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2010年9月19日 (日) 23:33時点における版
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膵炎(すいえん)とは、何らかの要因により膵臓が炎症を起こした状態を指す。急性と慢性に区別できる。
急性膵炎
膵組織からの酵素の逸脱により、組織の自己消化によって起こる炎症である。大部分は急性間質性(浮腫性)膵炎で一般的に軽症であるが、急性出血性(壊死性)膵炎だと死亡率は高い。
原因
特発性のもの以外では、胆石症、アルコール過飲、膵管の閉塞、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、上腹部の手術、耳下腺炎等が原因となりうる。
症状
- 上腹部(特に心窩部)の激痛(海老型姿勢をとりやすい)、左季肋部痛、発熱、嘔気、嘔吐、腹部の膨満感等を生じる。時に黄疸も生じる。
- 筋性防御 : 膵液が膵臓を溶かして腹膜腔へ漏れると腹膜壁を溶かし始めて腹膜炎を起こす事で、筋性防御を示す。
- カレン徴候(Cullen徴候)
- カレン徴候(かれんちょうこう)は、臍の周囲が暗赤色に染まること。
- 病態
- 膵液によって組織が溶かされて血性滲出液が臍周囲の皮下組織に沈着して暗赤色に見える。
- 歴史
- カレン博士によって報告された。
- グレイ・ターナー徴候(Grey-Turner徴候)
- グレイ・ターナー徴候(ぐれい・たーなーちょうこう)は、左側腹部の周囲が暗赤色に染まること。
- 病態
- 膵液によって組織が溶かされて血性滲出液が左側腹部の皮下組織に沈着して暗赤色に見える。
- 歴史
- グレイ・ターナー博士によって報告された。
検査
- 血清アミラーゼ上昇(48時間で最高に達し、以後下降する)
- 尿中アミラーゼ上昇(血中アミラーゼに追随して上昇・下降する)
- 白血球値上昇(中等度)
- ヘマトクリット値上昇
- 血清ビリルビン、GOT、GPT、アルカリフォスファターゼの軽度上昇
- 血清カルシウム低下(重症度をよく表す)
- 画像診断
診断
劇症肝炎の診断や重症度の判定にASTやALTを利用しないように急性膵炎では重症度の判定にアミラーゼを利用しない。これは劇症肝炎も急性膵炎も臓器全体が破壊される病態であり破壊されつくし散逸酵素が上昇しないということがよくあるからである。急性膵炎の重症度判定は理学的所見によるもの、血液検査によるもの、画像によるものと多岐にわたっている。
合併症
治療
- 大量の初期輸液
- 安静
- 食事療法…急性期は絶食絶飲(水分は補液)。回復期は糖質食を主とし、蛋白質を漸増していく。脂質制限も同時に行う。
- 薬物療法…疼痛には抗コリン剤や鎮痛剤を投与(モルヒネはオッディ括約筋の緊張を高めるため禁忌)。
- 抗酵素療法…トリプシン・キモトリプシンを阻害するアプロチニン・注射用フサン(メシル酸ナファモスタット)・FOY(メシル酸ガベキサート)等を投与する。全身投与は効果が疑問視され、欧米ではほとんど行われない。日本ではカテーテルを用いて、選択的に膵臓に行く動脈に投与することで、効果があるという報告があり、先進的な施設で重症膵炎に対して行われている。
- 二次感染予防の為、広域スペクトル抗生物質を投与する。
- 外科的治療…穿孔性腹膜炎やイレウス、壊死組織の感染を生じた場合に行う。
- 持続的血液透析ろ過療法(CHDF)…急性膵炎により惹起された炎症性物質が、全身の炎症を起こし、多臓器不全の原因になることがわかっており、透析により炎症性物質を除去することで、急性膵炎の重症化を防ぐことができるとされている。
ヒト以外の動物における急性膵炎
中~高年齢の犬において発生が多い。症状は激しい嘔吐、腹痛。
慢性膵炎
上腹部痛の反復と膵臓の外分泌障害による消化吸収障害を呈する。予後は比較的に良好。
原因
主にアルコールの過飲や胆石症から起こるが、原因不明の場合もある。
症状
反復性の心窩部痛と左季肋部痛、背部への放散痛(上体前屈で軽快)。下痢、便秘、脂肪便、嘔気、嘔吐、腹部膨満感、食欲不振等。また糖尿病を合併しやすく、糖尿病症状として口渇、倦怠感、多尿、多飲等も診られる。
検査
- エヌ・ベンゾイル・エル・チロシル・パラアミノ馬尿酸試験(N-benzoyl-L-tyrosyl-p-aminobenzoic acid試験、ベンゾイル・チロシル・パラアミノ馬尿酸試験、BT-PABA試験、PFD試験、膵外分泌機能診断)
- エヌ・ベンゾイル・L・チロシル・パラアミノ馬尿酸試験(-ばにょうさんしけん)は、エヌ・ベンゾイル・エル・チロシル・パラアミノ馬尿酸(以下BT-PABA)試験を用いた膵外分泌機能検査。BT-PABA試験(びーてぃー・ぱばしけん)とも言う。
治療
- 食事療法…脂肪制限を中心に、蛋白質・糖質・ビタミンの摂取を行う。
- 薬物療法…疼痛には抗コリン作用剤や鎮痛剤を投与。また、消化不全を起こし易いので消化酵素・制酸剤も用いる。
- 外科的療法…仮性嚢胞(のうほう)や膵石、膵臓がん合併時に行う。
鑑別疾患
- マクロアミラーゼ血症
- アミラーゼが複合体を形成し、腎臓から排出されなくなるため血中アミラーゼ値が高くなることが知られている。臨床症状は存在しない。尿中アミラーゼは低く、アミラーゼクリアランス/クレアチニンクリアランスは1%未満となる。入院中の患者では1%位の頻度で見られるので、高アミラーゼ血症だけで膵炎を疑ってはいけない。
- 自己免疫性膵炎
- 新たに日本から発信された疾患。IgG4との関連が示唆されている。