「イオン注入」の版間の差分

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イオン種、対象物、およびイオンの加速エネルギーにより、固体中のイオンの注入深さが決まる。単一エネルギーのイオンビームにおいても、一般的に深さ方向の分布が広がる。通常の注入深さは10ナノメートルから1マイクロメートル程度である。そのため、イオン注入は対象物の表面付近で化学変化・構造変化が求められる場合に特に有効である。イオンは対象物の原子との衝突、および電子軌道のオーバーラップによる効力などにより次第にエネルギーを失っていく。
イオン種、対象物、およびイオンの加速エネルギーにより、固体中のイオンの注入深さが決まる。単一エネルギーのイオンビームにおいても、一般的に深さ方向の分布が広がる。通常の注入深さは10ナノメートルから1マイクロメートル程度である。そのため、イオン注入は対象物の表面付近で化学変化・構造変化が求められる場合に特に有効である。イオンは対象物の原子との衝突、および電子軌道のオーバーラップによる効力などにより次第にエネルギーを失っていく。



== 半導体工学への応用 ==
== 半導体工学への応用 ==
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=== 素子分離(アイソレーション) ===
=== 素子分離(アイソレーション) ===
[[ガリウムヒ素]]等の化合物半導体では、素子間の分離(アイソレーション)にイオン注入を用いる場合がある。イオン注入がエピ構造を破壊すると同時に、ドーパントが[[バンドギャップ]]中に深い[[準位]]を形成し、高抵抗となる。
[[ガリウムヒ素]]等の化合物半導体では、素子間の分離(アイソレーション)にイオン注入を用いる場合がある。イオン注入がエピ構造を破壊すると同時に、ドーパントが[[バンドギャップ]]中に深い[[準位]]を形成し、高抵抗となる。

== イオン注入装置の分類 ==
=== 高電流イオン注入装置 ===
mAオーダーのイオンビームを発生できるように設計された装置。[[電界効果トランジスタ]]のソース・ドレイン領域のように、高濃度のドーパント注入が必要な領域へのイオン注入に用いられる。通常、低加速エネルギー(<5keV)の注入にも対応できる装置構造になっており、ビームラインの長さは短い。最大の加速エネルギーは数10keV程度。
=== 中電流イオン注入装置 ===

=== 高エネルギーイオン注入装置 ===
深い領域へのイオン注入を行うための装置。装置には大規模な加速機構が備わっており、2価以上の多価イオンを用いることで最大数MeVのイオン注入も可能である。

=== FPD(Flat Panel Display)用 ===



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2008年7月27日 (日) 13:33時点における版

イオン注入(イオンちゅうにゅう、Ion Implantation)は、物質のイオンを固体に注入し、固体の特性を変化させる材料工学の分野である。イオン注入は、半導体工学や、金属の表面処理など、さまざまな材料科学の研究などに適用される。イオン注入は、対象の物質と別の元素を注入することにより物質に化学的変化を与えると同時に、物質の破損または破壊など、構造的な変化も与える。

一般的なイオン注入装置は、目的とする元素のイオンを発生させるチャンバー、イオンを高エネルギーまで電気的に加速する加速器、対象となる物質(ターゲット)にイオンを打ち込むチャンバーから成る。一般的に、各イオンは単一の元素である。従って、注入された物質の総量(ドーズ量と呼ばれる)は、イオン電流の時間積分で与えられる。注入器によって与えられる電流は通常マイクロアンペアオーダーと非常に小さいため、通常は要求される化学的変化量が小さい場合に適用される。

一般的なイオンの加速エネルギーは10~500keV(キロエレクトロンボルト)(1,600~80,000aJ)の範囲で使用される。1~10keVの範囲でも使用することは可能だが、イオンが表面数ナノメートル程度のところで停止し、実用的ではない。さらに対象物の損傷を小さくする場合は、イオンビーム成長が用いられる。また、通常の加速器ではさらに高い5MeV程度の加速エネルギーまで印加可能であるが、対象の損傷が大きく、また、深さ方向の分布も広がるため、実効的な変化量は小さくなる。

イオン種、対象物、およびイオンの加速エネルギーにより、固体中のイオンの注入深さが決まる。単一エネルギーのイオンビームにおいても、一般的に深さ方向の分布が広がる。通常の注入深さは10ナノメートルから1マイクロメートル程度である。そのため、イオン注入は対象物の表面付近で化学変化・構造変化が求められる場合に特に有効である。イオンは対象物の原子との衝突、および電子軌道のオーバーラップによる効力などにより次第にエネルギーを失っていく。


半導体工学への応用

ドーパント注入

イオン注入が最も一般的に用いられるのは、半導体中へのドーパント注入である。半導体がシリコンの場合、普通ボロンリン砒素など純度の高いドーパント原子であり、ドーパント原子のボロンは3フッ化ボロン(BF3)ガス、リンはフォスフィン(PH3)ガス、砒素はアルシン(AsH3)ガスが一般的に使われている。また、これらに使用されるガスは、それぞれ腐食性が強かったり、発火性が高かったり、致死性が高いなど非常に危険性が高いガスである。ドーパントが注入されることにより、半導体中にキャリアとして電子または正孔をつくり、半導体の伝導性を変化させる。なお、通常は熱拡散により、イオンを半導体中の深いところまで追い込むとともに、半導体結晶の損傷を回復する。

Co-Implantation

ドーパント原子と共に炭素(C)、窒素(N)、フッ素(F)等の原子を注入することにより、熱処理時のドーパントの拡散が抑制される効果が得られる。浅い接合を形成するために用いられることがある。

PAI(Pre-Amorphization Implantation)

ドーパント注入の前にゲルマニウム等の重いイオンをシリコン基板に注入することにより、シリコン基板の表面をアモルファス状態に変質させる。これにより、ドーパント注入時のチャネリング現象を抑制できるため、浅い接合の形成が可能となる。

SOI(Silicon on Insulator)

酸素をシリコン基板中に高エネルギー・高濃度で注入した後、熱処理を行うことにより、シリコン基板の深いところにシリコン酸化物の層を形成する。シリコン酸化物が絶縁体であるため、SOI(Silicon on Insulator)構造となる。

素子分離(アイソレーション)

ガリウムヒ素等の化合物半導体では、素子間の分離(アイソレーション)にイオン注入を用いる場合がある。イオン注入がエピ構造を破壊すると同時に、ドーパントがバンドギャップ中に深い準位を形成し、高抵抗となる。

イオン注入装置の分類

高電流イオン注入装置

mAオーダーのイオンビームを発生できるように設計された装置。電界効果トランジスタのソース・ドレイン領域のように、高濃度のドーパント注入が必要な領域へのイオン注入に用いられる。通常、低加速エネルギー(<5keV)の注入にも対応できる装置構造になっており、ビームラインの長さは短い。最大の加速エネルギーは数10keV程度。

中電流イオン注入装置

高エネルギーイオン注入装置

深い領域へのイオン注入を行うための装置。装置には大規模な加速機構が備わっており、2価以上の多価イオンを用いることで最大数MeVのイオン注入も可能である。

FPD(Flat Panel Display)用