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'''初等幾何学'''(しょとうきかがく、{{lang-en-short|elementary geometry}}<ref name="a">[[矢野健太郎 (数学者)|矢野健太郎]]編、東京理科大学数学教育研究所第2版 編集『[http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320019317 数学小辞典]』、共立出版、2010年、「初等幾何学」より。ISBN 978-4-320-01931-7</ref>)は、二次元(点や直線や円など)・三次元(錘体や球など)の図形を[[ユークリッド幾何学]]的に扱う[[数学]]、[[幾何学]]の分野である<ref name="a"/>。
'''初等幾何学'''(しょとうきかがく、{{lang-en-short|elementary geometry}}<ref name="a">[[矢野健太郎 (数学者)|矢野健太郎]]編、東京理科大学数学教育研究所第2版 編集『数学小辞典』、共立出版、2010年、「初等幾何学」より。ISBN 978-4-320-01931-7</ref>)は、二次元(点や直線や円など)・三次元(錘体や球など)の図形を[[ユークリッド幾何学]]的に扱う[[数学]]、[[幾何学]]の分野である<ref name="a"/>。


==概説==
==概説==
ユークリッド幾何学的方法とは図形を直接取り扱う方法であり<ref name="a"/>、[[補助線]]などを用いて基本的原理である[[公理]]系や定義から平面・空間における具体的かつ幾何学的な命題・定理を証明していく方法であって、19世紀には'''総合幾何学'''とも呼ばれた<ref name="b">青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄 編著『[http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/08/7/0802090.html 岩波数学入門辞典]』、岩波書店、2005年、「初等幾何学」より。ISBN 4-00-080209-7</ref>。総合幾何学はまた'''純粋幾何学'''と呼ばれることもある。
ユークリッド幾何学的方法とは図形を直接取り扱う方法であり<ref name="a"/>、補助線などを用いて基本的原理である[[公理]]系や定義から平面・空間における具体的かつ幾何学的な命題・定理を証明していく方法であって、19世紀には'''総合幾何学'''とも呼ばれた<ref name="b">青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄 編著『岩波数学入門辞典』、岩波書店、2005年、「初等幾何学」より。ISBN 4-00-080209-7</ref>。総合幾何学はまた'''純粋幾何学'''と呼ばれることもある。


[[解析幾何学]]のように[[座標]]や[[多項式|代数的式]]を用いたり、[[微分幾何学]]のように[[解析学]]を用いたりしないものである<ref name="a"/><ref name="b"/>。初等幾何学で扱われる対象が経験的かつ直感的であるため、このように命名されたものと考えられているが<ref name="a"/>、数学において初等といえば必ずしもやさしいなどといった意味ではなく、歴史的に最も古い分野の一つであるが<ref name="a"/>、近代においても定理が発見されているため、ユークリッド原論などによって完成された分野ではない。例えば[[ラングレーの問題]]なども、20世紀に入ってから出された問題である。
[[解析幾何学]]のように[[座標]]や[[多項式|代数的式]]を用いたり、[[微分幾何学]]のように[[解析学]]を用いたりしないものである<ref name="a"/><ref name="b"/>。初等幾何学で扱われる対象が経験的かつ直感的であるため、このように命名されたものと考えられているが<ref name="a"/>、数学において初等といえば必ずしもやさしいなどといった意味ではなく、歴史的に最も古い分野の一つであるが<ref name="a"/>、近代においても定理が発見されているため、ユークリッド原論などによって完成された分野ではない。例えば[[ラングレーの問題]]なども、20世紀に入ってから出された問題である。


