「うる星やつら オンリー・ユー」の版間の差分

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TVアニメの劇場版の王道ともいえるふんだんにファンサービスを加えた作風は、原作者やファン、スポンサーからは歓迎されたが、映画監督の[[金子修介]]曰く、[[伊丹十三]](当時はまだ俳優)から「甘いケーキ菓子のような映画」と評された。
TVアニメの劇場版の王道ともいえるふんだんにファンサービスを加えた作風は、原作者やファン、スポンサーからは歓迎されたが、映画監督の[[金子修介]]曰く、[[伊丹十三]](当時はまだ俳優)から「甘いケーキ菓子のような映画」と評された。


初めて対談した[[宮崎駿]]からは、「パロディが映画を高めていない」、「時計塔に見覚えのある歯車が回っていて、(カリオストロの城などの)設定を盗んだ感じしかしない」、「戦争に加担しているラムたちが戦争に対して無感動」「宇宙船の窓から戦争を見てるのに、その宇宙船には窓がない」「冒頭のように宇宙船が日本に現れたら大騒ぎになるはず」などと批判された。ただし宮崎は、TVシリーズの押井演出特に86話の髪の表現など高評価している<ref>「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、宮﨑駿 対談 VS押井守)</ref>。
初めて対談した[[宮崎駿]]からは、「パロディが映画を高めていない」、「時計塔に見覚えのある歯車が回っていて、(カリオストロの城などの)設定を盗んだ感じしかしない」、「戦争に加担しているラムたちが戦争に対して無感動」「宇宙船の窓から戦争を見てるのに、その宇宙船には窓がない」「冒頭のように宇宙船が日本に現れたら大騒ぎになるはず」などと批判された。この時、宮崎は、TVシリーズの押井演出特に86話の髪の表現など)は高評価している<ref>「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、宮﨑駿 対談 VS押井守)</ref>。


押井自身も、本作をダメな映画の例だと自認しているが、実質の製作期間が4ヶ月と短期間で修正する余裕がなく、「男の自分にはラムの気持ちが理解できない」、「すでにやった事のある描写(第一話のラムの登場に対する市民の反応)はしたくなかったが、劇中のような演出(宇宙船から老婆が登場)しか思いつかなかった」と語っている<ref>「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、p.197、押井の発言)</ref>。また、併映作品であった[[相米慎二]]監督の『[[ションベン・ライダー]]』が本作品と比べ、あまりにも監督の自由が反映された作風であった事に、押井は衝撃を受けたという(ロマンアルバム「攻殻機動隊 PERSONA 押井守の世界」)。これらの経験が、次回作の『[[うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー]]』以降、押井の作家性を大きく打ち出すことに繋がってゆく。
押井自身も、本作をダメな映画の例だと自認しているが、実質の製作期間が4ヶ月と短期間で修正する余裕がなく、「男の自分にはラムの気持ちが理解できない」、「すでにやった事のある描写(第一話のラムの登場に対する市民の反応)はしたくなかったが、劇中のような演出(宇宙船から老婆が登場)しか思いつかなかった」と語っている<ref>「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、p.197、押井の発言)</ref>。また、併映作品であった[[相米慎二]]監督の『[[ションベン・ライダー]]』が本作品と比べ、あまりにも監督の自由が反映された作風であった事に、押井は衝撃を受けたという(ロマンアルバム「攻殻機動隊 PERSONA 押井守の世界」)。これらの経験が、次回作の『[[うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー]]』以降、押井の作家性を大きく打ち出すことに繋がってゆく。

2019年4月8日 (月) 20:17時点における版

うる星やつら オンリー・ユー
監督 押井守
脚本 金春智子
原作 高橋留美子
製作 多賀英典
出演者 古川登志夫
平野文
榊原良子
主題歌 小林泉美「I, I, YOU & 愛」
撮影 若菜章夫
製作会社 キティ・フィルム
スタジオぴえろ
配給 東宝
公開 日本の旗 1983年2月12日
上映時間 80分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
前作 (本作がシリーズ第1作)
次作 うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
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うる星やつら オンリー・ユー』は、高橋留美子原作の漫画及びテレビアニメシリーズの『うる星やつら』の初の劇場版オリジナル長編アニメーションである。1983年2月13日に東宝系で公開された。同時上映は『ションベン・ライダー』(相米慎二監督、河合美智子主演)。

