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雇用保険の保険者は国であり、[[公共職業安定所]](ハローワーク。以下「ハローワーク」と表記する)が事務を取り扱っている。保険料は[[個人事業主|事業主]]と[[労働#労働者|労働者]]が原則折半して負担する。


== 基本事項 ==
== 基本事項 ==
=== 沿革 ===
=== 沿革 ===
* 1947年(昭和22年)- 失業者の生活の安定を目的として、「失業保険法」(昭和22年法律第146号)が制定される。その中で、失業保険制度が創設される。
* 1947年(昭和22年)- 失業者の生活の安定を目的として、「失業保険法」(昭和22年法律第146号)が制定される。その中で、'''失業保険'''制度が創設される。
* 1974年(昭和49年)- 失業者の生活の安定、および三事業(雇用改善事業、能力開発事業、雇用福祉事業)を目的として、「雇用保険法」(昭和49年法律第116号)が制定される。失業保険法は廃止され、失業保険制度に代わって雇用保険制度が創設される。
* 1974年(昭和49年)- 失業者の生活の安定、および三事業(雇用改善事業、能力開発事業、雇用福祉事業)を目的として、「雇用保険法」(昭和49年法律第116号)が制定される。'''失業保険法は廃止され'''、失業保険制度に代わって雇用保険制度が創設される。
* [[1977年]](昭和52年)- 「雇用保険法等の一部を改正する法律」(昭和52年法律第43号)により、雇用改善事業に代わって雇用安定事業が規定される。
* [[1977年]](昭和52年)- 「雇用保険法等の一部を改正する法律」(昭和52年法律第43号)により、雇用改善事業に代わって雇用安定事業が規定される。
* [[2007年]]([[平成]]19年)-「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成19年法律第30号)により、雇用福祉事業が廃止され、三事業は二事業となった。その他、被保険者および受給資格要件の一本化<ref>短時間被保険者という区分を無くし、[[2007年]][[10月1日]]の離職者からは基本手当受給の要件が'''「2年間の間に11日以上働いた月が12ヶ月あること」'''に変更された(なお、平成19年現在の特定受給資格者に当たる者は6ヶ月)([http://www.sakurajima.go.jp/pdf/kaisei%20hoken.pdf 参照])。</ref>や、国庫負担の見直し等も含めた改正がなされた。
* [[2007年]]([[平成]]19年)-「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成19年法律第30号)により、雇用福祉事業が廃止され、三事業は二事業となった。その他、被保険者および受給資格要件の一本化<ref>短時間被保険者という区分を無くし、[[2007年]][[10月1日]]の離職者からは基本手当受給の要件が'''「2年間の間に11日以上働いた月が12ヶ月あること」'''に変更された(なお、平成19年現在の特定受給資格者に当たる者は6ヶ月)([http://www.sakurajima.go.jp/pdf/kaisei%20hoken.pdf 参照])。</ref>や、国庫負担の見直し等も含めた改正がなされた。


{{注意|2009年5月3日時点で最新の改正は「雇用保険法等の一部を改正する法律(平成21年法律第5号)」(平成21年3月31日施行)です。本記事の内容は、必ずしも現在の法律に沿った内容になっているとは限りませんので、ご注意願います。}}
{{注意|2009年5月3日時点で最新の改正は「雇用保険法等の一部を改正する法律(平成21年法律第5号)」(平成21年3月31日施行)です。本記事の内容は、必ずしも現在の法律に沿った内容になっているとは限りませんので、ご注意願います。}}

=== 目的 ===
雇用保険は、労働者が'''失業'''した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する'''教育訓練'''を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の'''生活及び雇用の安定'''を図るとともに、求職活動を容易にする等その'''就職を促進'''し、あわせて、'''労働者の職業の安定'''に資するため、'''失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大'''、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
この目的を達するために、[[#失業等給付|失業等給付]]を行うほか、[[#二事業|二事業]](雇用安定事業、能力開発事業)を行う。


=== 原資 ===
=== 原資 ===
雇用保険の失業等給付の原資には、事業主と労働者が負担する保険料に加え、国民の生存権の保障に資するという目的から[[国庫]]負担金も用いられる。国庫が負担する割合は、日雇求職者及び広域延長給付に係る受給者に対する求職者給付(日雇労働求職者給付及び広域延長給付)は分の、日雇求職者及び高年齢求職者以外の者に対する求職者給付(一般求職者給付と短期雇用特例求職者給付)は分の、雇用継続給付(育児休業給付と介護休業給付)については分のとされる(ただし、当面の間、それぞれの分の五十五)。しかし、求職者給付のうちの高年齢求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付のうちの高年齢雇用継続給付については、国庫負担はない。一方、二事業の運営に対しても、国庫負担はない。
雇用保険の失業等給付の原資には、[[個人事業主|事業主]][[労働#労働者|労働者]]原則折半して負担する保険料に加え、国民の生存権の保障に資するという目的から[[国庫]]負担金も用いられる。国庫が負担する割合は、日雇求職者及び広域延長給付に係る受給者に対する求職者給付(日雇労働求職者給付及び広域延長給付)は3分の1、日雇求職者及び高年齢求職者以外の者に対する求職者給付(一般求職者給付と短期雇用特例求職者給付)は4分の1、雇用継続給付(育児休業給付と介護休業給付)については8分の1とされる(ただし、当面の間、それぞれの100分の55)。しかし、求職者給付のうちの高年齢求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付のうちの高年齢雇用継続給付については、国庫負担はない。一方、二事業の運営に対しても、国庫負担はない。

=== 管掌 ===
「雇用保険は政府が管掌する」と法定され、雇用保険の保険者は国である。法規上は厚生労働大臣が幅広い権限を有しているが、実際にはその多くが都道府県労働局長に委任され、さらに[[公共職業安定所]]長に再委任されている。

具体的には、厚生労働省職業安定局が制度全体の管理運営を行い、都道府県労働局が保険料の徴収、収納の事務を行い、公共職業安定所が適用、給付事務を行う。また、船員法第1条に規定する船員が失業した場合には、公共職業安定所のほかに地方運輸局も給付事務を行う。さらに、都道府県知事は、能力開発事業における職業訓練を行う事業主等に対する助成の事業の実施に関する事務等を行う。

