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2010年2月2日 (火) 09:06時点における版

ルノー 190馬力 航空エンジン用マグネトー

マグネトー(magneto)とは、永久磁石を用いて高電圧の交流電気を発電する高圧磁石発電機の事である。資料によっては磁石マグネットと混同されている場合もあるが、マグネトーが正確な発音である。

内燃機関の点火装置を構成する部品の一つで、点火プラグへの点火電圧を供給する為に主に用いられる。[1]マグネトーを用いた点火装置は磁気点火方式と呼ばれ、鉛蓄電池などのその他の電源が一切無い内燃機関であっても発電機として内蔵する事が可能な為、草刈機チェーンソー等の簡素な内燃機関や、バッテリーレスとして軽量化する事が求められるオフロードレース仕様のオートバイでも幅広く用いられている。

点火電圧を鉛電池からの供給に頼るバッテリー点火方式よりも信頼性が高い事から、航空エンジンでも最も一般的に使用されている。

歴史

マグネトーを始めとする高圧磁石発電機を最初に考案したのはAndre Boudevilleであったが、彼の設計ではコンデンサの概念が無く、実用性に乏しい物であった。その後、フレデリック・リチャード・シムスロバート・ボッシュと共同で実用的なマグネトーを開発した。[2]

マグネトーは1899年、ゴットリープ・ダイムラーが開発した「ダイムラー・フェニックス」にて初めて用いられた。その後、ベンツ、Mors、Turcat-Mery、Nesseldorf[3]等の黎明期の自動車メーカーは次々にマグネトー式の点火装置を採用した。ボッシュが開発したマグネトー式点火装置は1903年に実用的な点火プラグが登場した事で完成され、1918年に鉛蓄電池と点火コイルを用いた低圧バッテリー式点火装置が出現した後も主に小型内燃機関の点火装置として広く用いられ続けた。

また、マグネトーは電気医療器具として幾つかの精神医学でも用いられた。フランスの医師、Duchenneは1850年に磁石を用いた発電機を発明し、医療の分野で用いていたという。

今日のマグネトーは、内燃機関の内部発電機としての利用の他に、自転車や自動車のホイールに取り付けられる照明装置への電力供給にも用いられている。このような小型マグネトーはホイールの回転力を用いて発電し、電池無しでホイールが回転中のみ照明装置を発光させる。

動作原理

マグネトーの内「シャトル式」と呼ばれるタイプは、エンジンは2つの磁石に挟まれたコイルを高速回転させて発電を行う。「インダクタ式」のマグネトーの場合はシャトル式とは逆に、コイルは静止したままで磁石が高速回転する事で発電を行う。両方の形式とも今日でも用途に応じて使い分けられている。

マグネトーで発電された電力は点火コイルに送られて点火用の電気として使用される。この時エンジンが1回転すると、カムシャフトコンタクトブレーカーを必ず1回以上断続するようになっている。コンタクトブレーカーの断続により、点火コイル内部の一次コイル(ソレノイド)の電流が断続され、ファラデーの電磁誘導の法則に従って二次コイル(高電圧コイル)内の電圧が増幅される。コンタクトポイントが開閉する時、コンタクトブレーカーにはアーク放電が発生する為、この放電を抑制する為にコンデンサが設置される。

二次コイルは一次コイルと同じ鉄芯を共有しながらも、より多くの巻数を持っており、変圧器として作用している。この一次コイルと二次コイルの巻数比は、電圧の増幅率に大きな影響を与える要素となる。巻数比が大きくなればなるほど、増幅される電圧は非常に高い値に達するようになる。

近代のマグネトー点火装置では電気的なロスの大きいコンタクトブレーカーに代わって、イグナイターを持つフルトランジスタ式ディストリビューターCDI式の点火装置と組み合わされ、より効率と信頼性が増すようになった。

航空エンジンのツインマグネトー

マグネトーはバッテリーも他のエネルギー源も必要としないので、コンパクトで自己充足性の高い高信頼の点火システムを構築出来る。その為、現在でも航空用レシプロエンジンではマグネトーによる点火システムが広く用いられている。

マグネトー式点火装置を備える航空エンジンは、通常2系統のマグネトーと1シリンダー当たり2つの点火プラグを持ち、より良いエンジン性能と故障時の冗長性を確保している。2つの点火プラグはシリンダー内に2カ所の異なった位置に火炎を発生させる事が出来る為、シリンダー内の混合気が完全燃焼するまでの時間をより短縮する事が可能となる。また、大排気量のシリンダーの場合プラグが1本では燃焼室とシリンダー下部の混合気の着火時間にズレが生じてノッキングの原因にも陥りやすい。

