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*'''[[オオベソスガイ]]'''(大臍酢貝){{snamei||Lunella cinerea}} ({{auy|Born|1778}}) <br/>殻径4cm前後。食用。オオベソスガイ属 {{snamei||Lunella}} {{auy|Röding|1798}} の[[タイプ種]]。[[奄美群島]]以南の[[熱帯]]太平洋の潮間帯の岩礁、転石地に分布。スガイ同様に波静かな環境に多い。名前に大[[臍]]とある通り、常に臍孔が明瞭に開くのが特徴の一つである。殻表は比較的滑らかで目立つ突起などはなく、僅かなイボ状、あるいは縄文状の彫刻が見られる程度である。螺塔はほとんど平坦で、殻口の下端は伸びる。殻表には不規則で細かい模様があり、淡緑色や灰褐色、オレンジ色など変異が多い。一般に周縁部は淡色になる。蓋はスガイに似る。オオベソスガイという和名は、[[1919年]]に[[岩川友太郎]]によって次のオガサワラスガイに対し付けられた名であったが<ref>[[岩川友太郎]](1919) 『日本産貝類標本目録』 東京帝室博物館.</ref>、長期に渡って両者が混同された結果、本種 ''L. cinerea'' の和名として定着してしまったため、「本来のオオベソスガイ」であった小笠原のものにはオガサワラスガイという別名が与えられた。
*'''[[オオベソスガイ]]'''(大臍酢貝){{snamei||Lunella cinerea}} ({{auy|Born|1778}}) <br/>殻径4cm前後。食用。オオベソスガイ属 {{snamei||Lunella}} {{auy|Röding|1798}} の[[タイプ種]]。[[奄美群島]]以南の[[熱帯]]太平洋の潮間帯の岩礁、転石地に分布。スガイ同様に波静かな環境に多い。名前に大[[臍]]とある通り、常に臍孔が明瞭に開くのが特徴の一つである。殻表は比較的滑らかで目立つ突起などはなく、僅かなイボ状、あるいは縄文状の彫刻が見られる程度である。螺塔はほとんど平坦で、殻口の下端は伸びる。殻表には不規則で細かい模様があり、淡緑色や灰褐色、オレンジ色など変異が多い。一般に周縁部は淡色になる。蓋はスガイに似る。オオベソスガイという和名は、[[1919年]]に[[岩川友太郎]]によって次のオガサワラスガイに対し付けられた名であったが<ref>[[岩川友太郎]](1919) 『日本産貝類標本目録』 東京帝室博物館.</ref>、長期に渡って両者が混同された結果、本種 ''L. cinerea'' の和名として定着してしまったため、「本来のオオベソスガイ」であった小笠原のものにはオガサワラスガイという別名が与えられた。