=== 適用事業所 ===
労働者を雇用する事業所は、「雇用保険'''適用事業所'''」となる。国・地方公共団体が行う事業、外国人事業主が日本国内で行う事業も労働者が雇用される事業に該当すれば適用事業所となる。


以下のすべての要件を満たす事業は、「暫定任意適用事業」となり、雇用保険に加入するかどうかは、事業主及び労働者の2分の1以上の意思に任される。
=== 適用される事業所 ===
*農林水産業(船員が雇用される事業を除く)であること
「1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上引き続いて雇用される見込みのある」労働者を1人以上雇用する事業所は、法人、個人を問わず、原則「雇用保険適用事業所」となる。
*個人経営であること
*常時5人未満の労働者を使用すること


=== 被保険者の種類 ===
=== 被保険者の種類 ===

2013年2月7日 (木) 13:58時点における版

雇用保険(こようほけん)とは、雇用保険法に基づき国(日本政府)が運営する保険の制度である。

雇用保険被保険者証 (最新様式)原本も黒一色

基本事項

沿革

  • 1947年(昭和22年)- 失業者の生活の安定を目的として、「失業保険法」(昭和22年法律第146号)が制定される。その中で、失業保険制度が創設される。
  • 1974年(昭和49年)- 失業者の生活の安定、および三事業(雇用改善事業、能力開発事業、雇用福祉事業)を目的として、「雇用保険法」(昭和49年法律第116号)が制定される。失業保険法は廃止され、失業保険制度に代わって雇用保険制度が創設される。
  • 1977年(昭和52年)- 「雇用保険法等の一部を改正する法律」(昭和52年法律第43号)により、雇用改善事業に代わって雇用安定事業が規定される。
  • 2007年平成19年)-「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成19年法律第30号)により、雇用福祉事業が廃止され、三事業は二事業となった。その他、被保険者および受給資格要件の一本化[1]や、国庫負担の見直し等も含めた改正がなされた。

目的

雇用保険は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。

この目的を達するために、失業等給付を行うほか、二事業(雇用安定事業、能力開発事業)を行う。

原資

雇用保険の失業等給付の原資には、事業主労働者が原則折半して負担する保険料に加え、国民の生存権の保障に資するという目的から国庫負担金も用いられる。国庫が負担する割合は、日雇求職者及び広域延長給付に係る受給者に対する求職者給付(日雇労働求職者給付及び広域延長給付)は3分の1、日雇求職者及び高年齢求職者以外の者に対する求職者給付(一般求職者給付と短期雇用特例求職者給付)は4分の1、雇用継続給付(育児休業給付と介護休業給付)については8分の1とされる(ただし、当面の間、それぞれの100分の55)。しかし、求職者給付のうちの高年齢求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付のうちの高年齢雇用継続給付については、国庫負担はない。一方、二事業の運営に対しても、国庫負担はない。

管掌

「雇用保険は政府が管掌する」と法定され、雇用保険の保険者は国である。法規上は厚生労働大臣が幅広い権限を有しているが、実際にはその多くが都道府県労働局長に委任され、さらに公共職業安定所長に再委任されている。

具体的には、厚生労働省職業安定局が制度全体の管理運営を行い、都道府県労働局が保険料の徴収、収納の事務を行い、公共職業安定所が適用、給付事務を行う。また、船員法第1条に規定する船員が失業した場合には、公共職業安定所のほかに地方運輸局も給付事務を行う。さらに、都道府県知事は、能力開発事業における職業訓練を行う事業主等に対する助成の事業の実施に関する事務等を行う。

適用事業所

労働者を雇用する事業所は、「雇用保険適用事業所」となる。国・地方公共団体が行う事業、外国人事業主が日本国内で行う事業も労働者が雇用される事業に該当すれば適用事業所となる。

以下のすべての要件を満たす事業は、「暫定任意適用事業」となり、雇用保険に加入するかどうかは、事業主及び労働者の2分の1以上の意思に任される。

  • 農林水産業(船員が雇用される事業を除く)であること
  • 個人経営であること
  • 常時5人未満の労働者を使用すること

被保険者の種類

被保険者(加入者)は雇用保険適用事業所に雇用されている者である。なお、離職した者は被保険者ではない。 適用事業に雇用される者は国籍を問わず原則被保険者となる。

退職手当制度が適用される公務員は、退職金によって失業中の生活の保障がなされるため、雇用保険の被保険者とはならない。勤続年数が短いことにより退職手当の金額が雇用保険の一般求職者給付に比して少額である、あるいは、懲戒免職されたことにより退職手当の支給がなされない者については、「国家公務員退職手当法」や地方自治体の「退職金条例」の規定に基づき、雇用保険と類似の給付(「失業者の退職手当」)が受給できる場合がある。

一般被保険者

一般被保険者とは、雇用保険適用事業に雇用されている者で、下記に規定する者以外をいう。適用要件は次のとおりである。

当該事業所における通常の労働者と同じ時間働く者は被保険者となる。通常の労働者よりも勤務すべき時間が短い者(「短時間就労者」という)は、「1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上引き続いて雇用される見込みのある」者が被保険者となる。予定雇用期間が31日未満であっても、更新により同一の仕事に31日以上従事する見込みがあれば適用となる。ただし、日雇い派遣等で(個々の契約が31日未満の場合)通算して1年間働いても(たとえ休日なしで365日連続であっても)対象とはならない[要出典]。なぜなら、たまたま1日ごとに仕事を登録してその結果1年間仕事が得られただけであって、1年間仕事してもらうという約束ではないからである。これが、予定雇用期間1年であって、個々の仕事が1日ごとの派遣の契約であった場合は、包括して1年間の仕事の契約があったとみなす。社会保険は、日雇いであっても連続して2ヶ月を超えて雇い入れされればその2ヶ月を超えた日から被保険者となる。(空白が30日未満であれば、空白の日の含めて計算することが多い)社会保険は、適用事業所が払った賃金に対して保険料を決定して徴収されるのに対して、雇用保険は労働者の身分等の保障が目的である。事業所・事業主を単位として適用するわけではなく、その職務や事業に対して適用する。

受給資格

一般被保険者が受給権を得るためには、原則、「離職前の2年間において、賃金支払いの対象となった日が11日以上ある完全な月が12ヶ月以上あること」が必要である。ただし、「倒産」、「事業主都合による解雇」、「正当な理由のある自己都合」、「契約期間満了により離職した者で、契約更新を希望していたにも関わらず契約更新がされなかったことにより離職した者」は、賃金支払いの対象となった日が11日以上ある完全な月が12ヶ月以上ない場合であっても、離職前の1年間において、賃金支払いの対象となった日が11日以上ある完全な月が6ヶ月以上ある場合については受給資格を得ることができる。

