患]]であり、感受性を有する人は5パーセント以下であると見られている<ref name=WHO37>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 37頁。]]</ref>。慢性ベリリウム症におけるベリリウムの毒性の機序は、ベリリウムが酵素に影響を与えることで代謝や細胞複製が阻害されることによる<ref name=NIHS/>。慢性ベリリウム中毒は多くの点で[[サルコイドーシス]]に類似しており、[[鑑別診断]]においてはこれらを見分けることが重要とされる<ref name=WHO36>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 36頁。]]</ref>。


急性ベリリウム症は基本的には化学性肺炎であり、慢性ベリリウム症とは異なる機序によるものである。その定義は「継続期間1年未満のベリリウム由来の肺疾患」<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 35頁。]] より引用</ref>とされており、ベリリウムへの曝露量と症状の重さには直接的な因果関係が見られる。ベリリウム濃度が1000 μg/m{{sup|3}}以上になると発症し、100 μg/m{{sup|3}}未満では発症しないことが明らかとなっている<ref name=WHO35>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 35頁。]]</ref>。
急性ベリリウム症は基本的には化学性肺炎であり、慢性ベリリウム症とは異なる機序によるものである。その定義は「継続期間1年未満のベリリウム由来の肺疾患」<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 35頁。]] より引用</ref>とされており、ベリリウムへの曝露量と症状の重さには直接的な因果関係が見られる。ベリリウム濃度が1,000μg/m{{sup|3}}以上になると発症し、100μg/m{{sup|3}}未満では発症しないことが明らかとなっている<ref name=WHO35>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 35頁。]]</ref>。


急性ベリリウム症は最高曝露量の設定による作業環境の改善にい減少しているが、慢性ベリリウム症はベリリウムを扱う産業において多く発生しており<ref name=NIHS/><ref>{{citation
急性ベリリウム症は最高曝露量の設定による作業環境の改善にともない減少しているが、慢性ベリリウム症はベリリウムを扱う産業において多く発生しており<ref name=NIHS/><ref>{{citation
|title = ベリリウム症
|title = ベリリウム症
|chapter = 肺疾患
|chapter = 肺疾患
965行目: 967行目:
}}</ref>、ベリリウムの許容濃度を順守している工場においても慢性ベリリウム疾患の発症した例が確認されている<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 38頁。]]</ref>。また、このような産業に関わらない人々にも化石燃料の燃焼に起因する極微量の曝露がみられる<ref name=nishimura9/>。
}}</ref>、ベリリウムの許容濃度を順守している工場においても慢性ベリリウム疾患の発症した例が確認されている<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 38頁。]]</ref>。また、このような産業に関わらない人々にも化石燃料の燃焼に起因する極微量の曝露がみられる<ref name=nishimura9/>。


ベリリウムおよびベリリウム化合物は、[[世界保健機関|WHO]] の下部機関 [[国際がん研究機関|IARC]] より[[発癌性]]がある (Type1) と勧告されている<ref>{{citation
ベリリウムおよびベリリウム化合物は、[[世界保健機関|WHO]]の下部機関[[国際がん研究機関|IARC]]より[[発癌性]]がある(Type1)と勧告されている<ref>{{citation
|url = http://www.inchem.org/documents/iarc/vol58/mono58-1.html
|url = http://www.inchem.org/documents/iarc/vol58/mono58-1.html
|publisher = International Agency for Research on Cancer
|publisher = International Agency for Research on Cancer
971行目: 973行目:
|year = 1993
|year = 1993
|accessdate = 2011-09-13
|accessdate = 2011-09-13
}}</ref>。カリフォルニア州環境保健有害性評価局が算出した公衆健康目標のガイドライン値は1 μg/L、有害物質疾病登録局が算出した最小リスク濃度は0.002 mg/kg/day(体重1キロたり、1日に0.002mg)とされている<ref name=nishimura10>[[#西村2006|西村 (2006) 10頁。]]</ref>。ベリリウムは生体内で代謝されないため、一度体内に取り込まれたベリリウムは排出されにくく<ref name=nishimura9>[[#西村2006|西村 (2006) 9頁。]]</ref>、に骨に蓄積されて尿により排出される<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 6頁。]]</ref>。
}}</ref>。カリフォルニア州環境保健有害性評価局が算出した公衆健康目標のガイドライン値は1μg/L、有害物質疾病登録局が算出した最小リスク濃度は0.002mg/kg/day(体重1キロたり、1日に0.002mg)とされている<ref name=nishimura10>[[#西村2006|西村 (2006) 10頁。]]</ref>。ベリリウムは生体内で代謝されないため、一度体内に取り込まれたベリリウムは排出されにくく<ref name=nishimura9>[[#西村2006|西村 (2006) 9頁。]]</ref>、おもに骨に蓄積されて尿により排出される<ref>[[#WHONIHS2001|WHO, NIHS (2001) 6頁。]]</ref>。


=== ベリリウム症の歴史 ===
=== ベリリウム症の歴史 ===
986行目: 988行目:
|format = PDF
|format = PDF
|accessdate = 2011-09-13
|accessdate = 2011-09-13
}}</ref>。このような症例は蛍光灯工場やベリリウム抽出プラントにおいて多くみられたため、1949年(昭和24年)には蛍光灯におけるベリリウムの利用が中止され、1950年代初頭にはベリリウムの最高曝露濃度が25 [[マイクログラム毎立方メートル|μg/m{{sup|3}}]]に定められた。こうして作業環境が大幅に改善されたことによって急性ベリリウム症の罹患率は激減したが、核産業や航空宇宙産業、[[ベリリウム銅]]などの合金、電子装置の製造などの分野においてはベリリウムの利用が続いている。1952年(昭和27年)、[[アメリカ合衆国]]でベリリウム症例登録制度がはじまり、1983年(昭和58年)までに888件の症例が登録された<ref name=NIHS/>。この制度においては6つの診断基準が定められ、そのうち3つが当てはまると慢性ベリリウム症であるとして登録されるようになっていた<ref name=WHO36/>。検査技術の向上した2001年(平成13年)現在では、肺の[[気管支鏡|経気管支]]の[[生体組織診断]]などによる組織病理学的な確認、リンパ球幼若化試験およびベリリウムの曝露歴の3点が診断基準とされている<ref name=WHO37/>。ベリリウムは[[原子爆弾]]の核反応促進材に利用されるため、初期の原子爆弾の開発に携わった研究者の幾人かはベリリウム中毒によって命を落としている(えばアメリカの核物理学者であり[[マンハッタン計画]]にも携わった{{仮リンク|ハーバート・L・アンダーソン|en|Herbert L. Anderson}}<ref>{{citation
}}</ref>。このような症例は蛍光灯工場やベリリウム抽出プラントにおいて多くみられたため、1949年(昭和24年)には蛍光灯におけるベリリウムの利用が中止され、1950年代初頭にはベリリウムの最高曝露濃度が25[[マイクログラム毎立方メートル|μg/m{{sup|3}}]]に定められた。こうして作業環境が大幅に改善されたことによって急性ベリリウム症の罹患率は激減したが、核産業や航空宇宙産業、[[ベリリウム銅]]などの合金、電子装置の製造などの分野においてはベリリウムの利用が続いている。1952年(昭和27年)、[[アメリカ合衆国]]でベリリウム症例登録制度がはじまり、1983年(昭和58年)までに888件の症例が登録された<ref name=NIHS/>。この制度においては6つの診断基準が定められ、そのうち3つが当てはまると慢性ベリリウム症であるとして登録されるようになっていた<ref name=WHO36/>。検査技術の向上した2001年(平成13年)現在では、肺の[[気管支鏡|経気管支]]の[[生体組織診断]]などによる組織病理学的な確認、リンパ球幼若化試験およびベリリウムの曝露歴の3点が診断基準とされている<ref name=WHO37/>。ベリリウムは[[原子爆弾]]の核反応促進材に利用されるため、初期の原子爆弾の開発に携わった研究者の幾人かはベリリウム中毒によって命を落としている(たとえばアメリカの核物理学者であり[[マンハッタン計画]]にも携わった{{仮リンク|ハーバート・L・アンダーソン|en|Herbert L. Anderson}}など<ref>{{citation
|url = http://www.atomicarchive.com/Photos/CP1/image5.shtml
|url = http://www.atomicarchive.com/Photos/CP1/image5.shtml
|title = Photograph of Chicago Pile One Scientists 1946
|title = Photograph of Chicago Pile One Scientists 1946
995行目: 997行目:


=== 爆発性 ===
=== 爆発性 ===
ベリリウムは酸化被膜のために反応性に乏しい金属であるが一度着火すると燃焼しやすい性質であるため、空気中にベリリウムの粉塵が存在している状態では[[粉塵爆発]]が起こる危険性がある<ref name=NIHS/>。<!--近年、軽量で、また運用を終えて地球へ落下しても大気中で燃焼しやすい性質が注目され人工衛星に多用されるが、燃焼して大気中に放散された後のベリリウムが、人体を含む環境に与える影響についてはまだ議論が少ない。-->
ベリリウムは酸化被膜のために反応性に乏しい金属であるが一度着火すると燃焼しやすい性質であるため、空気中にベリリウムの粉塵が存在している状態では[[粉塵爆発]]が起こる危険性がある<ref name=NIHS/>。<!--近年、軽量で、また運用を終えて地球へ落下しても大気中で燃焼しやすい性質が注目され人工衛星に多用されるが、燃焼して大気中に放散された後のベリリウムが、人体を含む環境に与える影響についてはまだ議論が少ない。-->