総合幾何学は古典的な[[射影幾何学]]も包含し、初等幾何学における問題は何らかの定理や命題を証明するもののほかに、定規とコンパスによる[[作図]]問題が有名である。作図問題では、定規は直線を引くためだけに用い、長さを測定してはならず、コンパスは円を書くためだけに用い、書き終わったらただちに紙から離してすぐに閉じねばならない<ref>小林昭七『[http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1516-0.htm 円の数学]』、裳華房、1999年。ISBN 978-4-7853-1516-0</ref>。つまり、定規やコンパスを用いて長さを測定したり、分度器を使ったりする行為すら初等幾何学においては禁止されており、例えば2つの辺の長さが1である直角二等辺三角形の斜辺の長さは <math>\sqrt 2</math> であるが、これも初等幾何学における証明や作図行為においては'''定規で'''長さを測ってはならない。
総合幾何学は古典的な[[射影幾何学]]も包含し、初等幾何学における問題は何らかの定理や命題を証明するもののほかに、定規とコンパスによる[[作図]]問題が有名である。作図問題では、定規は直線を引くためだけに用い、長さを測定してはならず、コンパスは円を書くためだけに用い、書き終わったらただちに紙から離してすぐに閉じねばならない<ref>小林昭七『円の数学』、裳華房、1999年。ISBN 978-4-7853-1516-0</ref>。つまり、定規やコンパスを用いて長さを測定したり、分度器を使ったりする行為すら初等幾何学においては禁止されており、例えば2つの辺の長さが1である直角二等辺三角形の斜辺の長さは <math>\sqrt 2</math> であるが、これも初等幾何学における証明や作図行為においては'''定規で'''長さを測ってはならない。


==教育==
==教育==
初等幾何学の公理系は、古代から長らくユークリッドによって完成されたと思われており、多くの数学者や科学者や哲学者などによって批判的に検討されたが、とくに19世紀後半以降にユークリッド幾何学の公理系が本当に間違っていないのか、矛盾しないのかどうか徹底的に検証され、[[ダフィット・ヒルベルト|ヒルベルト]]によって[[幾何学基礎論]]によってその成果がまとめられた。20世紀に入ってからも、[[ハロルド・スコット・マクドナルド・コクセター|コクセター]]は総合幾何学的方法を重視したし、[[ジャン・デュドネ]]は線形代数など代数的・解析的手法を応用して図すら使わず、抽象的にその基礎付けを与えたりした。デュドネがユークリッド幾何学の教育からの追放を提唱したことで、日本も彼の影響を受けた。
初等幾何学の公理系は、古代から長らくユークリッドによって完成されたと思われており、多くの数学者や科学者や哲学者などによって批判的に検討されたが、とくに19世紀後半以降にユークリッド幾何学の公理系が本当に間違っていないのか、矛盾しないのかどうか徹底的に検証され、[[ダフィット・ヒルベルト|ヒルベルト]]によって[[幾何学基礎論]]によってその成果がまとめられた。20世紀に入ってからも、[[ハロルド・スコット・マクドナルド・コクセター|コクセター]]は総合幾何学的方法を重視したし、[[ジャン・デュドネ]]は線形代数など代数的・解析的手法を応用して図すら使わず、抽象的にその基礎付けを与えたりした。デュドネがユークリッド幾何学の教育からの追放を提唱したことで、日本も彼の影響を受けた。


