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2018年9月19日 (水) 16:32時点における版

HPVワクチン

ワクチン: Vakzin: vaccine)は、感染症の予防に用いる医薬品病原体から作られた無毒化あるいは弱毒カ化された抗原を投与することで、体内に病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。

18世紀末、一度罹患したら再び罹患しない事実からエドワード・ジェンナー天然痘のワクチンを発見し、その後にルイ・パスツールがこれを弱毒化した。弱毒生ワクチン、あるいは生ワクチンと呼ばれる。これに対して、不活化ワクチンは抗原のみを培養したもので、複数回の摂取が必要となったりする。

歴史

ワクチンを発見したのはイギリスの医学者、エドワード・ジェンナーで、彼は18世紀の末に、牛痘にかかった人間は天然痘に罹患しなくなる(または軽症になる)事実から天然痘ワクチンを発明した。名前の由来はラテン語のVacca(雌牛の意)から。その後、ルイ・パスツールが病原体の培養を通じてこれを弱毒化すれば、その接種によって免疫が作られると理論的裏付けを行い、応用の道を開いたことによって、さまざまな感染症に対するワクチンが作られるようになった。

ちなみに発音は、イギリス英語でヴァクスィン 英語発音: [væksín]アメリカ英語でヴァクスィーン 英語発音: [væksíːn] である。

種類

ワクチンは大きく#生ワクチン#不活化ワクチンに分かれる。

BCGワクチン(抗酸染色

生ワクチン

毒性を弱めた微生物ウイルスを使用。液性免疫のみならず細胞免疫も獲得できるため、一般に不活化ワクチンに比べて獲得免疫力が強く免疫持続期間も長い。しかし生きている病原体を使うため、ワクチン株の感染による副反応を発現する可能性もある。

日本未承認(トラベルクリニック等、個人輸入を取り扱っている医療機関で接種)

不活化ワクチン

ジフテリア・破傷風混合ワクチン (DTワクチン)
B型肝炎ワクチン ビームゲン

死菌ワクチンとも呼ばれる。狭義の不活化ワクチンは化学処理などにより死んだウイルス細菌リケッチアを使用。取り扱いや効果において同様である抗原部分のみを培養したものを含めて不活化ワクチンと称されることもあり、以下その定義に含められるものを挙げる。生ワクチンより副反応が少ないが、液性免疫しか獲得できずその分免疫の続く期間が短いことがあり、このため複数回接種が必要なものが多い(代表例は三種混合ワクチンやインフルエンザワクチン)。

2歳未満の乳幼児では、蛋白成分を含まない抗原(ハプテン)部分だけでは免疫を惹起できない。このため、肺炎球菌ワクチンなど蛋白ではない抗原を用いるワクチンでは、乳幼児に接種するに際しては別の蛋白と抗原を結合させるなどの工夫がされている。

また、インフルエンザワクチンについては、1971年以前の全粒子ワクチン使用による副反応(死亡あるいは脳に重篤な障害を残す)危険性が大きかったことや、それとは異なる現行の安全性の高いワクチンでも100%発症を抑えることはできないことから、接種を避けるべきとの意見も依然として存在する。

しかしながら、ハイリスク群(高齢者や慢性疾患を持つ人など)の人がインフルエンザに罹患した場合に、肺炎等の重篤な合併症の出現や、入院、死亡などの危険性を軽減する効果が世界的にも広く認められている。これが、国際連合世界保健機関(WHO)や世界各国が、特にハイリスク群に対するインフルエンザワクチン接種を積極的に薦めている理由である[1]

日本未承認(日本国内で接種の場合は個人輸入取り扱い医療機関に申し込む)

  • 炭疽菌ワクチン
  • コレラワクチン(経口4価)2年間有効。また、渡航者下痢の多くの原因とされる、病原性大腸菌139型に対しても4ヶ月ほど有効と発表されている。
  • 髄膜炎菌ワクチン(流行性髄膜炎、髄膜炎菌性髄膜炎)
  • 腸チフスワクチン
  • ダニ媒介性脳炎ワクチン
  • A型肝炎ワクチン(全2回接種型・1回接種=2週間後抗体陽転、12ヶ月持続。1歳より接種可能)
  • 5歳以上用、二種混合ワクチン混合ワクチン(TD。破傷風の抗体産生能を維持したまま、ジフテリアの安全接種が可能)
  • 11歳以上用、ジフテリア・破傷風・百日咳混合ワクチン(Tdap。破傷風の抗体産生能を維持したまま、ジフテリアと百日咳の安全接種が可能)
  • DTaP/Hib=DTP+インフルエンザ桿菌
  • DTaP/IPV/HiB=DTP+不活化ポリオ+インフルエンザ桿菌
  • HepB/Hib=B型肝炎+インフルエンザ桿菌

