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2010年7月25日 (日) 10:19時点における版

ヴェリブVélib' )とは、フランスパリ市が提供している自転車貸出システムである。

ステーションに駐輪されている自転車
夜のステーション

概要

2007年6月13日から、運用に向けたデモンストレーションが行われ、同年7月15日から正式に運用が開始された。ヴェリブとは、フランス語の「vélo」(ヴェロ・自転車)と「libre」(リーブル・自由な)という単語のかばん語である。導入の主目的はパリ市民の日常の移動手段としてであるが、1日単位の短期利用により、観光客がサイクリングに活用することもできる。24時間・年中無休の利用が可能で、路上にあるステーションにて、利用者自身の手で貸出・返却を行う「セルフレンタル」で、どこの場所から乗って、どこの場所で乗り捨ててもよいシステムとなっている。パリ市当局は、ヴェリブの普及により、地球環境に優しい自転車の利用促進を目指している。

開始後1年後の実績としては、利用者がのべ27,500,000人に及び、200,000人が1年間の長期パスに登録し[1]、好評を博しており、自転車共有サービスとしては現在、世界最大の規模である。

ヴェリブの趣旨

導入に至る経緯

フランス国内では、自動車渋滞による公害が問題視されており、首都であるパリ市は、他の都市と比べ特にその問題が深刻化している。従来からパリ市では、この問題に対処するために、路上駐車防止を目的とした地下駐車場の建設、駐車違反の厳重な取り締まり、駐車料金の値上げなどが実施されてきたものの、具体的な成果は表れてこなかった。そこで、パリ市長であるベルトラン・ドラノエは、2001年の就任以来、「Paris respire! 思いっきり息を吸えるパリを」というスローガンを掲げ、夜行バスの都心から郊外への運行、歩道の拡張、バスタクシー専用レーンの設置、トラム路面電車)の敷設など、2020年までに、パリ市内の自動車交通量を40%縮小させることを目指し、多くの大胆な政策を実施してきた。その政策の目玉ともいえるのが、このヴェリブなのである。

目的

従来は自動車を使っていた市民に、ヴェリブと公共交通機関を積極的に利用してもらうことがヴェリブの目的である。すでに同様のサービスは、2005年5月からリヨン市で、加えてエクサンプロバンス市などでも行われており、いずれの都市も成功を収めているとされる。一方で、世界的な大都市においては史上初の試みであるため、リオデジャネイロモントリオールなど、各都市の行政関係者の注目を集めている。

活用場面

システム導入の目的となった「市民の足」としてだけではなく、観光客にとっての貴重な移動ツールとしても期待されている。また、パリ市は、タクシーの台数が利用者数に比べて不十分であるため、屋外でタクシーを長時間待たなくても、ヴェリブを利用すれば簡単に移動できる、といった活用方法もある。また、ストライキなどで公共交通機関の運行が止まったときや、バスの本数が少ない週末、終電後の深夜などでも重宝である。

所有・運用

パリ市はこのシステムの運用に関して、市民からの税金を全く使っていない。市当局と大手広告代理店であるジェーシードゥコーJC Decaux)が契約することで、同社がパリ市内で優先的に1,600枚の広告パネルを設置できる権利と交換に、システム運営に掛かる経費を負担することになっているのである。この契約により、広告収入はパリ市の財源となり、市の財政も助けられることとなる見込みである。

維持管理

維持管理会社が各ステーションを定期的に巡回し、パンクチェーンの外れの修理といった、車両のメンテナンスを行ったり、オンラインでステーションの駐輪状況を確認しながら、満車のステーションから自転車を移動し、空車が目立つステーションへと補充したりしている。

今後の計画

システム導入時は、屋外に設置された750か所のステーション・10,648台の自転車でスタートした。1つのステーションあたり、15個以上の駐輪ポイントが設置されている。2008年4月現在で約1,500か所のステーション・約2万台の自転車がそれぞれ配備されている[2]。今後、パリ市郊外でさらに300か所のステーション・4,500台の自転車をそれぞれ配備する予定である[2]。なお、ステーションは、300m間隔を目安に設置されている。

なおヴェリブの成功を受けて、パリ市ではオートリブ(Autolib)と呼ばれるカーシェアリングシステムの導入を計画中である。

料金

利用するためには「利用者登録」が必要となる。登録の際には「登録料」がかかり、それに加えて利用時間に応じた「利用料」を支払う必要がある。なお、利用期間にかかわらず、利用前に、保証金として150ユーロの引き落とし許可が条件となっているが、あくまでも引き落としの承諾が必要なだけであり、自転車の紛失や破損など、特別の場合を除いて実際に引き落とされるわけではない。ただし、自転車を24時間以内に返却しない場合は、保証金の一部、あるいは全額を支払う必要があるため注意が必要である。