離職理由はハローワークに来所する直前の事業所(15日以上被保険者期間があるもの)における理由である。例えば、6ヶ月働いた事業所を解雇された者が、別の事業所において1ヶ月働いた後に自己都合退職してハローワークに来所した場合は、「自己都合」退職扱いとなり受給資格は得られない。20年働いた事業所を自己都合退職した者が、別の事業所において1ヶ月働いて解雇された後にハローワークに来所した者は、「倒産等」の退職扱いとなり、後述の「特定受給資格者」となる。ハローワークに来所するタイミングによって、受給できるか否か、受給可能日数について大きな差ができる場合がある。

高年齢継続被保険者

高年齢継続被保険者とは、65歳未満で雇用され、現在65歳以上になっている労働者をいう。なお、雇用される時点において65歳に達している者は被保険者とならない。高年齢継続被保険者が受給権を得るためには、原則、「離職前の1年間において、賃金支払いの対象となった日が11日以上ある完全な月が6ヶ月以上あること」が必要である。なお、離職の理由は問わない。

短期雇用特例被保険者

短期雇用特例被保険者とは、季節的に雇用されている労働者(出稼ぎ)などをいう。雇用対策としての観点から特例として被保険者となる。短期雇用特例被保険者受給権を得るためには、原則、「離職前の1年間において、賃金支払いの対象となった日が11日以上ある月(完全な月でなくともよい)が6ヶ月以上あること」が必要である。なお、離職の理由は問わない。 但し次の状態にある者は短期雇用特例被保険者に該当しない。 短時間労働者(1週間の所定労働時間が同一の適用事業に雇用される通常の労働者よりも短く、かつ、週あたりの所定労働時間が30時間未満である者)が、短期雇用特例被保険者の要件に該当する(季節的に雇用されるか、短期の雇用に就くことを常態とする)場合は、雇用保険の適用除外者になります。

日雇労働被保険者

日雇労働被保険者とは、日々雇用される者、または、30日以内の期間を定めて雇用される労働者(日雇い労働者)のうち、適用区域に居住または雇用される労働者をいう。

雇用保険被保険者証

事業主が、所轄の公共職業安定所長に雇用保険被保険者資格取得届を提出し、確認を受けると、雇用保険被保険者証(以下「被保険者証」)及び雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(被保険者通知用)(以下「取得確認通知書」)が交付される。コンサートチケットぐらいの大きさで、中央より切り取ることにより、それぞれの書類に分かれる。

雇用保険被保険者証 (2012年交付の旧様式)
雇用保険被保険者証 (2004年交付の旧様式)


事業主は、原則として両方とも被保険者(労働者)に交付する必要があるが、歴史的に被保険者証を事業主が保管している場合があり、この場合は、取得確認通知書を被保険者に交付することとなっている。被保険者証を事業主が保管している場合でも在籍中のみであり、退職時には被保険者に返却される。被保険者証は、退職後の雇用保険受給手続きや新たに雇用保険適用事業所へ雇用された場合、提出が必要となるので離職票と共に紛失しないように保管する必要がある。

被保険者証そのものに有効期限の記載はないが、新たな事業所で資格を取得すると被保険者証も交付され、その時点で古い被保険者証は回収となり効力を失うが、被保険者番号は原則変わらない。(変わると通算期間算定などで不利益が発生するから、注意が必要である。)

実務上は、被保険者番号さえ分かれば手続に問題はないので、古い被保険者証であってもそれが今まで使用していた被保険者番号と同一であれば問題はなく、もし被保険者証そのものがなくても資格取得届の内容から公共職業安定所がデータを検索し確認するので、今までの被保険者番号で継続して被保険者となることができる。また、被保険者証は保険証や社員証と違い身分証明書としては通用せず、悪用されにくいため、回収されない場合も多い。あくまでも、同じ被保険者番号を継続させることが重要である。なお、被保険者証を確認できる書類が一切なく、公共職業安定所においても確認ができない場合は、新規加入となり、新たな被保険者番号と被保険者証が交付される。

被保険者証が複数枚ある場合で、すべて同じ被保険者番号であれば最新の被保険者証以外は処分しても良いが、被保険者番号が異なる場合は、統合手続が必要となるので、公共職業安定所に申し出る必要がある。

※裏面に「二重に交付を受けることの無いように」の旨、記載があるが、この「二重に」は、「別の被保険者番号で」という意味であるから、同じ被保険者番号で被保険者証が複数ある場合は、前述の通り古い物を処分すればよい。

なお、雇用保険に関する手続は、原則在職中は事業所を経由、離職後は本人が直接手続をする。

雇用保険被保険者資格取得等確認通知書

雇用保険被保険者資格取得届出確認照会回答書

取得確認通知書は、被保険者に雇用保険の資格の取得手続が行われたことを通知する書面であり、事業主を経由して被保険者に交付される。雇用保険への加入を確認する書面として、被保険者証と似た役割を持つが、取得確認通知書でしか確認できない事項として、資格取得年月日、事業所名、受理日が記載されている。2011年の改正前の様式では、被保険者証にすべてが記載されていて、取得確認通知書は交付されていなかった。

しかし、雇用保険など各種保険制度に精通している労働者は少なく、事業主を信頼して当然に加入しているものと思い、実際退職時に雇用保険に入っていなかったことを初めて知る労働者が発生、これにより退職した労働者が予定していた給付を受けられない問題が多発した。これはそもそも被保険者に交付しなければならない被保険者証を便宜上事業主が管理していることにより、被保険者自身は雇用保険に加入したかの確認が実質できないため、この対策として、被保険者へ雇用保険に加入したことを通知する専用の書面として被保険者証とは別に交付されるようになっているが、これすら渡されない場合は、事業主に雇用保険への加入を確認すべきである。