*'''[[オガサワラスガイ]]''' {{snamei||Lunella ogasawaranus}} Nakanao, Takahashi et Ozawa, 2007<br/>永らく有効な学名のない種であったが、2007年に新種として記載された<ref name="ogasawarana"/>。殻径は最大で4cm前後になる。斑紋が全くなく全体が単調な暗緑色で臍孔が明瞭に開く。殻表には細かく弱いイボ状彫刻があるが、目立つ突起はない。蓋はスガイに似る。[[小笠原諸島]]の[[父島]]と[[兄島]]の波静かな転石海岸の潮間帯に生息する。同諸島の[[固有種]]で古くは多産したが、20世紀末頃から個体数の減少が顕著になり、[[レッドデータブック|『東京都の保護上重要な野生生物種-1998年版-』]][http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sizen/rdb/top.htm]では「CR:絶滅寸前」と評価された。本種自体は既に[[1847年]]に[[フランス]]のキーナー([[:fr:Louis Charles Kiener|Kiener]])という学者によって図示され、''Turbo lugubris'' という学名も与えられていたが、当時すでに同じ学名の別種があったため新参一次同名(記載された時点で既に同じ学名の種が他に存在しているために無効名となる状態)となり、無学名の状態となっていたものである。
*'''[[オガサワラスガイ]]''' {{snamei||Lunella ogasawaranus}} Nakanao, Takahashi et Ozawa, 2007<br/>永らく有効な学名のない種であったが、2007年に新種として記載された<ref name="ogasawarana"/>。殻径は最大で4cm前後になる。斑紋が全くなく全体が単調な暗緑色で臍孔が明瞭に開く。殻表には細かく弱いイボ状彫刻があるが、目立つ突起はない。蓋はスガイに似る。[[小笠原諸島]]の[[父島]]と[[兄島]]の波静かな転石海岸の潮間帯に生息する。同諸島の[[固有種]]で古くは多産したが、20世紀末頃から個体数の減少が顕著になり、[[レッドデータブック|『東京都の保護上重要な野生生物種-1998年版-』]]では「CR:絶滅寸前」と評価された<ref name="RedDataBook">{{cite book
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*†'''[[クロダスガイ]]''' {{snamei||Lunella kurodai}} Itoigawa, 1955 <br/>本州の[[中新世]]から知られる化石種。タイプ産地は岐阜県[[恵那市]](旧[[岩村町]])本郷上切の瑞浪[[地層#地層の分類|層群]]。周縁にはコブがほとんど発達しない。[[京都大学総合博物館]]所蔵の[[タイプ (分類学)|ホロタイプ]]の写真がウェブ上で公開されている<ref>[http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/Fossil/Fossil00000832.htm 京都大学総合博物館収蔵資料]- クロダスガイの[[タイプ (分類学)|ホロタイプ]]</ref>。<!-- Itoigawa,Junji, 1955 "Molluscan fauna of the Mizunami Group in the Iwamura basin." ''Mem. Coll. Sci., Univ. Kyoto, Ser. B'',22(2):127-143, pls.5-6.(p.140,pl.6,figs.9-13)-->

2017年3月3日 (金) 21:56時点における版

スガイ
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 古腹足目 Vetigastropoda
上科 : ニシキウズ上科 Trochoidea
: リュウテン科 Turbinidae
: オオベソスガイ属 Lunella
: L. coreensis
学名
Lunella coreensis (Récluz, 1853)

スガイ酢貝Lunella coreensis は、腹足綱リュウテン科に分類される巻貝の一種。

概要

極東潮間帯に生息し、日本の磯に於いてはイボニシなどともに普通に見られる種の一つである。特に西日本の静穏な海岸域では個体数が多い。食用種。和名はその蓋をに入れて自然に動くのを楽しんだことに由来する。このため「酢貝」という名は本来は本種の蓋に対する名であって、貝自体にはカラクモガイ(唐雲貝)などの名がある。他に郎君子、相思螺、津美(つび)、鬼眼睛、雌雄石などの名があるが、そのうちのいくつかは「酢貝」と同様に本種の蓋に付けられたものである。

20世紀中は、より南方に分布するカンギクの亜種とされることも多く、両者は殻の突起の強弱などで区別されて来たが、ミトコンドリアDNAによる系統解析を行ったNakaneら(2007[1] はスガイとカンギクはそれぞれが独立種であると結論した。しかしカンギクの殻の突起は環境によっても変化することが知られており[2]、ときにはカンギクとスガイとの中間的な外見をもつ個体もあるため、殻の外見での区別が容易でない場合もある。緑藻シオグサ属の一種、カイゴロモ Cladophora conchopheria はスガイの殻上のみに生育し、ビロード状に殻表を覆う群落を形成することが知られるが、本種の殻上にのみ生育する理由は不明である。

形態

殻径2-3cmの独楽型をしており、サザエを丸く小さくしたような貝である。硬く厚い石灰質の蓋をもつことや、殻の内側に真珠層が発達することなどもサザエと同じである。しかし螺塔はほとんど高まらないため、上面は弱いドーム状で、ときには平坦に近いものもある。成貝では殻頂が摩滅していることも多く、その場合は殻頂中央に小さな穴が開いたようになり、その周りがオレンジ色を帯びているのが普通である。殻底と肩にはそれぞれ結節を持った螺肋を持つほか、殻表には顆粒状の細い螺肋を複数持つ。特に幼貝では肩が角張るが、成貝では大分丸みを帯びるものが多くなる。殻色は多少の模様を持った褐色、褐色、緑褐色などで若干の変異があるが、殻面はやや厚い褐色の殻皮で覆われ、さらに上記のカイゴロモに覆われることも多いためでは総じて暗緑色に見えることが多い。殻質は厚く、持つと大きさの割には重厚感がある。臍孔は幼貝では開くが、成貝ではほとんどの個体で閉じている。