その他、混合多数。

トキソイド

ある病原体の産生する毒素のみを予め抽出して、ホルマリンなどで処理し、毒性を抑えて抗原性のみを残したものを人体に接種し、その毒素に対する抗体を作らせるもの。病原体そのものを攻撃する抗体を作らせるわけではないので、厳密にはワクチンに含めないという考え方もある。

接種方法

ガーダシルの注射状況

皮下注射筋肉内注射が多いが、経口生ポリオワクチン(OPV)の様に、直接口に飲む(経口ワクチン)ものやBCGのようなスタンプ式の製品がある。

接種間隔

生ワクチン接種後は27日以上あけ、不活化ワクチンの後は6日以上あけること。医師の判断で必要と認められた場合には、同日複数接種も可能である。複数のワクチンを混合して接種することはできない。同日接種を行うことによって、安全性・効果(免疫応答)が変化・相乗することは無い。一度に接種できるワクチンの数に制限はない。また、同日接種の際、ワクチン同士はおよそ1インチ(2-3センチメートル)離れていれば問題ない。

WHOやアメリカ疾病予防管理センターが定める標準は、原則として、

  • 生ワクチン同士は同日、または4週間以上あける
  • 生ワクチンと不活化ワクチンは、どちらが先であっても、接種間隔に規制はない。
  • 不活化ワクチン同士もまた、同時でも、いつでも接種可能である。ただし、同一のワクチンには指定された間隔がある。
  • 免疫グロブリンと一部の生ワクチン(グロブリン製剤に含まれる抗体に依存する)には特定の間隔が個別に存在することがある。

ほかに、メーカー指定で、経口生チフスと経口不活化コレラワクチンは8時間の間隔を開けるというルールがある。

接種部位

  • 皮下注射:上腕伸側を中心とする領域。ただし橈骨神経が走行する中央1/3は避け、下側1/3あるいは上側1/3に接種する。
  • 筋肉内注射:満4歳未満は三角筋の発達が未熟なので、大腿四頭筋外側頭中程。それ以上の年齢では、同部位よりも三角筋が選択される。なお、臀部への筋注は吸収率や免疫応答がよくないので、接種してはいけない。
  • 皮内注射:狂犬病ワクチンの変則的投与では、指定箇所がある。その他に関しても、添付文書を参照すること。

1肢1本接種は、上記免疫応答理論や接種本数の制限を受けるため、受診者・海外渡航者の立場からは現実的ではない。

日本以外で使用されているワクチンは、世界で生活されている在外日本人も東洋人も通常接種されている。日本人に外国製ワクチン(WHO認定ワクチンに限定して)と接種用法などを敬遠する医学的根拠は、何も提示されていない。

副反応

弱いとはいえ病原体を接種するため、望まれない反応も起こすことがある。軽微なものとしては、投与部位の発赤・腫脹・疼痛・感冒様症状などがある。重大なものとしては無菌性髄膜炎、血小板減少性紫斑、膵炎などが知られる。(詳細は個別のワクチンを参照)

ワクチン接種後の自己免疫疾患はまれに報告され、ウイルスなどの感染が引き金となるまれな重篤なこれらの疾患はワクチンの接種によっても起こりうる[2]全身性エリテマトーデス関節リウマチ炎症性ミオパチー多発性硬化症ギラン・バレー症候群などがあり、ギラン・バレー症候群では報告のあったワクチンはほかと比較して多様である[2]

治験では掴めなかった低い頻度の副作用の発生が検出されるよう、迅速に情報収集がなされる[3]。時に薬害事件へと発展し、接種中止・ワクチンの改良がおこなわれる。

日本のワクチン事情

1964年(昭和39年)に始まった、インフルエンザワクチンの被害を訴える訴訟は、1980年代まで長く続き報道された[4]。続く予防接種による訴訟によって、1976年昭和51年)に予防接種法が改正され、救済制度が設立された[5]

日本は、1980年代までワクチン先進国とされていたが、副作用による訴訟が相次ぎ、厚生省と製薬企業が開発・販売に消極的になった結果、ワクチン後進国と世界で呼ばれている[6]。日本で予防接種が徹底されないために、カナダに修学旅行に行った学生が、現地では根絶されている麻疹を感染させたため、ホテルから外出禁止となり、修学旅行打ち切りで帰国になることが報道された。小児用のHibワクチンは、先進国に大幅に遅れて認可されたが、当時アジアで認可されていないのは、北朝鮮と日本だけであった。