また、被保険者であると思われる者はいつでも公共職業安定所に申し出れば無料で雇用保険の加入状況の確認(雇用保険被保険者資格取得届出確認照会)することができる。

公共職業安定所としては、従来通り被保険者証と共に交付するように指導しているが、未だ浸透しておらず、会社が保管しているケースもある。

会社が保管する理由としては、

  • 被保険者側としては主に退職後に使用する書類であり、資格取得時点で渡してしまうと、一般的にそのまま何年も保管しなければならず、退職時には紛失してしまっているケースがあり、事業主は再交付の事務手続が増えるため。
  • 事業主は、被保険者の在職期間中は雇用保険に関する事務手続(住所変更など)を行う義務があるため、その度に被保険者証を確認する手間が増える。(実務上は、被保険者番号を労働者名簿などに控えるか、そのコピーを保管すれば事足りる。)

なお、退職後新たに勤務する事業主へ取得確認通知書は提出する必要はないが、新様式の場合は切り取らずそのまま渡しても問題ない(旧様式の場合は全体で被保険者証であるから改変はできない)。個人情報が気になる場合は切り取って被保険者証のみを新たに勤務する事業主に渡しても良いが、取得確認通知書に記載されている個人情報は通常は履歴書と同程度のものであるから、切り取ることにより事実上秘匿できる情報はない。

失業等給付

求職者給付

基本手当

基本手当とは、被保険者が離職した場合に、働く意欲や能力があり、求職活動を行っているにも関わらず、就職できない場合に支給される手当である。

基本手当は、一般被保険者を対象とする。

受給を受けるための要件

事業所を離職した場合において、加入期間等を満たし、「失業」状態にある者が給付の対象となる。

ここでいう「失業」状態とは、「就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就くことができない」状態のことである。したがって、「離職」した者であっても、下記の者は「失業」状態ではなく、給付の対象とはならない。

  • 病気、ケガ、妊娠、出産、育児、病人の看護などにより働けない者
    • これらの者については、後述する「受給期間の延長」の手続きをとることにより、働けるようになった時点で給付を受けることが可能である。
  • 退職して休養を希望する者
    • 60歳から64歳までに定年退職した者で休養を希望する者は、申請により退職後1年の期間に限って受給期間を延長することができる。
  • 結婚して家事に専念する者
  • 学業に専念する者
    • いわゆる「昼間学生」がこれに該当する。
  • 自営業を行う者
    • 自営業の準備に専念する者を含む。
  • 会社の役員(取締役、監査役)である者
具体的な受給手続きの流れ

下記に述べるのは、一般被保険者であった者についての受給手続きの概略である。

一般求職者給付については、給付を受けようとする者が自らの意思に基づいてハローワークに求職申し込みをすることより給付を受けるべきものとされる。就職意思を積極的に示さない者に対して一般求職者給付はなされないのである。

雇用保険の受給に際しては、自己の住居を管轄する公共職業安定所に出頭し、求職の申し込みを行う必要がある。すなわち、就職するにあたって希望する条件を具体的に申述することが求められる。

  • 就職意思の有無については、雇用保険の加入対象となる労働条件、すなわち、1週間に20時間以上の就労を希望しているか否かが判断基準とされる。したがって、おおよそ職に就いているとは言えないような極めて短時間の就労や随意的な就労を希望する者については、「就職の意思」があるとは認定されない。
  • 勉学、休養、旅行などの理由により、直ちに就職することを希望しない者については、当然、「就職の意思」はないものとして扱われる。

この段階において、現在、職業についているか否か、病気、ケガなどの理由により直ちに就職できない者であるか否かの確認が行われる。

上述の求職申し込みの後、約4週間後に設定される「認定日」に公共職業安定所に出頭し、失業状態であることの確認を受けることにより、雇用保険金が支給される。(このプロセスを「失業の認定」という)。失業状態が続く場合において、「認定日」は原則4週間ごとに設定される[2]

失業の認定は「認定日」においてのみ行いうる(雇用保険法第30条)。認定日は、特段の事由[3]がない限り変更されず、かつ、認定日以外の日において失業の認定を受けることはできない。

「認定日」に給付を受けようとする者が自らハローワークに出頭し求職の申し込みをすることにより、「就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力」があることの確認がなされる。したがって、代理人による認定や郵送による認定は行うことができない。ただし、職安の閉庁日(土・日・祝日、年末年始)の前日に就職の届出を行った者が、閉庁日または閉庁日の翌日に就職する場合に限って例外的に郵送による失業認定が可能である。

最初に雇用保険受給手続きを取った日から失業であった日(ケガや病気で職業に就くことができない日を含む)が通算して7日に満たない間については支給されない。これを「待期」という(雇用保険法第21条)。

基本手当をうけることのできる期間(受給期間という)は、通常、離職日の翌日から1年間である。受給期間を超えて失業していたとしても支給をうけることはできない。(雇用保険法第20条)。また、受給し得る最大限度の日数(所定給付日数という)が定められている。

1週間の間に20時間以上働いた場合においては、その仕事に従事した期間は働かなかった日も含めて認定されない。すなわち、「失業」ではなく「就職」状態とみなされる。仮に、「就職」状態に至ったとしても、その仕事を辞めて「失業」状態に至れば再度認定を受けることは可能である。

1週間の間に20時間未満働いた場合において、他に安定した職業に就くために求職活動を行っている場合については、失業であった日について認定がなされる。例えば、1週間(7日間)の間に2日間アルバイトをすれば、アルバイトをしなかった5日間が失業であったと認定(雇用保険金が給付)される。ここで言う「アルバイト」とは1日に4時間以上働いた場合を指す。1日に4時間未満働いた場合においては働いた日であっても認定されるが(「内職」「手伝い」程度とみなされる)、収入を得た段階で収入額に応じて減額支給されることとなる。

雇用保険受給中に、病気その他の理由により引き続き15日以上就職できない状況が発生した場合については、その期間については「失業」状態とは認定されない。ただし、病気・ケガなどの理由による場合については「(雇用保険の)傷病手当」の支給がされる場合がある。あるいは、受給期間の延長ができる場合がある。

雇用保険受給中に就職(パートやアルバイトも含む)した場合において、「就業促進手当」が給付される場合がある。

「就業促進手当」は、「安定した」職業に就いた場合に支給される「再就職手当」、「安定していない」職業に就いた場合に支給される「就業手当」、障害者などのいわゆる「就職困難者」がハローワーク等の紹介により安定した職業に就いた場合に支給される「常用就職支度手当」の3種類がある。 「再就職手当」、「就業手当」を受給した場合は、支給額に相当する日数を既に支給したものとみなされる。 「常用就職支度手当」は、本来給付を受けることができる日数とは別途に「常用就職支度手当」がなされる。