概要

アニメーション監督、押井守実質上の劇場初監督作品。他の女に走る諸星あたるラムが追いかけるという原作初期の『うる星やつら』を彷彿させ、原作者の高橋留美子から絶賛された。だが、押井はこの作品を「完全な失敗作・大きいテレビ」と後に語っている。

公開対談で押井は「本来この作品は別の監督が就任して作業をしていたが、途中で勝手に降板したため、結局自分がやる羽目になった」という事を述べている。押井が参加した時点の制作状況は、原作者から示されたキャラクター「エル」のイラストと、メカデザインが数点と完成していた脚本のみで、それ以外は全く進行しておらず、期限は残り5ヶ月という最悪の状態でのスタートであった(その経験が押井の実写作品『トーキング・ヘッド』にも反映されているとのこと)。更に押井は脚本に不満を抱き、内容を改変したものをそのまま絵コンテに切っていった(そのため、完成脚本は存在しない)。プロデューサーや脚本家の金春智子からクレームが付いたが、既に期限が迫っており、結局押井の修正したストーリーがそのまま採用された。

迫るスケジュールの中で苦労して内容を破綻しないようにまとめ上げ、「うる星」の原作・TVにそれまで登場した主要なキャラクターが一堂に会し、ドタバタなラブコメディの展開をベースにしつつ、時空を股に掛けた壮大なスケールでラムを助ける形で活躍を描く。パロディが多く、ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』をイメージしたシーンは有名。また、ラムがあたるを「ダーリン」と呼ぶのと対照的に、エルはあたるを「ハニー」と呼んでいる。キャラクターデザインにおいても、ラムのスタイルをそれまでのテレビシリーズより更に良くしてある。

公開時、併映作品との関係から上映時間を80分と短くすることとなり、一部シーンが大幅にカットされている。後にファンの声に応え、未使用シーンを加えて104分に再編集した『うる星やつら オンリーユー(ノーカット版)』が公開された。だが、このノーカット版を『プロデューサーズ・カット』と揶揄する押井は「やっぱり長過ぎた」と後に語っている。2016年にWOWOWで放送されたバージョンでは、冒頭の面堂家シーンが丸々カットされている。

ノーカット版でも収録されていない完成フィルムも多々存在する。一番尺が長いものは星間タクシー内でのメガネ達の宴会シーン(この映像は一部が予告編に収録)で、その他にも本編中盤まで細かい未使用カットがあり、それらについては公開当時発売されたフィルムコミック上巻に台詞入りで収録されている。

音楽を担当したのは、テレビシリーズにも参加した安西史孝で、当時、1000万円以上と高価だったシンセサイザーフェアライトCMI』を用いBGMを演奏、独特な音色でこの作品世界を表現している。また、当時は珍しかったオーケストラル・ヒットを使用(エル星の牛丼屋のシーンなど)した。他にも、原作者・高橋留美子の叫び声をサンプリング・加工し、BGMとして使用(面堂家、エルの庭園、エル星での暴動のシーンのBGM)するなど、実験的な試みを多く行っている事も特色である。

あらすじ

影踏み遊びをするシルエットの少年と少女。影踏みに勝ったと主張する少年は、少女から11年後に結婚しようと告げられる。そして少女は宇宙へと去っていった。

ある日、あたるのクラスメイトやラムの友人達に、あたるとエルという女との結婚式の招待状が次々と届けられた。あたるには「エル」という宇宙人の婚約者が既に存在しているというのだ。あたるはラム親衛隊のメガネ達から拷問され、三宅しのぶからは凄まれ、私設軍隊を引き連れた面堂終太郎には「たたっ斬る」と息巻かれ、ついにはラムの電撃を受けて問い詰められるが、あたるにはそんな記憶は全くない。しかしエルからの使い・ババラが現われ、エルが美人であると聞くと、いつもの浮気癖を出したあたるはあっさり約束を受けた。