教育においては長らく重視されてきたが、幾何学基礎論による批判なども相次ぎ、もっと厳密な数学を教えるべきだと一時期取沙汰され、デュドネの著書もそのような流れで執筆されたものである。日本でも[[明治]]から戦後まもないころまでは初等幾何学や解析幾何学が体系的に教えられていたが、その後、いわゆる「現代化」<ref>数学教育の文脈で、いわゆる「現代化」と言った場合、{{仮リンク|新しい数学|en|New Math}}(New Math)と呼ばれた(日本では「新数学」などとも)固有の教育改革の潮流を指す。</ref>などもあり、学校教育からは初等幾何学は大幅に削減された<ref>小林幹雄、『[http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320019300 復刊初等幾何学]』、共立出版、〈[http://www.kyoritsu-pub.co.jp/series/27/ 復刊・復刻・新装版]〉、2010年、まえがき参照。ISBN 978-4-320-01930-0
教育においては長らく重視されてきたが、幾何学基礎論による批判なども相次ぎ、もっと厳密な数学を教えるべきだと一時期取沙汰され、デュドネの著書もそのような流れで執筆されたものである。日本でも[[明治]]から戦後まもないころまでは初等幾何学や解析幾何学が体系的に教えられていたが、その後、いわゆる「現代化」<ref>数学教育の文脈で、いわゆる「現代化」と言った場合、{{仮リンク|新しい数学|en|New Math}}(New Math)と呼ばれた(日本では「新数学」などとも)固有の教育改革の潮流を指す。</ref>などもあり、学校教育からは初等幾何学は大幅に削減された<ref>小林幹雄、『復刊 初等幾何学』、共立出版、2010年、まえがき参照。ISBN 978-4-320-01930-0。</ref>。[[小平邦彦]]など、過度に厳密すぎるのもかえって問題ではないかと抵抗した数学者・科学者もいる。
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== 現況 ==
== 現況 ==
一時期の高校数学からは初等幾何学は完全に姿を消していた。しかし、1990年代以降に注目されるようになった[[国際数学オリンピック]]などにおいて、日本勢の幾何感覚の薄さが取り沙汰されたことなどによる見直しなどもあり、2016年現在、初等幾何学が部分的に復活しており、[[京都大学]]の2009年度の入試問題乙の問2が話題<ref>[http://d.hatena.ne.jp/nankai/20090416 外部リンク]</ref>となった。2015年大学入試から開始された新学習指導要領では、初等幾何学は「図形の性質」として[[大学入試センター]]試験に選択問題として出題されている。
一時期の高校数学からは初等幾何学は完全に姿を消していた。しかし、1990年代以降に注目されるようになった[[国際数学オリンピック]]などにおいて、日本勢の幾何感覚の薄さが取り沙汰されたことなどによる見直しなどもあり、2016年現在、初等幾何学が部分的に復活しており、[[京都大学]]の2009年度の入試問題乙の問2が話題となった。2015年大学入試から開始された新学習指導要領では、初等幾何学は「図形の性質」として[[大学入試センター]]試験に選択問題として出題されている。


また、[[イギリス]]の J. F. Rigbyの手でも解けなかった[[ラングレーの問題]]の拡張が、yahooアカウントaerile_reによって証明され<ref>[http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n365238 外部リンク]</ref>話題になった。
また、[[イギリス]]の J. F. Rigby の手でも解けなかった[[ラングレーの問題]]の拡張が、yahooアカウント aerile_re によって証明され話題になった。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考図書 ==
* [[小平邦彦]]著、[[上野健爾]]解説『幾何への誘い』、岩波書店〈岩波現代文庫〉、2000年。
* [[秋山武太郎]]著、[[春日屋伸昌]]改訂『[http://www.nissinpb.co.jp/sugakuzensho.htm わかる幾何学]』、日新出版〈わかる数学全書 第3巻〉、1959年。ISBN 978-4-8173-0006-5 C0041
* [[矢野健太郎 (数学者)|矢野健太郎]]監修、[[清宮俊雄]]著『[http://foruma.co.jp/sankousyo/sankousyo2679 幾何学]』、〈モノグラフ〉、科学新興社。 ISBN 978-4-89428-188-2


== 関連人物 ==
== 関連人物 ==
* [[エウクレイデス]](ユークリッド)
* [[エウクレイデス]](ユークリッド)
* [[アドリアン=マリ・ルジャンドル]] - [[エヴァリスト・ガロア|ガロア]]が初めて本格的に数学を習い始めたとき、2年かけて学ぶルジャンドルの初等幾何学の著書をたった2日で読破した。
* [[アドリアン=マリ・ルジャンドル]]
* [[ハロルド・スコット・マクドナルド・コクセター]]
* [[ハロルド・スコット・マクドナルド・コクセター]]
* [[小平邦彦]]
* [[小平邦彦]]

2018年10月29日 (月) 10:48時点における版

初等幾何学(しょとうきかがく、: elementary geometry[1])は、二次元(点や直線や円など)・三次元(錘体や球など)の図形をユークリッド幾何学的に扱う数学幾何学の分野である[1]

概説

ユークリッド幾何学的方法とは図形を直接取り扱う方法であり[1]、補助線などを用いて基本的原理である公理系や定義から平面・空間における具体的かつ幾何学的な命題・定理を証明していく方法であって、19世紀には総合幾何学とも呼ばれた[2]。総合幾何学はまた純粋幾何学と呼ばれることもある。