偽りの申告をなす等不正な手段で給付を受けた場合、受けようとした場合は「不正受給」として処分される。「不正受給」とされた場合、不正に受給した金額の3倍以下の金額を納付(返還)しなければならないほか、残余の日数についても支給を受けることはできない。故意の不正受給行為は、「詐欺罪」を構成することは勿論である。

上記の事項については、初めて雇用保険の手続きを取った日から約1〜2週間後に開催される雇用保険説明会において説明がなされる。

給付される金額(基本手当日額)

失業したと認定された1日あたりに支給される金額を、「基本手当日額」という。例えば、認定日において20日失業したと認定されれば、「基本手当日額」に20日を乗じた基本手当が支給される。

  • 基本手当日額は、原則、離職日直前6ヶ月間の賃金(税引前)の総和を180で除した金額の45%〜80%の金額である。なお、上限および下限が規定されている。
  • 基本手当日額は、離職した理由や給付を受ける者の住所地において区別はされない。
  • 「賃金」には、いわゆる「ボーナス」や「退職金」は含めない。
  • 基本手当日額は、毎年8月1日付で見直し(改定)される。
  • 基本手当日額は、離職時の年齢により上限が異なっている(下限は年齢により異なることはない)。
  • 60歳以上〜65歳未満で離職した者と、それ以外の年齢で離職した者とでは算定式が一部異なっている。
  • 基本手当日額の下限(最低額)は1640円である。上限(最高額)は、離職時の年齢が30歳未満の者については6295円、30歳以上45歳未満の者については6990円、45歳以上60歳未満の者については7685円、60歳以上65歳未満の者については6700円(平成21年6月25日改正)。65歳以上の者については6395円である。
  • 「就業促進手当」の支給金額の算定にあたっては、別途の上限額が定められている。
受給期間延長

雇用保険金を受給することができる期間を「受給期間」という。受給期間は離職日の翌日から1年間である。したがって、離職してから1年以上経過した日に失業していた日があった場合、給付日数が残っていたとしても受給することはできない。

ただし、以下の理由により引き続き30日以上職業に就くことができない場合においては、申請により前述の「受給期間」に職業に就くことができない期間を加算することができる。これを「受給期間の延長」という。

  1. 求職者本人の疾病負傷労災保険健康保険から傷病による休業給付(休業補償傷病手当金)をもらっている場合も含む}
  2. 妊娠出産育児(子供が3歳になるまで、または保育先が見つかるまで)
  3. 家族の看護(民法上の親族が常時受給者本人の介護を必要とする場合や小学校入学前の子供の看護のため働けないとき)
  4. 正当かつ公的な理由のある海外渡航
    1. 事業所の命による配偶者の海外勤務に同行(配偶者が事業主の命によらず海外で就職する場合は含まない)
    2. 青年海外協力隊国際協力機構=JICA)など公的機関が行う海外技術指導ボランティアに参加(派遣前に行われる日本国内での訓練初日より受給期間を延長できる)
  5. 公的機関が募集するボランティア活動(天災の被災地を支援するものなどが該当する)に参加する場合
  • 職業に就くことができない期間として猶予が認められるのは、最大3年間である。したがって、本来の「受給期間(1年)」+「職業に就くことができない期間(3年)」の合計4年間の間に受給できなかった給付日数は失効することとなる。
  • 「受給期間の延長」が認められるのは、「職業に就くことができない」期間についてのみである。例えば、病気を理由に受給期間の延長が認められた場合、病気が治癒し就職が可能な状態に回復するまでの期間しか受給期間の延長は認められないのである。受給期間の延長を行った者がハローワークに来所しないまま再就職した後、新たな受給資格を得ない段階で離職した場合、以前の離職票に基づく受給ができなくなる場合がある。
  • 傷病を理由としない休養、留学、進学、官憲による身柄の拘束(自由刑の執行など)といった理由では受給期間の延長は認められない。ただし、60歳以上64歳以下の年齢で定年退職した者については、単に休養したいという理由だけで最長1年間の受給期間の延長が認められる。
  • 離職時において65歳以上である者(高年齢求職者給付金の対象となる者)については、受給期間の延長は認められない。例えば、65歳以上で離職し1年以上入院した者に対する雇用保険上の救済措置はない。
給付を受けることができる上限日数(所定給付日数)

「失業」状態にあれば無期限に給付がなされるのではなく、給付日数には上限が定められている。雇用保険金が支給される上限日数を「所定給付日数」という。

  • 「所定給付日数」は、「失業状態であると認定されれば受給することが可能となる最大限度の日数」という意味である。したがって、失業すれば所定給付日数のすべてを当然に受給できるという考え方は誤りである。
  • 所定給付日数は、被保険者であった期間が10年未満の者については90日、10年以上20年未満の者については120日、20年以上の者については150日である(一般被保険者であった者の場合)。
再就職の準備をする間もなく離職を余儀なくされた者(特定受給資格者・特定理由離職者)

倒産解雇、業績悪化による希望退職、いわゆる「雇い止め」などの理由により、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた一般被保険者であった者(「特定受給資格者」・「特定理由離職者」)という→特定受給資格者の範囲(ハローワークインターネットサービス))については、雇用保険の受給要件や所定給付数についても別段の定めによることとされている。すなわち、通常1年以上雇用保険に加入しなければ受給できないが、これらの理由で離職した者は加入期間6ヶ月で受給できるほか、所定給付日数は、90日〜330日(離職時の年齢や被保険者であった期間で異なる)とされる。

倒産、解雇による離職でなくとも、これらに準ずる理由により離職したと安定所長が認定した場合については、特定受給資格者となる。例えば、賃金賃金の未払いが続いたため退職した場合、過度の長時間労働が続いた(退職直近3ヶ月の残業時間が、三六協定の上限である月45時間を連続して超えるのが目安となる)ため退職した場合、3年以上に渡って有期の雇用契約が更新され続けた場合において事業主が雇用契約を更新しないとした場合、有期雇用者において、雇用契約の更新が明示されていた者が雇用契約が更新されなかった者などである。

