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* [[富士フイルムファーマ]]…[[富士フイルムホールディングス]]系列。他社へ製造委託している薬品もある。
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[[2007年]]5月現在、日本に後発医薬品企業は300社以上あると言われている。また[[田辺三菱製薬]]など「先発メーカー」と言われている製薬メーカーも後発医薬品を主要事業の1つとして位置付け、取り組みを始めている。[[第一三共]]はインドの製薬会社を買収して後発医薬品の新規参入を開始した。
[[2007年]]5月現在、日本に後発医薬品企業は300社以上あると言われている。また[[田辺三菱製薬]]など「先発メーカー」と言われている製薬メーカーも後発医薬品を主要事業の1つとして位置付け、子会社の[[田辺製薬販売]]を通した取り組みを始めている。[[第一三共]]はインドの製薬会社を買収して後発医薬品の新規参入を開始した。
<!-- 成分名と同一の後発医薬品につけられる各メーカーの略称 -->
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2013年10月4日 (金) 11:38時点における版

後発医薬品(こうはついやくひん)とは、医薬品有効成分そのものに対する特許である物質特許が切れた医薬品を他の製薬会社製造或は供給する医薬品である。新薬と同じ主成分の薬(作用も新薬と常に同じとは限らない[1])。ジェネリック医薬品: Generic drug)とも言われる。なお、後発医薬品に対して先発の医薬品先発医薬品ないしは先薬と呼ばれる。医薬品特許には物質特許(有効成分)・製法特許(製造方法)・用途特許/医薬特許(効能効果)・製剤特許(用法用量)の4種類がある。

概要

期限切れになった先発医薬品の特許内容を基に作られることから、同じ有効成分医薬品でも後発医薬品は複数存在し、その商品名会社によって異なる。医薬品有効成分一般名 (generic name)で表せるので、欧米では後発医薬品を処方するのに一般名を用いることが多い。そのため、後発医薬品に対して「ジェネリック医薬品」という言葉が使われるようになった。

以前は先発医薬品の特許権が消滅すると後発医薬品がゾロゾロ出てくることから、後発医薬品は「ゾロ」・「ゾロ品」・「ゾロ薬」と呼ばれることもある。語源から分かるように、この呼び名は侮蔑的な呼び方、少なくとも肯定的な呼び名ではなく、使用されることが減ってきている。昨今は後述のように厚生労働省主導で普及へ向けての政策が進められており、世間一般の捉え方は変化してきている。

他の先進国に比べて日本では普及が進んでいない。普及を妨げる理由には安定供給がなかなか難しいという後発医薬品メーカーの問題[2]の他にも効果安全性の面で必ずしも信頼できないとする意見があるためである[3][4]

後発医薬品の普及はアメリカカナダイギリスドイツなど各先進国で進んでいる。その普及率はアメリカ71%、カナダ66%、イギリス65%、ドイツ62%と何れも60%を越えている(2009年・数量ベース)[5]。一方、日本における後発医薬品の普及率は20%程度に留まっている[6]

現在、日本でも医療費抑制のために厚生労働省主導で後発医薬品の普及が進められている[7]。この動きに合わせて各医薬品メーカーは後発医薬品の積極生産へシフトしつつある。

しかしながら、一部の先発医薬品メーカーが著作権商標などを理由に後発医薬品を違法と見なし、製造を認めない事もある。[8]

特許

先発医薬品(先薬)の開発には巨額の費用と膨大な時間を必要とするために、開発企業(先発企業)は先発医薬品構造やその製造方法などについて特許を取得し、自が新規に開発した医薬品製造販売することによって、資本の回収を図る。また、その先発医薬品で得た利益を新たな先発医薬品開発費用として投資する。当然、特許の存続期間が満了すると、他の企業(後発企業)も自由に先発医薬品とほぼ同じ主成分を有する医薬品(=後発医薬品)を製造販売ができるようになる。

特許の存続期間は原則として特許出願から20の経過をもって終了する。しかし、先発医薬品製造販売の承認を得るには長期間を要するため、特許を取得したにもかかわらず、対象となる医薬品製造販売の承認が依然として得られないケースが多い。その場合、特許の存続期間を最長で5延長できる。

先発企業は同一薬効成分に新たな効能・適用・結晶型などを発見することで特許を追加取得したり、製剤・剤型を見直して効能以外の付加価値を付けるなどして、後発企業の進出に対抗する。