ラムは事情を聞いて地球に来た弁天と相談し、あたるとその両親を始め、面堂・しのぶ・サクラ・錯乱坊・ラム親衛隊らの友引町のメンバーをバス型UFOに巻き込んで宇宙の果てへ飛び立つ。宇宙空間でラムの両親や、弁天、海王星のおユキ、ラン、レイ、クラマ姫などと合流し、エルよりも先にあたると結婚式を挙げようとしたが、その前にあたるを奪いに来たエル星の艦隊が立ち塞がる。激怒したラムの父はエル軍との宇宙戦争を宣言。交戦開始寸前の状況まで発展するが、その隙にエル星のスパイであるロゼの手により、あたる(と面堂やメガネ達までも)が連れ去られてしまう。ラムはあたるを取り戻すため戦闘機に乗り追跡するが、修理中であったこの機体はエンジンが爆発してしまう。「ラム!」爆発を見たあたるはラムの身を案じて叫ぶが、ラムが救出カプセルで脱出し一命を取り留めたのを見て胸を撫で下ろした。ラムの叫びも空しく、結局あたるはエル星艦隊と共に去っていった。

エルとはエル星の若き女王であった。彼女と結婚すれば当然「王」となるあたるは、ハーレムが作れると有頂天になる。しかし、エルの横取りを画策した面堂が、エルの宇宙中の美形コレクションの10万人目として選ばれ、コールドスリープ処理をされかける。その現場をメガネ達と共に見てしまったあたるは、必死に「心から愛している」と許しを請うエルを「浮気者」と罵り、婚約破棄を宣言した。しかしエルはそんなあたるを「誰にも渡さない」と拘束し、「なぜそこまで執着するのか」と訝るババラをよそに、結婚式を強行することを決定する。テンと共に牢屋に入れられたあたるは、牛丼を貪り食いながらラムの愛情を感じ始めていた。

一方、母星に帰還したラムもあたるへの想いを断ち切れずにいたが、冷凍処理されエル星から送り返されてきた面堂達から話を聞き、あたるを奪還するため、挙式当日に変装して招待客に紛れてエル星に潜り込む。ラムの決意に気づいた弁天、おユキ、ラン、レイ、クラマ達も後を追ってエル星に潜入し、繁華街や各地で行動を開始する。コールドスリープされていた美男達を解放するなど暴動を起こしてエル軍の警戒を引きつけている間に、ラムはあたるのいる結婚式場へと向かい、あわや誓いのキス成立かというところで式に乱入する。ラムの呼びかけに応えたあたるはラムを抱き締め、弁天達と一緒にバスUFOで脱出を試みるが、あたるに懸命にしがみついていたエルも一緒に引き揚げられ、弾みでバスUFOのワープ装置が作動、大容量惑星の引力圏内でワープしてしまったために時空が変化し、過去へとタイムワープしてしまう。一同が飛んだのは奇しくも11年前の地球。そこには、夕暮れの公園で無邪気に遊ぶ、あの幼き日のあたるとエルの姿があった。当時のあたるがエルの影を踏んだと嘘をついていたことを知る。このため結婚契約が無効になってしまい、あたるたちは解放され、エルは冷酷な女王に戻っていく。

エル星から帰還するとそこは巨大な教会の中だった、あたるにサプライズでラムとの結婚式が盛大に行われたが、誓いのキスの寸前にあたるは「嫌だ!」と絶叫して逃げ出す。あたるとラムの『鬼ごっこ』は大勢の人間を巻き込んで続いていく。