「正当な理由のある自己都合退職」による理由で離職した者、「有期雇用者において、雇用契約の更新が明示されていなかった者が雇用契約が更新がされず離職することを余儀なくされた者は「特定理由離職者」となる。「特定理由離職者」については、当分の間(2014年3月31日まで)については、受給資格を得る要件については「特定受給資格者」と同じ扱いを受ける。所定給付日数については離職前2年間で賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12か月以上なく、離職前1年間で賃金支払基礎日数が11日以上ある月が6か月以上ある場合に「特定受給資格者」と同じ扱いを受ける。

ハローワークは、障害者、母子家庭の母などのいわゆる「社会的弱者」を雇用した事業所に対して「助成金」の支給を行っている。(雇用保険被保険者である)従業員を1人でも解雇した事業所に対しては、「助成金」は相当期間支給されないのである。解雇でなくとも、上述の「特定受給資格者」と認定された離職者が相当数いる事業所についても同様の措置が取られる。したがって、特定受給資格者であるか否かについては、事業主、離職者双方の意見を聞いた上で、客観的証拠に基づき厳格に判定される。

  • 本来受給権が得られない雇用保険加入期間が1年未満の「正当な理由のある自己都合退職」による理由で離職した者についても、「特定理由離職者」としての判定を受けるため、客観的証拠に基づき厳格に判定される。
  • いわゆる「就職困難者」についても別段の日数が定められている。この場合の所定給付日数は150日〜360日(離職時の年齢や被保険者であった期間で異なる)である。なお、離職理由による区別はない。

「就職困難者」とは下記に該当する者である。

身体障害者手帳を所持する者、療育手帳を所持する知的障害者、精神障害者保健福祉手帳を所持する者、統合失調症、そううつ病またはてんかんにかかっている者、社会的事情により就職が著しく阻害されている者であるとハローワーク所長が認定する者である。

かっては、「社会的事情により就職が著しく阻害されている者」の中に、いわゆる「同和地区出身者(35歳以上で高等学校卒業以下の学歴であり、大企業の正社員として勤務したことがない者に限る)」が含まれていた。2001年4月に行われた国の同和対策の転換(地対財特法の失効)により、国は社会全体に対する啓発である「一般対策」としての同和対策を行うものとされ、同和地区出身者に対して個別に優遇措置を適用すること(「特定対策」)は全廃されるに至っている。前述の国の同和問題に対する方針を受けて、現在では単に「同和地区出身者」という理由だけでは「就職困難者」とは認められない。

給付制限

一身上の都合(自己都合)による離職、「重責解雇」で離職した者については、直ちには給付されず、1ヶ月から3ヶ月の期間をおいた後に給付がなされる。これを(雇用保険法33条による)「給付制限」という。

一身上の都合(自己都合)で離職した者は、「自発的に失業状態となるに至った者」である。自発的に離職した者については、通常、再就職にあたっての準備が可能であるので、直ちに雇用保険金を給付することは要しないとされる。したがって、これらの理由で離職した場合3ヶ月の給付制限が課されるため、実際に雇用保険金を受け取れるのは、雇用保険の手続きをはじめて取った日から約4ヶ月後である。なお、受給資格決定(職安に最初に来所)後、待期期間が満了するまでの間に2ヶ月以上の被保険者期間(雇用保険加入歴)がある場合には、給付制限期間は1ヶ月に短縮される。

ただし、次のような場合は、一身上の都合(自己都合)による離職であっても、給付制限は課せられない。「正当な理由のある自己都合退職」とみなされる。先述の「就職困難者」であっても、一身上の都合(自己都合)で離職すれば正当な理由があると認定されない限り給付制限が課される。

  • 体力の不足・病気・ケガなどの理由で職種の転換を余儀なくされた場合。(例えば、タクシーの運転手が失明したために退職した場合があげられる。)なお、65歳以上の年齢で退職した場合、実務取扱上「体力の不足」による退職と認定される場合は多い。
  • 妊娠・出産・育児などの理由により、離職後直ちに受給期間の延長措置を受けた場合
  • 家庭の事情の急変により離職した場合(親族の死亡・入院・介護など)
  • 配偶者と同居するために退職し、通勤が困難となった場合。(「通勤が困難」とは、会社までの所要時間が片道2時間以上に至った場合を指す。)
  • 交通機関の廃止・ダイヤ変更などにより通勤が困難になったとき。

これらの事情に該当すると思われる場合については、事情を申述し、場合によっては資料の提出を行った上で、正当な理由の有無についての判定を求めることとなる。 「正当な理由の有無」については、給付される日数が増えるものではなく、「正当な理由のある」離職者が存在する事業所にも「助成金」は支給されるため、寛大な判定がされることがある。ただし、加入期間が一年未満の者が上述の理由で離職した場合は「特定理由受給資格者」となるため、客観的資料に基づき厳格な判定がなされる。

正当な理由がなく公共職業安定所が行う職業指導や職業訓練の受講指示を拒んだ場合などについては、雇用保険法32条による「給付制限」が課される場合がある。あえて就職を拒否する言動を行う者に対して相当期間雇用保険金の給付をなさないとすることは、雇用保険制度の趣旨から考えて当然であるからである。 この場合の給付制限期間は1ヶ月間である。

求職活動(認定要件)

失業認定がされる要件として、「失業」状態にあるということに加えて、「求職活動」を所定の回数以上行っていることが必要である。「求職活動」とは、以下のものを指す。

これらの活動を前回認定日から当該認定日前日までの間(4週間)に2回以上行っていれば認定となる。

ただし次の場合に限り下記の要件を満たせば認定となる。

  • 給付制限が課せられない場合は、第1回目の認定日までの期間は求職活動を1回行なっていればよい。(通常、雇用保険説明会に出席すれば認定となる)
  • 給付制限が課せられているときは、待期期間経過後、給付制限期間終了直後の失業認定日の前日までに求職活動を3回行なっている必要がある。
  • 求人に応募(ハローワークの紹介であるか否かを問わない)し、結果が通知されるまで期間は引き続き求職活動を行っているものとみなされる。
  • 「就職困難者」は、各認定日ごとに求職活動を1回ずつ行っていれば認定される。
  • 支給を受ける日数が7日未満の場合、待期期間が満了したということのみの認定を受ける場合は、求職活動を行っていなくとも認定される。
  • 支給を受ける日数が7日以上14日未満の場合については、求職活動を1回行っていれば認定される。