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2019年8月31日 (土) 16:26時点における版

リチウム ベリリウム ホウ素
-

Be

Mg
Element 1: 水素 (H),
Element 2: ヘリウム (He),
Element 3: リチウム (Li),
Element 4: ベリリウム (Be),
Element 5: ホウ素 (B),
Element 6: 炭素 (C),
Element 7: 窒素 (N),
Element 8: 酸素 (O),
Element 9: フッ素 (F),
Element 10: ネオン (Ne),
Element 11: ナトリウム (Na),
Element 12: マグネシウム (Mg),
Element 13: アルミニウム (Al),
Element 14: ケイ素 (Si),
Element 15: リン (P),
Element 16: 硫黄 (S),
Element 17: 塩素 (Cl),
Element 18: アルゴン (Ar),
Element 19: カリウム (K),
Element 20: カルシウム (Ca),
Element 21: スカンジウム (Sc),
Element 22: チタン (Ti),
Element 23: バナジウム (V),
Element 24: クロム (Cr),
Element 25: マンガン (Mn),
Element 26: 鉄 (Fe),
Element 27: コバルト (Co),
Element 28: ニッケル (Ni),
Element 29: 銅 (Cu),
Element 30: 亜鉛 (Zn),
Element 31: ガリウム (Ga),
Element 32: ゲルマニウム (Ge),
Element 33: ヒ素 (As),
Element 34: セレン (Se),
Element 35: 臭素 (Br),
Element 36: クリプトン (Kr),
Element 37: ルビジウム (Rb),
Element 38: ストロンチウム (Sr),
Element 39: イットリウム (Y),
Element 40: ジルコニウム (Zr),
Element 41: ニオブ (Nb),
Element 42: モリブデン (Mo),
Element 43: テクネチウム (Tc),
Element 44: ルテニウム (Ru),
Element 45: ロジウム (Rh),
Element 46: パラジウム (Pd),
Element 47: 銀 (Ag),
Element 48: カドミウム (Cd),
Element 49: インジウム (In),
Element 50: スズ (Sn),
Element 51: アンチモン (Sb),
Element 52: テルル (Te),
Element 53: ヨウ素 (I),
Element 54: キセノン (Xe),
Element 55: セシウム (Cs),
Element 56: バリウム (Ba),
Element 57: ランタン (La),
Element 58: セリウム (Ce),
Element 59: プラセオジム (Pr),
Element 60: ネオジム (Nd),
Element 61: プロメチウム (Pm),
Element 62: サマリウム (Sm),
Element 63: ユウロピウム (Eu),
Element 64: ガドリニウム (Gd),
Element 65: テルビウム (Tb),
Element 66: ジスプロシウム (Dy),
Element 67: ホルミウム (Ho),
Element 68: エルビウム (Er),
Element 69: ツリウム (Tm),
Element 70: イッテルビウム (Yb),
Element 71: ルテチウム (Lu),
Element 72: ハフニウム (Hf),
Element 73: タンタル (Ta),
Element 74: タングステン (W),
Element 75: レニウム (Re),
Element 76: オスミウム (Os),
Element 77: イリジウム (Ir),
Element 78: 白金 (Pt),
Element 79: 金 (Au),
Element 80: 水銀 (Hg),
Element 81: タリウム (Tl),
Element 82: 鉛 (Pb),
Element 83: ビスマス (Bi),
Element 84: ポロニウム (Po),
Element 85: アスタチン (At),
Element 86: ラドン (Rn),
Element 87: フランシウム (Fr),
Element 88: ラジウム (Ra),
Element 89: アクチニウム (Ac),
Element 90: トリウム (Th),
Element 91: プロトアクチニウム (Pa),
Element 92: ウラン (U),
Element 93: ネプツニウム (Np),
Element 94: プルトニウム (Pu),
Element 95: アメリシウム (Am),
Element 96: キュリウム (Cm),
Element 97: バークリウム (Bk),
Element 98: カリホルニウム (Cf),
Element 99: アインスタイニウム (Es),
Element 100: フェルミウム (Fm),
Element 101: メンデレビウム (Md),
Element 102: ノーベリウム (No),
Element 103: ローレンシウム (Lr),
Element 104: ラザホージウム (Rf),
Element 105: ドブニウム (Db),
Element 106: シーボーギウム (Sg),
Element 107: ボーリウム (Bh),
Element 108: ハッシウム (Hs),
Element 109: マイトネリウム (Mt),
Element 110: ダームスタチウム (Ds),
Element 111: レントゲニウム (Rg),
Element 112: コペルニシウム (Cn),
Element 113: ニホニウム (Nh),
Element 114: フレロビウム (Fl),
Element 115: モスコビウム (Mc),
Element 116: リバモリウム (Lv),
Element 117: テネシン (Ts),
Element 118: オガネソン (Og),
Beryllium has a hexagonal crystal structure
4Be
外見
灰白色
一般特性
名称, 記号, 番号 ベリリウム, Be, 4
分類 卑金属
, 周期, ブロック 2, 2, s
原子量 9.012182(3) 
電子配置 [He] 2s2
電子殻 2, 2(画像
物理特性
銀白色
固体
密度室温付近) 1.85 g/cm3
融点での液体密度 1.690 g/cm3
融点 1560 K, 1287 °C, 2349 °F
沸点 2742 K, 2469 °C, 4476 °F
融解熱 7.895 kJ/mol
蒸発熱 297 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 16.443 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 1462 1608 1791 2023 2327 2742
原子特性
酸化数 3, 2, 1
(両性酸化物)
電気陰性度 1.57(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 1st: 899.5 kJ/mol
原子半径 112 pm
共有結合半径 96 ± 3 pm
ファンデルワールス半径 153 pm
その他
結晶構造 六方晶系
磁性 反磁性
熱伝導率 (300 K) 200 W/(m⋅K)
熱膨張率 (25 °C) 11.3 μm/(m⋅K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド)
(r.t.) 12870 m/s
ヤング率 287 GPa
剛性率 132 GPa
体積弾性率 130 GPa
ポアソン比 0.032
モース硬度 6.5
ビッカース硬度 1670 MPa
ブリネル硬度 600 MPa
CAS登録番号 7440-41-7
主な同位体
詳細はベリリウムの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
7Be trace 53.12 d ε/γ 0.862, 0.477 7Li
9Be 100% 中性子5個で安定
10Be trace 1.51×106 y β 0.556 10B

ベリリウム新ラテン語: beryllium[1], : beryllium [bəˈrɪliəm])は、原子番号4の元素である。元素記号Be原子量は9.01218。第2族元素のひとつ。

名称

ヴォークラン
緑柱石

はじめに、ルイ=ニコラ・ヴォークランが「グルシニウム(旧元素記号Gl、glucinium)」と名づけた。語源のglykysは、ギリシア語で「甘さ」を意味する。これは、ベリリウム化合物が甘みを持つことにちなんでいる[2]

1828年には、マルティン・ハインリヒ・クラプロートが「ベリリウム」と命名した。この名前は緑柱石(beryl、ギリシア語で beryllos)に由来している。[3][4]

歴史

初期の分析において緑柱石エメラルドは常に類似した成分が検出されており、この物質はケイ酸アルミニウムであると誤って結論づけられていた。鉱物学者であったルネ=ジュスト・アユイはこの2つの結晶が著しい類似点を示すことを発見し、彼はこれを化学的に分析するために化学者であるルイ=ニコラ・ヴォークランに尋ねた。1797年、ヴォークランは緑柱石をアルカリで処理することによって水酸化アルミニウムを溶解させ、アルミニウムからベリリウム酸化物を分離させることに成功した[5]

1828年フリードリヒ・ヴェーラー[6]アントワーヌ・ビュシー[7]がそれぞれ独立に、金属カリウム塩化ベリリウムを反応させることによるベリリウムの単離に成功した。

カリウムは、当時新しく発見された方法である電気分解によってカリウム化合物より生産されていた。この化学的手法によって得られるベリリウムは小さな粒状であり、金属ベリリウムのインゴット鋳造もしくは鍛造することはできなかった[8]。1898年、ポール・ルボー英語版フッ化ベリリウムフッ化ナトリウムの混合融液を直接電気分解することによって、初めて純粋なベリリウムの試料を得た[2]

第一次世界大戦以前にも有意な量のベリリウムが生産されていたが、大規模生産が始まったのは1930年代初期からである。ベリリウムの生産量は、硬いベリリウム銅合金および蛍光灯の蛍光体用途の需要の伸びによって、第二次世界大戦中に急速に増加した。初期の蛍光灯にはベリリウムを含有したオルトケイ酸亜鉛が使用されていたが、のちにベリリウムの有毒性が発見されたためハロリン酸系蛍光体に置き換えられた[9]。また、ベリリウムの初期の主要な用途のひとつとして、その硬さや融点の高さ、非常に優れたヒートシンク性能を利用した軍用機のブレーキへの利用が挙げられるが、こちらも環境への配慮から別の材料に代替された[10]

特徴

ベリリウムは緑柱石などの鉱物から産出される。緑柱石は不純物に由来する色の違いによってアクアマリンエメラルドなどと呼ばれ、宝石としても用いられる。常温常圧で安定した結晶構造六方最密充填構造(HCP)である。単体は銀白色の金属で、空気中では表面に酸化被膜が生成され安定に存在できる。モース硬度は6から7を示し、硬く、常温では脆いが、高温になると展延性が増す。にもアルカリにも溶解する。ベリリウムの安定同位体は恒星の元素合成においては生成されず、宇宙線による核破砕によって炭素窒素などより重い元素から生成される。

ベリリウムは周期表の上では第2族元素に属しているが、その性質は同じ族の元素であるカルシウムストロンチウムよりもむしろ第13族元素であるアルミニウムに類似している[11]。たとえば、カルシウムやストロンチウムは炎色反応によって発色するが、ベリリウムは無色である[12]。そのため、ベリリウムは第2族元素ではあるが、アルカリ土類金属には含めないこともある[13]。また、ベリリウムの二元化合物の構造は亜鉛とも類似している[14]

物理的性質

ベリリウムの常温、常圧(標準状態)における安定した結晶構造六方最密充填構造(HCP)であり、その格子定数はa=2.268Å、b=3.594Åである[15]。モース硬度6から7[16]と第2族元素の中でもっとも硬いが、粉砕によって粉末にできるほど脆い[17]。しかしながら、高温になると展延性が増すため[18]核融合炉のような高温条件で利用する用途において高い機械的性質を発揮することができる[19]。この用途では、400を下回る温度になると使用上問題となるレベルにまで展延性が低下してしまう[19]。比重は1.816、融点は1,284℃、沸点は2,767℃である[17]