成分特許を認めていないインドなど特許制度欧米と異なる国では特許が切れた薬ではなく、インドの国内において特許が認められていない、特許の適用から外れている医薬品ジェネリック医薬品として大量に生産されており、アフリカなどの貧困ではインド製のジェネリック医薬品が大量に使用されている。エイズ治療ネビラピンなど欧米では特許が切れていないためにジェネリック医薬品が生産されていないのに、インドでは特許が無効なために大量のジェネリック医薬品生産され、エイズに悩むアフリカ諸国で大量に使用されている現状がある。この問題欧米との間で争いになっており、欧米側が新しい法律を作って規制するなど対抗措置を行っているが、インド製の安いジェネリック医薬品が途絶えれば貧困医療が崩壊するという深刻な問題も孕んでいる。

承認申請

先発医薬品の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を越える資料を提出する必要がある。

これに対して後発医薬品では、有効性・安全性については既に先発医薬品で確認されていることから、安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば製造承認がなされる。生物学的同等性試験とは先発品と後発品の生物学的利用能を比較評価することにより行われ、投与者の生物学的利用能に統計的に差がなければ効果も同じで生物学的に同等であるものと判断される。血中濃度の推移が同等であれば生物学的効果に差がないとする考え方は米国FDAを始め諸外国でも同様に認められた解釈である[9]。新薬と主成分が全く同じである後発医薬品に、新薬と同等のハードルを課すことは経済的でない点から考慮すると合理的な試験である。

一方、承認申請時に必要な書類は、規格および試験方法、加速試験、生物学的同等性試験のみであり(医薬品により長期保存試験も必要となる)、7つの毒性試験が全て免除されていることは問題、とする意見がある。

生物学的同等性試験

後発医薬品が、先発医薬品と同等の薬効・作用を持つことを証明するために、後発医薬品の承認申請には、生物学的同等性試験のデータが必要とされる。

生物学的同等性試験では、原則として、ヒト(健常人)に先発品、後発品を投与して両者の血中濃度推移に統計学的な差がないことを確認する。より具体的には、先発品、後発品を、各々10〜20名程度のヒト(健常人)に投与し、一定時間ごとに採血を行い、薬物血中濃度の推移を比較し、両群の間に統計学的な差がないことを証明する手法がとられる。ただし、倫理的な面や、製剤特性等の理由から、ヒト以外の動物での試験が認められることもある。

日本では現在、厚生労働省より通達されている「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に従って生物学的同等性試験は行われている。

品質再評価

1997年4月以降、新薬の承認時には溶出試験規格の認定が義務付けられ、 当該医薬品の後発品についても自動的に溶出試験規格が求められているが、それ以前の医薬品には溶出試験規格が無い。そこで溶出試験規格が無い医薬品のうち、後発医薬品があり、かつ先発医薬品との同等性を設定する必要がある約550成分(約7000品目)を対象として、1997年2月から国が品質の再評価を始めた。

オレンジブック

オレンジブックとは後発医薬品の使用促進のため米国で発刊されているもので、 FDAが先発医薬品と後発医薬品の生物学的同等性の判定を行い(生物学的同等性試験)、 その治療上の同等性についての評価を掲載したものである。

日本版オレンジブックとは「医療用医薬品品質情報集」のことで、上記の品質再評価の経過や結果を掲載したものである。

日本版オレンジブックは通知のごとに発行されるため一覧性が無く、通知に含まれない重要な品質再評価情報が掲載されないことがある為、日本ジェネリック製薬協会がこれらを補い更に広範囲の情報を掲載したものを「オレンジブック総合版」としてネット上で公開している[10]

日本での経緯

後発医薬品の普及率は、アメリカ、イギリス、ドイツなどの国では数量ベースで5割近くを占めるのに対し、日本では1割程度に留まっていた。これはブランド嗜好が強い国民性やパターナリズム(家父長主義)が浸透していた医療の現場において医師が、情報提供が少なく信頼性に不安を感じる後発医薬品よりも、長年の育薬に基づく豊富な情報が提供され、後発品に比べて薬効・供給量の安定している先発医薬品を処方した為と考えられる[11][12]

医療費に占める薬剤費比率は、上昇傾向の欧米諸国に対し、日本は薬価差(=保険請求価格-購入価格)削減により低下傾向を示し、既にフランスイタリアより低率となった。しかし依然、高めな理由は投薬の種類・量が多い為ではなく、先発医薬品の薬価が高すぎる為であり、[要出典]財政制度等審議会 財政構造改革部会資料によれば、後発医薬品に変えることで1兆3千億円程度削減できるとの試算がある。

近年、急に後発医薬品が注目されるようになったのは、バブル崩壊後の長引く不況の中で健康保険財政の破綻に直面し、政府が少子高齢化を迎えての医療費削減を唱え、その一環として薬価の低い後発医薬品に着目した為である。