蓋は円形で厚く、内面は平たく外面は半球状に盛り上がっている。外面中央部はほぼ白色で、周縁部から暗緑色が一部溶け込んだような色彩をしている。表面には磨り減ったような極く弱い多数のイボ状彫刻が認められるが、全体にはほぼ滑らかでサザエの蓋のような明瞭なはない。本来の蓋は渦巻き模様が見えるクチクラ質でできた内側の褐色の部分で、石灰質の部分は炭酸カルシウムが二次的に沈着したものである。

軟体はサザエと基本的に同じで、体表には緑がかった地に暗色の線状班が多数あって全体に黒っぽく見える。頭部には触角が1対あり、その基部の内側には1対の眉毛のような肉襞が、外側基部には目がある。両目の後方は肉が襞状に伸びており、活動時には左の襞が入水孔、右の襞は出水孔として機能する。腹足の裏は2分して左右を交互に動かして歩く。腹足の上部には触角に似た長い触手がある。

生態

北海道南部~九州南部、朝鮮半島中国大陸沿岸などに広く分布するとされるが、基本的には暖流系のグループであるため、本州中部以北の太平洋岸ではあまり多くない。潮間帯の岩礁や転石地などに生息し、特に比較的穏やかな磯を好む。昼間は岩との間や転石下に見られるが、夜間は表面に出て這って採餌する。藻食性で、岩などに付着した藻類を食べる。そのため全くの泥や砂しかない場所には生息しない。雌雄異体で、放精と放卵によって受精する。

分類

オオベソスガイ属 Lunella の現生種は10種余りでそれほど多くはないが、20世紀中はスガイとカンギクの関係などにはやや未解明の部分があった。しかし上述したように2007年に分子情報からスガイを独立種とする論文が発表された[1]

属に関しては Lunella をサザエ属 Turobo の亜属とする考え方と、独立属とする考え方があるが、21世紀初頭では後者の考えが一般的である。Lunella(女性名名詞)は「小さい月」の意でこの仲間の満月型の蓋に因み、Turbo(男性名詞)は独楽のことでサザエ類の殻型に因む。