ベリリウムのヤング率は287GPaとのヤング率より50パーセントも高く[20]、非常に強い曲げ強さを有している。このような高いヤング率の高さに由来してベリリウムの剛性は非常に優れており、後述の熱負荷の大きい環境における安定性も相まって宇宙船航空機などの構造部材に利用されている。また、このヤング率の大きさと、ベリリウムが比較的低密度であるという物性が組み合わさることにより、周囲の状況に応じて変化するものの、およそ秒速12.9キロという著しく高い音の伝導性を示す。この性質を利用して音響材料におけるスピーカーの振動板などに用いられている。ベリリウムの他の重要な特性としては、1925 J ⋅ kg−1 ⋅ K−1という高い比熱および、216 W ⋅ m−1 ⋅ K−1という高い熱伝導率が挙げられ、これらの物性によってベリリウムは単位重量当たりの放熱物性にもっとも優れた金属である。この放熱物性を利用した用途としてヒートシンク材料が挙げられ、電子材料などにおいて活用されている。またこれらの物性は、11.4×10−6 K−1という比較的低い線形熱膨張率や1,284℃という高い融点も相まって、熱負荷の大きな状況下における非常に高い安定性をもたらしている[10]

化学的性質

ベリリウムの単体還元性が非常に強く、その標準酸化還元電位E0は −1.85 V である[21]。この標準電位の値はイオン化傾向においてアルミニウムの上に位置しているため大きな化学活性が期待されるが、実際には表面が酸化物の膜(酸化被膜)に覆われて不動態化するため高温に熱した状態でさえも空気や水と反応しない。しかしながら、いったん点火すれば輝きながら燃焼して酸化ベリリウム窒化ベリリウムの混合物が形成される[22]

ベリリウムは通常、表面に酸化被膜を形成しているために対しての強い耐性を示すが、酸化被膜を取り除いた純粋なベリリウムでは、塩酸や希硫酸のような酸化力を持たない酸に対しては容易に溶解する。硝酸のような酸化力を有する酸に対してはゆっくりとしか溶解しない。また、強アルカリに対してはオキソ酸イオンであるベリリウム酸イオン(Be(OH)42−)を形成して水素ガスを発生させながら溶解する。このような酸やアルカリに対する性質はアルミニウムと類似している[23]。ベリリウムは水とも水素を発生させながら反応するが、水との反応によって生じる水酸化ベリリウムは水に対する溶解度が低く金属表面に被膜を形成するため、金属表面のベリリウムが反応しきればそれ以上反応は進行しない[24]

ベリリウムの電子殻

ベリリウム原子電子配置は[He]2s2である。ベリリウムはその原子半径の小ささに対してイオン化エネルギーが大きいため電荷を完全に分離することは難しく、そのためベリリウムの化合物は共有結合性を有している[25]第2周期元素は原子量が大きくなるにしたがってイオン化エネルギーも増大する法則が見られるが、ベリリウムはその法則から外れており、より原子量の大きなホウ素よりもイオン化エネルギーが大きい。これは、ベリリウムの最外殻電子が2s軌道上にあり、ホウ素の最外殻電子は2p軌道上にあることに起因している。2p軌道の電子は内殻に存在するs軌道の電子によって遮蔽効果有効核電荷も参照)を受けるため、2p軌道に存在する最外殻電子のイオン化エネルギーが低下する。一方で2s軌道の電子は遮蔽効果を受けないため、相対的に2p軌道の電子よりもイオン化エネルギーが大きくなり、これによってベリリウムとホウ素の間でイオン化エネルギーの大きさの逆転が生じる[26]

ベリリウムの錯体もしくは錯イオンは、たとえばテトラアクアベリリウム(II)イオン(Be[(H2O)4]2+)やテトラハロベリリウム酸イオン(BeX42−)のように、多くの場合4配位を取る[25]EDTA はほかの配位子よりも優先してベリリウムに配位して八面体形の錯体を形成するため、分析技術にこの性質が利用される。たとえば、ベリリウムのアセチルアセトナト錯体にEDTAを加えると、EDTAがアセチルアセトンよりも優先してベリリウムとの間で錯体を形成してアセチルアセトンが分離するため、ベリリウムを溶媒抽出することができる。このようなEDTAを用いた錯体形成においてはAl3+のようなほかの陽イオンによって悪影響を受けることがある[27]

化合物

硫酸ベリリウム

硫酸ベリリウム硝酸ベリリウムのようなベリリウムの溶液は イオンの加水分解によって酸性を示す。

加水分解によるほかの生成物には、3量体イオン が含まれる。

ベリリウムは多くの非金属原子と二元化合物を形成する。無水ハロゲン化物としては、フッ素塩素臭素ヨウ素との化合物が知られており、固体状態においては橋掛け結合によって重合している[25]フッ化ベリリウム(BeF2)は、二酸化ケイ素のような角を共有したBeF4の四面体構造を取り、ガラス状においては無秩序な直鎖構造を取る[28]塩化ベリリウムおよび臭化ベリリウムは両端を共有した直鎖状の構造を取る。すべてのハロゲン化ベリリウムは、気体の状態においては線形のモノマー分子構造を取る[25][22]。塩化ベリリウムは金属ベリリウムを塩素と直接反応させることによって得られ、これは塩化アルミニウムと同様の製法である[29]

酸化ベリリウムはウルツ鉱型構造を取る耐火性の白色結晶であり、金属と同じぐらい高い熱伝導率を有する。酸化ベリリウムは2種類の多形が存在し、低温型の酸化ベリリウムは熱したアルカリ溶液などに溶解するが、高温では相転移してより安定な構造となり、濃硫酸に硫酸アンモニウムを加えた熱シロップのみにしか溶解しなくなる[23]。ほかのベリリウムと第16族元素との化合物は硫化ベリリウムセレン化ベリリウムテルル化ベリリウムが知られており、それらはすべて閃亜鉛鉱型構造を取る[30]水酸化ベリリウム両性を示し[23]、その酸性水溶液がほかのベリリウム塩を合成する出発原料とされる[22]

窒化ベリリウム(Be3N2)は非常に加水分解をしやすい、高融点な化合物である。アジ化ベリリウム(BeN6)およびリン化ベリリウム(Be3P2)は窒化ベリリウムと類似した構造を有していることが知られている。塩基性硝酸ベリリウムおよび塩基性酢酸ベリリウムは4つのベリリウム原子が中心の酸素イオンに配位した四面体構造を取る[30]。Be5B、Be4B、Be2B、BeB2、BeB6、BeB12のようないくつかのホウ素化ベリリウムも知られている。炭化ベリリウム(Be2C)は耐火性のレンガ色をした化合物であり、水と反応してメタンを発生させる[30]。ケイ素化ベリリウムは同定されていない[22]

核的性質

ベリリウムは、高エネルギーな中性子線に対して広い散乱断面積を有しており、その散乱断面積は0.01eV を上回るものに対しておよそ6バーンである。散乱断面積の正確な値はベリリウムの結晶サイズや純度に強く依存するため実際の散乱断面積は1桁ほど低くなり、ベリリウムが効果的に減速させることのできる中性子線のエネルギー範囲0.03eV 以上のものに限られる。このため、ベリリウムは高エネルギーな熱中性子は効果的に減速させることができるものの、エネルギーの低い冷中性子は減速させることができずに透過してしまう。この性質を利用して、さまざまなエネルギーを持つ中性子の中から冷中性子のみを取り出すためのフィルターとして利用される[31]

ベリリウムのおもな同位体である9Beは(n, 2n)中性子反応によって1つの中性子を消費して2つの中性子を放出し、2つのアルファ粒子に分裂する。したがって、ベリリウムの中性子反応は消費する中性子よりも多くの中性子を放出して系内の中性子を増加させる。

[32]

金属としてのベリリウムは大部分のX線およびガンマ線を透過するため、X線管などのX線装置におけるX線の出力窓として有用である。ベリリウムはまた、ベリリウムの原子核と高速のアルファ粒子との衝突によって中性子線を放出するため、実験における比較的少数の中性子線を得るための良好な中性子線源である[10]

[32]

同位体および元素合成

太陽活動の変化による10Be濃度変化のプロット。10Be濃度を示す左側の縦軸は上にいくほど値が小さくなっていることに注意

ベリリウムの安定同位体9Beのみであり、したがってベリリウムはモノアイソトピック元素である。9Beは恒星において宇宙線陽子炭素などのベリリウムよりも重い元素を崩壊させることによって生成され、超新星爆発によって宇宙中に分散する。このようにして宇宙中にチリやガスとして分散した9Beは、分子雲を形成する原子のひとつとして星形成に寄与し、新しくできた星の構成元素として取り込まれる[33]

10Beは、地球の大気に含まれる酸素および窒素宇宙線による核破砕を受けることで生成される。宇宙線による核破砕によって生成したベリリウム同位体の大気中の滞在時間は成層圏で1年程度、対流圏で1か月程度とされており、その後は地表面に蓄積する。10Beはベータ崩壊によって10B になるものの、その136万年という比較的長い半減期のために10Beとして地表面に長期間滞留し続ける。そのため、10Beおよびその娘核種は、自然界における土壌侵食や形成、ラテライトの発達などを調査するのに利用される[34]。また、太陽の磁気的活動が活発化すると太陽風が増大し、その期間は太陽風の影響によって地球に到達する銀河宇宙線が減少するため、銀河宇宙線によって生成される10Beの生成量は太陽活動の活発さに反比例して減少する。したがって10Beは、同様に宇宙線によって生成される14C(炭素14)とともに太陽活動の変動を記録しているため、極地方のアイスコア中に残された10Beおよび14Cの解析をすることで、過去の太陽活動の変遷を間接的に知ることができる[35]

核爆発もまた10Beの生成源であり、核爆発によって発生した高速中性子が大気中の二酸化炭素に含まれる13Cと反応することによって生成される。これは、核実験試験場の過去の活動を示す指標のひとつである[36]

半減期53日の同位体7Beもまた宇宙線によって生成され、その大気中の存在量は10Beと同様に太陽活動と関係している。8Beの半減期はおよそ7×10−17秒と非常に短く、この半減期の短さはベリリウムよりも重い元素がビッグバン原子核合成によっては生成されなかった原因ともなっている[37]。すなわち、8Beの半減期が非常に短いためにビッグバン原子核合成段階の宇宙において核融合反応に利用できる8Beの濃度が非常に低く、そのような低濃度の8Beが4Heと核融合して炭素を合成するにはビッグバン原子核合成段階の時間が不十分であったことに起因する。イギリス天文学者であるフレッド・ホイルは、8Beおよび12Cのエネルギー準位から、より多くの時間を元素合成に利用することが可能なヘリウムを燃料とする恒星内であれば、いわゆるトリプルアルファ反応と呼ばれる反応によって炭素の生成が可能であることを示し、それによって超新星によって放出される塵とガスから炭素を基礎とした生命の創生が可能となることを明らかにした[38]