しかしながら、低価格な錠剤では先発医薬品との価格差が顕著に表れない例もある。

処方箋様式

2006年4月より処方箋の様式が変更となり、医師が処方箋中の「後発医薬品への変更可」欄に署名(または記名押印)すれば後発医薬品に変更して調剤することが可能となった。しかし当該欄の利用頻度が伸びなかったため、2008年4月より、後発医薬品への変更が認められない場合「後発医薬品への変更不可」欄に署名する形式に再変更された[13]

2012年4月には、さらに様式が変更されている。

日本にて後発医薬品が普及しない理由

先発医薬品との違い

後発医薬品と先発医薬品では主成分においては違いがないとされる。このことは、生物学的同等性試験によって(批判はあるものの)テストされているが、後発医薬品の添加物などといった副成分や剤形、製法は先発医薬品とは一般には異なる。これは、物質特許は期限が切れていても製法特許や製造特許は切れていない、またそれらの期限が切れていても、製造工程の細部まで公開されるとは限らない、といった事情があるからである。

同じ成分の先発医薬品と後発医薬品で効能・効果(適応症)が異なることがある。これは先発医薬品が有する用途特許が残っており、それが原因で同じ成分の後発医薬品がその効能・効果を謳えないことに起因する。実際に使用した患者や医師からは、効果に違いがあるとの意見があり、学会でも先発品の13%しか体内で吸収されないものや、逆に140%も血中濃度が上がってしまうものもある、といった報告があるという[要出典]。また、薬の添加物や剤形が変わることによって、例えば薬の溶け出す速度が変化したり、有効成分が分解されやすくなったりする可能性があり、内服薬の飲み易さ、外用剤の剥がれ易さなどにも違いが生じる場合がある。特に小児科においては、小児用内服薬の矯味(味付け)が薬により異なるため、薬を変更すると患児の嗜好によっては服用させること自体が困難になることがあり、切り替えには慎重を要する。なお、同一成分ながら患者の疾病に対する効能・効果を有していない後発品を処方または調剤した場合、不適切な薬剤を投与したとして、医療機関の報酬点数が減点される場合があり、これを回避するため、後発品の使用や変更を敬遠する医師も存在する。

後発企業

後発企業の多くは準大手・中小企業であり、大手新薬メーカーに比べ、供給面での不安定さが指摘されている。 後発医薬品の企業の医薬情報担当者(MR)の数が少なく、医師薬剤師の情報収集の観点から不安の声もある。後発医薬品が発売される時期には、先発医薬品は発売後10年以上が経過していることが一般的であり、十分な副作用情報が蓄積されているが、後発薬特有の副作用が出現した場合には個別企業の対応に任されている。

後発企業は先発企業に対抗するために薬剤の販売に大幅な値引を行うことがある。その結果、2年に1回の薬価改定では大幅な薬価の値下げが行われる。そこで、後発企業はさらに値引き販売をすることになり薬剤価格の競争均衡が実現され、消費者は需要と供給に基づいた市場価格で薬剤を入手することができるようになる。一方、最終的に採算が合わなくなった一部の後発企業は採算の合わない薬剤を販売中止してしまうことがある。過去には、1ロットを製造した後に在庫が切れたら販売中止してしまうこともあった(通称:売り逃げ)。近年では厚生労働省の指導により、売り逃げを行う企業には製造販売承認を与えないことになっており、新規申請においては状況は改善されつつある。しかし一部には、長期にわたり販売した製品を販売中止した例もみられる(辰巳化学のナシンドレン、など)。また新薬メーカーの持つ特許を侵害し開発・販売すると、訴訟問題となり、結果製造中止や回収となる場合もある(大洋薬品(現テバ製薬)のセフジニル、など)。

精神医療に使用する薬の状況

抗精神病薬向精神薬抗うつ薬抗不安薬睡眠導入剤でも後発医薬品が存在するが、精神医療の特殊性として患者側の思い込みが激しいこともある(プラセボ効果)。海外のグローバル製薬メーカー(グラクソ・スミスクラインエフ・ホフマン・ラ・ロシュファイザーイーライリリー・アンド・カンパニーなど)が、2000年代から副作用を抑えた新型向精神薬抗うつ薬を創薬し、日本にて医療用医薬品として承認された薬が多く出回り始めた。後発医薬品は先発医薬品の技術や薬理学など、20数年前の技術をそのまま借用して製造した薬のため、精神科医は海外の薬理学論文を読んだり、医薬情報担当者(MR)から説明を受け情報を知っており、また、最近の向精神薬に於ける先発医薬品の場合は主作用を維持したまま、副作用を旧来医薬品より大幅に抑えた製剤のため、結果として副作用止めなどの処方薬を処方しなくて済み、多剤大量処方にならなくて済む。そのメリットで副作用出現リスクが大幅に減り、薬剤の使用やレセプト診療報酬が大幅に減る。結果として医療費抑制につながり、さらに障害者自立支援法(現在は、法改正により障害者総合支援法に変更され、適用)による自立支援医療(精神通院医療)では、患者側の薬剤負担が1割(若しくは定額の自己負担額分)で済むため、後発医薬品に変えるメリットが(薬価単位でも)ほとんどない。