近似種

  • カンギク(寒菊)Lunella coronatus (Gmelin1791)
    殻径3~5cm。紀伊半島以南の西太平洋からインド洋南アフリカまで)での潮間帯岩礁地に生息する。スガイよりもやや波浪の強い場所に多いという。食用。形状などはスガイに類似するが、肩の結節や顆粒状の羅肋がより顕著なことや、成貝となっても臍孔が開いていることなどから区別される。蓋は外面中央が帯緑色で周縁が白色となり、他のスガイ類と逆のパターンを示す。ただし殻の突起は波浪などの環境要因によって変化するとされ[2]、日本南部では外見のみからスガイと区別するのが容易でない個体もある。分子系統からは、少なくとも沖縄のカンギクはオガサワラスガイに最も近く、スガイはこれら2種を合わせた系統の姉妹群に当たるという結果が発表されている[1]。和名は殻頂側から見ると突起などがの花のように見えることによる。20世紀のカンギクをカンムリスガイ Lunella coronata の亜種として Lunella coronata granulata としたり、カンギクを独立種 T. granulatus としてスガイをそのカンギクの亜種として扱う例などがある。カンムリスガイと呼ばれるものは、主にインド洋に見られる周縁の突起が短い角状に発達するもので、オオベソスガイ属では最もゴツゴツした殻をもっている。
  • オオベソスガイ(大臍酢貝)Lunella cinerea (Born1778)
    殻径4cm前後。食用。オオベソスガイ属 Lunella Röding1798タイプ種奄美群島以南の熱帯太平洋の潮間帯の岩礁、転石地に分布。スガイ同様に波静かな環境に多い。名前に大とある通り、常に臍孔が明瞭に開くのが特徴の一つである。殻表は比較的滑らかで目立つ突起などはなく、僅かなイボ状、あるいは縄文状の彫刻が見られる程度である。螺塔はほとんど平坦で、殻口の下端は伸びる。殻表には不規則で細かい模様があり、淡緑色や灰褐色、オレンジ色など変異が多い。一般に周縁部は淡色になる。蓋はスガイに似る。オオベソスガイという和名は、1919年岩川友太郎によって次のオガサワラスガイに対し付けられた名であったが[3]、長期に渡って両者が混同された結果、本種 L. cinerea の和名として定着してしまったため、「本来のオオベソスガイ」であった小笠原のものにはオガサワラスガイという別名が与えられた。
  • オガサワラスガイ Lunella ogasawaranus Nakanao, Takahashi et Ozawa, 2007
    永らく有効な学名のない種であったが、2007年に新種として記載された[1]。殻径は最大で4cm前後になる。斑紋が全くなく全体が単調な暗緑色で臍孔が明瞭に開く。殻表には細かく弱いイボ状彫刻があるが、目立つ突起はない。蓋はスガイに似る。小笠原諸島父島兄島の波静かな転石海岸の潮間帯に生息する。同諸島の固有種で古くは多産したが、20世紀末頃から個体数の減少が顕著になり、『東京都の保護上重要な野生生物種-1998年版-』では「CR:絶滅寸前」と評価された[4]。本種自体は既に1847年フランスのキーナー(Kiener)という学者によって図示され、Turbo lugubris という学名も与えられていたが、当時すでに同じ学名の別種があったため新参一次同名(記載された時点で既に同じ学名の種が他に存在しているために無効名となる状態)となり、無学名の状態となっていたものである。
  • Lunella jungi (Lai, 2006)
    21世紀になってから記載された種で台湾に分布する。螺肋は明瞭だが、結節状の突起は全くなく殻表はむしろ滑らかで、スガイに比べると螺塔もやや高い。台湾名は鍾氏珠螺。

利用

日本では磯で普通に見られることから、昔から磯遊びの対象として親しまれてきた。著名な例としてこの貝の蓋を半球面側を下にしてに浸すと、酸で蓋の石灰質が溶解する際に、二酸化炭素の気泡を出しつつ、くるくると回転することから、古くから子供の遊びとなっていたという。冒頭に述べたように「酢貝」という名はこの遊びに由来し、本来は蓋のみの呼称で、本体の方にはカラクモガイ(唐雲貝)の名がある。

また、近似種も含め食用として利用され、煮貝、塩茹で、味噌汁などでサザエと同様のほろ苦さと磯の香りを有し美味とされる。広く一般に流通することは稀で産地で消費されることがほとんどである。

脚注

  1. ^ a b c d Tomoyuki Nakano, Kyoko Takahashi & Tomowo Ozawa (2007) Description of an endagered new species of Lunella (Gastropoda: Turbinidae) from the Ogasawara Islands, Japan. Venus 66(1-2), pp. 1-10.
  2. ^ a b Kurihara T., Shikatani M., Nakayama K., Nishida M. (2006) Proximate mechanisms causing morphological variation in a turban snail among different shores. Zoological Science 23: pp. 999-1008. NAID 10018662126, doi:10.2108/zsj.23.999
  3. ^ 岩川友太郎(1919) 『日本産貝類標本目録』 東京帝室博物館.
  4. ^ 海産貝類(小笠原諸島)」『東京都の保護上重要な野生生物種-1998年版-』(1998年版)、1998年。 オリジナルの2004年10月28日時点におけるアーカイブhttp://web.archive.org/web/20041028155058/http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/sizen/rdb/ogasawara.kai.kaisan.htm2017年3月4日閲覧 
  5. ^ 京都大学総合博物館収蔵資料- クロダスガイのホロタイプ

参考文献

  • 奥谷喬司(編)『日本近海産貝類図鑑』東海大学出版会、2001年、1173頁。ISBN 4486014065

外部リンク