ベリリウムのもっとも内側の電子は化学結合に関与することができるため、7Beの電子捕獲による崩壊は、化学結合に関与することのできる原子軌道から電子を奪うことによって起こる。その崩壊確率はベリリウムの電子構成に大部分を依存しており、核崩壊においてまれなケースである[39]

既知のベリリウム同位体のうち、もっとも半減期が短いものは中性子放出によって崩壊する13Beであり、その半減期は2.7×10−21秒である。6Beもまた非常に半減期が短く、5.0×10−21秒である[40]エキゾチック原子核である11Beおよび14Beは、中性子が原子核の周りを周回する中性子ハローを示すことが知られている[41]。この現象は、液滴模型において、古典的なトーマス・フェルミ理論による表面対称エネルギーの影響によって、中性子の分布が陽子分布よりも外部に大きく広がっていると理解することができる[42]

ベリリウムの不安定な同位体元素は恒星内元素合成においても生成されるが、これらは生成後すぐに崩壊する[43]

なお、原子番号が偶数で、安定同位体が1つしかない元素はベリリウムだけである[44]。通常、原子番号が20以下の元素においては、ベーテ・ヴァイツゼッカーの質量公式のペアリング項に現われるように、陽子と中性子が偶数であるものは奇数のものと比較して結合エネルギーが大きく安定であるのに加え、対称性項に現われるように陽子数と中性子数が同数のものほどのため安定となるが、陽子数および中性子数がともに4である8Beは例外的に不安定である[45]。これは、8Beの崩壊生成物である4Heが魔法数を取っているため非常に安定であることによる。

分析

ベリリウムの性質はアルカリ土類金属よりもアルミニウムなどと類似しているため、ベリリウムの分析方法はアルミニウムや鉄、クロム希土類元素などと同一のグループとして扱われる。このようなグループはアンモニアによるアルカリ性の条件において水酸化物沈殿を生じることからアンモニア属と呼ばれる[46]

定性分析

ベリリウムはアルカリ性の状態で3, 5, 7, 2', 4'-ペンタヒドロキシフラボン(モリン)と反応させることで黄色の蛍光を観察することができるため、この反応を利用して定性分析を行うことができる。この蛍光は日光ではあまり発色しないため、発色を観察するためには紫外線の照射を行う。このベリリウムとモリンとの反応を阻害するようなイオンが共存していなければ、1ppmの濃度でも十分に強い発色を観察することができるほどに分析感度が高く、この方法での検出限界は0.02ng(10−9g)である[47][48]。モリンはリチウムスカンジウム、大量のカルシウム亜鉛などとも反応して蛍光を発するため、これらのイオンが共存しているとベリリウムの検出を阻害するが、その発光強度は弱いため通常は問題とならない。また、カルシウムはピロリン酸、亜鉛はシアン化物を加えることによってそれらの元素とモリンとの反応を抑制することができる[47]

定量分析

ベリリウムはアンモニアによって水酸化物の沈殿を生じるため、これを利用して重量分析を行うことができる[49]。この水酸化物の沈殿はpH6.5から10までの範囲で生じ、アンモニア添加量が過剰になりpHが高くなりすぎると水酸化物の沈殿が再溶解してしまう[50]。得られた水酸化物を濾過、洗浄したあと、強熱することで水酸化ベリリウムを酸化ベリリウムとし、その重量を計量することでベリリウム濃度が分析される。この方法を用いる場合、分析試料の溶液中に炭酸塩もしくは炭酸ガスが含まれると、水酸化ベリリウムとして沈殿せずに炭酸ベリリウムとして溶液中に残ってしまうため、分析結果に誤差が生じる原因となる。また、沈殿の洗浄が不十分で塩化物が残留していると、強熱時に水酸化ベリリウムと反応して塩化ベリリウムとなって揮発してしまうため、こちらも誤差の原因になる[49]。鉱石中のベリリウムの分析などの多成分中のベリリウムを分析する際には、アルミニウムや鉄などの成分がベリリウムと同様の条件で水酸化物の沈殿を生成するため、前処理を行いこれらの元素を分離する必要がある[51]。通常用いられる方法としては、いったん不純物を含んだ水酸化物の沈殿を生成させ、その水酸化物を炭酸水素ナトリウムで処理し、ベリリウムを水溶性の炭酸塩として水に溶解させることで鉄やアルミニウムから分離する方法が用いられる[52]。また、ケイ素を多く含む場合は炭酸ナトリウムを用いたアルカリ溶融法が用いられる[53]。このような古典的手法のほか、イオン交換膜法や水銀電極を用いた電気分解などの方法も利用される[48]

溶液中の微量のベリリウムの分析には電気炉加熱原子吸光光度法(AAS)もしくは誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)が用いられる。AASの吸収波長は234.9nm であり、ICP-AESの発光波長は313.042nm が用いられる。AASでは試料溶液は塩酸もしくは硝酸酸性に調整し、ICP-AESおよびICP-MSでは硝酸で酸性に調整して分析を行う。海水のようなほかの塩類を多く含む試料を測定する場合には、EDTAおよびアセチルアセトンを用いて溶媒抽出法によりベリリウムを分離する[54]。もっとも感度の高いベリリウムの分析手法としては、トリフルオロアセチルアセトンを用いて揮発性のベリリウム錯体としてガスクロマトグラフィーを用いて分析する方法が挙げられ、検出限界0.08pg(10−12g)という分析精度が1971年に報告されている[55]

分布

ベリリウム鉱石

ベリリウムは宇宙において非常にまれな元素で、宇宙全体の平均濃度の推定値は重量濃度で1ppb(10億分の1)であり、ニオブより原子量の小さい元素の中ではホウ素と並んでもっとも存在率が小さい[56]太陽内部でも重量濃度0.1ppbとまれであり、レニウムと同程度の存在量である[57]。一方、地球におけるベリリウム濃度は、地表の岩石中の重量濃度の推定値でおよそ2.8 - 5ppm[58]、海水中でおよそ0.0006ppb[59]、河川の水においては海水中よりは多くおよそ0.1ppbである[60][61]。太陽中のベリリウム濃度が地球上のベリリウム濃度と比較して著しく低い原因は、太陽の燃焼における核反応で消費されるためと考えられている[62]

地表の岩石中のベリリウム濃度は前述のようにおよそ2.8 - 5ppmであるが、ベリリウム鉱石によって高濃度にベリリウムが存在する地域もある[58]。ベリリウムは約4,000種類の既知の鉱石のうち、約100種類の鉱石において主成分となっており[63]、その中でも重要なものは、ベルトラン石英語版(Be4Si2O7(OH)2)、緑柱石(Al2Be3Si6O18)およびフェナカイト(Be2SiO4)である[64]。このようなベリリウム鉱石は、おもにマグマの冷却過程に由来するペグマタイト中で濃縮される[65]。また、ベリリウム鉱石は凝灰岩閃長岩からも発見されており[66]、これらはすべて火山活動に由来する火成岩火山砕屑岩である。また、土壌中のベリリウムは植物によってわずかに吸収され、カラマツなど特定の植物はベリリウムを蓄積する[67]

大気中のベリリウム濃度は先進国の都市部でおよそ0.03 - 0.07ng/m3ほどであるが、ベリリウムの大気への主要供給源は化石燃料の燃焼によるものであるため、工業化の進んでいない国においてはさらに低濃度になると推測されている。1987年のアメリカ合衆国環境保護庁のデータによれば、自然におけるベリリウムの大気への放出量は年間5.2トンほどであるが、化石燃料の燃焼を含む人類の活動によるベリリウムの大気への放出量は年間187.4トンにも及ぶ[68]

生産

高純度ベリリウム(99パーセント以上、140グラム)

ベリリウムは高温状態で酸素と高い親和性を示すなどの性質を有しているため、ベリリウム化合物から金属ベリリウムを精製することは非常に困難である。19世紀の間は金属ベリリウムを得るための方法として、フッ化ベリリウムフッ化ナトリウムの混合物を電気分解するという方法が用いられていた[2]。しかしこのような方法は、ベリリウムの融点が高いために金属ベリリウムの製造に類似した方法を用いるアルカリ金属の製造と比較して多くのエネルギーが必要だった。20世紀の初めには、ヨウ化ベリリウムの熱分解によるベリリウムの生産法が研究され、ジルコニウムの生産法に類似した方法が成功を収めたが、この方法では大量生産において経済的に採算が取れないことが判明した[69]。2007年時点では、ベリリウム鉱石中の酸化ベリリウムを処理することによってフッ化ベリリウムとし、それをマグネシウムを用いて還元させることで生産されている[70]

この金属ベリリウムの精製に用いられるフッ化ベリリウムは、おもにベリリウム鉱物である緑柱石を原料として生産される[17]。ベリリウム鉱石は石英と同程度の比重であるために比重差を利用した選鉱を行うことができず、多くの場合選鉱は手作業に頼っているが、ベリリウム鉱石にガンマ線を照射することで、ベリリウムから放出された中性子を検出して選別する自動装置も開発されている[71]。こうして選鉱された緑柱石からベリリウムを抽出するために硫酸処理が行われるが、鉱石のままでは硫酸と400度で反応させたとしてもベリリウムはほとんど溶解しないため、前処理としてアルカリ処理もしくは熱処理が行われる[72]。アルカリ処理は、ケイ素を多く含む試料を分析する際に用いられるアルカリ溶融法と同様の原理でケイ素と金属を分離する方法であり、ベリリウム鉱石に水酸化ナトリウム炭酸ナトリウムのようなアルカリを加えて溶融させる[72]。熱処理は1,650度以上の高温に加熱することで緑柱石を溶融させ、鉱石中のベリリウムを完全に酸化ベリリウムとしたあと、再度900度に加熱することで二酸化ケイ素から遊離させてベリリウムの溶解性を高める方法である[72]。このようにしてベリリウムを溶出させやすいように前処理を行ったあと、硫酸処理を行うことで硫酸ベリリウムの溶液として鉱石からベリリウムを抽出することができる[17]。得られた硫酸ベリリウム溶液をアルカリで中和することで水酸化ベリリウムの沈殿が得られ、これをフッ化アンモニウムと反応させたあと、熱分解させることによってフッ化ベリリウムが生産される[17]。また、ベリリウム鉱石中からベリリウムを分離抽出する方法としては、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウムを加えて700度で溶融させテトラフルオロベリリウム酸ナトリウムとして抽出する方法や[73]、ベリリウム鉱石を炭素とともに塩素気流下、630度以上で塩素と直接反応させて塩化ベリリウムとして抽出する方法などがある[74]。このようにして得られた塩化ベリリウムを溶融塩電解することでも金属ベリリウムを生産することができる[70]。この方法では、塩化ベリリウムの電気伝導度が非常に低く電解効率が悪いため、塩化ナトリウムが助剤として加えられる[23]