利用者登録

1日(利用開始から24時間)もしくは1週間

ステーションにある「Borne(ボルヌ)」と呼ばれる端末で、クレジットカードを使って登録料を支払い、Velibコードが印字されたチケット「チケ・ヴェリブ(Ticket Vélib')」を受け取る。使用できるクレジットカードは、ICチップの付いたカードのみとなっている。また、カード会社もビザマスターカードジェーシービーアメリカン・エキスプレスのいずれかの種類のものに限られており、4桁の暗証番号も必要となる。料金は、1日1ユーロ・1週間5ユーロとなっており、チケットの有効期間中は再度登録料を支払う必要はなく、何度でも借りることができる。

1年間

所定の申込用紙に記入した上で、顔写真などの必要書類を添えてヴェリブ事務局へ郵送する。郵送してから2週間~1ヶ月ほどでカード「カルト・ヴェリブ(carte Vélib')」が届き、レンタルが可能となる。1年間の契約料は29ユーロで、有効期間内であれば再度登録料を支払う必要はなく、何度でも借りることができる。メトロやバスの定期券である「NAVIGO」と組み合わせたカードも申し込むことができる。

利用料金

利用料金は、利用した時間によって決められている。 最初の30分は無料となっているが、30分を過ぎると、31~60分は1ユーロ、61~90分は2ユーロ、その後30分延長するごとに4ユーロの追加料金がかかる。

ヴェリブは短距離の移動手段として導入されており、各ステーションの自転車不足を防止し少しでも回転効率を高めるため、また自転車の盗難を防止するため、さらに既存の貸し自転車の民業圧迫を防ぐ目的から、長時間利用した場合の料金が高めに設定されている。30分以内に返却して、再び借り直すという方法も可能で、返却した自転車をすぐに再度借りることもできる。

返却時に最寄りのステーションに返却用の空きスペースがなかった場合、カードを駐輪ポイントの読み取り機に載せるか、チケットに印字されているVelibコードを、そのステーションのボルヌに入力すれば、15分間無料時間が延長される。

なお、地形的に坂の上にあるステーションは空車になりやすいことから、標高の高いステーションに返却した場合、次回以降、15分間の無料利用ができるボーナス特典を得ることができる。

利用料の例:

利用時間 30 分間 1 時間 1 時間 30 分 2 時間 5 時間 10 時間 20 時間
利用料 無料 1 € 3 € 7 € 31 € 71 € 151 €

利用方法

ボルヌ
自転車が駐輪されているステーション

1日もしくは1週間の登録

利用者登録が完了したら、自転車のレンタル依頼画面に自動的に切り替わるので、ボルヌが表示した駐輪ポイントの番号の中から好きな数字を選ぶ。すると、その数字の駐輪ポイントのランプが緑色から赤色に変わり、自転車のロックが自動的に外れるので、60秒以内に駐輪ポイントのボタンを押して、自分で自転車を駐輪ポイントから引き抜くと、レンタル開始となる。2回目以降は、自分のVelibコードを入力して、自転車のレンタル依頼画面に進み、上記の手順を踏めばレンタル開始となる。

レンタカーと同様に、利用を終えた後は必ずしも、借りたステーションと同じステーションに返却する必要はない。最寄りのステーションへ自由に返却することができる。ステーションの空いている駐輪ポイントに自転車を返却し、ランプが赤色から緑色になったら返却完了となる。

1年間の登録

カルト・ヴェリブを持っている場合は、駐輪ポイントにある読み取り機にカードを載せると、その駐輪ポイントのランプが緑色から赤色に変わり、自転車のロックが自動的に外れるので、自分で自転車を駐輪ポイントから引き抜くと、レンタル開始となる。返却については1日もしくは1週間の場合と同様である。なお、カルト・ヴェリブには、あらかじめ5ユーロをチャージしておかなければいけない。これは、チャージした分から利用料金が徴収されるためである。チャージはクレジットカードを使って、ボルヌで行うことができる。

ボルヌ(利用端末)

ボルヌは、利用者登録・利用料の支払い・レンタル依頼・残りの時間や返却の確認・近くにあるステーションの利用状況など、ヴェリブに関することはすべて行えるようになっている。また、言語もフランス語だけではなく、英語スペイン語にも対応している(フランス語・英語のみのボルヌもあり)。操作は画面を操作するタッチパネルではなく、画面の指示に従って、自分が希望する数字を下にある選択パネルで選ぶ。裏側には周辺の地図も取り付けられており、最寄りのステーションも確認することができる。フランス語・英語・スペイン語・ドイツ語イタリア語日本語の計6ヶ国語に対応しているボルヌもある。

利用制限

すべての市民が、無条件に利用できるわけではない。レンタルでは、身長が150cm以上であることが条件になっており、13歳以下は利用不可、14~18歳までは保護者の承認が必要である。