解析幾何学のように座標代数的式を用いたり、微分幾何学のように解析学を用いたりしないものである[1][2]。初等幾何学で扱われる対象が経験的かつ直感的であるため、このように命名されたものと考えられているが[1]、数学において初等といえば必ずしもやさしいなどといった意味ではなく、歴史的に最も古い分野の一つであるが[1]、近代においても定理が発見されているため、ユークリッド原論などによって完成された分野ではない。例えばラングレーの問題なども、20世紀に入ってから出された問題である。

総合幾何学は古典的な射影幾何学も包含し、初等幾何学における問題は何らかの定理や命題を証明するもののほかに、定規とコンパスによる作図問題が有名である。作図問題では、定規は直線を引くためだけに用い、長さを測定してはならず、コンパスは円を書くためだけに用い、書き終わったらただちに紙から離してすぐに閉じねばならない[3]。つまり、定規やコンパスを用いて長さを測定したり、分度器を使ったりする行為すら初等幾何学においては禁止されており、例えば2つの辺の長さが1である直角二等辺三角形の斜辺の長さは であるが、これも初等幾何学における証明や作図行為においては定規で長さを測ってはならない。

教育

初等幾何学の公理系は、古代から長らくユークリッドによって完成されたと思われており、多くの数学者や科学者や哲学者などによって批判的に検討されたが、とくに19世紀後半以降にユークリッド幾何学の公理系が本当に間違っていないのか、矛盾しないのかどうか徹底的に検証され、ヒルベルトによって幾何学基礎論によってその成果がまとめられた。20世紀に入ってからも、コクセターは総合幾何学的方法を重視したし、ジャン・デュドネは線形代数など代数的・解析的手法を応用して図すら使わず、抽象的にその基礎付けを与えたりした。デュドネがユークリッド幾何学の教育からの追放を提唱したことで、日本も彼の影響を受けた。

教育においては長らく重視されてきたが、幾何学基礎論による批判なども相次ぎ、もっと厳密な数学を教えるべきだと一時期取沙汰され、デュドネの著書もそのような流れで執筆されたものである。日本でも明治から戦後まもないころまでは初等幾何学や解析幾何学が体系的に教えられていたが、その後、いわゆる「現代化」[4]などもあり、学校教育からは初等幾何学は大幅に削減された[5]小平邦彦など、過度に厳密すぎるのもかえって問題ではないかと抵抗した数学者・科学者もいる。

現況

一時期の高校数学からは初等幾何学は完全に姿を消していた。しかし、1990年代以降に注目されるようになった国際数学オリンピックなどにおいて、日本勢の幾何感覚の薄さが取り沙汰されたことなどによる見直しなどもあり、2016年現在、初等幾何学が部分的に復活しており、京都大学の2009年度の入試問題乙の問2が話題となった。2015年大学入試から開始された新学習指導要領では、初等幾何学は「図形の性質」として大学入試センター試験に選択問題として出題されている。

また、イギリスの J. F. Rigby の手でも解けなかったラングレーの問題の拡張が、yahooアカウント aerile_re によって証明され、話題になった。

脚注

  1. ^ a b c d e f 矢野健太郎編、東京理科大学数学教育研究所第2版 編集『数学小辞典』、共立出版、2010年、「初等幾何学」より。ISBN 978-4-320-01931-7
  2. ^ a b 青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄 編著『岩波数学入門辞典』、岩波書店、2005年、「初等幾何学」より。ISBN 4-00-080209-7
  3. ^ 小林昭七『円の数学』、裳華房、1999年。ISBN 978-4-7853-1516-0
  4. ^ 数学教育の文脈で、いわゆる「現代化」と言った場合、新しい数学英語版(New Math)と呼ばれた(日本では「新数学」などとも)固有の教育改革の潮流を指す。
  5. ^ 小林幹雄、『復刊 初等幾何学』、共立出版、2010年、まえがき参照。ISBN 978-4-320-01930-0

関連人物

関連項目