工業規模でのベリリウム産出に関与しているのはアメリカ、中国、カザフスタンの3国のみである[75]。2008年時点のアメリカにおけるベリリウムおよびベリリウム化合物のおもな生産者は、ブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社である[76]。ブラッシュ・エンジニアード・マテリアルズ社では、ベリリウムを製錬するための原料の大部分を自身が所有するスポール山の鉱床(ユタ州)から産出されるベリリウム鉱石(ベルトラン石を含む)から得ている。ベリリウムの製錬およびほかの精製は、ユタ州デルタ英語版の北10マイルにある工場で行われており[77]、その場所はインターマウンテン・パワー・プロジェクトによる発電設備から近くかつ町からも離れているために選ばれた[78]。1998年から2008年までの間、ベリリウムの世界の生産量は343トンからおよそ200トンにまで減少しており、200トンのうち176トン(88パーセント)はアメリカで生産されている[79][80]。真空鋳造によって製造されたベリリウムインゴットの2001年におけるアメリカ市場でのキログラム単価は745ドルであった[81]。日本での国内取り扱いトップの日本ガイシによると1キロあたり70 - 80万円である[82]

用途

ベリリウムはおもに合金の硬化剤として利用され、その代表的なものにベリリウム銅合金がある。また、非常に強い曲げ強さ、熱的安定性および熱伝導率の高さ、金属としては比較的低い密度などの物理的性質を利用して、高速航空機ミサイル宇宙船通信衛星などの軍事産業航空宇宙産業において構造部材として用いられる。ベリリウムは低密度かつ原子量が小さいためX線やその他電離放射線に対して透過性を示し、その特性を利用してX線装置や粒子物理学の試験におけるX線透過窓として用いられる。

ベリリウムの用途には、その物理的性質を利用したX線装置や構造材、鏡(ベリリウムミラー)、合金材料、音響材料としての用途、磁気的性質を利用した工具製造、電子物性を利用した電子材料、核的性質を利用した中性子源や、ベリリウム鉱石の外観の美しさを利用した宝石としての用途が挙げられる。この中には核兵器ミサイル射撃管制装置などの軍事的用途も含まれ、そのような分野に関する詳細な情報を入手することは難しい[83]。また、ベリリウムの毒性により、過去に用いられていた蛍光材料としての用途はすでにほかの代替材料に置き換えられており、ベリリウム銅合金なども代替材料の開発が進められている。

X線透過窓

鋼鉄製のケースに乗せられた四角いベリリウム箔。真空チャンバーとX線顕微鏡の間で「窓」として用いられる

ベリリウムは原子番号が小さく電子の数が少ないため、X線に対する透過率が非常に高い。そのため、X線源やビームライン、X線望遠鏡などの検出器用の窓に用いられる。この用途においては、X線像に不要な像が写り込むことを回避するためにベリリウムの純度と清潔さがもっとも要求される。また、X線探知機のX線放射窓としてもベリリウムの薄膜が用いられている。これは、ベリリウムのX線吸収率が非常に低いことによって、高強度のシンクロトロン放射光に典型的な低エネルギーX線に起因する熱の影響を最小限に留めることができるためである。さらに、シンクロトロンによる放射線試験のための真空気密窓およびビームチューブの素材にはベリリウムのみが用いられている。ほかにも、エネルギー分散型X線分析などのさまざまなX線を利用した分析機器においては、ベリリウム製のサンプルホルダーが常用される。これは、ベリリウムから発生する特性X線蛍光X線の有するエネルギーが100eV以下と分析試料由来のX線と比較して非常に低く、試料の分析データに影響を与えないためである[10]

ベリリウムはまた、素粒子物理学の実験装置において高エネルギー粒子を衝突させる場所周辺のビームラインを構築するための素材として用いられる。たとえば、大型ハドロン衝突型加速器の実験における主要な4つの検出器すべて(ALICE検出器ATLAS検出器CMS検出器英語版LHCb検出器英語版[84]テバトロンSLAC国立加速器研究所において用いられている。このような用途においてはベリリウムが持つさまざまな性質が効果的に働いている。すなわち、ベリリウムの原子番号の小ささに由来する高エネルギー粒子に対する透過性が比較的高いという性質や、ベリリウムの密度が低いという性質によって、粒子の衝突によって発生した生成物を重大な相互作用なしに周囲の検出器へと誘導することができる。また、ベリリウムは剛性が高いためベリリウムのパイプ内を非常に高真空にでき、残留した気体分子による相互作用を最小限にすることができる。さらに、ベリリウムは熱的に非常に安定しているため、絶対零度よりわずかに高い程度の極低温においても正常に機能することができる。そのうえ、ベリリウムの反磁性を有する性質によって、粒子線を収束させて検出器まで導くために用いられる複雑な多極電磁石システムへの干渉を防ぐことができる[85]

機械的用途

ベリリウムは剛性が大きく、軽く、広い温度範囲における寸法安定性を有しているため、防衛産業航空宇宙産業において軽量な構造部材として、たとえば、高速航空機ミサイル宇宙船通信衛星などに用いられる。液体燃料ロケットには高純度ベリリウムのロケットエンジンノズルが用いられている[86][87]。また、少数ではあるものの自転車のフレームにも用いられている[88]。また、ベリリウムは硬く、融点が高く、さらに非常に優れたヒートシンク性能を有しているため、軍用機やレース車両のブレーキディスクに用いられていたが、環境への配慮のため代替材料が用いられている[10][89]

ベリリウムは優れた弾性剛性を有しているため、ジャイロスコープによる慣性航法装置や光学系のための支持構造物などの精密機器にも利用される[10]

ベリリウムミラー

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のベリリウム製の主鏡

ベリリウムミラーは、気象衛星のような低重量および長期間の寸法安定性が重要とされる用途に対する大面積の鏡(しばしばハニカムミラー英語版)に用いられる。たとえば、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡はベリリウム製であり[90]、同様の理由でスピッツァー宇宙望遠鏡もベリリウム製の反射望遠鏡が用いられている[91]

また、より小さなベリリウムミラーは光学的な制御システム射撃管制装置に用いられる。たとえば、ドイツの主力戦車であるレオパルト1レオパルト2に用いられている[92]。これらのシステムには鏡の非常に迅速な動きが要求されるため、ベリリウムの低重量かつ高剛性な性質が必要とされる。通常このベリリウムミラーは、光学的仕上げ材による研磨をより容易に行えるように無電解ニッケルめっきによって被覆される。しかしながら極低温条件で用いる場合などには、熱膨張率の違いによって被覆材に歪みが生じてしまうため、このような用途においては被覆材を用いずに直接磨き上げられる[10]

磁気的用途

機雷などの爆発物は磁気に反応して爆発する磁気信管を一般的に備えているため、による機雷の除去作業では磁性を持たないベリリウムやその合金から作られる器具が用いられる[93]。それらはまた、強い磁場を発生させる核磁気共鳴画像法(MRI)の機械の近くで用いられるメンテナンス器具や建設材料にも用いられる[94]無線通信や強力なレーダー(通常は軍用)の分野においては、非常に磁気の強いクライストロン (Klystronマグネトロン進行波管などの高レベルなマイクロ波を発生させるための送信機が使われるため、それらを調整するためにもまたベリリウム製の手工具が用いられる[95]

音響材料

ベリリウム製ドーム型振動板を持つスピーカーユニット

ベリリウムは低質量かつ高剛性であるため、およそ12.9km/sと高い音の伝導率を示す。ベリリウムのこの物性を利用して、ツイーター(高音域スピーカー)の振動板としておもにドーム型に成形し使用される。しかしながら、ベリリウムはしばしばチタン以上に高価であり、その脆性の高さにより成形が困難であり、処置を誤れば製品の毒性を封印できないため、ベリリウム製のツイーターはハイエンドな家庭用や業務用オーディオ、Public Addressなどの用途に限られている[96][97][98]。高音域スピーカーの振動板としての使用例としては、ヤマハ[99]パイオニア[100]などの音響機器メーカーの製品があり、またヤマハ・パイオニア・オーディオテクニカグレースピックアップ・カートリッジカンチレバーに用いられた例がある[101]。また、その熱伝導率のよさから、セラミック送信管(アイマック英語版社製、eimac8873)の本体および純正放熱用熱伝導体として酸化ベリリウムが採用された例がある[102]。ベリリウムはほかの金属との合金としても頻繁に利用されるが、その合金組成に明記されないこともある[103]

核物性の利用

ベリリウムの薄いプレートやホイールは、しばしばテラー・ウラム型のような熱核爆弾において、核融合燃料に「点火」するためのトリガーである第一段階の核分裂爆弾を囲うプルトニウムピットの最外層として用いられる。このようなベリリウムの層は、239Puを爆縮させるための良好な核反応促進材であり、初期の実験的な原子炉において中性子反射減速材として利用されていたように良好な中性子反射体でもある[104]

陽子線中性子線に「変換」するベリリウムターゲット

ベリリウムはまた、比較的少ない中性子を必要とする原子炉規模以下の実験用途において、一般的に中性子源として用いられる。この目的のための9Beターゲット材は、210Po226Ra239Pu241Amなどの放射性同位体から放出される高エネルギーなアルファ粒子を衝突させることで中性子が取り出される。このときに起こる核反応によって、9Beは12Cになり、遊離した中性子はアルファ粒子が移動するのと同じ方向へ放出される。ベリリウムはそのような中性子源として、urchinと呼ばれる中性子点火器英語版として初期の原子爆弾にも利用されていた[104]

ベリリウムは欧州連合トーラス共同研究施設における核融合研究所においても利用されており、より高度なITERにおいてプラズマに直接接する部分の素材としても利用されている[105]。ベリリウムはまた、その機械的、化学的、核的な物性の組み合わせのよさから、核燃料棒の被覆素材としての利用も提案されている[10]フッ化ベリリウムは、溶融塩原子炉設計の多くの仮定において、溶媒、減速材および冷却材としての使用が想定されている、共晶塩であるフッ化リチウムベリリウム英語版を構成する塩のひとつである[106]