態勢

2008年に行われた小規模な調査(医師600人、薬剤師400人)では、半数の医師が「後発品への変更不可」とした事があると答えた[14]。医師が「変更不可」とした薬剤で最も多かったのは抗癌剤、次いで降圧薬、一方、薬剤師が「変更可」でも先発品を選ぶ薬剤で最も多かったのは、抗精神病薬向精神薬抗うつ薬、次いで抗癌剤となった。その一方で、「後発医薬品への変更不可」の指示はオーダリングシステムによって誘導されているとの指摘もあり[15]、日本ジェネリック医薬品学会ではこれを是正するための仕様書を公表した[16]

2008年に厚生労働省生活保護世帯に後発医薬品を事実上強制する通知を自治体に出した(生活保護世帯は医療費を自己負担せずに公費負担となっているため)。従わなければ生活費の支給を停止するというもので、後に撤回することとなった[17]

主な取扱会社

2007年5月現在、日本に後発医薬品企業は300社以上あると言われている。また田辺三菱製薬など「先発メーカー」と言われている製薬メーカーも後発医薬品を主要事業の1つとして位置付け、子会社の田辺製薬販売を通した取り組みを始めている。第一三共はインドの製薬会社を買収して後発医薬品の新規参入を開始した。

脚注

  1. ^ 稲葉直人 青柳誠 棚瀬健仁 前田益孝 椎具達夫 戸村成男 神田英一郎「慢性腎臓病(CKD)患者の保存期における球形吸着炭の評価 : 先発医薬品クレメジンと後発品メルクメジンの比較」The Japanese journal of nephrology 51(1), 51-55, 2009-01-25
  2. ^ ジェネリック医薬品はなぜ普及しないのか”. PJニュース (2006年10月26日). 2006年10月26日閲覧。 (日本語)
  3. ^ ジェネリック医薬品の問題点”. くすり入門. 役に立つ薬の情報~専門薬学. 2012年11月14日閲覧。 (日本語)
  4. ^ ジェネリック薬品の問題点も放送せよ!”. 内科開業医のお勉強日記 (2005年1月7日). 2005年1月7日閲覧。 (日本語)
  5. ^ 日本がもし、1,000人の村だったら? (PDF) (日本語)
  6. ^ 平成20年度ジェネリック医薬品シェアについて (PDF) (日本語)
  7. ^ 後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について”. 厚生労働省. 2011年1月6日閲覧。 (日本語)
  8. ^ 主な例として大幸薬品等が上げられる
  9. ^ 生物学的同等性”. ジェネリック医薬品. 長崎県保険医協会. 2011年1月6日閲覧。 (日本語)
  10. ^ オレンジブック総合版ホームページ”. 日本版オレンジブック研究会. 2011年1月6日閲覧。 (日本語)
  11. ^ 後発医薬品…安くて薬効同等 普及まで今一歩”. YOMIURI ONLINE. 読売新聞社 (2007年2月22日). 2007年6月7日閲覧。 (日本語)
  12. ^ 処方せん様式変更、後発薬を優先使用”. YOMIURI ONLINE. 読売新聞社 (2007年4月22日). 2007年9月18日閲覧。 (日本語)
  13. ^ 平成20年度診療報酬改定における主要改定項目について (PDF) (日本語)
  14. ^ 「後発品変更不可」とした薬、「あり」が約半数”. 日経メディカル オンライン. 日経BP社 (2008年9月11日). 2008年9月11日閲覧。 (日本語)
  15. ^ 「後発医薬品への変更調剤を推進するための処方オーダリングシステムの仕様に関する研究」, 瀬戸僚馬 他, 『ジェネリック研究』 第3巻, P.36-P.42, 2009年
  16. ^ ジェネリック医薬品の処方を推進するための処方オーダリングシステム追加仕様書 (PDF) (日本語)
  17. ^ 生活保護受給者への後発医薬品の使用通知、厚労省が撤回”. アサヒ・コム. 朝日新聞社 (2008年4月30日). 2008年5月1日閲覧。 (日本語)

関連項目

外部リンク