以下の行為は、「求職活動」とはならない。

  • 新聞、雑誌、インターネットでの求人情報閲覧。
  • 知人への単なる就職あっせん依頼。
  • インターネット等による単なる派遣就業登録など。

「求職活動」という概念が導入されたのは、2003年9月からである。それまでは、仕事を探していたかどうかということについては厳密な確認を求めずに認定を行っていたが、雇用保険制度のありかたが見直される中で「求職活動」という概念が導入されるに至った(失業認定の厳格化)。「失業認定の厳格化」と言っても、雇用保険は「失業」すなわち、仕事を探している者に対して支給がなされるものであることは全く変わっておらず、「求職活動」として掲げられている事項については、仕事を探しているならば当然に行っているべきである事項を列挙したに過ぎないというのが厚生労働省の見解である。

なお、求職活動を行ったということについて虚偽の申告を行えば不正受給となる。

受給者が死亡した場合

受給者が死亡した場合、前回の認定日から死亡した日の前日までの雇用保険金を遺族が受けることができる場合がある。(「未支給失業等給付」という)

  • 「未支給失業等給付」は民法ではなく雇用保険法で定められた権利である。
  • 雇用保険金の受給権は、受給者本人に一身専属する権利である。したがって、民法上の相続の対象とはならない。
  • 「遺族」は、受給者と同一生計の者に限る。「同一生計」とは、受給者の収入により生計を立てていた者である。したがって、受給者の配偶者や子であっても、受給者の収入で生計を立てていない者は受給することはできない。一般に、受給者と同居していた場合は同一生計であったとみなされるが、別居していた場合は受給者から生活費の送金を受けていたことを立証する必要がある。
  • 受給することができる者は、順に、死亡者の配偶者、子、父母、兄弟である。先順位者がある場合は後順位者は受給をすることはできない。同一順位者がある場合は、公共職業安定所は同一順位者の内の一人に全額を支給すれば足りる。
  • 受給者が死亡したことを知った日の翌日から1ヵ月以内にハローワークに対して請求することが必要である。
処分に不服がある場合

ハローワーク所長が行った処分(認定)に不服がある場合は、その処分があったことを知った日の翌日から60日以内に雇用保険審査官に対して不服の申し立て(審査請求)をすることが可能である。

雇用保険の処分に関する認定権限者は、自己の居住地を管轄するハローワーク所長である。厚生労働省本省やハローワークの上部機関である都道府県労働局は、個々の処分についての認定権限は持っていない。雇用保険に関する要望をこれらの機関に「直訴」する者がいるが、上記理由につき自己の居住地を管轄するハローワークで相談するよう「助言」されることとなる。なお、雇用保険審査官は、公共職業安定所長と同格か、格下(ハローワークの次長)クラスのポストである。

さらに、雇用保険審査官の決定に不服がある場合は、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内に労働保険審査会に再審査請求ができる。また、雇用保険審査官が審査請求をした日の翌日から起算して3ヶ月を経過しても審査請求に対する決定をしない場合も労働保険審査会に再審査請求ができる。

なお、処分の取消訴訟は原則として労働保険審査会の裁決を経た後でなければ提起できない。ただし、再審査請求がされた日の翌日から起算して3箇月を経過しても裁決がないときや再審査請求についての裁決を経ることにより生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるときその他その裁決を経ないことにつき正当な理由があるときには労働保険審査会の裁決を経ることなく取消訴訟を提起することができる。

技能習得手当

ハローワークの専門的裁量に基づき支給対象とされた者に対して支給される。したがって、これらの給付については、申請すれば当然に支給対象者と認められるといった性質のものではない。

技能習得手当には、公共職業訓練の受講の指示を受けた者に対する「受講手当」(職業訓練を受講した日1日あたり700円)、および「通所手当」(原則、公共交通機関の乗車料金の実費)がある。公共職業訓練の受講指示を受けた者は、所定給付日数の給付を受けた終えた後でも訓練修了まで引き続き延長して基本手当、受講手当、通所手当の給付がなされる(「訓練延長給付」と言う)。 なお、これらの給付については、基本手当の受給資格のある一般被保険者が対象である。

寄宿手当

寄宿手当は、一般被保険者を対象とする。

傷病手当

- 受給資格者が連続15日以上引き続いて傷病のために職業に就くことができなくなった場合について、(雇用保険の)傷病手当が支給される場合がある。 - 65歳以上で離職した者(高年齢受給資格者)には傷病手当は支給はされない。

一般被保険者以外を対象とする求職者給付

高年齢求職者給付金

高年齢者継続被保険者に対する求職者給付として、高年齢求職者給付金がある。

特例一時金

短期雇用特例被保険者に対する求職者給付として、特例一時金がある。

日雇労働求職者給付金

日雇労働被保険者に対する求職者給付として、日雇労働求職者給付金がある。

就職促進給付

就業促進手当

基本手当は失業状態にある場合について支給されるが、就職・就業した場合についても給付をなすことにより就職を促進する制度である。

再就職手当

再就職手当は、一定以上の残日数(1/3以上)を残して安定した職業に再就職した場合に、残日数の一定割合(残日数が所定給付日数の2/3以上ならば残日数の60%・1/3以上ならば残日数の50%)を一括で給付する制度である。早期に再就職した場合についても相当額の支給をなすことにより、再就職への自助努力を促進する制度である。条件を満たして早期に再就職すれば、残日数の60%または50%が一括で支給されるので、就職へのモチベーションを高めるために欠かせない制度とされている。

就業手当

就業手当は、一定以上の残日数(1/3以上かつ45日以上)を残して安定していない職業に就いた場合に、基本手当日額の30%を支給する制度(上限あり)である。 早期に就業した場合についても相当額の支給をなすことにより、就労への自助努力を促進する制度である。ただし、就業手当支給に該当する場合、基本手当は受給できない。

常用就職支度手当

常用就職支度手当は、基本手当等の受給資格があり、障害等で就職が困難な人が安定した就職をした場合に、条件により支給される。

移転費

移転費は、就職に当たって住居を移転する場合に支給される。ハローワークの専門的裁量に基づき支給対象とされた者が対象となる。

広域就職活動費

広域就職活動費は、広い範囲で就職活動を行う際に支給される。ハローワークの専門的裁量に基づき支給対象とされた者が対象となる。

教育訓練給付

教育訓練給付金

教育訓練給付制度に基づき、働く人による自主的な能力開発を支援し、雇用の安定や再就職の促進を目的として、教育訓練の経費の20%相当が給付される。ただし、4千円以上の経費を対象とし、上限は10万円とする。