電子材料

ベリリウムはIII-V族半導体においてP型半導体ドーパントである。それは、分子線エピタキシー法(MBE)によって製造されるヒ化ガリウムヒ化アルミニウムガリウムヒ化インジウムガリウムヒ化インジウムアルミニウム英語版のような素材において広く用いられている[107]。クロス圧延されたベリリウムのシートはプリント基板への表面実装における優れた構造支持体である。電子材料におけるベリリウムの重要な用途は、構造支持のみならずヒートシンク素材としての用途がある。この用途においては、アルミナおよびポリイミドガラス基盤と調和した熱膨張率が必要とされる。これらの電子的用途のために特別に設計されたベリリウム-酸化ベリリウム複合材料は「E-Material英語版」と呼ばれ、さまざまな基盤素材に合わせて熱膨張率を調整できる利点がある[10]

電気絶縁性および優れた熱伝導率、高い耐久性、硬さ、非常に高い融点という複数の特性が要求されるような多くの用途において、酸化ベリリウムが利用される。酸化ベリリウムは、電気通信のための無線周波送信機におけるパワートランジスタの絶縁基盤として多用される。酸化ベリリウムはまた、酸化ウラン核燃料ペレットにおいて熱伝導性を向上させるための用途が検討されている[108]。ベリリウム化合物は蛍光灯にも用いられていたが、ベリリウムを用いた蛍光灯の製造工場で働く労働者にベリリウム中毒が発症したため、この用途でのベリリウムの利用は中止された[109]

宝石

ベリリウム鉱物である緑柱石のうち、状態のいいものは宝石として利用される[10][110][111]。緑柱石由来の宝石としては、不純物としてクロムを含み濃い緑色を呈するエメラルド、2価のを含み水色を呈するアクアマリン、3価の鉄を含み黄色を呈するゴールデンベリル、マンガンを含むレッドベリルモルガナイトなどがある[112][113]

同じくベリリウム鉱物である金緑石からなる宝石には、宝石の表面に猫の目のような細い光の筋が見えるキャッツアイ効果を示す猫目石や、光源の種類によって見える色が変化する変色効果を示すアレキサンドライトといった特殊な効果を示すものがあり、キャッツアイ効果と変色効果を併せ持つものも存在する[114]。アレキサンドライトの赤紫色は不純物として含まれる鉄によるものである。

合金

ベリリウム銅製の工具

(Cu)に0.15 - 2.0パーセント程度を混ぜてベリリウム銅合金として利用される。銅よりもはるかに強く、純銅に近い良好な電気伝導性がある。膨張率はステンレス鋼や鋼に近い。ゆっくり変化する磁界に対し高い透磁率をもつ[115]。銅合金の中でも優れた機械的強度を持っており、電気回路のコネクタなどで使われるバネの材料に用いられる[116]。また、磁化しにくい、打撃を受けても火花が出ない特徴を持つ[117]ことから、石油化学工業などの爆発雰囲気の中で使用する防爆工具に安全保持上用いることもある。ベリリウム銅合金はまた、Jason pistolsと呼ばれる船からペンキをはぎ取るのに用いられる針状の器具にも用いられる[118]。また、の代わりにニッケルを用いた合金も同様に利用される[119]。ベリリウム銅合金はベリリウムの持つ毒性のために代替材料の開発が進められており、実用化されているものもある[120][121][122]

また、アルミベリリウム合金も軽量かつ強度が高い特徴があり、F1レーシングカーの部品(安全性の観点から2004年以降は使用禁止)や航空機の部品にも使用されている[123]

堆積学的履歴解析

堆積学分野では同位体の10Beおよび7Beと鉛の同位体210Pbの存在比率により、地層の堆積物の輸送がどのようなイベントで生じたのか、つまり「ゆっくりと安定した堆積なのか」「河川の氾濫や洪水、嵐による急激な堆積なのか」などを調べることが可能である[124]

危険性

ベリリウムを含有する人体へと吸入されることによって毒性を示すため、その商業利用には技術的な難点がある。ベリリウムは細胞組織に対して腐食性であり、慢性ベリリウム症と呼ばれる致死性の慢性疾患を引き起こす。

人体への影響

ベリリウム
危険性
GHSピクトグラム
EU分類 有毒 T有害 Xn
主な危険性 腐食性
経口摂取での危険性 大いにあり
呼吸器への危険性 大いにあり
への危険性 大いにあり
皮膚への危険性 大いにあり
NFPA 704
3
4
3
引火点
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
NFPA 704
1
3
0
金属ベリリウムに対するファイア・ダイアモンド表示[125]

ベリリウムは人体への曝露によってベリリウム肺症もしくは慢性ベリリウム症として知られる深刻な慢性肺疾患を引き起こすようにきわめて毒性の高い物質であり[126]、水棲生物に対しても非常に強い毒性を示す[125]。また、細胞組織に対して腐食性であるため、可溶性塩の吸入によって化学性肺炎である急性ベリリウム症を引き起こし、皮膚との接触によって炎症が引き起こされる[126]

慢性ベリリウム症は数週間から20年以上と非常に個人差の大きい潜伏期間があり、その死亡率は37パーセントで、妊婦においてはさらに死亡率が高くなる[126]。慢性ベリリウム症は基本的には自己免疫疾患であり、感受性を有する人は5パーセント以下であると見られている[127]。慢性ベリリウム症におけるベリリウムの毒性の機序は、ベリリウムが酵素に影響を与えることで代謝や細胞複製が阻害されることによる[126]。慢性ベリリウム中毒は多くの点でサルコイドーシスに類似しており、鑑別診断においてはこれらを見分けることが重要とされる[128]

急性ベリリウム症は基本的には化学性肺炎であり、慢性ベリリウム症とは異なる機序によるものである。その定義は「継続期間1年未満のベリリウム由来の肺疾患」[129]とされており、ベリリウムへの曝露量と症状の重さには直接的な因果関係が見られる。ベリリウム濃度が1,000μg/m3以上になると発症し、100μg/m3未満では発症しないことが明らかとなっている[130]

急性ベリリウム症は最高曝露量の設定による作業環境の改善にともない減少しているが、慢性ベリリウム症はベリリウムを扱う産業において多く発生しており[126][131]、ベリリウムの許容濃度を順守している工場においても慢性ベリリウム疾患の発症した例が確認されている[132]。また、このような産業に関わらない人々にも化石燃料の燃焼に起因する極微量の曝露がみられる[133]

ベリリウムおよびベリリウム化合物は、WHOの下部機関IARCより発癌性がある(Type1)と勧告されている[134]。カリフォルニア州環境保健有害性評価局が算出した公衆健康目標のガイドライン値は1μg/L、有害物質疾病登録局が算出した最小リスク濃度は0.002mg/kg/day(体重1キロあたり、1日に0.002mg)とされている[135]。ベリリウムは生体内で代謝されないため、一度体内に取り込まれたベリリウムは排出されにくく[133]、おもに骨に蓄積されて尿により排出される[136]

ベリリウム症の歴史

1933年(昭和8年)、ドイツにおいて「化学性肺炎」という形で急性ベリリウム症が初めて報告され、ついで1946年(昭和21年)には慢性ベリリウム症がアメリカで報告された[137]。このような症例は蛍光灯工場やベリリウム抽出プラントにおいて多くみられたため、1949年(昭和24年)には蛍光灯におけるベリリウムの利用が中止され、1950年代初頭にはベリリウムの最高曝露濃度が25μg/m3に定められた。こうして作業環境が大幅に改善されたことによって急性ベリリウム症の罹患率は激減したが、核産業や航空宇宙産業、ベリリウム銅などの合金、電子装置の製造などの分野においてはベリリウムの利用が続いている。1952年(昭和27年)、アメリカ合衆国でベリリウム症例登録制度がはじまり、1983年(昭和58年)までに888件の症例が登録された[126]。この制度においては6つの診断基準が定められ、そのうち3つが当てはまると慢性ベリリウム症であるとして登録されるようになっていた[128]。検査技術の向上した2001年(平成13年)現在では、肺の経気管支生体組織診断などによる組織病理学的な確認、リンパ球幼若化試験およびベリリウムの曝露歴の3点が診断基準とされている[127]。ベリリウムは原子爆弾の核反応促進材に利用されるため、初期の原子爆弾の開発に携わった研究者の幾人かはベリリウム中毒によって命を落としている(たとえばアメリカの核物理学者でありマンハッタン計画にも携わったハーバート・L・アンダーソン英語版など[138])。

爆発性

ベリリウムは酸化被膜のために反応性に乏しい金属であるが、一度着火すると燃焼しやすい性質であるため、空気中にベリリウムの粉塵が存在している状態では粉塵爆発が起こる危険性がある[126]

