「2乗3乗の法則」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
7行目: 7行目:
([[恐竜#恐竜の矛盾]]も参照)
([[恐竜#恐竜の矛盾]]も参照)


[[航空工学]]や[[船舶工学]]等においては、表面積に比例する[[抗力]]や[[揚力]]と、[[容積]]に比例する搭載量あるいは質量(重量・重力)などとが比較される。例えば船舶では、燃費の増加は喫水面の面積増に比例し、積載量の増加は容積増に比例する。そのため、船を巨大化すれば単位積載量当たりの燃料効率は向上する。これが、タンカーやコンテナ船の巨大化が進む理由である。例えば航空機では、ジェットエンジンの出力は酸化剤として取り入れる空気の量に、すなわちエンジンの断面積に比例するが、質量は体積に比例していると考えてよい。そのため、相似形の大きさの異なるエンジンを用いる場合、少数の大型エンジンを用いるより、多数の小型エンジンを用いる方が、出力重量比を大きくすることができる。この考え方は[[ノースロップ]]社によって、[[F-5 (戦闘機)|F-5]]戦闘機の設計に取り入れられた。
[[航空工学]]や[[船舶工学]]等においては、表面積に比例する[[抗力]]や[[揚力]]と、[[容積]]に比例する搭載量あるいは質量(重量・重力)などとが比較される。
例えば船舶では、燃費の増加は喫水面の面積増に比例し、積載量の増加は容積増に比例する。そのため、船を巨大化すれば単位積載量当たりの燃料効率は向上する。これが、タンカーやコンテナ船の巨大化が進む理由である。例えば航空機では、ジェットエンジンの出力は酸化剤として取り入れる空気の量に、すなわちエンジンの断面積に比例するが、質量は体積に比例していると考えてよい。そのため、相似形の大きさの異なるエンジンを用いる場合、少数の大型エンジンを用いるより、多数の小型エンジンを用いる方が、出力重量比を大きくすることができる。この考え方は[[ノースロップ]]社によって、[[F-5 (戦闘機)|F-5]]戦闘機の設計に取り入れられた。

一方で、大きくすることに限界があること(小さくするのは容易であること)も説明できる。たとえば、ある航空機をそのまま2倍の大きさにしたとする。すると、体積は8倍になるので質量(重量)が8倍になる一方で、翼面積は4倍にしかなっていない。結局、[[翼面荷重]]が2倍も異なる、全く違う航空機になってしまうのである。


[[熱]][[輸送]]論の観点から言及されることもある。たとえば[[伝熱]]問題を考えて、表面積に比例する放熱ないし吸熱量と、体積に比例する発熱量や質量(重量)とが比較される。[[動物]]で、これをより具体的かつ大まかに論じたものが[[ベルクマンの法則]]である。動物が大型化した場合は体積の増大に比して表面積の増大が小さいので、蓄熱効率が上昇するため、[[恒温動物]]では低温地帯に生息する生物ほど、体躯が大きくなる傾向になる。逆に[[変温動物]]の場合は、外気の温度を取り入れる事が優先されるので、体積に比して表面積が大きいほうが吸熱効果が高いので、低温地帯ほど体躯が小さくなる傾向にあり、これを逆ベルクマンの法則と呼ぶ事がある。
[[熱]][[輸送]]論の観点から言及されることもある。たとえば[[伝熱]]問題を考えて、表面積に比例する放熱ないし吸熱量と、体積に比例する発熱量や質量(重量)とが比較される。[[動物]]で、これをより具体的かつ大まかに論じたものが[[ベルクマンの法則]]である。動物が大型化した場合は体積の増大に比して表面積の増大が小さいので、蓄熱効率が上昇するため、[[恒温動物]]では低温地帯に生息する生物ほど、体躯が大きくなる傾向になる。逆に[[変温動物]]の場合は、外気の温度を取り入れる事が優先されるので、体積に比して表面積が大きいほうが吸熱効果が高いので、低温地帯ほど体躯が小さくなる傾向にあり、これを逆ベルクマンの法則と呼ぶ事がある。

