「富の再分配」の版間の差分

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2009年9月7日 (月) 03:14時点における版

富の再分配(とみのさいぶんぱい)または所得再分配(しょとくさいぶんぱい)とは、所得を公平に配分するため、租税制度社会保障制度公共事業などを通じて一経済主体から別の経済主体へ所得を移転させることをいう。

概要

富の再分配・所得再分配は、貧富の差を緩和させ、階層の固定化とそれに伴う社会の硬直化を阻止して、社会的な公平と活力をもたらすための経済政策の一つである。富の再分配・所得再分配が指し示す範囲はかなり広く、富裕層貧困層間の所得移転から先進国発展途上国間の所得移転までが含まれる。

富の再分配・所得再分配は、資源配分の公平性を確保し、社会に流動性をもたらす効果がある。低所得者にも階層の上昇の機会と公平性をもたらす一手段でもあり、現代民主主義国家に必要不可欠な要素となっている。

またロールズのいう無知のヴェール(どの所得階層の家庭に生まれるか事前に分からないこと)を仮定したとき、所得再配分は、ある種の社会保険としての性格をもつことになる。

どの水準による再分配が適切と言えるのかはそれぞれの文化における価値観によって異なり、富の再分配にどのような手法を使うか、どの水準の分配を行うかは各国でさまざまな議論がある。生活保護制度は、「所得の多い人」から「所得の少ない人」への所得再分配であり、医療保険制度は、医療サービスの利用を通じて、主として保険料を財源とした「健康な人」から「病気の人」への所得再分配である。

日本国内の所得再分配に関する統計として、厚生労働省の行う所得再分配調査があり、3年に1度、世帯の当初所得や税・社会保障による再分配の状況が調査され、ジニ係数などが発表される。

経済政策との関係

経済学では、富の再分配は、パイの切り方に喩えられることがしばしばである。効用の観点から見た場合、パイの切り方を変えることで、パイを食べることで得られる主観的な満足感の総計が変化することが問題とされる。これに対して効率性の観点から見た場合、パイの切り方によって、パイの客観的な大きさ自体が変化することが問題とされる。

経済全体のアウトプットの低下がないかぎり、所得再配分は、経済全体の効用の総計を増大させるものとして、限界効用逓減の法則に基づく功利主義の見地からも肯定される。

一方、平等性の観点だけではなく生産設備・在庫投資過剰/消費過少状態のときの消費刺激策としても「所得再分配」は有効である。即ち高額所得者は所得の大部分を貯蓄に回すが、生産設備過剰・投資収益率低下で資金需要が低下している局面においては貯蓄が投資につながらず過剰貯蓄状態に陥る。そこで高額所得者に課税して低所得者に分配すると、より高い消費性向を有する低所得者は所得のほとんどを消費に回すので有効需要が増え在庫が減少し、設備稼働率が向上し経済が拡大して投資収益性も向上するのである。

他方、行き過ぎた再分配は、生活の不安定性を解消する反面では労働意欲を阻害し、経済全体としてのアウトプットの低下を招くと批判されることもある(インセンティブ・平等のトレードオフ)。これは歴史的にはレーガノミックスなどに見られる考え方で、経済全体としてのアウトプットの増加をはかるためには、所得再分配を抑制することが有効であるとする。具体的には、より高い貯蓄性向を有する富裕層の減税による貯蓄の増加と労働意欲の向上、合わせて企業減税による投資の増大によって経済を拡大させるというものである。

沿革

19世紀から20世紀にかけての欧米諸国では、拡大しすぎた貧富の差とそれに伴う様々な社会矛盾を解消・緩和するため政府による福祉政策の充実が進んでいった。そして20世紀中期-後期までにヨーロッパ諸国では、福祉国家の建設が目指されるようになった。こうした福祉国家政策は当時、先進諸国の国民からは大いに歓迎され、 20世紀の大衆消費社会を成立させ、いくつかの国では高度経済成長をもたらす原動力ともなった。

福祉国家体制は大きな財政負担を伴うものでもあり、1960年代から1970年代にかけて、先進各国の国家財政は次第に悪化していった。1980年代からはミルトン・フリードマンなどの主張にもとづいて、アメリカや英国を中心として福祉国家政策が見直され、経済社会における所得再分配の機能を抑制し、経済競争を重視する政策が採用されるようになった。累進課税はしだいに弱められ、人頭税の導入も企てられた。ただしアメリカ合衆国では、伝統的に所得再分配に否定的な価値観が根強く、高度な福祉国家的政策がとられたことはない。

日本でも、再分配機能の高度化による経済非効率が見られ始めたとマスコミ及び学者の間で主張されるようになり、1980年代前期には中曽根内閣による精力的な行政改革が行われたが、英国ほど徹底したものではなく、1990年代小沢一郎らがより本質的な改革を主張するに至った。橋本行革に続き2000年代に入ると小泉内閣によって極端な再分配抑制策が継続されるようになり、階層の固定化が懸念されるようになった。

経済政策としての例

租税制度による所得再分配

累進課税相続税富裕税などにより中央政府地方政府が富裕層からより多くの租税を収取し(応能負担)、貧困層などに対する行政サービス原資とするものである。

社会保障制度による所得再分配

公的年金医療介護などの社会保障給付による富の再配分である。応能負担の原則に応じ、所得の高い者にはより高い負担率で税金や社会保険料を課すことがある。

労働保障制度による所得再分配

労働者の給与や福利厚生を保障することにより直接富が労働者に回るよう講じる方法である。
労働法による最低給与規定、給与と会社との債務の相殺の禁止等である。

優遇税制度による所得再分配

税制優遇処置により富を社会福利の方面へ誘導する方法である。寄付金控除制度や学校法人、NPO法人等公益法人の特別税制などがある。

参考

  • 山口二郎政治改革』1993年、岩波書店
  • 山口二郎『日本政治の課題 新・政治改革論』1997年、岩波書店