脚注

  1. ^ Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913)”. ONLINE Encyclopedia. 2011年10月12日閲覧。
  2. ^ a b c Weeks, Mary Elvira (1933), “XII. Other Elements Isolated with the Aid of Potassium and Sodium: Beryllium, Boron, Silicon and Aluminium”, The Discovery of the Elements, Easton, PA: Journal of Chemical Education, ISBN 0-7661-3872-0 
  3. ^ 山口 (2007) 58頁。
  4. ^ 村上雅人『元素を知る事典: 先端材料への入門』海鳴社、2004年、68頁。ISBN 487525220X 
  5. ^ Vauquelin, Louis-Nicolas (1798), “De l'Aiguemarine, ou Béril; et découverie d'une terre nouvelle dans cette pierre”, Annales de Chimie (26): 155–169, http://books.google.com/books?id=dB8AAAAAMAAJ&pg=RA1-PA155 
  6. ^ Wöhler, Friedrich (1828), “Ueber das Beryllium und Yttrium”, Annalen der Physik 89 (8): 577–582, Bibcode1828AnP....89..577W, doi:10.1002/andp.18280890805 
  7. ^ Bussy, Antoine (1828), “D'une travail qu'il a entrepris sur le glucinium”, Journal de Chimie Medicale (4): 456–457, http://books.google.com/books?id=pwUFAAAAQAAJ&pg=PA456 
  8. ^ 村上雅人『元素を知る事典: 先端材料への入門』海鳴社、2004年、68頁。ISBN 487525220X 
  9. ^ Kane, Raymond; Sell, Heinz (2001), “A Review of Early Inorganic Phosphors”, Revolution in lamps: a chronicle of 50 years of progress, p. 98, ISBN 9780881733785, http://books.google.com/books?id=klE5qGAltjAC&pg=PA98 
  10. ^ a b c d e f g h i j Behrens, V. (2003), “11 Beryllium”, in Beiss, P., Landolt-Börnstein – Group VIII Advanced Materials and Technologies: Powder Metallurgy Data. Refractory, Hard and Intermetallic Materials, 2A1, Berlin: Springer, pp. 1–11, doi:10.1007/10689123_36, ISBN 978-3-540-42942-5 
  11. ^ 千谷 (1959) 187頁。
  12. ^ 千谷 (1959) 198頁。
  13. ^ 櫻井、鈴木、中尾 (2005) 26頁。
  14. ^ コットン、ウィルキンソン (1987) 267頁。
  15. ^ 千谷 (1959) 199頁。
  16. ^ Lawrence A. Warner et al.. “Occurrence of nonpegmatite beryllium in the United States”. U.S. Geological Survey professional paper (United States Geological Survey) 318: 2. 
  17. ^ a b c d e 千谷 (1959) 193頁。
  18. ^ 無機化学ハンドブック編集委員会 (1965). 無機化学ハンドブック. 技報堂出版. p. 1229. ISBN 4765500020 
  19. ^ a b 吉田直亮 (1995). “PFC開発における材料損傷研究”. プラズマ・核融合学会誌 (プラズマ・核融合学会) 71 (5). http://jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1995/jspf1995_05/jspf1995_05-389.pdf 2012年1月25日閲覧。. 
  20. ^ ベリリウム反射体要素欠陥評価法に関する検討”. 日本原子力研究開発機構. p. 6. 2014年8月19日閲覧。
  21. ^ シャルロー (1974) 295頁。
  22. ^ a b c d N. N. Greenwood, A. Earnshaw (1997), Chemistry of the Elements (2nd ed. ed.), Oxford: Elsevier Science Ltd (Butterworth-Heinemann), ISBN 0080379419 
  23. ^ a b c d コットン、ウィルキンソン (1987) 271頁。
  24. ^ 千谷 (1959) 195頁。
  25. ^ a b c d コットン、ウィルキンソン (1987) 269頁。
  26. ^ 伊藤和明『物理化学II: 量子化学編』化学同人〈理工系基礎レクチャー〉、2008年、112頁。ISBN 4759810854 
  27. ^ Okutani, T.; Tsuruta, Y.; Sakuragawa, A. (1993), “Determination of a trace amount of beryllium in water samples by graphite furnace atomic absorption spectrometry after preconcentration and separation as a beryllium-acetylacetonate complex on activated carbon”, Anal. Chem. 65 (9): 1273–1276, doi:10.1021/ac00057a026 
  28. ^ コットン、ウィルキンソン (1987) 272頁。
  29. ^ 千谷 (1959) 222頁。
  30. ^ a b c Wiberg, Egon; Holleman, Arnold Frederick (2001), Inorganic Chemistry, Elsevier, ISBN 0123526515 
  31. ^ 井上和彦、坂本幸夫. “ベリリウムフィルターの散乱冷中性子による透過スペクトル歪”. 北海道大學工學部研究報告 (北海道大学) 97: 57-61頁。. http://hdl.handle.net/2115/41603. 
  32. ^ a b Hausner, Henry H, “Nuclear Properties”, Beryllium its Metallurgy and Properties, University of California Press, p. 239, http://books.google.com/?id=FCnUN45cL1cC&pg=PA239 
  33. ^ Brian, Monica (2010) p. 58
  34. ^ Beryllium: Isotopes and Hydrology”. University of Arizona, Tucson. 2011年4月10日閲覧。
  35. ^ 堀内一穂ほか (2009年5月20日). “ベリリウム10と炭素14を用いた最終退氷期の太陽活動変遷史に関する研究” (PDF). 科学研究費補助金研究成果報告書. 2018年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月4日閲覧。
  36. ^ Whitehead, N; Endo, S; Tanaka, K; Takatsuji, T; Hoshi, M; Fukutani, S; Ditchburn, Rg; Zondervan, A (Feb 2008), “A preliminary study on the use of (10)Be in forensic radioecology of nuclear explosion sites”, Journal of environmental radioactivity 99 (2): 260–70, doi:10.1016/j.jenvrad.2007.07.016, PMID 17904707 
  37. ^ Boyd, R. N.; Kajino, T. (1989), “Can Be-9 provide a test of cosmological theories?”, The Astrophysical Journal 336: L55, Bibcode1989ApJ...336L..55B, doi:10.1086/185360 
  38. ^ Arnett, David (1996), Supernovae and nucleosynthesis, Princeton University Press, p. 223, ISBN 0691011478, http://books.google.com/?id=PXGWGnPPo0gC&pg=PA223 
  39. ^ Johnson, Bill (1993年). “How to Change Nuclear Decay Rates”. University of California, Riverside. 2011年10月10日閲覧。
  40. ^ Hammond, C. R. "Elements" in Lide, D. R., ed. (2005), CRC Handbook of Chemistry and Physics (86th ed.), Boca Raton (FL): CRC Press, ISBN 0-8493-0486-5 
  41. ^ Hansen, P. G.; Jensen, A. S.; Jonson, B. (1995), “Nuclear Halos”, Annual Review of Nuclear and Particle Science 45: 59 1, Bibcode1995ARNPS..45..591H, doi:10.1146/annurev.ns.45.120195.003111 
  42. ^ 親松和浩. “原子核の表面対称エネルギーの検討”. 2011年10月10日閲覧。
  43. ^ Ekspong, G. et al. (1992), Physics: 1981–1990, World Scientific, p. 172, ISBN 9789810207298, http://books.google.com/?id=ILQ7sTrRixMC&pg=PA172 
  44. ^ Kenneth (2009) p. 151
  45. ^ 原子核物理学概論 平成14年度講義資料 第3章 質量公式”. 東京工業大学 武藤研究室. pp. 44-45, 49. 2011年10月13日閲覧。
  46. ^ シャルロー (1974) 287頁。
  47. ^ a b シャルロー (1974) 297頁。
  48. ^ a b WHO, NIHS (2001) 12頁。
  49. ^ a b 加藤 (1932) 100頁。
  50. ^ シャルロー (1974) 296頁。
  51. ^ 加藤 (1932) 102頁。
  52. ^ 加藤 (1932) 101、104頁。
  53. ^ 加藤 (1932) 104頁。
  54. ^ 要調査項目等調査マニュアル(水質、底質、水生生物)” (pdf). 環境庁水質保全局水質管理課 (2000年). 2011年12月23日閲覧。
  55. ^ WHO, NIHS (2001) 12-13頁。
  56. ^ “Abundance in the universe”, Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK (WebElements), http://www.webelements.com/periodicity/abundance_universe/ 2011年9月19日閲覧。 
  57. ^ “Abundance in the sun”, Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK (WebElements), http://www.webelements.com/periodicity/abundance_sun/ 2011年9月19日閲覧。 
  58. ^ a b WHO, NIHS (2001) 16頁。
  59. ^ “Abundance in oceans”, Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK (WebElements), http://www.webelements.com/periodicity/abundance_seawater/ 2011年9月19日閲覧。 
  60. ^ “Abundance in stream water”, Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK (WebElements), http://www.webelements.com/periodicity/abundance_stream/ 2011年9月19日閲覧。 
  61. ^ “Beryllium: geological information”, Mark Winter, The University of Sheffield and WebElements Ltd, UK (WebElements), http://www.webelements.com/beryllium/geology.html 2011年9月19日閲覧。 
  62. ^ Charles R. Cowley (1995). An Introduction to Cosmochemistry. Cambridge University Press. p. 201. ISBN 0521459206 
  63. ^ Rick Adair (2007). Beryllium. The Rosen Publishing Group. p. 48. ISBN 1404210032 
  64. ^ Kenneth (2009) p. 65
  65. ^ 梶原・正路(1997)による〔『エネルギー・資源ハンドブック』(1015-1020p)から〕”. 広島大学地球資源論研究室. 2012年1月28日閲覧。
  66. ^ 鉱物資源を考える(5)”. 広島大学地球資源論研究室. 2012年1月28日閲覧。
  67. ^ WHO, NIHS (2001) 15頁。
  68. ^ WHO, NIHS (2001) 15-16頁。
  69. ^ Babu, R. S.; Gupta, C. K. (1988), “Beryllium Extraction – A Review”, Mineral Processing and Extractive Metallurgy Review 4: 39, doi:10.1080/08827508808952633, http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08827508808952633 2011年9月20日閲覧。 
  70. ^ a b 田中和明『よくわかる最新レアメタルの基本と仕組み』秀和システム、2007年、115頁。ISBN 4798018090 
  71. ^ Aldinger et al. (1985) p. 16
  72. ^ a b c Aldinger et al. (1985) p. 17
  73. ^ Aldinger et al. (1985) pp. 17-18
  74. ^ Aldinger et al. (1985) p. 18
  75. ^ “Sources of Beryllium”, Materion Brush Inc. (Materion Brush Inc.), http://www.beryllium.com/sources-beryllium 2011年9月19日閲覧。 
  76. ^ Brush Wellman – Elmore, Ohio Plant :: Company History, オリジナルの2008年7月24日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20080724113346/http://www.brushelmore.com/history.asp 2011年9月20日閲覧。 
  77. ^ Lindsey, David A., Slides of the fluorspar, beryllium, and uranium deposits at Spor Mountain, Utah, United States Geological Survey, http://pubs.usgs.gov/of/1998/ofr-98-0524/SPORMTN.HTM 2011年9月19日閲覧。 