雇用継続給付

高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付には、高年齢者雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金がある。原則として、60歳以上65歳未満の一般被保険者(但し、被保険者期間5年以上)に対して、60歳以降の賃金が60歳時点における賃金の75%未満の状態で働き続ける場合に、支給される。

育児休業給付

育児休業給付には、育児休業期間中に支給される育児休業基本給付金と、育児休業終了後6ヶ月を経過した時点で支給される育児休業者職場復帰給付金がある。

介護休業給付

介護休業給付は、家族を介護するために休業した場合に支給される。

二事業

下記の事業は、事業者から集めた二事業率分の保険料のみによって行う。国庫や労働者からの保険料からの支出はなされていない。2007年4月まで雇用福祉事業(具体的には勤労者福祉施設雇用促進住宅)もあり「雇用保険三事業」といわれてきたが、保険料の無駄遣いなどの批判もあり廃止された。なお、高コストと赤字運営で批判[4]されて2010年度末で閉館した「私のしごと館」も、若年者に対する職業体験を経験させる等の施設として二事業のうちの「能力開発事業」として建設・運営されていた。

雇用安定事業

政府は、被保険者、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者(以下「被保険者等」という。)に関し、失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定を図るため、雇用安定事業として、次の事業を行うことができ、その事業の一部を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に行わせる。主に、事業者に対し雇用機会を増大させて失業を減らすため、事業者が新たに事業を行うのに一定の雇用を増やすことや高齢者の雇用を増やすことへの補助金などの支給を行っている。

能力開発事業

政府は、被保険者等に関し、職業生活の全期間を通じてこれらの者の能力を開発し、及び向上させることを促進するため、能力開発事業を行うことができる。具体的には、認定職業訓練その他の事業主等が行う職業訓練への助成や、公共職業能力開発施設又は職業能力開発総合大学校の設置及び運営、技能検定の実施に要する経費の負担や補助などの事業がある。また、これらの事業の一部を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に行わせるものとする。

問題点

不正受給

循環的離職者

  • 雇用保険は「失業状態」にある者に対する給付である。「失業状態」とは、「ハローワークからの適職紹介にすぐ応じられる者」を指すのである。したがって、ある特定の事業所以外の事業所には就職する意思のない者(すなわち、ハローワークからの適職紹介に応じる意思がない者)は、職安において「仕事を探している」との申し出を行っている者であっても実質的には「失業状態」とは定義されないのである。
  • 雇用保険は「失業状態」にある者に対して給付をなすという趣旨を徹底し、「過去3年以内に3回以上同一の事業所に連続して就職し、かつ、その間に1回でも求職者給付を受けたことがある者」を「循環的離職者」と定義付け、「循環的離職者」が引き続き受給期間内に同一の事業所に就職した場合は不正受給とみなすこととされた。

派遣社員の給付開始日

派遣社員の雇用形態においては、契約延長がない場合で契約終了後1ヶ月経過しても(所属派遣会社にて)次の仕事を得られないと(契約終了日を退職日とする)離職票が発行される。よって、仕事が見つからない場合は離職票が発行されるまでの1ヶ月間と待機の7日について雇用保険を受け取ることは事実上不可能となる。

企業が自己都合を強制する

会社の都合で退職したのに自己都合とされ失業手当ての給付が減ってしまったり3ヶ月先になるなど不利益を被る問題がある。会社側は会社都合で解雇をすると雇用助成金が受け取れなくなる場合があるので労働者の自己都合にしたがるのでサービス残業が多い場合はタイムカードのコピーを取っておいたり退職を強要された場合には人事担当者の発言を録音するなど証拠を残しておくとハローワークに異議申し立ての際に証拠になる。[5]

諸外国との比較(失業手当を受給できない失業者の割合)

2009年3月24日に国際労働機関より発表された、リーマンショックを発端とする世界経済危機が雇用に与えた影響についての調査報告書によると、日本における失業手当(雇用保険制度における基本手当のこと。以下、同様)を受給できない失業者の割合は77%である。経済危機の発端となったアメリカ合衆国は57%、カナダもアメリカと同水準の57%、イギリスは40%、フランスは18%、ドイツは13%であり、日本の77%という割合は先進国の中でも最悪の水準かつアメリカやカナダをも大きく上回る結果となった[6]

日本が他の先進国よりも飛びぬけて失業手当が受給できない失業者の割合が高くなった理由として、失業手当受給の要件が他国よりも厳しいことが挙げられる(国際労働機関の報告書では、失業手当を受給できない失業者の割合が半数を超えた日本、アメリカ、カナダの3国について、失業手当受給要件の厳しさを指摘している)。これに加え、近年急激に増加した派遣社員契約社員などの非正規労働者において、失業手当を受給するために必要である1年以上の保険料納付期間が満たせない者が非常に多いことも原因と見られている[6]

なお、失業手当を受け取れない失業者の人数は、アメリカが最多の630万人、日本は210万人、イギリスは80万人、カナダは70万人、フランスは40万人、ドイツも40万人であり、日本とアメリカが突出して多い[6]

脚注

  1. ^ 短時間被保険者という区分を無くし、2007年10月1日の離職者からは基本手当受給の要件が「2年間の間に11日以上働いた月が12ヶ月あること」に変更された(なお、平成19年現在の特定受給資格者に当たる者は6ヶ月)(参照)。
  2. ^ 4週間目の日が国民の祝日年末年始など官公庁の休庁日に当たる場合、前後にずらされる。
  3. ^ 理由そのものが極めて限定されており、具体的には
    • 採用試験・面接
    • 就職(入社が決まっている)
    • 受給者本人の病気・けが
    • 受給者本人の親族の看護・危篤・死亡した場合
    などがある。通例、証明書類(例えば採用試験や面接の場合、応募先の証明)の提出が求められる。このような状況になった場合はハローワークへ連絡して指示を受ける。
  4. ^ 参考2 私のしごと館についての主な指摘(厚生労働省)
  5. ^ 中日新聞2009年1月30日配信企業に有利な解雇増加労働基準法違反を許すな!労働者失業保険辞典
  6. ^ a b c 失業手当:日本、不受給77% 先進国中最悪の水準-ILO報告 - 毎日新聞 2009年3月25日配信 東京夕刊掲載(NPO法人仙台夜まわりグループのブログより)

関連項目

外部リンク