登場人物

ゲストキャラクター

エル・ド・ローゼンバッハ
声 - 榊原良子(幼少期:詩織)
エル星の888代目女王。ショートの赤毛に白い薔薇の髪飾りを付けた美少女。11年前の地球で、6歳のあたるとした影踏みの約束を大切にし、あたるのことを一途に思い続け、ラムからあたるを奪い去った。趣味は美少年のコレクションで冷蔵庫型の倉庫に数多くの婚約者が冷凍保存されており、面堂をその10万人目に選ぶなど、本性はあたるの女版というべきものだった。あたるとの結婚が破談になるとクールな女王に戻るが、あたるのことを心から愛しており人知れず涙した。劇中、あたるのことを「ハニー」と呼ぶ。他の主要異星人キャラクターとは異なりエル星の人間は、特殊な能力は持っていない。
ババラ
声 - 京田尚子
エルの乳母。エルからの使者として地球に現われた。あたるの事はあまりよく思っておらず、結婚拒否に転じたあたると、それでも結婚を強行することを決めたエルに、「なぜそうまであのような男に執着なさいますのか」と問うたほどだった。弁天から「ババラばばあ」と呼ばれていた。
ロゼ
声 - 丸山裕子
エルの教育係。スパイも兼ねており、ラムの後を尾行し、鬼族の艦隊に潜り込んであたるをさらう。あたるだけを連れて来るようにという命令に対し、メガネ、面堂、しのぶらまで連れてきてしまったためひどく叱責され、やけ酒に暮れる。あたるの誘拐の際に、ラムに変装するが全く似ておらず、すぐにばれてしまった。
司令官
声 - 青木和代
エル星の軍司令官。他の隊員に比べ恰幅が良い。弁天達がエル星各所で起こした暴動を鎮圧するために部下に指示をしていた。オーバーアクションが非常に目立つ。
エル星艦長
声 - 松谷祐子
エル星の宇宙戦艦の艦長。あたるを迎えに現れるが、美人だったため当初あたるに「エル」と間違えられる。声担当の松谷はTV版の主題歌『ラムのラブソング』『宇宙は大ヘンだ!』の歌い手。
ドライバー
声 - 桜庭裕一
バス型UFOの運転手。緑色の海獣型の宇宙人で、帽子とネクタイを着用している。
子供A・B
声 - 鈴木一輝藤枝成子
冒頭で影踏み遊びをするシルエットの少年と少女。

スタッフ

主題歌

「I, I, YOU & 愛」
作詞 - 安藤芳彦 / 作曲・編曲・歌 - 小林泉美
挿入歌
「ラムのバラード」
作詞 - 實川翔 / 作曲・編曲 - 西村コージ / 歌 - 平野文
星空サイクリング
作詞・作曲・編曲・歌 - ヴァージンVS
「影ふみのワルツ」
作詞 - 安藤詩織 / 作曲・編曲 - 西村コージ / 歌 - 詩織

評価

TVアニメの劇場版の王道ともいえるふんだんにファンサービスを加えた作風は、原作者やファン、スポンサーからは歓迎されたが、映画監督の金子修介曰く、伊丹十三(当時はまだ俳優)から「甘いケーキ菓子のような映画」と評された。

初めて対談した宮崎駿からは、「パロディが映画を高めていない」、「時計塔に見覚えのある歯車が回っていて、(カリオストロの城などの)設定を盗んだ感じしかしない」、「戦争に加担しているラムたちが戦争に対して無感動」「宇宙船の窓から戦争を見てるのに、その宇宙船には窓がない」「冒頭のように宇宙船が日本に現れたら大騒ぎになるはず」などと批判された。この時、宮崎は、TVシリーズの押井演出(特に86話の髪の表現など)は高評価している[1]

押井自身も、本作をダメな映画の例だと自認しているが、実質の製作期間が4ヶ月と短期間で修正する余裕がなく、「男の自分にはラムの気持ちが理解できない」、「すでにやった事のある描写(第一話のラムの登場に対する市民の反応)はしたくなかったが、劇中のような演出(宇宙船から老婆が登場)しか思いつかなかった」と語っている[2]。また、併映作品であった相米慎二監督の『ションベン・ライダー』が本作品と比べ、あまりにも監督の自由が反映された作風であった事に、押井は衝撃を受けたという(ロマンアルバム「攻殻機動隊 PERSONA 押井守の世界」)。これらの経験が、次回作の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』以降、押井の作家性を大きく打ち出すことに繋がってゆく。

映像ソフト化

本編のDVDは、『犬夜叉 時代を越える想い』の公開を記念し、ノーカットバージョンで2001年12月19日発売。

脚注

  1. ^ 「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、宮﨑駿 対談 VS押井守)
  2. ^ 「ロマンアルバム 映画天空のラピュタGUIDEBOOK 復刻版」(徳間書店、p.197、押井の発言)

外部リンク