  78. ^ “Brush Wellman Beryllium Plant”, The Center for Land Use Interpretation (The Center for Land Use Interpretation), http://ludb.clui.org/ex/i/UT3176/ 2011年9月19日閲覧。 
  79. ^ Commodity Summary 2000: Beryllium, United States Geological Survey, http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/beryllium/100300.pdf 2011年9月19日閲覧。 
  80. ^ Commodity Summary 2010: Beryllium, United States Geological Survey, http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/beryllium/mcs-2010-beryl.pdf 2011年9月19日閲覧。 
  81. ^ Beryllium Statistics and Information, United States Geological Survey, http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/beryllium/ 2011年9月19日閲覧。 
  82. ^ TBSがっちりマンデー2019年 4月28日放送分
  83. ^ Petzow, Günter et al. "Beryllium and Beryllium Compounds" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 2005, Wiley-VCH, Weinheim. doi:10.1002/14356007.a04_011.pub2
  84. ^ Veness, R.; Ramos, D.; Lepeule, P.; Rossi, A.; Schneider, G.; Blanchard, S., Installation and commissioning of vacuum systems for the LHC particle detectors, CERN, http://cdsweb.cern.ch/record/1199583/files/CERN-ATS-2009-005.pdf 2011年9月26日閲覧。 
  85. ^ Wieman, H (2001), “A new inner vertex detector for STAR”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section a Accelerators Spectrometers Detectors and Associated Equipment 473: 205, Bibcode2001NIMPA.473..205W, doi:10.1016/S0168-9002(01)01149-4 
  86. ^ Davis, Joseph R. (1998), “Beryllium”, Metals handbook, ASM International, pp. 690–691, ISBN 9780871706546, http://books.google.com/?id=IpEnvBtSfPQC&pg=PA690 
  87. ^ Encyclopedia of materials, parts, and finishes, CRC Press, (2002), p. 62, ISBN 1566766613, http://books.google.com/?id=6fdmMuj0rNEC&pg=PA62 
  88. ^ Museum of Mountain Bike Art & Technology: American Bicycle Manufacturing, オリジナルの2011年7月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20110720022521/http://mombat.org/American.htm 2011年9月26日閲覧。 
  89. ^ ポルシェ909ベルクスパイダーのブレーキディスクなどに使用された。christophorus 336 2009年2月/3月 The Porsche Magagine, 39
  90. ^ Robert Irion (2010-10), “Origami Observatory: Behind the Scenes with the Webb Space Telescope”, Scientific American Magazine, http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=origami-observatory 2011年9月25日閲覧。 
  91. ^ Werner, M. W.; Roellig, T. L.; Low, F. J.; Rieke, G. H.; Rieke, M.; Hoffmann, W. F.; Young, E.; Houck, J. R. et al. (2004), “The Spitzer Space Telescope Mission”, Astrophysical Journal Supplement 154: 1, arXiv:astro-ph/0406223, Bibcode2004ApJS..154....1W, doi:10.1086/422992 
  92. ^ Alan L. Geiger, Eric Ulph, Sr. (1992-9-16), Production of metal matrix composite mirrors for tank fire control systems (Proceedings Paper), doi:10.1117/12.137998, http://spie.org/x648.html?product_id=137998 2011年9月25日閲覧。 
  93. ^ Kojola, Kenneth ; Lurie, William (1961年8月9日). “The selection of low-magnetic alloys for EOD tools”. Naval Weapons Plant Washington DC. http://oai.dtic.mil/oai/oai?verb=getRecord&metadataPrefix=html&identifier=AD0263919 2011年9月26日閲覧。 
  94. ^ Dorsch, Jerry A. and Dorsch, Susan E. (2007), Understanding anesthesia equipment, Lippincott Williams & Wilkins, p. 891, ISBN 0781776031, http://books.google.com/?id=EqtlqFNkWwQC&pg=PT891 
  95. ^ MobileReference (1 January 2007), Electronics Quick Study Guide for Smartphones and Mobile Devices, MobileReference, pp. 2396–, ISBN 9781605011004, http://books.google.com/books?id=AG6H633VIAcC&pg=PT2396 2011年9月26日閲覧。 
  96. ^ Johnson, Jr., John E. (2007年11月12日). “Usher Be-718 Bookshelf Speakers with Beryllium Tweeters”. 2011年10月11日閲覧。
  97. ^ Beryllium use in pro audio Focal speakers”. 2011年10月11日閲覧。
  98. ^ Exposé E8B studio monitor”. KRK Systems. 2011年10月11日閲覧。
  99. ^ ヤマハ開発者の「実は黙っていたこと」 第3回「Soavo篇」”. STEREO SOUND. 2011年10月11日閲覧。
  100. ^ 浜田基彦 (2005年9月21日). “パイオニア,高級スピーカシステム「S-7EX」のツイータにベリリウム振動板を採用”. 日経ものづくり. 2011年10月11日閲覧。
  101. ^ PUカートリッジ F-8L”. 国立科学博物館 産業技術史資料情報センター. 2011年10月11日閲覧。
  102. ^ TECHNICAL DATA”. Eimac. p. 4. 2011年11月12日閲覧。
  103. ^ Svilar, Mark (2004年1月8日). “Analysis of "Beryllium" Speaker Dome and Cone Obtained from China”. 2009年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年2月13日閲覧。
  104. ^ a b Barnaby, Frank (1993), How nuclear weapons spread, Routledge, p. 35, ISBN 0415076749, http://books.google.com/?id=yTIOAAAAQAAJ&pg=PA35 
  105. ^ Clark, R. E. H.; Reiter, D. (2005), Nuclear fusion research, Springer, p. 15, ISBN 3540230386, http://books.google.com/?id=9ngHTkC8hG8C&pg=PA15 
  106. ^ Petti, D; Smolik, G; Simpson, M; Sharpe, J; Anderl, R; Fukada, S; Hatano, Y; Hara, M et al. (2006), “JUPITER-II molten salt Flibe research: An update on tritium, mobilization and redox chemistry experiments”, Fusion Engineering and Design 81 (8–14): 1439, doi:10.1016/j.fusengdes.2005.08.101 
  107. ^ Diehl, Roland (2000). High-power diode lasers. Springer. p. 104. ISBN 3540666931. http://books.google.com/?id=oJs6nK3TZrwC&pg=PA104 
  108. ^ Purdue engineers create safer, more efficient nuclear fuel, model its performance”. Purdue University (2005年9月27日). 2011年10月12日閲覧。
  109. ^ Breslin AJ (1966). “Chap. 3. Exposures and Patterns of Disease in the Beryllium Industry”. In Stokinger, HE. in Beryllium: Its Industrial Hygiene Aspects. Academic Press, New York. pp. 30–33 
  110. ^ Kenneth (2009) pp. 20-26
  111. ^ Mining, Society for Metallurgy, Exploration (U.S) (2006-03-05), “Distribution of major deposits”, Industrial minerals & rocks: commodities, markets, and uses, pp. 265–269, ISBN 9780873352338, http://books.google.com/books?id=zNicdkuulE4C&pg=PA265 
  112. ^ 崎川 (1980) 31-36頁。
  113. ^ 鉱物科学萌研究会『鉱物―萌えて覚える鉱物科学の基本』PHP研究所、2010年、157頁。ISBN 4569773745 
  114. ^ 崎川 (1980) 37-38頁。
  115. ^ ベリリウム銅ガイド”. ブラッシュ ウエルマン ジャパン. p. 6. 2011年10月12日閲覧。
  116. ^ ばね技術研究会 編『ばね用材料とその特性』日刊工業新聞社、2000年、pp. 190, 203–204頁。 
  117. ^ ベリリウム銅ガイド”. ブラッシュ ウエルマン ジャパン. p. 37. 2011年10月12日閲覧。
  118. ^ “Defence forces face rare toxic metal exposure risk”. The Sydney Morning Herald. (2005年2月1日). http://www.smh.com.au/news/National/Defence-forces-face-rare-toxic-metal-exposure-risk/2005/02/01/1107228681666.html 2011年9月25日閲覧。 
  119. ^ 櫻井、鈴木、中尾 (2005) 30頁。
  120. ^ 宇佐見隆行、江口立彦、大山好正、栗原正明、平井崇夫 (2001年). “端子・コネクター用銅合金EFTEC®-97の開発” (pdf). 古河電工. 2011年12月24日閲覧。
  121. ^ 日本精線、ベリリウム使用せず 高強度銅合金線を開発”. 日刊産業新聞 (2011年4月18日). 2011年12月24日閲覧。
  122. ^ 大和合金株式会社(三芳合金工業株式会社)”. 東京都産業労働局. 2011年12月24日閲覧。
  123. ^ 製品安全データシート ベリリウム”. 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター. 2011年10月12日閲覧。
  124. ^ 金井豊:ベリリウム同位体を用いる堆積学的研究 堆積学研究 2014年 73巻 1号 p.19-26, doi:10.4096/jssj.73.19
  125. ^ a b 国際化学物質安全性カード ベリリウム ICSC番号:0226 (日本語版), 国立医薬品食品衛生研究所, http://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_card_id=0226&p_version=2&p_lang=ja 2011年12月11日閲覧。 
  126. ^ a b c d e f g 環境保健クライテリア No.106 ベリリウム, 国立医薬品食品衛生研究所, http://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc106.html 2011年9月13日閲覧。 
  127. ^ a b WHO, NIHS (2001) 37頁。
  128. ^ a b WHO, NIHS (2001) 36頁。
  129. ^ WHO, NIHS (2001) 35頁。 より引用
  130. ^ WHO, NIHS (2001) 35頁。
  131. ^ “肺疾患”, ベリリウム症, Merck & Co., Inc., Kenilworth, N.J., U.S.A, https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/05-肺疾患/環境性肺疾患/ベリリウム症 2018年11月5日閲覧。 
  132. ^ WHO, NIHS (2001) 38頁。
  133. ^ a b 西村 (2006) 9頁。
  134. ^ IARC Monograph, Volume 58, International Agency for Research on Cancer, (1993), http://www.inchem.org/documents/iarc/vol58/mono58-1.html 2011年9月13日閲覧。 
  135. ^ 西村 (2006) 10頁。
  136. ^ WHO, NIHS (2001) 6頁。
  137. ^ 豊田智里ほか (1994), “慢性ベリリウム症の2剖険例” (PDF), 東京女子医科大学雑誌 (東京女子医科大学) 第64巻 (第12号): 1063-1064, http://ir.twmu.ac.jp/dspace/bitstream/10470/9414/1/6412000004.pdf 2011年9月13日閲覧。 
  138. ^ Photograph of Chicago Pile One Scientists 1946, Office of Public Affairs, Argonne National Laboratory, (2006-06-19), http://www.atomicarchive.com/Photos/CP1/image5.shtml 2011年9月13日閲覧。 

参考文献

関連文献

  • 諸住正太郎「最近のベリリウムの研究から」『日本金属学会会報』第2巻第5号、日本金属学会、1963年、277-285頁、doi:10.2320/materia1962.2.277 

外部リンク