万が一の場合の対応

ヴェリブの利用者用に「ホットラインサービス」が用意されている。ただし、フランス語しか対応していないため、観光客が利用する場合などは注意が必要である。例えば、返却したことがシステム上カウントされず、保証金150ユーロが引き落とされてしまうといった問題も発生している。

車両の特徴

  • デザイン

 グレーで落ち着いた色調で、有名デザイナーであるパトリック・ジュアンの手によるデザインである。

  • 車体・フレーム

 屋外に配備され、不特定多数の市民が利用することから、比較的丈夫で、総重量約22kgという重いものになっている。サドルはレバーで簡単に調節できるようになっている。チェーンなど故障しやすい部分の周囲はガードで覆われている。

  • ブレーキ

 ハンドルにブレーキが付けられている。なおオランダ式と呼ばれる、ペダルを逆に漕ぐことでブレーキをかけるタイプではない。

  • 変速

 坂道が多いパリの街に対応するため、3段変速のギアが付けられている。

  • 安全対策

 安全な夜間運転のため、前後には自動的に点灯する安全灯、車輪には反射板が取り付けられている。一時的な駐輪の際、柱などに巻きつける盗難防止用チェーンも装備されている。ハンドル部分には、前述のホットラインサービスの電話番号や、使用上の注意点などが書かれている。フランスでは珍しい前かごタイプとなっているが、これは後ろに荷台を取り付けると、二人乗り運転を助長する恐れがあったためである。前かごにはひったくり防止用のコードが取り付けられている。

運用上の課題

自動車交通量の削減効果

 ヴェリブの導入によって、本当に自動車の利用者が減るのか、といった意見がある。事実、このシステムの先駆者であるリヨン市では、自動車の交通量が激減したわけではない。従来からバスや地下鉄などといった公共交通機関を利用していた市民が、このシステムを利用するようになっただけではないか、との見方もある。

自転車の交通マナー、交通事故

 自転車の利用者が増えることにより、パリ市内の交通が混乱するのではないか、といった意見もある。フランス国内の交通規則では、自転車は自転車専用道路バスレーン車道のいずれかを走行しなければならず、歩道での走行は禁じられている。そのため、自動車の運転手が、自転車に多くの注意を払う必要が出てくる、というのである。これについては、逆に自動車の運転マナーを向上させる良い機会ともなる。加えて、自転車の利用者のマナーを懸念する声もある。歩道での走行や、一方通行の道路での逆走など、交通規則に違反している利用者が多いことも事実である(現行犯の場合は罰金刑)。今後の利用者の行動にゆだねられていると言えよう。

 ヴェリブ利用者の交通事故については、2008年10月までに4件の死亡事故が発生している。[3]

需要と自転車数の不均衡

 利用の多い時間帯には、ステーションの車両がすべて出払ってしまっていて借りられない、若しくは満車で返却できないというケースが生じることが多く、そのような際は最寄の他のステーションを探さなければならず、目的地への到着が大幅に遅れてしまうこともある。    このほか地形の影響による偏りもあり、例えばモンマルトルのような丘の上にあるステーションは、借りる人ばかりで返しに来る人が少ないため、空車になりやすいといった報道[4]もあった。

車両の故障・盗難

 最初の1年で、約3,000台の自転車が故障や盗難で使用不能になったとされる。また、パンク、ブレーキ不良、サドルが調節できない、チェーン切断等の故障車が多数配備されたままになっており、頻繁な維持管理の実施が課題である。利用の際には、車両の状態を十分確認することが必要である。

類似のシステム

初期のものとしては、ポーツマス大学での1996年の「Bikeabout」が代表的である。 フランス国内では、2005年より導入されているリヨンヴェロヴ)、レンヌストラスブールのほか、ヴェリブの成功に刺激されて、トゥールーズナンシーアミアンディジョンカーンペルピニャンオルレアンルーアンナント(ビクルー)へ広がりを見せている[5]

また2007年現在、他のヨーロッパの国々では、バルセロナBicing)、ブリュッセルコペンハーゲンストックホルムパンプローナ(Cemusa)、OYBikeコール・ア・バイク(6都市)、コペンハーゲンヘルシンキアルハウス(CIOS)、ウィーンなどで同様のシステムが運用されている。

日本でも2009年10月から環境省JTB首都圏が東京都丸の内で、社会実験を開始する[6]

脚注

  1. ^ ヴェリブが1周年を迎えました(JCDecaux サイト)
  2. ^ a b 読売新聞・朝刊33面・環境ルネサンス 183・2008年5月16日
  3. ^ ヴェリブフランス語版 http://fr.wikipedia.org/wiki/V%C3%A9lib%27
  4. ^ France 2の20時のニュース
  5. ^ フランス都市部で普及するレンタサイクル制度(在日フランス大使館)
  6. ^ 日本版ヴェリブ導入に向け、社会実験がスタート

関連項目

参考資料

外部リンク