2015年9月9日 (水) 09:19時点における版

2乗3乗の法則(にじょうさんじょうのほうそく)は、工学生物学などにおいて言及される法則相似な形状をした2つの物体について、代表長さの2乗に比例する面積に関する物理量と、3乗に比例する体積に関する量とを比較し、このときそれぞれの量の変化の割合も、おおむね2乗と3乗のオーダーとなることを法則と呼んでいる。比較対象となる物理量は、分野や文脈によって異なる。2乗3乗法則2乗3乗則とも呼ばれる。漢数字で「二乗三乗」と書かれることもある。

使用例

例えば、生物学において、バイオメカニクスの観点から、断面積に比例する(最大)筋力と、体積に比例する質量(地上では重量重力)とが比較されることがある。これは恐竜ゾウといった大型動物と、昆虫などの小型動物のの比較などについて適用され、大きさの限界について論じられるなどする。昆虫を相似形としてゾウに匹敵する大きさまで、仮に100倍に拡大したと仮定すると、体重は1000000倍だが筋力は10000倍に過ぎず、その細い脚では体重を支える事は不可能になる。よって大型の動物では、体躯に比して脚が太くなる傾向にある。

また細胞が小さい理由としても、この法則が関わっているものと考えられる。すなわち、細胞が必要とする物質の量は細胞の体積に比例する(3乗で増加する)のに対し、それらの物質は細胞膜を通じて取り込む必要があるが、表面積は2乗でしか増えないためである。 (恐竜#恐竜の矛盾も参照)

航空工学船舶工学等においては、表面積に比例する抗力揚力と、容積に比例する搭載量あるいは質量(重量・重力)などとが比較される。

例えば船舶では、燃費の増加は喫水面の面積増に比例し、積載量の増加は容積増に比例する。そのため、船を巨大化すれば単位積載量当たりの燃料効率は向上する。これが、タンカーやコンテナ船の巨大化が進む理由である。例えば航空機では、ジェットエンジンの出力は酸化剤として取り入れる空気の量に、すなわちエンジンの断面積に比例するが、質量は体積に比例していると考えてよい。そのため、相似形の大きさの異なるエンジンを用いる場合、少数の大型エンジンを用いるより、多数の小型エンジンを用いる方が、出力重量比を大きくすることができる。この考え方はノースロップ社によって、F-5戦闘機の設計に取り入れられた。

一方で、大きくすることに限界があること(小さくするのは容易であること)も説明できる。たとえば、ある航空機をそのまま2倍の大きさにしたとする。すると、体積は8倍になるので質量(重量)が8倍になる一方で、翼面積は4倍にしかなっていない。結局、翼面荷重が2倍も異なる、全く違う航空機になってしまうのである。

輸送論の観点から言及されることもある。たとえば伝熱問題を考えて、表面積に比例する放熱ないし吸熱量と、体積に比例する発熱量や質量(重量)とが比較される。動物で、これをより具体的かつ大まかに論じたものがベルクマンの法則である。動物が大型化した場合は体積の増大に比して表面積の増大が小さいので、蓄熱効率が上昇するため、恒温動物では低温地帯に生息する生物ほど、体躯が大きくなる傾向になる。逆に変温動物の場合は、外気の温度を取り入れる事が優先されるので、体積に比して表面積が大きいほうが吸熱効果が高いので、低温地帯ほど体躯が小さくなる傾向にあり、これを逆ベルクマンの法則と呼ぶ事がある。

この法則では物体の形状の違いについては論じていない。より詳しい議論の際には、たとえば断面二次モーメント慣性モーメントなども考慮する必要が生じうる。

また一般に、スケールの異なる物体や(システム)を比較する際には、無次元数(無次元量)の整合も求められる場合がある。たとえば、レイノルズ数は代表長さによって値が変わり、これも抗力や揚力に影響する可能性がある

参考文献

  • R. McNeill Alexander, Dynamics of dinosaurs and other extinct giants, Columbia University Press, New York, 1989, ISBN 0-231-06666-X (Hardcover).
  • Steven Vogel, Cat's Paws and Catapults, W. W. Norton & Company, Inc., New York, 1998, ISBN 0-393-04641-9 (Paperback).
  • Stephen A. Wainwright, Axis and Circumference: The Cylindrical Shape of Plants and Animals, Harvard Univ Press,

関連項目