従って、2つのマグネトーと点火プラグを持つ事は、エンジンの燃焼効率改善と同時にガソリンオクタン価が低い場合でもエンジンが確実に回転する事にも繋がる事になる。これは大東亜戦争中の戦闘機用エンジンの場合、シリンダー1気筒当たりの排気量が非常に大きかった為、とても重要な事であった。

大戦終結後、1970年代の排ガス規制対策として、幾つかのメーカーから航空エンジンの概念と同じツインプラグ式のエンジンが発売された事もあったが、点火装置その物の性能が大幅に向上した現在ではこうしたエンジンは少数派となっている。

自動車でのツインプラグ

幾つかの旧式の高級車と、幾つかの航空エンジンには2本の点火プラグの内、片方はマグネトー式点火装置で点火され、もう片方はオルタネーターバッテリーを主電源とするバッテリー式点火装置で点火される構成のツインプラグを持つものがあった。コスト増大を最小限に抑え、信頼性を損なわない手法が模索された結果、こうした方式が生み出された。

一つのマグネトーでシングルプラグシステムを組むよりは信頼性が高いと期待されたが、実際には現代程点火時期制御が厳密ではなかった為、マグネトー点火とバッテリー点火の点火時期がごく僅かにずれる不具合が発生しやすかった。この不具合は高回転時に特に問題になりやすく、航空エンジンとしては早期に廃れる原因となった。

自動車においては、このようなシステムの場合バッテリー点火装置が主体となって点火時期が決定され、マグネトー式点火装置は飽くまでも補助的な位置付けであった。その為、後にバッテリー式点火装置の制御技術が向上し、装置全体の性能がアップしてくると、ツインプラグ式のエンジンであってもマグネトーが点火システムの補助系統として搭載される事は殆ど無くなった。

近年の近代的な設計のエンジンは、かつてこれらのツインプラグシステムが用いられていた時代のエンジンよりも遙かに小さく、効率的な燃焼室とバルブ配置を持っている。こうした高効率のヘッドは燃焼室の廃熱の効率化に寄与し、吸排気の流れがスワールや乱流を意図的に引き起こすように設計されている為、かつてのように「より低いオクタン価のガソリンでも確実に動作する」事を目的としたツインプラグは必要とされなくなった。

但し、空冷式で大きな燃焼室を持つレトロタイプのオートバイ(ハーレー・ダビッドソンなど)では、未だにツインプラグ化する事で得られる恩恵は大きい。また、アメリカで人気のあるドラッグレース用のエンジンは1960年代のクライスラー・ヘミエンジンとほぼ変わらない構造の大排気量エンジンに、ターボチャージャーによる大過給とナイトラス・オキサイド・システムを組み合わせて、大量の燃料を供給する為、現在でも1気筒辺り2本以上のプラグが必要とされる。

1896年のスウェーデンの電話機。右側にマグネトー発電機のクランクハンドルが存在する。

電話におけるマグネトー

黎明期の手動式電話機の多くは、使用者の手で発電する為のマグネトー式発電機を持っていた。こうした電話機は主に電気が引かれていないか、或いは配電事情が極度に悪い田舎町などで、交換台で待機する電話交換手を呼び出すベルを鳴らす高電圧を得る為に用いられた。クランクを回して交換手を呼び出した後の通常の通話は、電話機に内蔵された炭素亜鉛乾電池の電気で賄われた。

なお、軍用で現在も用いられる有線電話機には現在でもこの構造の物が採用されている。古くは大東亜戦争中のアメリカ軍が用いていたEE-8型野戦電話機や、旧日本陸軍が採用していた九二式野戦電話機、現在の陸上自衛隊が用いる70式野外電話機 JTA-T1が代表例として挙げられる。

脚注

  1. ^ Selimo Romeo Bottone (1907). Magnetos for Automobilists, how Made and how Used: A Handbook of Practical Instruction in the Manufacture and Adaptation of the Magneto to the Needs of the Motorist. C. Lockwood and son 
  2. ^ Kohli, P.L. (1993). Automotive Electrical Equipment. Tata McGraw-Hill. ISBN 0074602160 
  3. ^ Georgano, G.N. Cars: Early and Vintage, 1886-1930. (London: Grange-Universal, 1985).

関連項目