日本の主な製造メーカーを挙げる。

インフルエンザワクチンは、北里研究所・デンカ生研・KMバイオロジクス・阪大微生物病研究会である。今後、武田薬品工業・第一三共が開発しようとしている[7]

ワクチンを巡る問題

ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンの2015年の言によれば、人々は巷で流行する疾病で死ぬよりもワクチンの副作用で死ぬことを恐れる場合があるのだという。もしワクチン接種後に子供が死んでしまったら、子供にワクチンを受けさせたことがその親にとって多大なトラウマになってしまうというのである。カーネマンの著書で2つの思考プロセスに言及している。1つ目は、何か感情を揺さぶるような出来事が起きた時に働くような自動的で即座の思考プロセスである。2つ目は、おちついた意識的労力をともなう思考プロセスである。ワクチン接種の損得を考える時には一般的に2番目の思考プロセスが使われるが、ワクチンの副作用で子供を危険に晒すといった恐怖が1番目の思考法を促してしまうわけである[8]。統計的データよりも感情を揺さぶるような個々のケースに我々は強く反応しがちなのだとカーネマンは述べる。

ノーベル医学生理学賞リュック・モンタニエは、エイズウイルスの発見で受賞した人物だが、2018年にもワクチンの過信は危険だと訴え、アルミニウム塩(チメロサールアジュバント)の使用に脳や健康に影響を与える可能性があるため、これをカルシウム塩などに変える必要性や、ワクチンに関する研究の必要性を訴えた[9]。例えば乳酸菌を用いた経口のワクチンが開発中である[10]

2017年にはイタリアで、子供が予防接種を受けるかどうかには自己決定権があるとするFreevaxという運動が開催され、数千人が集い厚生労働大臣に抗議を訴えた[11]。イタリアではワクチンの副作用の噂による接種拒否で、麻疹患者が3倍に急増したことを受け、2017年5月から国立保育園・小学校に入る6歳以下の児童に12種類のワクチンを義務付け、未接種児童の保護者に罰金を科している[12]

出典

  1. ^ インフルエンザワクチンについて(国立感染症研究所)
  2. ^ a b Orbach H, Agmon-Levin N, Zandman-Goddard G (February 2010). “Vaccines and autoimmune diseases of the adult”. Discov Med 9 (45): 90–7. PMID 20193633. http://www.discoverymedicine.com/Hedi-Orbach/2010/02/04/vaccines-and-autoimmune-diseases-of-the-adult/. 
  3. ^ 土井脩「MMRワクチン副作用問題」(pdf)『医薬品レギュラトリーサイエンス』第42巻第12号、2011年、1070-1071頁。 
  4. ^ 高橋真理子 (2014年11月21日). “常識破りの連続だったインフルワクチン報道”. http://webronza.asahi.com/science/articles/2014112200024.html 2018年4月10日閲覧。 
  5. ^ 堀勝洋「社会保障法判例 - 児童の障害が種痘に起因すると認められ、予防接種法による障害児養育年金の不支給決定が取り消された事例」(pdf)『季刊社会保障研究』第17巻第4号、1982年9月、469-474頁。 
  6. ^ 製薬大手、ワクチンに活路:読売新聞
  7. ^ インフル事業強化 製薬会社、海外勢を追撃 産経新聞
  8. ^ Nobel Prize winner tries to explain why dumb parents don't vaccinate their kidsJ. Chung, Gothamist, 8 Feb 2015
  9. ^ 岩城喜之 (2018年2月25日). “ワクチンの危険性指摘、ノーベル賞受賞者モンタニエ氏”. View Point. 2018年4月10日閲覧。
  10. ^ 清野透、、(構成)飯塚りえ「進化した次世代ワクチンへの期待と可能性:シリーズ がんから身をまもる 第1回 子宮頸がん」(pdf)『ヘルシスト』第223号、2014年1月、20-23頁。 
  11. ^ Anna Masera (2017年7月11日). “Sulla protesta contro i vaccini obbligatori” (イタリア語). La Stampa. http://www.lastampa.it/2017/07/11/cultura/opinioni/public-editor/sulla-protesta-contro-i-vaccini-obbligatori-qq8FmLpab1teOCbmNXGbeI/pagina.html 2018年4月20日閲覧。 
  12. ^ イタリア、予防接種を就学の条件に”. AFPBB News (2017年5月20日). 2018年4月24日閲覧。

関連項目

外部リンク